アメリカの前大統領、ドナルド・トランプ氏の支持者による連邦議会議事堂での暴動を受けて、米下院で13日、トランプ氏に対する弾劾訴追決議案を賛成多数で可決しました。今回は、その弾劾理由とされている「反乱の扇動」を取り上げます。英語のニュースでは、どのように表現されているのでしょうか?
今回のニュースな英語
incitement of insurrectionアメリカのドナルド・トランプ前大統領は、アメリカ史上初めて2度弾劾訴追された大統領となりました。
今回の「ニュースな英語」は、その弾劾理由「反乱の扇動」を取り上げます。
背景
トランプ前大統領が初めて弾劾訴求されたのは、2019年12月でした。当時の詳しい話は、 2020年1月に「ニュースな英語」でimpeachmentという言葉を取り上げています ので、そちらをご参照くださいね。
歴史的な2度目の弾劾訴求を受ける 原因 となったのは、1月6日にトランプ大統領(当時)がホワイトハウス近くのステージで演説を行い、支持者に向かって選挙結果に抗議するよう訴えたことでした。
確かに、We’re gonna walk down to the Capitol.と言っていますね。連邦議会ではこの日、昨年11月に行われた大統領選挙の結果を公式に集計し、ジョー・バイデン氏の当選を確認する 作業 が行われていました。トランプ氏の演説を きっかけ に暴徒となった支持者が連邦議会議事堂に乱入。この暴動で5人の死者が出ました。
アメリカの連邦議会議事堂(日本の国会議事堂に相当します)は、Capitolと呼ばれています(capitalとスペルも発音も似ているので間違えないようにしましょう)。そのため、このときに発生した暴動は、Capitol riot やCapitol Hill riot (Capitol Hillは議事堂がある丘を指し、議事堂そのものだけでなく周辺の施設も指します)などと呼ばれています。 riot は「暴動」や「反乱」という意味です。
また、Capitol siegeなどのように、siegeという単語を使って表現した記事も多くありました。siegeは「包囲そのもの」や「包囲攻撃」を指し、通常は戦争や内戦を伝える記事に登場する言葉です。
どんなふうに使われている?
この議事堂乱入事件を受けて、下院は13日、トランプ氏の弾劾決議案を採決し、同氏2度目となる弾劾訴追が決定しました。訴追理由は、「反乱の扇動」です。
先ほど riot が「反乱」を意味すると書きましたが、決議案で使われた言葉はincitement of insurrection(反乱の扇動)でした。
insurrectionの意味は「反乱」や「暴動」で、通常は当局や政府に対するものを指します。incitementは扇動すること。トランプ氏が演説や自身のTwitterなどで支持者に働きかけた行為です。
アメリカメディア NBCニュース はこう伝えています。
The article of impeachment, for “incitement of insurrection,” was adopted by the Democratic-controlled House, 232 to 197, after several hours of debate.www.nbcnews.com「反乱を扇動」したとする弾劾条項は、民主党が過半数を占める下院で数時間にわたり審議された後、232対197で可決された。
13日付の米紙 ニューヨークタイムズ は、incitementの動詞形を使ってこんな見出しにしています。
Trump Impeached for Inciting Insurrectionトランプ氏、反乱を扇動で弾劾にちなみに 見出しは通常は現在形で書かれます。impeachedとなっているということは、受動態(受け身)の意味ということです。
また、弾劾訴追の説明として、insurrection以外の表現で報じた記事もありました。イギリスの公共放送 BBC はこんなふうに説明しています。
The president was accused by the House of inciting the storming of the Capitol-the seat of the US Congress- with a speech on 6 January to supporters outside the White House.www.bbc.comトランプ大統領に対する下院の訴追理由は、1月6日にホワイトハウスの外で行った演説で、連邦議会議事堂を襲撃するよう支持者を扇動したことだ。
先ほどのNBCニュースはmarchという穏やかな表現を使っていましたが、BBCではstormという、より強い表現を使っています。
まとめ
弾劾裁判は、上院議会で行われます。今回の裁判がいつ始まるかは、この記事を書いている時点でははっきりしていませんが、新大統領の就任後――つまりはトランプ氏の退任後とみられています。
大統領を罷免(ひめん)させる目的の弾劾裁判を退任後にやって意味はあるの?という疑問が湧いてきますが、2024年の大統領選に出馬させないようにするという目的もあるようです。
とはいえ、前例のないことで、アメリカの憲法にも明記されておらず、退任した大統領を裁けるのか不明な点が多くあります。
今後 しばらくは、impeachment trial (弾劾裁判)の話題は続きそうですので、気を付けてニュースを見ていましょう。
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松丸さとみ フリーランス翻訳者・ライター。学生や日系企業駐在員としてイギリスで計6年強を過ごす。現在は、フリーランスにて時事ネタを中心に翻訳・ライティング(・ときどき通訳)を行っている。訳書に 『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』 (日経BP)、 『限界を乗り超える最強の心身』 (CCCメディアハウス)、 『FULL POWER 科学が証明した自分を変える最強戦略』 (サンマーク出版)などがある。
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