アンちゃんことアン・クレシーニさんの連載特別編。本記事で、日本のバレンタインデーに欠かせないチョコレート関連の言葉を、英語でどのように説明したらいいか、アンちゃんと一緒に考えましょう。
「お返し」に含まれる「感謝」と「義理」
日本の「義理の文化」に初めて触れた日のことをよく覚えています。
私はアメリカのお菓子を焼くことが趣味で、アメリカの本格的な手作りチョコチップクッキーよりおいしいものは、この世に存在しないと思っています。そして、お菓子を焼いた後に、友人たちにそれをプレゼントすることが大好きです。
ある日、ブラウニーをタッパーに入れて友人にあげました。市販のミックス粉から作ったブラウニーだったので、お金もかけず10分で作ったものでした。でも、その友人が返してくれたタッパーには、市販のお菓子がたくさん詰まっていました。しかも、おしゃれな箸まで付いていました。
日本の「お返し」文化は理解しているつもりでしたが、正直、「これはちょっとやりすぎでは?」と思いました。なぜなら、200円しかかからなかったブラウニーのお返しは、きっと1000円以上価値があったからです。
日本人は、永遠に相手に何かをプレゼントしているような気がします。お土産、御中元、お歳暮、ご祝儀など。そして、多くの場合は「お返し」もします。そして、そのお返しには、もちろん「感謝の気持ち」が込められていますが、「義理」も入っているかもしれません。友人に気軽にブラウニーをあげた私でしたが、事態は予想した以上に複雑になりました。
日本の人がよくあげるものは、まず、お金。そして、食べ物や、飲み物、その他消耗品です。こういう物は価値が分かりやく、どういうお返しをしたらいいかは、なんとなく分かります。一方、私が友人にあげたブラウニーは手作りでした。価値が分かりにくかったために、お返しが豪華になったのかもしれません。
そして、空のタッパーを返すのは失礼だと思い、たくさんのお菓子を入れてくれたのでしょう。そこには「感謝」の気持ちと、多少の「義理」も入っていたに違いありません。
私は、好きな友人に義理を感じさせたくなかったので、今度はタッパーではなくて、使い捨ての保存袋にブラウニーを入れました。そうしたらお返しはありませんでした。うれしかった!
この「義理」は日本の社会に欠かせないものです。だから、バレンタインデーの「義理チョコ」という言葉を初めて聞いたとき、私は「ああ!とても日本っぽい!!」と思いました。
そこで今回の連載特別編では、「義理チョコ」をはじめ、日本の文化を表すバレンタインデーに関連する言葉について話したいと思います。
アメリカのバレンタインデー
最近、日本とアメリカのバレンタインデーの違いは広く知られるようになったので、ここでは簡単にだけ、アメリカのこのイベントについて触れておきます。
アメリカには「ホワイトデー」はありません。バレンタインデーには、女性も男性も好きな人にプレゼントをします。お花やチョコ、ジュエリーなど、さまざまな物をプレセントします。また、好きな人以外にプレゼントを贈ることは、それほどありません。仲の良い友人、先生や小学校のクラスメートなどに何かをプレゼントすることはありますが、日本の「義理チョコ」のような習慣はありません。そして、前述したようにホワイトデーがないので、その「義理」を「返す」習慣もありません。
そもそも、義理チョコはなんですか?
インターネットで調べると、義理チョコとは「バレンタイデーに女性が恋愛対象としていない男性にあけるチョコ、あるいはチョコをあげる行為」のことだそうです。参考:https://news.mynavi.jp/article/20210212-1719160/
会社の上司や同僚など、お世話になっている男性にあげることは多く、あげる人数も多くなる場合があるため、それほど高いチョコを買う必要もありません。
「義理チョコ」を英語で説明すると?
