go to the mattress、eat crow・・・。知っている単語のはずなのに、どんな意味?【ウルトラ英会話表現】

カン・アンドリュー・ハシモトさんの新連載。「爽快、英会話表現」シリーズ第3弾の初回は、知っている単語を使った表現なのに、使われている単語とは全く別の意味になる表現を集めて紹介していただきます。go to the mattress、eat crowなど・・・。皆さん、意味は分かりますか?

「あなたは麺のようだ」とは?

皆さんは今年の目標、New Year’s resolutionsを決めましたか?

僕は毎年10個決めて会社の同僚と発表し合っています。書き出してみると「5キロやせる」「メールの返事をその日中に書く」「スペイン語を1日1時間勉強する」など去年と同じものが幾つもあり、成長のなさを反省します。

そんな話を小学校で英語を教えているコロンビア出身の友人にしたときのこと、友人が「何言ってるの?あんたはfideoみたいよ(Estar un como fideo.)」と笑うので、「fideoって何?」とたずねると「noodleのことだ」と言うのです。友人は「You’re like a noodle.(あなたは麺のようだ)」と繰り返すのですが、彼女の母語のスペイン語でそれは「とてもやせている」という意味とのこと。

「Seriously? Didn’t you make it up?(本当に?それ、君が作り出した言葉なんじゃないの?)」と僕は半信半疑でしたが、どうやら本当にそういう言い回しがあるようでした。「英語ではYou’re like a noodle.って言わなかったっけ?」といぶかしがる彼女に、僕は「Absolutely not!(ぜったい言わない)」と彼女の英語の生徒さんたちのためにも答えました。

彼女は僕よりもずっと身長も高いのですが、出産のたびに10kgずつ体重が増えたという彼女から見れば、3年前のジーンズが入らなくなった僕は、まだ麺のようなのかもしれません(そんなことは全くないのですが)。

ちなみに「アスパラガスのフライを作りに行け(Vete a freir espárragos.)」とは「消え失せろ」という意味らしいです。「気軽にon a regular basis(日常的に)使える言葉だからぜひ使ってみて」と友人は言うのですが、今のところ僕にはその勇気はありません。

今日は、英語でもちょっと意外な意味になる決まり文句をいくつか紹介したいと思います。

a piece of cake

まずは僕が勉強を続けているスペイン語がらみで、a piece of cakeから。言葉のままでは「ケーキ1切れ」ですが、この記事を読んでいる方にとっては、文字通り a piece of cakeかもしれません。

そう、「とても簡単」という意味です。「ケーキ1切れくらい簡単に食べることができる」ということが語源のようです。次のように使います。

The exam was a piece of cake.
そのテストは楽勝だった。

as easy as pieもこれと同じ意味です。「パイを食べるのと同じくらい簡単」ということ。

実はこれ、スペイン語にも「Ser pan comido.」という全く同じ意味の表現があります。直訳すると「それは食べられたパンだ」という意味の分からない表現なのですが、a piece of cake と同じ「とても簡単だ」という意味なのです。

There, there.

これはどうでしょう。どんな意味だと思いますか?「そこ、そこ」ではありません。

落ち込んでいたり、泣いていたりする人を励ましたり、元気付けたりするときに使う言葉で、「よしよし」とか「まあまあ」といった感じでしょうか。日本語で「よしよし」と言うと子供や恋人に使う言葉のようですが、There, there.は仕事で失敗をしてしまった同僚に対して使うこともできます。

A: I’m screwed.
もうダメだ。

B: There, there. Don’t worry.
まあまあ。心配いらないよ。

go to the mattress

「マットレスに行く?」・・・どういうことでしょう。

「マットレスに組み伏せる」と訳されている映画字幕を見たことがありますが、少し違います。ギャング映画にしばしば出てくる表現で「(ギャング同士の)徹底抗戦を始める」「(ギャング同士の)戦争を始める」という意味です。

『ゴッドファーザー』 というギャング映画で、クレメンザという構成員がギャングのボスの長男、ソニーについてこの表現を使っています。

He’s thinking of going to the mattress already.

ここでのHeはソニーのこと。「ソニーはもう戦争を始める気でいる」。ギャングたちが抗争に備えてどこかの家にマットレスを持ち込み、戦いが終わるまでそこで寝泊りをすることから生まれた表現のようです。

ギャング映画に出てくるイディオムは実生活では使う機会は少ないかもしれません。それなら次の表現はどうでしょう。

eat crow

日常生活でもよく耳にするものです。「カラスを食べる」ではありませんよ。

eat boiled crowという表現も意味は同じです。もちろん、「煮たカラスの肉を食べる」ではありません。

これは「屈辱を味わう」「やむを得ず自分の非を認める」という意味です。由来は諸説あります。「戦地で敵兵に、まずいカラスの肉を食べさせられたことが屈辱だった」という説が有名です。次のように使います。

I’ll make him eat crow.
ヤツに屈辱を味わわせてやるぜ。

The president ate crow over that.
大統領はそれについて自身の非を認めた。

僕が大好きだったドラマの1つに「Designated Survivor」(邦題『サバイバー:宿命の大統領』) という連続ドラマがあります。それを全て見終わったときにはドラマロス症候群になりそうだったのですが、そのドラマにこのセリフを使った場面があります。

婦人会のような場で銃規制について質問に答えたファーストレディーが、自分の夫であるアメリカ大統領のために、「そのときの発言は自身の個人的な意見であって政策とは無関係だ」とテレビで発表させられる直前に、スタッフと交わした会話です。

そのテレビ会見についてスタッフはこう言います。

This is actually, totally standard protocol procedure.
こんなことはよくあることですから。

「だから気にすることはありません」と彼女の気持ちを楽にするつもりでした。しかしスタッフに対してファーストレディーはこう言います。

What? Pretending to eat crow on national television while the rest of the nation’s eating breakfast?
何が?国民みんなが朝食を味わっているときに私は全国放送で自分の非を認めるふりをすることが?

英語では、eat crowとeat breakfastでeatを掛けている点が、このセリフの魅力です。しかし日本語にしてしまうとその魅力を表現するのは難しい。字幕はこんな日本語でした。

国民が朝食を味わっているときに私は屈辱を味わう?」

pretendという語がセリフにあるので、ここでのeat crowは「屈辱を味わう」ではなく「非を認める」という意味だと思います。しかしそうするとeatの掛け言葉を表現できません。ですが非を認めるふりをすること自体が屈辱だと考えれば、掛け言葉の魅力も合わせて表現することができます。なんて素晴らしい訳でしょう。

しまった! 映画やTVドラマで見つけた素晴らしい訳については、別の回で書くはずでした。

今回は、単語の意味からはちょっと意味を想像しにくい英語の表現を紹介しました。最後までお読みいただきありがとうございます。

次回もどうぞお楽しみに!

カン・アンドリュー・ハシモト
カン・アンドリュー・ハシモト

アメリカ合衆国ウィスコンシン州出身。教育・教養に関する音声・映像コンテンツ制作を手掛ける株式会社ジェイルハウス・ミュージック代表取締役。英語・日本語のバイリンガル。公益財団法人日本英語検定協会、文部科学省、法務省などの教育用映像(日本語版・英語版)の制作を多数担当する。また、作詞・作曲家として、NHK「みんなのうた」「おかあさんといっしょ」やCMに楽曲を提供している。9作目となる著作『外国人に「What?」と言わせない発音メソッド』(池田書店)が発売中。

トップ写真:山本高裕(ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部)
本文写真:congerdesign, Lena Helfinger, Mabel Amber from Pixabay

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