気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に真魚八重子さんが解説します。
今月の1本
『キング・オブ・シーヴズ』(原題:King of thieves)
※動画が見られない場合は YouTube ページでご覧ください。かつて「King of thieves(泥棒の王)」と呼ばれたブライアン(マイケル・ケイン)は裏社会から引退し、妻と平穏な日々を過ごしていた。しかし、妻が急逝したことを きっかけ に、かつての犯罪にまみれた自分が呼び起こされることになる。知人のバジル(チャーリー・コックス)からロンドン随一の宝飾店街「ハットンガーデン」での大掛かりな窃盗計画を持ち掛けられたブライアンは、かつての悪友たちを集め、平均年齢60歳超の窃盗団を結成。綿密な計画のもとに実行日を迎えようとしたとき、ブライアンは突然計画から抜けると言い出し……。
ロンドンで本当にあったシニア窃盗団による金庫破り
実話の映画化である。2015年にロンドンのある宝飾店街の貸金庫が、約25億円相当の宝石や現金の盗難に遭った。犯行はプロの窃盗集団による事件とみられ、イギリスではセンセーショナルに報じられた。そして犯人たちが逮捕されると意外な正体に人々は驚いた。被害の様子から、犯人は若くて体力がある者たちと思われていたが、捕まったのはほぼ全員が老人だったのだ。
犯行チームをまとめる主人公ブライアンを演じるのは、イギリスを代表するアカデミー賞俳優、マイケル・ケイン。クリストファー・ノーラン作品や『キングスマン』(2014)も記憶に新しい。窃盗団のメンバーを演じるのもイギリスの名優ばかりで、劇中には彼らが若い頃に出演した作品のフィルム映像が挿入され、なんとも味がある。監督は、『博士と彼女のセオリー』(2014)や『喜望峰の風に乗せて』(2017)のジェームズ・マーシュ。
本作の前半は、貸金庫のセキュリティーを突破して宝石や現金を強奪する模様が粛々と描かれる。特に面白いのは窃盗が成功した後、宝石や現金を山分けする 作業 に入ってからだ。新たにメンバーに加わった若いバジル(チャーリー・コックス)は、成果を均等に山分けすると思っていた。しかし食えない老人たちは、一人でも関係者が 少ない 方が分け前は多くなるため、出し抜き合いを始めてしまう。若い頃から犯罪に手を染めてきた男たちの、何をしでかすかわからない危うさによって、人間の恐ろしい一面があらわになりドラマチックに演出される。
警察の捜査も時折挟まれ、その様子はテンポがよく、見ていてワクワクする。監視カメラなどの映像 分析 技術の進歩によって、老いた犯人たちが想像もしていなかったスピードで犯行が割り出されていく。実際の事件の顛末もまだまだ謎が残っており、そういった明らかになっていない部分や、ぎくしゃくした老人たちの関係性のその後などを、映画のフィクションの部分がうまく補っている。
『キング・オブ・シーヴズ』(原題:King of thieves)

Staff ">Cast & Staff
監督:ジェームズ・マーシュ/出演:マイケル・ケイン、ジム・ブロードベント、トム・コートネイ、チャーリー・コックス、ポール・ホワイトハウス、レイ・ウィンストン、マイケル・ガンボンほか/公開中/配給:キノフィルムズ
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年3月号に掲載した記事を再編集したものです。
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