義理チョコの習慣に対して、近年は同調圧力が問題視される中、「この習慣は古くない?」「何で義理チョコは存在するの?」という声が上がってきています。
2018年、ベルギーの大手チョコレート会社ゴティバが下のような広告を出しました。
バレンタインデーは本来、好きな人に気軽にチョコなどをあげる日でした。しかし、今の日本の社会では、「義理チョコを選ぶのが大変だ」「誰にあげるべきか分からない」という声も聞こえてきます。純粋だった習慣が多くの女性にとってストレスになっているので、「日本は、義理チョコをやめよう」という内容の広告でした。
やはり「義理」の意味を考える必要があると思いました。「感謝しているからあげたい」という気持ちがあるなら素晴らしいと思いますが、「あげないといけない」みたいになると、きっとストレスになるでしょう。「義理」をdutyという英語に訳すると、「やらざるを得ない」感じが強くなります。
つまり義理チョコは、「あげたい人はあげる」「あげたくない人はあげない」。そうなれば理想的なバレンタインデーだと思います。ちなみに、私はとても日本の文化になじんでいますが、男性に義理チョコをあげたことは一度もありません。
若者の中で義理チョコは全く違う軽い意味があるそうです。中学生の娘2人に「義理チョコって何?」と聞いたら、「余った友チョコを適当に周りの人にあげるやつ!」みたいなことを言いました。ウケました(笑)。
海外には「義理チョコ」の習慣はありません。そこで、日本の習慣を英語で説明したらどうなるか、例文を見ていきましょう。
In Japan, women often give men chocolate to express gratitude for all they have done for them.
日本では、女性は感謝の気持ちからお世話になった男性によくチョコをあげる。
I gotta pick out chocolate to give the guys at my company on Valentine’s Day. It’s such a hassle.
会社の男性に義理チョコを選ばないといけないの。もう大変。
「感謝している!」「面倒くさい!」などなど。義理チョコの説明は、義理チョコをあげる人の視点によって変わるでしょう。
「本命チョコ」を英語で言うと?
「本命チョコ」は好きな人、彼氏、夫などにあげるチョコです。義理チョコと違って、高級ブランドのものを買ったり、手作りのチョコをあげたりします。本気で好きな人には、良いものをあげたいですよね。
アメリカでは、本命の人にチョコやその他のプレセントをあげるのは、バレンタインデーのオーソドックスな習慣です。男性が女性にあげることが多いですが、女性から贈ることもあります。私が高校生の頃、男性が女性にあげる定番のプレゼントはお花でした。
私は女性力がゼロなので、当時はお花をもらっても、あまりうれしくありませんでした。もらった花をどう世話すればよいかも分からず、すぐ枯らしてしまっていました。お花に対して申し訳ない気持ちでいっぱいでした。それに気付いた私の主人は、バレンタインデーにお花ではなく、私が大好きなパンとコカコーラ・ゼロをプレゼントしてくれました(笑)。感動しました。
「好きな人」は英語でなんて表現するとよいでしょうか。
In Japan, women give expensive chocolate or homemade chocolate to the guy they like.
日本では、女性は高価なチョコやお手製のチョコを好きな人にプレゼントします。
I gave some homemade chocolate to my crush.
好きな人に手作りチョコをあげた。
日本語の「好きな人」は英語に訳しづらく、さまざまな表現があります。
the guy I like
my crush
my boyfriend
my girlfriend
my husband/wife
my partner など
彼女や彼氏、夫や妻など関係が明確であれば、boyfriendやhusbandなどと言うことが多いと思います。ところで、日本人は「恋人」のことをよくloverと言いますが、この言葉には「肉体関係がある」という意味が入っているので、使い方は要注意です!
「友チョコ」って何?
日本では、女性が女性の友達にあげるチョコを「友チョコ」と言います。
友達に何かをプレセントする習慣はアメリカにもあります。特に小学生は、よくクラス全員に手紙のような「valentine」というものをプレゼントします。かわいいキャラクター付きのメッセージカードみたいなものに短いメッセージを添えて、クラス全員に配ります。キャンディーやクッキーをあげることもあります。
アメリカでは、女性が女性の友達にチョコなどをあげる習慣はないと思っていましたが、アメリカに留学中の高2の娘に確認したところ、その習慣があることが!そして、なんと、その習慣には名前もあるそうです! galentineだそうです。女性を表すスラングのgalとvalentineの複合した単語です。
そして、女性が男性の友達にもチョコや手作りお菓子をプレゼントする習慣もあるそうです。手作りプレゼントの定番は、アンちゃんが大好きなブラウニー(brownies) です。
I gave my best friend a galentine.
親友にギャレンタインのプレゼントをあげた。
What are you giving your girlfriends as galentines?
ギャレンタインに友達には何をあげるの?
I made my guy friends some brownies for Valentine’s Day.
バレンタインデーに、男友達にブラウニーを作ってあげた。
「マイチョコ」も大切です!
