養子、血縁、家族のあり方――日本とアメリカの制度と考え方の違いを知ろう【日米文化の裏側】

アメリカ出身の言語学者アン・クレシーニさんが、アメリカの知られざる“常識”や、2つの国のさまざまな違いについてお届けする連載。今回は「養子」がテーマです。日本とアメリカそれぞれの養子縁組制度や、養子、そして家族に対する考え方の違いを見ていきましょう。

日本とアメリカの「養子」に関する違い

養子を迎えることへの日本人の反応

私には子どもが3人いますが、3番目の娘が生まれた後、私は夫と一緒に、養子を迎えることを考え始めました。アメリカ人の私たちにとって、これは珍しいことではないのですが、周りの日本人の友人は全く理解できなかったようです。「ええ?なんで?」「もう3人子どもがいるのに?」「理由が分からない」といった反応が多かったです。

そのうちの、一人の友人とのやりとりを今もよく覚えています。彼は必死に私を説得しようとして、こんな会話を交わしました。

友人:やめた方がいい!
:ええ?なんで?
友人:養子がかわいそうだからさ。絶対にあなたは、自分が生んだ子どもと同じくらいその子を愛することができないから、かわいそうだ。だからやめたほうがいい。
:いや、そんなことないよ。自分が生んだ子と同じように愛せる自信がある!

ここで、「家族」や「子ども」に関する日米の文化や価値観の違いがよく見えてきます。前回の記事では、日本人の「内」と「外」のメンタリティーについて話しましたが、その概念も今回のテーマに関係していると思います。

今日のテーマは、「養子を迎えること」です。「養子を迎える」って、どういうことだと思いますか?アメリカ人と日本人の考えはかなり違うので、私も読者の皆さんと一緒に、この深いテーマについて考えたいと思います。

さて、始めましょう!

日本とアメリカ、養子縁組の構成の違い

まず、養親と養子との間に、法律上の親子関係を作り出す制度を「養子縁組」と言います。英語ではadoptionで、養子はadopted childと言います。

日本では、養子に迎えられる多くは成人です。一方、アメリカでは養子のほとんどが未成年の子どもです。この違いについて、文化の違いの視点から考えてみましょう。

ある調査〔*1〕の養子縁組の構成データを見てみると、日本の養子縁組の67%が大人を養子にする「成年養子」です。血の繋がりのない未成年の子どもを養子にする「他児養子」はわずか1%に過ぎません。残りは、配偶者の子どもを養子にする「連れ子養子」が25%と、孫やおい、めいなどを養子にする「血縁養子」が7%です。これに対し、アメリカは構成が全く異なります。成人養子はゼロで、血の繋がりのない子どもの養子(他児養子)が50%、連れ子養子は40%です。

日本における養子縁組に関する法律の始まりは、701年に制定された「大宝律令」だと言われています。江戸時代には、養子縁組が非常に盛んに行われたそうです。「家」の存続のため、武家の養子は特に多くかったようです。現代にはさすがに武士はいませんが、「婿養子」の制度は続いています。「婿養子」とは、結婚相手である妻の親との間に養子縁組を結んで、養子になることです。そうすることで、例えば、妻の実家の家業を継いだり、名字を存続させたりできるようになります。こういった成人の養子縁組は、アメリカでは聞いたことがありません。

〔*1〕児童福祉としての養子制度を考える「成年養子大国・日本」と「子ども養子大国・アメリカ」の変遷を追う(一橋大学経済研究所 森口千晶教授)

日本の2つの養子縁組制度

私が今日、主に話したいのは、未成年の子どもを養子として迎える「特別養子縁組」についてです。特別養子縁組とは、さまざまな事情により生みの親のもとでは暮らせない子どもを、自分の子どもとして迎え入れる制度です。法的な親子関係を結ぶため、子どもは生涯にわたって安定した家庭を得ることができます。対象となる子どもの年齢は15歳未満で、生みの親との親子関係は特別養子縁組によって解消となります。

これに対し、「普通養子縁組」という制度は、養子になっても生みの親との親族関係は残ります。英語では、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」のどちらもadoptionですが、特別養子縁組の方をspecial adoption systemと呼ぶケースもあるようです。〔*2〕

