英語版『鬼滅の刃』と自動翻訳で遊ぼう!「笑止千万」はどう訳す?

今や、ブームを通り越して社会現象になっている『鬼滅の刃』。英語版コミックと自動翻訳を使って、もっと楽しむ方法をご紹介します。

『鬼滅の刃』をもっと楽しむには?

やや今さらな感じもしますが、『鬼滅の刃』、好きですか?

ざっくりおさらいしましょう。『鬼滅の刃』は、心優しい炭焼きの少年、竈門炭治郎(かまど たんじろう)が主人公。貧しいながらも家族と幸せに暮らしていた炭治郎ですが、ある日突然、鬼に家族を惨殺され、唯一生き残った妹の禰豆子(ねずこ)も鬼になってしまいます。禰豆子を人間に戻し、家族の仇を討ちたい。そう願う炭治郎は、鬼を倒す組織「鬼殺隊(きさつたい)」に加わることに。そして、鬼殺隊の仲間とともに剣士として成長していくという物語です。

私はもともと、マンガやアニメにそれほど興味があるほうではありません。しかし、ふと気付けば、テレビ放映されたアニメは録画し、コミックは全巻買い集め、映画を見に行っていました。ついには「とにかく鬼滅関連の何かにお金と時間を費やしたい」という状態になりましたが、フィギュアやグッズを集める趣味がなかったため、英語版コミックに手を出すことに。

「これなら英語の勉強になるしね!」と自分への言いも万全なため、この冬は嬉々として、英語版『鬼滅の刃』の読書に励んでいました。

英語版をもっと使いこなしたい

すでにストーリーは把握していますし、セリフもほぼほぼ暗記しているので、英語版でも割とすらすら読めます。

それでも読み進めていると、「この単語、何?」「こんなセリフあったっけ?」と引っ掛かることも。そんなときに日本語版と照らし合わせてみると、いろいろ気付きがあり勉強になります。

さらに私は、英語版をただ読むだけでは飽き足らず、こんな使い方を始めました。

  1. 日本語版で気になったセリフを自分で英訳
  2. 添削ツールを使い、その英文に文法的な誤りがないかチェック(必要に応じて 修正
  3. その英文を自動翻訳ツールで和訳し、意図に合っているかどうかをチェック
  4. 自作の英文と英語版のセリフを照らし合わせて、英訳の出来栄えをチェック
いうなれば、「翻訳家ごっこ」です。英文添削ツールや自動翻訳ツールの力も借りて英文を作り、最後はお手本となる英語版と比較してみるという「遊び」ですね。英文添削ツールは Ginger 、自動翻訳は DeepL翻訳 を使いました。英語力に自信がある方なら、2と3は飛ばしてもいいと思います。

こんなことして何になるんだという気もしますが、鬼滅のセリフを深く味わうことができ、さらに英語の勉強にもなりますから、一石二鳥。

英語版に近い訳ができていればうれしいですし、かけ離れていた場合は「俺が挫けることは絶対に無い!!」と修行に励む炭治郎気分も味わえます。

誰の迷惑にもなりませんから、遊びとしてやってみるぶんにはいいのではないでしょうか。

ちなみに、英語版コミックではセリフはすべて大文字で記載されていますが、この記事では読みやすさを考えて調整し、カンマやピリオドなども補足しています。

気になるあのセリフを英訳してみた

さて、そういう目で日本語版を読んでいると、気になるセリフが次々と目に付くものです。

えば、物語冒頭の炭治郎のモノローグ。

幸せが壊れる時にはいつも 血の匂いがする

私はこれを、Whenever happiness is broken, there is a smell of blood. と訳しました。中2で習うくらいのレベルでしょうか。英文添削ツールでは引っ掛かるところなし。続いて自動翻訳に掛けてみると「幸せが壊れた時には必ず血の匂いがする。」と和訳されたので、文意はそんなにずれていないと思います。

英語版をチェックすると、このようになっていました。

When happiness ends, there's always the smell of blood in the air.

私は「幸せが壊れる時にはいつも」という日本語に引きずられてwheneverから始めてしまいましたが、「いつも」は「血の匂いがする」とひとまとまりにしたほうがいいようです。また、alwaysが入っているとより「いつも」が強調されますね。炭治郎はこれまでにも、そういう経験をしてきたのかもしれません。

そして、smellにつく冠詞は、aではなくthe。血の匂いというのはなん種類もあるわけではなく特定できるものですから、確かにtheが適切です。言われてみればその通り。誠にふがいなし!穴があったら入りたい!

続いては、炭治郎が士となるきっかけをつくった冨岡義勇(とみおか ぎゆう)のセリフ。炭治郎と冨岡さん(なぜか「さん付け」)が、初めて出会ったシーンです。

生殺与奪(せいさつよだつ)の権を他人に握らせるな!!

これは有名なセリフですね。生殺与奪とは、「生かすか殺すか、与えるか奪うか、自分の思うままであること」という意味ですが、これを英語にするとなると、うーん、正直言ってどこから手を付けたらいいのかわかりません。

「自分の生命を他人に渡すな」という意味だと考えて、Don't give your life. と訳しました。完全に意訳です。

自動翻訳に掛けると「命を与えるな」とそのままの和訳が出ました。まあ意味は通じるのではと思いますが、あの言い回し特有のかっこよさは消えてしまっていますね。

さて、英語版ではどう訳しているのでしょうか。

Never leave yourself so defenseless in front of an enemy!

defenselessとは見慣れない単語だと思いましたが、defense(防衛)がless( 少ない )、すなわち無防備だということ。「敵の前で、自分を無防備なままにしておくな」という意味になります。なるほど~。

続いては、こちら。拙いながらも反撃してきた炭治郎に対して、冨岡さんが心の中でつぶやくセリフ。

感情に任せた単純な攻撃 愚か!!!

