言語学者のアン・クレシーニさんが今回取り上げるのはheart。日本語の「心」を表す英語であることは、皆さんもご存じだと思いますが、慣用的な表現にどんなものがあるのか、その全てをご紹介いただきます。
目次
英語では「心」も「心臓」もheartだけど・・・
日本に来たばかりの頃の私は、言いたいことをよく英語から日本語に、言葉どおりに直訳していました。そのため、言いたいことが通じない、ということがたくさんありました。
例えば私の時計が壊れたときのこと。私はMy watch doesn’t work.を日本語で伝えたかったのですが、そのまま「私の時計は働いていません!」と訳しました。友達はにこにこしながら、「アンちゃんの日本語はかわいいなあ」と言いました。後になって、My watch doesn’t work.は「時計は壊れている」とか「時計は動かない」と言うとよいと覚えました。
最近、私がよく考える単語は「心」と「おなか」です。英語の辞書には次のようにあります。
心=heart
おなか=stomach
ところが、それと同時に、心=mind、心=feelings、おなか=intestinesなども出てきます。英語の意味は全然違う!と言いたくなります。
さらに正確に考えると、「おなかが痛い」ときの「おなか」は「大腸」を指すかもしれません。「おなかがすいた」と言うときは「胃」を指していると思います。
同じように、I’m so thankful from the bottom of my heart.と言いたいときは「心の底から感謝しています」と言えますが、I had a heart attack.は「私は心発作を起こした」と言いません。「心」は精神的なもの。「心臓」は肉体的なもの。でも、英語ではどちらもheartを使います。
そこで今回は、heartに関するさまざまな表現について話したいと思います。
さて、始めましょう。
put my heart into ~ / with all my heart 心を込めて
皆さんもこの表現は何度も耳にしているかもしれませんね。
I did it with all my heart.
心を込めてやりました。
I love you with all my heart.
心の底から愛しています。
I put my heart into baking this cake.
心を込めてこのケーキを焼いた。
I put my heart into writing this song for my girlfriend.
彼女のために、心を込めてこの曲を書きました。
I put my whole heart into that game.
そのゲームに全力を尽くした。
putの代わりにpourも使えます。
I poured my heart into baking this cake.
心を込めてこのケーキを焼いた。
ちなみにpour my heart outは、「自分の心の内を明かす」という意味です。
I poured my heart out to him.
心の内を彼に打ち明けた。
She poured her heart out to her kids about her struggle with depression.
彼女はうつに苦しんでいることを子供たちに打ち明けた。
have a heart-to-heart 本音で語る、腹を割って話し合う
腹を割って話し合うときに、Let’s have a heart-to-heart talk.と言います。「思っていることを正直に言えなかった二人が、全てをとにかく正直に話す」というときに使います。heart-to-heartの後にtalk、discussion、conversationを付けることはよくありますが、何も付けずにLet’s have a heart-to-heart.でも大丈夫です。
例文を見てみましょう。
I had a heart-to-heart talk with my parents last night about my future.
昨夜、私は両親と将来について本音で語り合った。
I think we need to have a heart-to-heart.
私たち、包み隠さず話し合った方がいいと思う。
I had a heart-to-heart discussion with my husband about the kids.
子供たちのことを、夫と本音で語った。
ちなみに、男性と女性の友達が、本音でその関係について話すことをDTRと言います。define the relationshipの頭文字を取った言葉です。
単なる友達なのか、ちょっと好きなのか、本格的に好きなのか――よく分からないときに、お互いの関係をはっきりさせるために本音で語るときに使います。つまり、define the relationshipは、「二人の関係(relationship)を定義(define)しよう」という意味です。私たちの関係は一体何?と二人が本音で語る会話はDTR talkと言います。
I think it is time for a DTR.
二人の関係をはっきりさせるときだわ。
They had a DTR yesterday.
彼らは昨日、二人の関係を真剣に話し合った。
have a heart 優しくする
heartを使ったこんな表現もあります。面白いですね!
Come on, coach! Have a heart! Don’t make us run anymore.
監督、頼むよ!優しくしてよ!もう走らせないで!
Come on, Mom! Have a heart! Please let me go. It’s my last chance.
頼むよ、母さん!お願い!行かせて。最後のチャンスなの。
これと反対のことを言いたいときはheartlessを使います。「心のない」という意味の形容詞です。
That was a totally heartless comment.
それは全く心のないコメントだった。
It was so heartless of him to leave his pregnant wife.
妊婦の奥さんの元を去るなんて、彼は本当に冷たい。
That was a totally heartless thing to do!
あんなことをするなんて、あまりにひどい!
