「メリハリをつける」は英語でなんて言う?意外な語源とは?

普段何気なく使っている日本語。「英語でなんて言えばいいの!?」と頭を抱えているのは、英語学習者の私たちだけではないようです。アメリカで生まれ、日本で暮らし、博多弁を操る言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが、「英語に訳しづらい日本語」と、その裏にある文化の違いを考察します。今回は、「メリハリ」を取り上げます。

「カタカナ=外来語」ではない?

私は、仕事でカタカナ用語や和製英語を研究しています。カタカナ用語、外来語、和製英語。さまざまな表現があり、それぞれ意味が異なります。

日本語の語彙には、主に3つの種類があります。

漢語(中から来た単語)、和語(もともと日本にあった単語)、そして外来語(西洋の言葉から来た単語)です。

その上に、「和製英語」というカテゴリーがあります。海外では通じない、日本人が作った英語っぽい単語です。

漢語、 和語、 外来語、和製英語。これらはすべて日本人同士のコミュニケーションツールなので、「日本語」と呼んでいいと思います。

「カタカナ語」とか「カタカナ用語」という単語に、和製英語や外来語も入っていると思います。

カタカナは外来語を表すのに用いられる文字ですから、カタカナの単語を見ると、当然「これは外来語だ!」と思いますよね。でも、カタカナで書かれていても外来語じゃない場合がたまにあります。

意外な語源を持つカタカナ語

よく車の販売店で「クルマ」と書かれている看板を見掛けます。また、「ビミョー」「マジ?」「キツイ」「キレイ」といった表記もよく見ますよね。

なぜ、外来語でないのにカタカナで表記するのでしょうか?いろんな説がありますが、まず、漢字が難しかったり、堅苦しかったりする場合にカタカナで書くと、丸い印象になるということがあります。「綺麗」→「キレイ」という例がこれに当てはまります。

また、何かを強調するためにカタカナにすることもあります。「キツイ」「スゴイ」などは、こういうタイプだと思います。

私は、ずっと「チャック」は外来語だと思っていましたが、語源を調べたら、日本語の「巾着」をもじって付けられた造語だということがわかりました。

日本生まれの「カラオケ」は、外来語じゃなくて、「空(から)」と「オーケストラ」を合わせた単語だそうです。

そして、今回取り上げたいのは「メリハリ」という単語です。これも一見、「セクハラ」と同じように、略された外来語に見えます。ところが「メリハリ」は、日本の伝統的な文化から生まれた単語なのです。

今日は、この単語の語源と、どうやって「メリハリ」を英語で表現するかについて話していきたいと思います。

さぁ、始めよう!

「メリハリ」は日本の伝統音楽から生まれた言葉

「メリハリ」は、『デジタル大辞泉』によると、以下のような意味です。

  1. ゆるむことと張ること。特に、音声の抑揚や、演劇などで、せりふ回しの強弱・伸縮をいう。
  2. 物事の強弱などをはっきりさせること。

よく仕事に関して、この言葉が使われています。「メリハリをつけて仕事をした方が楽だよ」みたいな感じです。

もともと、この「メリハリ」は邦楽用語で、特に尺八に使う用語です。本来、低い音を「減り(めり)」と言い、高い音を、「上り・甲(かり)」と言いました。

ところが、「上り・甲」は邦楽用語以外であまり使われていなかったため、「張り(はり)」に変換され、「メリハリ」となり、新しい単語が誕生しました(『語源由来辞典』)。

つまり、この単語はカタカナで書かれていますが、日本の伝統的な音楽文化から生まれた言葉なのです。

英語で「メリハリ」ってなんて言う?

では、どうやって英語で「メリハリ」を表現すればよいでしょうか。

いちばんよい表現は、balanceだと思います。

日本語では、最近「ワーク・ライフ・バランス」という単語がよく使われていますよね?これは、英語でも使われている表現です。work-life balanceは、仕事とプライベートのバランスを取ること、つまりメリハリをつけることです。

でも、これは名詞句なので、下記のように分けて言うこともできます。

It is important to balance your work and your family life.
仕事と家庭のバランスを取ることが大切です。
(→仕事と家庭のメリハリをつけることが大切です)

I want to do a better job balancing work and my private life.
仕事とプライベートのバランスをもっとうまく取りたいです。
(→仕事とプライベートのメリハリをもっとうまくつけたい)

仕事をしているときは仕事に集中し、仕事以外の時間には仕事のことを考えず、遊びや家族に集中する。仕事とプライベートを完全に分けることです。この「分ける」という意味を強調したい場合は、separateの方がいいと思います。

I am trying hard to separate work from my family life.
仕事と家庭生活を分けようとしています。
(→仕事と家庭生活のメリハリをつけようとしています)

I want to separate work from my private life.
仕事とプライベートを分けたい
(→仕事とプライベートのメリハリをつけたい)

It is important to separate work from play.
仕事と遊びを分けることが大切です。
(→仕事と遊びのメリハリをつけることが大切です)

個人的に、仕事とプライベートを「分ける」ことは、「バランスを取る」ことより、よほど難しいと思います。

balanceは、主に「時間のバランスを取る」というイメージがあります。「〇時間は仕事をし、〇時間はプライベートに使う」みたいな感じです。

けれど、完全にseparateすることは難しいです。プライベートの時間に家で子どもと話していても集中できず、終わっていない仕事のことを考えてしまうことはどうしたってあります。

こういうとき、英語にはこういう表現があります。

When I am working, I am working. When I am playing, I am playing.
働くときは働く。遊ぶときは遊ぶ。

私は、「メリハリをつける」という日本語の意味がずっとわかりませんでした。けれど今、人生の中でいちばん忙しい時期を迎えて、「メリハリをつける」ことが何よりも大事だ!と感じています。

人間は、必要に応じて新しいことを取得します。まさに私は今、この単語を知る必要があったので、身に付けることができました。

やっぱり、言葉の意味を深く勉強すると、いろいろ考えさせられますよね。これからも、仕事とプライベートにメリハリをつけながら、面白い記事を書き続けるバイ!

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

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