連載「今よみがえる 死語の世界」第9回。今回取り上げる言葉は「わけわかめ」。新種の海藻でも、ふりかけの名前でもありません。「わけが分からない」という意味で昭和や平成の時代に使われていました。ちょっとおいしそうなこの死語について、言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが解説します!
目次
日本語の略語はレベチで面白い
言葉の勉強が大好きな私にとってすごく面白いのが日本語の略語です。もちろん英語にもありますが、日本語の方がはるかに多いような気がします。
若者言葉は、特にです。例えば・・・
- いつものメンバー ⇒ いつメン
- レベルが違う ⇒ レベチ
- なるべく早めに ⇒ なるはや
- とりあえず、まあ ⇒ とりま
- 中途半端ではない ⇒ 半端ない
ワンチャン話すことがめんどくさくて、なんでもかんでも省略するのかも。ちなみにワンチャンも「ワンチャンス」の略語であり若者言葉で、「もしかしたら、ひょっとしたら」という意味で使われます。
さらに、「わけが分からない」は「わけ分からん」って言うよね!私は、勉強してきた日本語と今どきの日本語の違いがレベチ過ぎて、わけ分からんくなった。とりま、今日は「わけ分からん」から生まれた死語「わけわかめ」について話すねー!「うわっ、懐かしい!」って叫びたくなった人もいるかな?
それでは、今日もアンちゃんと一緒に死語の世界を楽しみましょう!
「わけわかめ」の意味と語源
「わけわかめ」は「わけが分からない」という意味で、主に2つの使いどきがあります。まず、相手が何を言っているかよく分からない・理解ができないとき。そして、今起きていることや相手のしていることがよく分からないとき。
今の若者言葉に言い換えると、「イミフ」になります。皆さんは若いから言うまでもないと思いますが、「イミフ」は「意味が不明」の略語です。つまり、意味が分からないってこと。
「わけわかめ」が誕生した経緯としては、1982年にミツカンから発売されたふりかけ「おむすび山」の「鮭わかめ」味をもじって、「わけわかめ」になったという説が有力のようです。初めて使われたのは80年代でしたが、若者の間で最もはやっていたのは90年代。寿命はそれほど長くはなくて、2000年以降はほぼ死語になっていました。
ところが、です!
なぜか2011年にまた若者の間ではやり出し、その年の「女子中高生ケータイ流行語大賞」にもノミネートされました。その後、2019年にCMでお笑い芸人の平野ノラさんが使ったことで一時的に流行したものの、今はほぼ、聞くことはなくなりました。ただし、ネット上ではいまだに「わけわかめ」を見かけることがあります。
「わけわかめ」の英文いろいろ
では、どんなふうに「わけわかめ」を使えばいいのか、まずはいくつか例文を見てみましょう。
A:昨日の会議でさ、健太が言ったことが分かった?
B:いや、全然。わけわかめやね。A:Hey, did you understand what Kenta was saying at the meeting yesterday?
B:Nope. Absolutely no clue.
A:先生の説明、すごく分かりにくいと思わなかった?
B:そうなんだよ、わけわかめだった!A:Didn’t you think our teacher’s explanation was super hard to follow?
B:Yeah, I totally didn’t get it!
A:彼は頭が良過ぎて、何を言ってるかよく分からんよね。
B:分かる~!わけわかめだよね。A:He is so smart that I have no idea what he is talking about.
B:Yeah, right! It’s totally over my head.
今どき、FAXでしか注文できないなんて。わけわかめだ!
I can’t believe it’s the 21st century and I can only order by fax. Totally doesn’t make any sense at all.
「分からない」を伝える英語フレーズ
この連載でもお話ししてきましたが、一つの表現や言い方しか知らないと、会話はあまり面白くならないでしょう。自分の母語と同じように、バリエーションがあった方がずっと楽しくなります。
日本語でも、相手が延々と「確かに」とだけ言い続けたら、ちょっとモヤッとしませんか?これに対して、「分かる!」「そうだよね」「それな!」「全く、それ!」「めっちゃ同感」など、いろんな表現が出てきたら、やりとりは楽しくなると思います。
ほとんどの日本人はI don’t understand.という表現を理解できるでしょうけど、こればかり使っても面白くないし、I don’t understand.には、「わけわかめ」や「イミフ」が持つ「呆れているニュアンス」が入っていません。
今日は、カッコ良く「わけわかめ」と英語で伝える表現を学ぼうね!まずはフレーズの一覧です。
I don’t get it at all.
I have no clue.
It’s over my head.
I totally can’t figure it out.
It’s Greek to me.
Beats me.
I have no idea.
I don’t see the point.
It’s beyond me.
That doesn’t make sense.
続いて、それぞれの例文を見ていきます。
Why did you go drinking the night before your final exam? I don’t get it at all.
期末試験前の夜になぜ飲みに行ったの?全然意味が分からない。
I just had my keys and now I can’t find them. I have no clue what happened to them.
