死語・・・のはずが実は今も生きてる「ハイカラ」は英語でなんて言う?【アンちゃんの死語の世界】

言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんの連載「今よみがえる 死語の世界」。いよいよ最終回です。取り上げる言葉は「ハイカラ」。アンちゃんと一緒に最後まで楽しく言葉を学びましょう!

明治時代に生まれた「ハイカラ」

この間、講演会のために愛知県に行ってきました。そして無事に講演を終えた翌日、知り合いが連れて行ってくれたのが、愛知県部の犬山市にある明治村です。

明治時代の建物を見たり、明治時代に生まれた食べ物を食べたりしながら、「日本にとってこの時代は大きなターニングポイントだった」と思いました。なぜなら、外国のものが急激に増えた時代だからです。

建築物にファッション、食事に音楽・・・そして、言葉。外来語は16世紀頃から日本に渡ってきたと言われていて、その初期に多かったのはポルトガル語です。鎖国の体制下では、ほとんどオランダ語由来の外来語しか使われていませんでした。明治時代に入ると、外来語がたくさん日本語に入ってきます。そしてそれ以来ずっと、外来語の勢いは止まりません。最新の『広辞苑』(第七版)に入っている言葉のうち約2割が外来語です。

明治村では、当時の洋服を来て写真を撮る体験ができました。そのお店の名前が「ハイカラ衣装館」でした。ハイカラ!明治時代を代表するカタカナ語です!でもこれ、実は和製英語なんです。そして死語です。

というわけで、「死語の世界」最終回では、アンちゃんの大好きな和製英語で外来語で、そして死語でもある「ハイカラ」について話していきたいと思います。

さて、明治時代に戻りましょう!「ハイカラ」はいつから使われるようになり、どういう意味を持つ単語なんでしょうか。

ハイカラの由来はhigh collar

日本で初めて「ハイカラ」が使われたのは1898年だと言われています。新聞記者の石川安次郎さんが、西洋かぶれの政治家や海外経験のある人たちを揶揄(やゆ)するために使い出しました。当時、西洋の国ではhigh collar(高襟)のシャツが流行していて、そのファッションや文化を真似しようとしていた日本人をからかうつもりで「ハイカラ」と呼んだのです。collar(襟)とcolor(色)はカタカナにするとどちらも「カラー」で発音も似ているので、high collarはよくhigh colorと間違われますが、色とは関係ありません。

同じ頃に動詞の「ハイカる」も流行しました。名詞を動詞にする言葉遊びが、明治時代にもあったんですね!「メモる」「タクる」「ググる」などのご先祖様は、「ハイカる」だったようです。

日本語として定着した「ハイカラ」は、石川さんが使っていたネガティブなニュアンスのままではありませんでした。主流となった「ハイカラ」が示したのは、「おしゃれなものや新しいものが好きな人」です。英語のhigh collarはシャツの襟を表すだけでしたが、日本語の「ハイカラ」は、髪型、ファッション、マナー、そして、おしゃれな人自体をも表現していました。

「あの人はハイカラさんだ」といった言い方も当時は普通にされていました。そして、「日本風」ではなく、「西洋風」という意味を持っていました。明治時代には、西洋のものはなんでも洗練されている・かっこいい・おしゃれだと思われ、「とにかく同じようになりたい」と願う人が多かったそうです。

「ハイカラ」は英語でなんて言う?

「ハイカラ」のように、「西洋の国のファッションを真似する人」を示す英単語はありません。けれど、「洗練された」「おしゃれな」「目新しい」などの意味を持つ単語はたくさんあります。

【洗練された】polished/refined/sophisticated/elegant

洗練された・洗練されている」と言いたいときには、polished/refined/sophisticated/elegantなどが使えます。

polished(洗練された、上品な、優雅な)

His writing style is really polished.
彼の文体はすごく洗練されている。

His speech is really polished because he had a high-class education.
彼は一流の教育を受けたので、話し方がとても洗練されている。

refined(上品な、洗練された、あか抜けした)

I like her refined sense of fashion.
彼女の洗練されたファッションセンスが好き。

My son’s girlfriend’s manners are really refined.
息子の彼女の立ち振る舞いは実にあか抜けている。

refinedの反対語はcoarse(粗野な、がさつな、下品な)です。

Her manners are really coarse.
彼女の振る舞いは実にがさつだ。

ただし、マナーや立ち振る舞いについて言うときに、より一般的に使われるのはgoodとbadです。

She has really good manners.
Her manners are really bad.

sophisticated(洗練された、教養のある、あか抜けた)

Natalie Portman is such a sophisticated actress. She is so cool!
ナタリー・ポートマンはすごく洗練された女優だ。かっこいい!