皆さんもニュースで見たことがあるかと思いますが、俳優のアンジェリーナ・ジョリーをはじめ、自分が生んでいない子どもを養子に迎えるセレブは少なくありません。そして、アメリカではこれはセレブに限った話ではなく、一般人も養子を迎えることがよくあります。さらに、アメリカに住んでいる子どもだけではなく、外国の子どもたちも対象です。

日本も、妊娠が困難な夫婦が、特別養子縁組制度を通して子どもを迎えるケースがあります。一方のアメリカでは、妊娠が難しい人たちだけではなく、すでに実子がいる家庭でも養子を迎えます。これについて、多くの日本人は「理解しづらい」と感じるのかもしれません。

〔*2〕「普通養子縁組」「特別養子縁組」に関する情報・データの参照元
厚生労働省:特別養子縁組制度について
こども家庭庁:特別養子縁組制度について
子どもを育てたいと願う人へ(特別養子縁組制度特設サイト)

日本とアメリカの「家族」に関する違い

養子を迎え入れた弟

次に、「家族」という概念について考えましょう。日本をはじめ、多くのアジアの国では、血の繋がりが非常に大切にされます。一方、アメリカは、日本やアジアの国々ほどではありません。もちろん、全く大切ではないというわけではありません。日本人のように大事にしている人もいますが、基本的に、「家族=自分が愛そうとする(思う)人」なのです。

記事の冒頭で紹介した友人が、養子を迎えることを私にやめさせようと一生懸命だったのは、この「家族」の概念が影響しているのだと思います。血の繋がりを大事にする人が養子を迎え入れた場合、「自分が生んだ子どもと同じレベルの愛を注ぐことができない」ということもあるのかもしれません。しかし、多くのアメリカ人は自分で「養子を愛する」と決めたら、「自分が生んだ子と全く同じように養子を愛することができる」と深く信じています。私自身もそうです。だからこそ、友人の言葉に対して反論しました。

アメリカで暮らしている私の弟とその奥さんは、実の子ども5人を持った後、中国人の女の子を養子に迎えることに決めました。その理由はとてもシンプルで、「愛されていない子どもを愛したい」、それだけです。もちろん彼らには、「その養子を自分たちが生み育てた5人と同じように愛せる」自信がありました。弟夫婦の家庭を10年近く見てきた私には、彼らが間違いなく、それを実現できていると言えます。

娘を迎えることを決めた瞬間、娘を愛し始めた――これは弟の言葉です。弟は養子となる子に出会う前から、「あなたは私の娘だ」と思っていたのです。その子は、2歳になる前に迎えられました。生まれてからほとんど抱っこをされたことがなく、栄養不足でとても小さい体だったのを覚えています。迎え入れてから半年ほどはずっと泣いていて、人見知りが激しく、食べものの好き嫌いが激しい子でした。そんな彼女は今、とても元気でフレンドリーな10歳の女の子に成長しています!両親にもきょうだいにも深く愛されている結果に違いありません。弟の娘を、健康で元気に育てたのは愛でした。

めいっ子とアンちゃんです。今年のハロウィーンに撮影したよ。

養子を迎えたいと私が願った日々

では、私自身の話に戻りましょう。私と夫には「日本人の養子を迎えたい」という気持ちがあったので、当時住んでいた北九州市の児童相談所へ赴きました。北九州市の人口は100万人近くいるのですが、そこで「今、養子に行ける子どもは一人もいない」と言われ、とてもびっくりしました。もちろん、施設に子どもはたくさんいたものの、彼らを生んだ親たちは親権を手放したくはなかったのです。

日本は実親に強い親権が保障されていて、その意思を尊重せざるを得ません。やはり、血縁というものをすごく大事にしている日本では、あくまで、生んだ親にこそ子どもを育ててほしいという考え方が根強く残っていると感じました。

私たちは数年にわたって懸命に努力したのですが、最終的に、養子を迎えることを諦めました。

「養子」に関する英語の表現

それではここで、養子についての英語の文を見ていきましょう。

My husband and I are thinking about adopting.
夫と私は、養子を迎えることについて考えている。

Adoption is one option for couples who are unable to have children.
子どもができない夫婦にとって、養子を迎えることは一つの選択肢です。

