「今聴いてほしいアーティスト」と関連する楽曲を音楽が伝えるメッセージや社会的・音楽的文脈などと合わせて渡辺志保さんが解説します。
今月のアルバム
Alicia Keysの「ALICIA」を紹介します。
アリシア・キーズが送る力強い応援歌
写真:LUCAS JACKSON/ロイター
今年9月、人気歌手アリシア・キーズの最新アルバムが発表された。アリシアといえば、プライベートでは3児の母親(夫は人気音楽プロデューサーのスウィズ・ビーツで、彼との間の実子2人、前妻との連れ子1人)であり、2年連続でグラミー賞の司会を務め上げたという側面も持つ。特に今年のグラミー賞においては、開催日当日の朝に花形NBAプレーヤーのコービー・ブライアントの訃報を受け、急遽、開会式では追悼のセレモニーを行ったほか、スマートな弾き語りという形で、アメリカ社会や音楽業界に対する不満を歌い、自らの 主張 を明確にした。そしてその直後にアメリカ、いや世界中は新型コロナウイルスの脅威にさらされ、また、Black Lives Matter (BLM)のスローガンを掲げた人種差別撤廃運動が高まり、さらに混沌とした空気が流れることとなった。
そんな中、アリシアはいくつかの応援歌を発表している。まず、1月に発表したのが「Underdog」だ。歌詞の中にはシングルマザーや若い教師といったフレーズも飛び出し、よりよい毎日を求めて切磋琢磨する人々に向けられた一曲だ。また、4月には「Good Job」をリリース。“あなたは頑張っている、世界があなたを必要としている”と歌うリリックは、まさにコロナ禍で闘う医療従事者やエッセンシャル・ワーカーズにぴったりのエールとなった。そして、6月には「Perfect Way To Die」という衝撃的なタイトルの楽曲をリリース。この曲は警察に命を奪われた2人の黒人(サンドラ・ブランドとマイケル・ブラウン)について歌ったもので、BLM運動における力強い応援歌となった。いつもオーディエンスに寄り添い、彼女ならではの視点でメッセージを発信し続ける美しいディーヴァであるアリシア・キーズ。優しく、そして生々しく響く彼女の歌声と言葉に耳を傾けてほしい。
秋の夜長に聴きたくなるR&Bアルバム5選
今回の記事で紹介している音楽のプレイリストをご紹介します。
- B7 by Brandy
- Bigger Love by John Legend
- The Album by Teyana Taylor
- 6pc Hot EP by 6LACK
- Life On Earth by Summer Walker
楽ライター。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、A$AP・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタビュー経験もあり。block.fm『INSIDE OUT』をはじめ、ラジオMCとしても活躍中。
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年12月号に掲載した記事を再編集したものです。