I am not as sophisticated as you are.
私はあなたほど洗練されていない。

elegant(優雅な、上品な、洗練された)

My grandmother is the most elegant woman I know.
祖母は、私が知る中で最も上品な人だ。

She has a really elegant way of speaking.
彼女の話し方は本当に洗練されている。

【おしゃれ】fashionable/trendy/chic

「おしゃれ」と言いたいときは、fashionable/trendy/chicなどを使うといいでしょう。

fashionable(流行の、はやりの)

英語の名詞fashionを形容詞にすると、fashionableになります。この単語は日常会話でよく聞きます。

I wish I were as fashionable as she is. She looks so beautiful every day.
私も彼女みたいにおしゃれだったらなあ。彼女は毎日マジできれいだよ。

Omotesando is one of the most fashionable areas in Tokyo.
表参道は、東京で最もおしゃれなエリアの1つだ。

「センスが良い」は英語ではgood/great fashion sense とか good/great sense of fashionのように表現します。

She has a good sense of fashion. She looks wonderful no matter what she wears.
彼女はセンスが良い。なんでも素敵に着こなせる。

My mom has a great fashion sense. She always gives me advice on what to wear.
母はめっちゃセンスが良いんだ。何をきたらいいか、いつもアドバイスをくれるよ。

最新のファッションに敏感な人はfashionistaです。カタカタでは「ファッショニスタ」と言います。

My sister is such a fashionista. She is always up to date with the latest trends.”
お姉ちゃんはマジで最新のファッションに敏感なの。常に最新のトレンドを把握してるわ。

trending、trendy(流行の、はやりの)

X(旧ツイッター)やネットのニュースなどで、「トレンド入り」という表現をよく目にすると思います。この「トレンド」は、「流行のニュース」「はやりの動画」などという意味です。英語ではtrendingを使って次のように言うことができます。

That scandal is trending on X.
あのスキャンダルはXでトレンド入りしている。

That new makeup hack is trending on TikTok.
あの新しい化粧のコツがTikTokでトレンド入りしている。

trendは「流行・はやり」という意味で、いろんな使い方がありますよ。

fashion trend(ファッションの流行)
makeup trend(メイクのはやり)
a new trend in music(音楽の新しいトレンド)

形容詞にすると、trendyになります。意味は、「おしゃれ、はやりの、最新の」です。例文をいくつか見てみましょう。

I love your new hairstyle. It’s so trendy!
あなたの新しい髪型が大好きだ!めっちゃおしゃれだね!

Those are some trendy new shoes. I love them!
めっちゃおしゃれで新しい靴だね。いい感じ!

Let’s go check out Harajuku. There are a lot of trendy shops there with cute clothes.
原宿へ行ってみようよ。かわいい洋服のあるおしゃれなお店がたくさんあるからさ。

chic(しゃれた、あか抜けた)

chicは「シーク」のように発音します。 fashionableやtrendyとほぼ同じ意味ですが、レストランやお店に対してよく使われている気がします。

There is a chic new boutique in Shibuya that I want to visit!
渋谷に最近できたおしゃれなブッティクがあってさ、めっちゃ行きたい!

Let’s check out that chic new restaurant.
あの新しいおしゃれなレストランに行こう。

アメリカの若者の間で流行しているit girl

今、アメリカではやりの若者言葉がit girlです。「めっちゃ性格が良くて、センスが良い人」を表す言葉なんです。周りの人はit girlに憧れ、彼女と同じようになりたいと願います。

She is this generation’s new ‘it girl.’
彼女はこの世代の新しい「イット・ガール」です。

娘に「現在のit girlは誰?」と聞いたところ、「モデルのジジ・ハディッド」と返ってきました。高校で一番人気のある人に対しても使うものの、最も使われているのは有名人に対してだそうです。it girlの多くはモデルや女優です。

アンちゃんの時代のit girlは誰だったか・・・。ブルック・シールズかジェニファー・アニストンかな?