キリスト教でも、「思いやりを持つ、情け深い心を持つ」という意味で、have a heartをよく用います。
I really have a heart for orphans, so I decided to become a foster parent.
親がいない子供に愛情があって、里親になろうと決めた。
She has a heart for the poor, so she's going to join that volunteer agency after she graduates from college.
彼女は貧しい人たちに思いやりの気持ちがあり、大学卒業後にそのボランティア団体に入るつもりでいる。
They have a heart for Korea, so they're going there as missionaries next year.
彼らは韓国に愛情があり、来年、宣教師として韓国に行つもりだ。
そして、冠詞のaを使わずにhave heartだけだと、「頑張る、勇気を出す」というような意味になります。
That team has a lot of heart. They never give up.
あのチームはものすごく頑張っているわね。何があっても諦めない。
He may not be the most talented, but he sure does have a lot of heart.
才能がずばぬけているわけではないかもしれないが、彼は間違いなく人一倍の努力をする。
follow your heart 自分の心の声を聞く、自分に正直に生きる
この表現は英語でよく使われます。進路や人生の次のステップをどうしたらいいか迷っている人に、英語でFollow your heart.とアドバイスします。合理的ではありませんし、周囲の人の理解が得られないかもしれないけれど、自分の心が言っていること、叫んでいることに耳を傾けて!というような意味です。
例文を見てみましょう。
Just follow your heart.
自分の心の声を聞くといいよ。
I am going to follow my heart on this one.
この件に関しては、自分の心に従うことにする。
I am not sure if it is the right decision, but I am going to follow my heart and marry him.
正しい決断かどうかは分からないけど、自分に正直に生きたいから、彼と結婚する。
I want to follow my heart for once!
今回だけは自分に正直でいたい!
have a big heart 広い心を持つ、寛大である
前項のhave a heartにbigが入った表現です。誰かにこう言われたらすごくうれしくなります。似たような表現がたくさんあるので、例文を見ながら考えましょう。
He has such a big heart. He is always helping people.
彼は、本当に心が広い。いつも誰かを助けている。
She really has a good heart. She is just going through a tough time right now.
本当の彼女は良い人だ。今は、いろいろと大変なだけだ。
形容詞の形もあります。
He is such a big-hearted guy.
彼はとても心の広い人だ。
She really is a good-hearted person.
彼女は本当に親切な人だ。
次のような表現もあります。
My brother has a heart of gold. You won’t find a nicer guy on the planet.
私の弟は本当に心優しい。彼より良い人はこの世にいないと思う。
know by heart 暗記する
「~を暗記する」は、英語でmemorizeと言います。
I memorized the words to that song.
あの曲の歌詞を暗記した。
I memorized my speech.
私は自分のスピーチを暗記した。
memorizeよりも砕けた言い方にknow by heartがあります。前者には努力して覚えた感じがありますが、後者は、何かをずっと聞いたり言ったり、歌ったりしているうちに自然に覚えた感じです。
I know that song by heart.
あの曲をそらで歌えます。
I know the national anthem by heart.
何も見ずに国家が歌えます。
I know the sutra by heart.
お経を暗記しています。
break one’s heart 心がぼろぼろになる
これも、よく使われる表現の一つです。失恋や失望、深い悲しみを表したいときに使います。「心が壊れて元には戻せないから、悲しみが深い」というニュアンスです。
例文を見てみましょう。
I can’t believe you cheated on me with my best friend. You totally broke my heart.
私の親友と浮気をしたなんて信じられない。あなたは私の心をぼろぼろにした。
When my dog died, it broke my heart.
飼い犬が死んだとき、心が張り裂けた。
That guy is going to break your heart
あの人は、あなたの気持ちを傷付けるわ。
Stop saying those things! You are breaking my heart.
そんなことを言わないで!傷付くから。
Be nice to her. Her heart is broken because she just broke up with her boyfriend.
彼女に優しくしてあげて。彼と別れたばかりで、傷心なの。
悲しい思いをさせる人や出来事は、1語でheartbreakerと言います。
He is a heartbreaker. Be careful.
彼は人を悲しませる人だよ。気を付けてね。
この文のheartbreakerは「プレーボーイ」と訳してもいいかもしれませんね。
change of heart 気が変わること
「心変わり」や「気持ちの変化」のことを、このように言います。
She was going to move to Kumamoto but had a change of heart and decided to stay in her hometown.
彼女は熊本に引っ越すつもりだったが、気が変わって故郷に残ることにした。
My parents were against me going to the U.S. to study abroad, but they had a change of heart and decided to let me go.
