「今聴いてほしいアーティスト」と関連する楽曲を音楽が伝えるメッセージや社会的・音楽的文脈などと合わせて渡辺志保さんが解説します。
今月のアルバム
Ariana Grandeの「positions」を紹介します。
新世代のアーティストとして世界にメッセージを届ける
写真:ロイター
混戦を極めた2020年のアメリカ大統領選挙。この原稿を書いている11月時点では、ジョー・バイデンが次期大統領に決定し、着々と新たな人事、そして新たな政権に向けての移行が進められている。大統領選の数週間前にアリアナ・グランデが発表した新曲が「positions」だ。「普段はこんなことしないけど、あなたのためならポジションを変えてもいい」と歌うアリアナ。 position という単語にはセクシーな意味も含まれ、アリアナはキッチンからベッドルームを舞台に自分の“ポジション”を変えると宣言して、家庭的な女性にも積極的な女性にもなれると歌っているのだ。
そして、注目してほしいのは本曲のMV。映像の中でアリアナが扮しているのは、女性大統領の姿。ホワイトハウスの中でアリアナを支える閣僚のメンバーも、中東系の女性や中性的な男性、カールヘアやふくよかな体形の人々といった、多様性に富んだ人選が強調されている。
ご存じのとおり、 position には「役職」という意味もある。「あなたのためならポジションを変える」という歌詞には、暗に、男性―特にマジョリティーである白人の男性たち―に代わって、アリアナやマイノリティーの人々がリーダーとなる社会にしたい、という意味も含まれているのではないだろうか。MV内に映される“アリアナ・グランデ”大統領の姿は実に頼もしく、「これからの世界を dominate (支配)するのは本当に彼女なのでは?」と思わせるほどだ。
また、今回の選挙においては女性として、有色人種として初の副大統領となるカマラ・ハリスがメアリー・J・ブライジの「 Work That」を自身のテーマ曲として使用したことも話題になった。「 Follow Me」と繰り返すコーラスが印象的なこの曲もまた、実際に「ポジションを変える」こととなった次期大統領にうってつけの楽曲だ。
働く女性の背中を押す曲4選
今回の記事で紹介している音楽のプレイリストをご紹介します。
- Work That by Mary J. Blige
- WAP feat. Megan Thee Stallion by Cardi B
- Jobs by City Girls
- Made It by Teyana Taylor
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年2月号に掲載した記事を再編集したものです。
渡辺志保 音楽ライター。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、A$AP・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタビュー経験もあり。block.fm『INSIDE OUT』をはじめ、ラジオMCとしても活躍中。
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