気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に真魚八重子さんが解説します。
今月の1本
『博士と狂人』(原題:The Professor and the Madman)をご紹介します。
※動画が見られない場合は YouTube のページでご覧ください。19世紀、貧しい家に生まれ学士号を持たない言語学者マレーは、オックスフォード大学で英語辞典編纂計画の中心にいた。シェイクスピアの時代までさかのぼりすべての言葉を収録するという、大英帝国の威信をかけた壮大なプロジェクトは困難を極める。そんな中、マレー博士に大量の資料を送ってくる人物が現れる。その謎の 協力 者は、殺人罪で精神病院に収監されていたアメリカ人、マイナーであることが判明し、プロジェクトはイギリス王室までも巻き込んでいくことになるが・・・。
初版発行までに70年以上を費やした「世界最高峰の辞書」
原作は、サイモン・ウィンチェスターによるノンフィクション『博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話』。初版発行までに70年以上の歳月を費やし、41万語以上の収録語数を誇る世界最高峰の辞書『オックスフォード英語大辞典(通称OED)』―この名だたる辞書の制作にボランティアで尽力した最大の貢献者が、実は精神を病んだ殺人犯だった、という驚きの事実を映画化した。
19世紀、貧しい出のため独学で言語学博士となったマレー(メル・ギブソン)は、オックスフォード大学で英語辞典編纂計画を任されていた。シェイクスピアの時代までさかのぼりすべての言葉を収録するという、無謀ともいえるプロジェクトだ。人員が少なく、予定の進捗から大幅に遅れる中、博士に大量の資料を送ってくる謎の 協力 者が現れる。その人物とは、南北戦争に従軍した外科医で、殺人を犯し精神病院に収監されていたアメリカ人のマイナー(ショーン・ペン)だった。
日本映画でも、新たに辞書を編纂する 作業 を描いた『舟を編む』(2013)という作品があるが、あらゆる言葉を集めて辞書を作る 作業 を描いた映画は、知的好奇心が刺激されて不思議なほどワクワクする。本作の『オックスフォード英語大辞典』はさらに、言葉の定義付けだけではなく、その言葉がどのように使用されたか、どのように変化してきたか、という正確な引用までが掲載される。これは、一度目を通した書物はすべて暗記しているような、特別な才能を備えた人にしかできない 作業 だ。そんな稀有な能力を持った人ならば、その力を活用しないのはあまりに惜しいと思えてくる。もちろん精神の病が 原因 だろうと、人をあやめた罪は償わなければならないが。
本作は言葉の探求だけではなく、マレーに向けられる権力争いの火花や夫婦の不和、マイナーが受ける前時代的な精神科治療に加え、恋愛という意外な 展開 も迎えていくので、観ていて飽きる暇がない。役者たちの演技も抑えめで、濃いキャストだがナチュラルな説得力がある。
『博士と狂人』(原題:The Professor and the Madman)
Staff ">Cast & Staff
監督:P.B.シェムラン/出演:メル・ギブソン、ショーン・ペン、ナタリー・ドーマーほか/公開中 ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー/配給:ポニーキャニオン
映画著述業。『映画秘宝』、朝日新聞の映画欄、文春オンライン等で執筆中。著書『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『映画なしでは生きられない』『バッドエンドの誘惑』(共に洋泉社)も絶賛発売中。
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年11号に掲載した記事を再編集したものです。
SERIES連載
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