両親は私がアメリカに留学することを反対していたが、結局心変わりをして、行かせてくれた。
Why the change of heart?
どういう心変わりなの?
change one’s mindという形の動詞もあります。
She was going to move to Kumamoto, but she changed her mind and decided to stay in her hometown.
彼女は熊本に引っ越すつもりだったが、気が変わって故郷に残ることにした。
A: I thought you were going to Waseda University.
B: I was, but I changed my mind and decided to go to Keio instead.
A: 早稲田大学に行くつもりなんだと思ってた。
B: そうだったけど、気が変わって慶應に行くことにしたの。
lose heart 心が折れる、やる気を失う
この英語と同様の意味を表す日本語はたくさんありますが、程度が違うように思います。「やる気を失う」より「心が折れる」の方が重く聞こえます。
英語では、どちらかというとlose heartは重い方です。「やる気を失う」はlose motivationの方が近いかもしれません。
例文を見てみましょう。
I know that life is hard right now, but don’t lose heart! Things will get better.
今は人生、いろいろつらいだろうけど、諦めないでね!きっと良くなる。
I studied hard to get into a good college, but after failing to get into Tokyo University. I lost all motivation to study anymore.
いい大学に入るために一生懸命勉強したけれど、東大の入試に失敗した、それ以上勉強する気が完全に失せてしまった。
devastated(精神的に打ちのめされた)という形容詞もよく使います。
She was devastated by her friend’s betrayal.
彼女は親友の裏切りに打ちのめされた。
Two fires in the same year devastated the community.
1年に2度の火事があり、町の人たちは大きな打撃を受けた。
bless your heart ありがとう、かわいそう
これはアメリカ南部の方言です。現地に行く機会があれば必ず耳にする表現なので、覚えておくといいと思います。
Oh, bless your heart! You haven’t eaten anything all day. You must be starving!
あら、かわいそうに!一日何も食べていないのね。おなかがすいているでしょう!
Bless your heart! You didn’t need to do that!
本当にありがとう!そこまでしなくてよかったのに!
Bless your heart. You must be so tired.
かわいそうに。とても疲れているでしょう。
Bless your heart. This is the best present ever.
ありがとう。今までで最高のプレゼントだよ。
bless his heartとかbless her heartという形で、その場にいない第三者に使うと、「しょうがないな」とか「困ったものだ」のように、少し皮肉っぽい意味になるときがあります。
Bless his heart ... he is a mess, ain’t he?
あらあら・・・。彼は本当にめちゃくちゃだね。
ちなみにain’tは南部英語で、am not、is not、are notの縮約形です。ただ、南部出身ではない人は、ain’tを使う人を少し見下すことがあるかもしれません。
I ain’t going. = I’m not going.
行かない。
He ain’t coming to the party. = He isn’t coming to the party.
彼はパーティーに来ない。
私の故郷でよく使われていますが、私の親は言葉遣いに厳しく、私がain'tを使ったら怒られていました。
heart and soul 全身全霊
直訳すると「心と魂」ですが、その全てを「打ち込む」ようなニュアンスです。例文を見てみましょう。
I poured my heart and soul into this business.
私はこのビジネスに全身全霊を注いだ。
She poured her heart and soul into her kids.
彼女は子育てに身も心もささげた。
I put my heart and soul into it.
私はそれに一心不乱に打ち込んだ。
heart and soulのもう一つの意味は「核心」です。この意味では、heartだけを単独で使うこともあります。
He is the heart and soul of our team.
彼は、わがチームの中心メンバーだ。
She is the heart and soul of the company. No one can replace her.
彼女は会社の心のよりどころで、かけがえのない存在だ。
We are in the heart of Texas.
私たちはテキサス州のど真ん中にいる。
Let’s get to the heart of the matter.
問題の核心について語ろう。
まとめ
心臓は人間の体の「核心」。そして、心は精神の「核心」。人間のコアになっているものはheartです。この大切さが、英語のさまざまな表現から見えてくると思います。
heartという語は英語に計り知れない影響を与えていますが、日本語の「心」も同様です。もし、日本語に「心」という言葉がなかったら、私たちのさまざまな感情の深さを伝えることはできないはずです。それはきっと、他の言語でも同じだと思います。
一つの単語を使いこなせるようになるまでは時間がかかります。長い間勉強を続けても、分からないままの単語がたくさん残っているはずです。しかし、それは自分の母語でも同じことで、それは、良いことです。なぜなら、ずっと勉強が続けられるからです!皆さんも私と一緒に楽しく外国語の勉強を続けましょう!
本文写真:Kenny Eliason, Ilya Pavlov, Francesco Gallarotti, The Nix Company from Unsplash
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