「マイチョコ」は「自分のために買うチョコ」のことですが、他にも「自己チョコ」「自分チョコ」などいろいろな言い方があります。外来語が好きな私のお気に入りは「マイチョコ」です。これは素敵な和製英語、「マイ」ファミリーのメンバーの一員です。「マイカー」「マイホーム」「マイバッグ」など、名詞に英語のmyを付けると新しい単語の登場です。便利でしょう?「マイ」が付いている単語のほとんどは和製英語です。
「マイ」はよく「私の」と同じ意味と勘違いされますが、実は「自分の」という意味です。スーパーでレジの人に「マイバッグお持ちですか?」と聞かれても、それは「私のバッグお持ちですか?」という意味ではなく、「自分のバッグお持ちですか?」ですよね。この「マイチョコ」も「自分のためのチョコ」という意味になります。
英語に「マイチョコ」という表現はありませんが、「ちょっとぜいたくをしたくて自分用に何かを買う」とか「普段はやらないことをする」というような表現はたくさんあります。
例文を見てみましょう。
It’s my birthday, so I am going to splurge and buy myself something nice.
今日は誕生日なので、奮発して、自分に何かすてきなものを買っちゃおう。
splurge:ぜいたくをする、散財する
I am going to pamper myself with a nice massage.
今日は、自分へのご褒美にマッサージに行くことにした。
pamper A with ~:Aを~で甘やかす、Aを~で満足させる
I worked hard all week, so I am going to treat myself to a sushi dinner.
今週はずっと一生懸命働いたので、自分へのご褒美にすしを買っちゃおう。
物だけではなく時間も、自分に贅沢に使うときがあります。「自分の時間」はそのまま英語でme timeと言います。仕事のことや他の人のことを考えなくていい時間、罪悪感なしに自分がやりたいことができる時間のことです。
I finally have some me time, so I am going to get my nails done.
やっと自分の時間ができたから、ネイルサロンに行く。
I seriously need some me time.
マジで自分の時間がいる!
I have some me time this afternoon, so I am going to the movies by myself.
午後に自分の時間が少しあるから、一人で映画を見に行きます。
Moms are so busy raising their kids that they forget the importance of me time.
お母さんたちは子育てで忙しいから、自分の時間を持つことの大切さを忘れがちだ。
皆さんもme timeを大事にしてくださいね!
ちょっとほろ苦い「片思い」
最後に、「片思い」について話したいと思います。本命チョコをあげても、相手が自分のことを同じように思ってくれていない――。そんな「片思い」は英語でなんと表現したらいいでしょう。
unrequited love
one-way
one-sided
unrequited loveという表現はとてもポエティックで、日常会話にはあまり出てきません。小説や詩の中に出てくるような感じです。
Hers was an unrequited love.
彼女は片思いをしていた。
She was the victim of unrequited love.
彼女は片思いに苦しんでいた。
他にもいろいろな表現があります。次の文は全て「片思い」を表します。
Theirs was a one-sided love.
あの二人の関係は片思いだ。
She was in love with him, but he didn’t feel the same way.
彼女は彼に恋をしていたが、彼は同じように思っていなかった。
He was crazy about her, but she saw him as just a friend.
彼は彼女のことが大好きだったが、彼女は彼のことを単なる友達だと思っていた。
She has a crush on him, but he doesn’t feel the same about her.
彼女は彼に夢中だったが、彼は彼女に対して同じように感じていなかった。
He has feelings for her, but she is not interested in him in that way.
彼は彼女に好意を抱いていたが、彼女は彼にそのような好意を持っていなかった。
She really liked him, but he didn't share her feelings.
彼女は彼のことが大好きだったが、彼は彼女と同じ気持ちを抱いていなかった。
まとめ
日本のバレンタインデーは、日本独特の形になっています。どんな国でも同じですが、外国の文化を自国の文化に合わせて取り入れます。本来のバレンタインデーはこうだから、日本のバレンタインデーは「おかしい」「違う」「変」のように考えるのではなく、「面白い」「ユニーク」「魅力的」と考えた方が適切だと思います。
「本命チョコ」に「マイチョコ」。言葉が大好きな私は、そんなチョコ用語ファミリーに感謝です!大好きです!でも、ワンチャンその気持ちは片思いかも。
それはともかく、言葉と文化の違いを楽しみましょう!
Happy Valentine’s Day!
本文写真:Kenny Eliason, Ilya Pavlov, Francesco Gallarotti, The Nix Company from Unsplash
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