さっきまで鍵があったのに、今はどこにあるか分からない。何が起きたのか、わけわかめだなあ。
clueは「手がかり、ヒント」という意味。「手がかりがない」から分からん、ってことですね。
My calculus class is brutal. I can’t understand any of the homework. It’s totally over my head.
微分積分の授業は難しすぎる。宿題の内容はちっとも分からない。完全にわけわかめ。
I totally can’t figure out my life.
私の人生、わけ分からんな。
A:Hey, did understand yesterday’s assignment?
B:Nope. It’s all Greek to me.A:ね、昨日の課題のやり方分かった?
B:全然分からなかったよ。
It’s all Greek to me.は、シェイクスピアの戯曲「ジュリアス・シーザー」の中のセリフに由来していると言われています。直訳すると「それは私にとって完全にギリシャ語だった」になりますが、ここでのGreekは「(難解なギリシャ語のように)さっぱり意味が分からないもの」という意味で使われていいます。
A:Do you have any idea why he was absent today?
B:Beats me.A:どうして今日彼が欠席していたか知ってる?
B:さっぱり分かんないよ。
Beats me.は「分からない、知らない」を表すカジュアルな表現。itやthe questionなどの主語が省略された形ですね。
I seriously have no idea why he said such a mean thing.
彼がなんでそんなひどいことを言ったか、マジでわけ分からん。
I don’t see the point of taking the final exam. You haven’t done anything all semester so there is no way you will pass.
期末試験を受ける意味が分からない。君は今学期ずっと何もやってこなかったんだから、通る見込みはないでしょ。
It’s totally beyond me why you would cheat on the final exam.
期末試験でカンニングをするなんてマジで意味が分からん。
make senseは訳しにくい?
最後に、make senseについて話したいと思います。
このフレーズは日本語に訳しにくくて、バイリンガルの人が、「それはメイクセンスだね!」「それって全然メイクセンスしないよね!」などと、そのままカタカナで使っているのをよく見ます。
ちょっと脱線しますが、アメリカ在住の私の友人もバイリンガルで、この「カタカナ使い」をよくしている一人。日本語で話している最中に、ぴったり当てはまる日本語の単語が見つからない場合、こんなふうに話していてマジウケるんです。
今から学校へ行って、息子をピックアップするわ(お迎えに行くわ)。
I’m going to pick up my son at his school.
それ、全然プラクティカルじゃない(現実的じゃない)!
That is not practical at all!
コネクションが悪い(電波が悪い、ネットの繋がりが良くない)。
The reception/connection is bad.
私をジャッジしないで(決め付けないで)!
Don’t judge me.
バイリンガル同士のコミュニティーであればカタカナ使いでも通じるでしょうが、英語があまり得意でない日本人とは、コミュニケーションが取れなくなることもあります。バイリンガルの人は、「何が日本語における正しいカタカナ」なのか、よく分かっていないからです。
ちなみに、長年日本にいる私は、「SNS」が英語だとずっと思い込んでいました。でもネイティブにSNSは通じないので、social mediaと正しく言わないといけません。なるほど~、勉強になりますな。
肯定なら「納得、同感」で否定なら「納得いかない、分からない」
では、make senseに戻りましょう。文脈によって意味が変わってきます。肯定の場合は「納得できる」「同感だ」「理解できる」といった意味に、否定の場合は「納得いかない」「意味が分からない」という意味になります。
I get what you are saying. It totally makes sense.
言ってること分かるよ。完璧に納得できる。
The company’s new business strategy is ridiculous. It doesn’t make any sense.
会社の新しい戦略はばかばかしい。マジで納得いかん。
When my daughter had a seizure, she was talking but not making any sense.
娘が発作を起こしたとき、話せてはいたが、何を言っているか分からなかった。
You are totally not making any sense.
あんたの言ってることマジでイミフ。
Why do I have to finish this report by tomorrow when the project deadline is two weeks from now? It doesn’t make any sense!
プロジェクト全体の締め切りは2週間後なのに、なんで明日までにこのレポートを終わらせないといけんのよ?わけわかめ!
It doesn’t make any sense to buy a new car when you are 4,000,000 yen in debt.
借金が400万円あるのに新車を買うと?意味が分からんばい。
まとめ
言葉は生きているものだからこそ面白いと思いませんか?80年代に「わけわかめ」が誕生して、しばらく消えて、復活して、そして今はネットの世界で辛うじて生き残っています。
その間、似たような他の言葉が現れたり、流行したりしました。「わけわかめ」「わけ分からん」「イミフ」などは主に若者言葉かもしれませんが、何歳になっても知っておいた方がいいと思います。だって、楽しいもん!
1980年代、私はアメリカの小学生でした。そんな私が急に「わけかわめ!」なんて言い出したら、きっと周りの人にウケるよね。日本生まれのわが子はまあ、ワンチャン、「イミフ!」と言うかもしれないけど。
元気に生き残って使われている言葉も、死語も、復活した言葉も、全て楽しんでいきましょう!
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