いわゆる名言の類ではないかもしれませんが、なんか好きなんですよね、これ。段差につまずいたときなど、自分の中で「愚か!!!」とつぶやいたりして使っています。

さておき、これを英語にするとどうなるでしょうか。私が考えたのは、Your attack is so simple and emotional. You're a stupid! です。自動翻訳で和訳すると「お前の攻撃は単純で感情的だ。お前はバカだな。」と出ました。

主旨は合っていますが、相変らず中2の英作文みたい。「あんたこそsimpleでstupidだよ」と言ってやりたくなる出来栄えですが、こんなものです。

さて、英語版を見てみましょう。

A simple, head-on attack relying on pure emotion. What a fool!

head-on attackは炭治郎の得意技である頭突きのことかと思いましたが、意味は「正面攻撃」。simpleだけでも単純という意味ですが、head-on attackを付け加えることで、「単純な上にひねりがない」というニュアンスを出そうとしたのかもしれません。

また、私が作った英文ではsimple and emotionalとしていましたが、これだと「単純かつ感情的」という意味なので、「感情に任せた単純な」とは微妙にニュアンスが違います。ここはやはり、rely on ~(~に頼る、あてにする)を使うべきでした。

そして「愚か!!!」は、What a fool!と感嘆文にしたほうが「!!!」の雰囲気が出ます。このコマでは冨岡さんは白目をむいていますからね。

さらに、続く冨岡さんのセリフ。

笑止千万(しょうしせんばん)!!

これは・・・。どう訳したらいいのでしょうか。要は「笑わせるな!」ということですから、Don't make me laugh! と訳して自動翻訳に掛けると、これもそのまま「笑わせるな!」と出ました。

意味は合っていると思いますが、もう少しこう、ビシッとした感じを出したいところです。英語版ではこうなっていました。

If you want something, you must fight for it!

「欲しいものがあるなら、そのために戦え!」という感じ。大胆に意訳していますね。これも、冨岡さんのセリフの力強さや緊迫感を表現するための演出でしょう。

このように、時代設定や独自の世界観に基づく言い回しもありますが、『鬼滅の刃』に出てくるセリフの多くは日常的なもの。また読む人の英語レベルによって、どんな訳し方もできると思いますので、ぜひやってみてください!

このウェブツールがおすすめ!

英文添削にも自動翻訳にもさまざまなツールがありますが、今回は先述した通り、GingerとDeepL翻訳を使いました。

英文添削ツールは、最近では Grammarly も評判がいいですね。長文をまとめてチェックするならGrammarlyが使いやすそうですが、今回は一文ずつちまちまと訳して言ったので、Gingerで十分でした。

自動翻訳にもいろいろありますが、私のおすすめは、今のところDeepL翻訳です。これがいちばん、細かいニュアンスまでくみ取ってくれる感じがします。

例えば、次のような日本語文を英訳してみると・・・

  1. このマンガにハマっています。
  2. このマンガがお気に入りです。
  3. このマンガめっちゃ好き!

Google翻訳では次のようになります。

  1. I'm addicted to this manga.
  2. I like this manga.
  3. I really like this manga! 

それが、DeepL翻訳ではこう!

  1. I am addicted to this manga.
  2. This manga is my favorite.
  3. I love this manga so much!

1つ目は同じ結果になりましたが、2つ目、3つ目については、DeepL翻訳の方がニュアンスがよりよく出ていると思いませんか?

さらに、先ほど手こずった「笑止千万」を英訳してみると、Google翻訳ではStop laughing 10 millionとまさかの直訳が出てきたのに対し、DeepL翻訳ではhighly ridiculous(滅茶苦茶、滑稽極まりない)でした。スゴイ!

ただ、highly ridiculousをGoogle翻訳に掛けると「笑止千万」という日本語訳が表示されるから不思議です。知っているなら、そう言えばいいのにね~。

しかしたら、ツールによって、言語Aから言語Bに訳すのは得意だがその逆は苦手とか、なんらかの傾向があるのかもしれません。これらのツールはとても便利ですが、やはり使う方の私たちも勉強が必要ですね。

まとめ

英語版『鬼滅の刃』では、マンガ本編はもちろん、巻頭の作者のあいさつから空きページのコラム、裏表紙のあらすじに至るまで、全ページが忠実に英訳されています。翻訳家や編集者は大変だったと思いますが、細かい仕事が丁寧になされているのは見ていて気持ちがいいもの。

特に空きページのコラムは、物語の背景や伏線の真相、登場人物の心理など、なかなかボリュームがあります。日本版では、当初は手書きだったのですが途中からタイプ打ちに変更されたほど。かなりの情報量なので、これらを全部英語で読んだら立派な多読になりそうです。

大人の英語学習は、楽しく続けるのがいちばん!『鬼滅の刃』なら、翻訳家ごっこも、英語多読も楽しめます。まずは1巻から、読み始めてみませんか?

尾野七青子 都内某所で働く初老のOL兼ライター。

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