ちなみに、私もit girlになりたいな。うーん、やっぱ、無理だ。

「ハイカラだね」って英語で皮肉るには?

「ハイカラ」の語源について説明した箇所で、「西洋かぶれの政治家や海外経験のある人たちを揶揄するために使い出した」ということを書きました。では、英語でも同様に、皮肉ったり嫌味を言ったりするときの表現はあるのでしょうか。

答えは・・・Yes!文を見てみましょう。

I can’t compete with her fancy clothes and high-class education.
彼女の派手な洋服やお上品な教育には勝てないわ。

fancyには「派手な」「高級な」という意味があります。

Take your fancy clothes and expensive shoes and go home!”
派手な服とお高い靴を忘れずに家に持って帰れよ!

That guy has such a highfalutin way of talking. We are just simple blue-collar guys.
あいつは偉そうな話し方をする。俺たちはただの労働者階級だからな。

highfalutin:「尊大な、仰々しい」などを意味するスラング。

若者は居酒屋で「ハイカラ」を注文する!?

100年近く生きていた「ハイカラ」は現在、ほとんど使われていないので死語になっていると言っていいと思います。とはいえ、全く使われていないわけではありませんし、認知度はかなり高いでしょう。

NHKの連続テレビ小説「ハイカラさん」(1982年放送)や、いまだに人気がある漫画『はいからさんが通る』などを通して、「ハイカラ」はエンターテインメントの世界で今もよく知られています。そして近年では、明治時代に流行したファッションを「明治ハイカラ」と言う人もいます。また、「昭和レトロ」「大正ロマン」「大正モダン」という表現もあるそうです。ああ、いつか「ロマン」と「モダン」についての記事も書きたいなあ!

さて、「ハイカラ」は現代の若者たちの会話で使われているのでしょうか?

実は、「ハイカラ」という言葉はあるけれど、意味が全然違うんです。飲み会で使われる「ハイカラ」は、「ハイボール」と「から揚げ」をかけた言葉。ハイボールの「ハイ」と「から揚げ」の「から」から生まれて新しい「ハイカラ」というわけです。さらに、場所はお店ではなく自宅や友人宅での飲み会というニュアンスがある、という意見まで。

言葉って、バリ面白いよね!

まとめ

ということで、この「死語の世界」は最終回となりました。言葉好きのアンちゃんにとって、この連載を書くことはとても貴重な経験でした。

25年前、日常生活を楽しむために「サバイバル日本語」を必死に覚えました。その後、外来語、和製英語、若者言葉、方言、そして、死語に出会いました。全てが魅力的で、全て日本語に欠かせないものだと思います。

ENGLISH JOURNALでの連載は6年に及びます。記事を書くたび、読者の皆さんと一緒で、アンちゃんにとってもすごく勉強になります。今回の連載は特にそうでした。取り上げたさまざまな言葉が元気に生きていて死語ではなかったとき、私は日本にいなかったので、知るわけがありません。だからこそ、この「死語の世界」は、魅力的な日本語を新たに学ぶきっかけとなってくれました。

言葉は生き物です。必要に応じて生まれ、必要とされなくなったら静かに消えてしまいます。けれど、いつか復活するかもしれません。

この連載を通して、昔の日本語に感謝しつつ今どきの英語を学んでもらえたら、それは何より嬉しいことです!

私はずっとEJで記事を書くつもりだから(9月からまた新しい連載を始めるよ!)、これからもアンちゃんと一緒に「言葉」を楽しもうね!

言葉しか勝たんけんさ!

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

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ENGLISH JOURNALでの連載の一部を改編して収録し、大幅な書き下ろしも加えた待望の1冊が、9月20日に発売されます!お近くの本屋さんか下記リンクから予約してくださいね。

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