I am adopted.
私は養子です。

I was adopted when I was six.
6歳の時、養子になった。

She gave her child up for adoption.
彼女は自分の子どもを養子に出した。

There are many private adoption agencies in the U.S.
アメリカには民間の養子縁組あっせん機関がたくさんある。

「血の繋がり」「血縁」に関する英語の表現

数年前、私の大親友のめいっ子の結婚式に呼ばれたことがあります。京都の平安神宮で挙げられた神前式でした。人生初の神前式に参加できたことは、私にとって非常に貴重な経験です。そして何より感動したのが、親友が私を「身内」に入れてくれたことでした。普通、こういう行事には親戚しか参加しないものなのに、私を誘ってくれたんです。血縁を大事にしている日本において、血の繋がりがない私を「家族」だと思ってくれたことに、すごく感動しました。

では、「の繋がり」や「血縁」は英語でなんと言うのか、関連する例文を見てみましょう!

They are not related by blood.
あの二人に血の繋がりはない。

Most Americans believe that love makes a family.
ほとんどのアメリカ人は、愛が家族を作ると信じている。

In Japan, bloodlines are very important.

日本では、血縁がとても大事にされている。

We may not be related by blood, but we are family.
私たちは血の繋がりはないかもしれないけれど、家族だ。

ちょうどこの記事を書いていときに、長年アメリカに住んでいる日本人の知り合いから次の話を聞きました。

彼の奥さんはアメリカ人です。二人でアメリカ人の養子を迎えた後、彼は子どもの日本国籍を取る手続きをしました。けれど、子どもが養子だったため、日本国籍は取れないと言われたそうです。彼はショックを受け、そのままアメリカに戻りました。私はこの話を聞いて改めて、日本がそれほどまでに血縁を大事にしている国であることに気付かされました。

家族が増えた日を祝うGotcha Day

アメリカでは、養子を迎えた夫婦のほとんどが、その事実を隠しません。むしろ、とてもオープンに話す人が多いです。養子を迎えるプロセスについてブログを書いたり、周りの人の応援や祈りを求めたりします。そして、養子の当人も養子であることを隠しません。なぜなら、養子であることは素晴らしいことだと思っているから。養子を迎えた夫婦の感覚は、「あなたの親になることは私たちの特権だ」という感じだと思います。

養子のいる家庭は、誕生日とは別に、「Gotcha Day」もお祝いします。Gotcha Dayとは、子どもがその家族の一員になった日のこと。GotchaはI got you.の省略形で、「見つけた、手に入れた」、すなわち「家族の一員になりました」という意味です。家庭によってGotcha Dayの祝い方は異なりますが、ご飯を食べに行ったり、パーティーをしたりするのが一般的です。つまり、誕生日と同じ感覚ですね。「あなたが私の家族に来てくれてよかった!」といった感じです。

日本を含め、養子を迎える(迎えた)ことを隠そうとする文化もありますが、アメリカにはそういう文化はありません。血縁を日本ほど大事にしていないから、養子を迎えることを隠す理由がないのです。

まとめ

冒頭に出てきた友人に言われたことは、いまだに忘れられません――。「絶対にあなたは、自分が生んだ子どもと同じくらいその子を愛することができないから、やめた方がいい」

そのときは少しイラッとしましたが、今考えると、その人と私の世界観は全く違うと分かります。彼自身が「養子を自分の子どもと同じようには愛せない」という考えだから、私にもできないと思い込んでいました。でも、彼がそう思っているからと言って、私も同じだとは限らないのです。

私は、養子を迎えることは素晴らしいことだと思います。けれど、そう思っていない人もいます。自分の世界観を相手に押し付けたくはありません。だからもちろん、養子を迎えたくない人の気持ちを尊重します。人には人それぞれの価値観や世界観があります。全ての人がお互いの価値観を尊重することができたら、どれだけ素晴らしい世界になるのでしょう。

「私はこう思っているから、こうしているから、あなたもそうでしょう?」という考え方は、非常に危ないと思います。

私は、自分の信念をしっかり保ちながら、相手の価値観を尊重できる人間でいたい。そうであるように、毎日、自分の行動を振り返りながら生きていきたいと思っています。

「養子」についての話、いかがでしたでしょうか。お互いの価値観を知ることによって、私たち人間は成長する――今回はこの言葉で締めたいと思います!

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

本文写真:Guillaume de GermainJessica Rockowitz from Unsplash

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upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!

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