PTA、町内会、災害、ホームレス・・・日本とアメリカのボランティア意識の違い【日米文化の裏側】

連載「アンちゃんと旅する日米文化の裏側」第2回。アメリカ出身のアン・クレシーニさんが、アメリカの知られざる“常識”や、2つの国のさまざまな違いについてお届けします。今回のテーマは「ボランティア」。どんな違いがあるのでしょうか。

PTAの実態は・・・ボランティアじゃなかった!?

日本で子供が生まれて間もなく、私は「子育て」と「ママ友」という世界に放り込まれました。お弁当作り、保育園の遠足、町内会に子供会・・・そして、PTAです。一応、ボランティア活動だと聞いていた記憶があるのですが、どう考えてもボランティアではない!「子供1人につき役員を1回やらないといけない」という暗黙のルールがある、とても不思議な組織でした。

あくまでも個人的な意見だけど、PTAは「ボランティア」より「強制」という感じがしました。さらに、PTAだけにとどまらず、町内会や子供会の役員など、その他のさまざまな組織も「強制ボランティア」みたいな感じでした。

・・・あら?

もしからしたら、英語のvolunteerと日本語の「ボランティア」は同じじゃないのかもしれない。

ある日、そんなふうに考え出したんです。そして考えれば考えるほど、価値観や文化から生まれた「ボランティア活動」に関しての意識が違うことに思い至りました。

というわけで今日は、アメリカと日本の「ボランティア」「ボランティア精神」について書きたいと思います!

きっかけは東日本大震災のボランティア

2011年に東日本大震災が起こった際に、私はボランティアとして友人と一緒に仙台に向かいました。どうしても何かをしたいという気持ちが強く、夫に3人の娘を預けて行きました。当時、娘の年齢は上から6歳、4歳、2歳。

周りの人の反応は今でもよく覚えています。ママ友たちがとにかくびっくりしていました。「ええっ?子供はどうするの?」「旦那さんに見てもらうの?」「行きたいけど私は無理だわ」といった反応が多かったです。

この経験は、文化の違いについて考えるきっかけになりました。私が感じたのは、日本では、自分の住む地域のためのボランティア活動は老若男女の違いなくみんなするけれど、災害時のボランティア活動は、主に若者と高齢者が行っているということ。子育て世代は、絶対に行けないわけではないもののすぐさま行こうとはしません。それが良いか悪いかではなく、そうした違いがあるということです。

これには、国民性や価値観の違いが大きく影響しているのだと思います。ボランティア活動について考えるなら、日本の「内」と「外」というメンタリティーを考えなければいけません。

どういうことかと言うと、私が思う日本の「内」にあたるのは、町内会、故郷や地元、学校、友人、身内などです。ビーチ・クリーン(海岸の清掃)に参加したり、近くの小学校の交通安全ボランティアを務めたりする人はとても多い。その一方で、知らない人、つまり「外」にいる人のためのボランティア活動は、アメリカ人ほど盛んではない気がします。

日本とアメリカ、それぞれの「内」と「外」

アメリカではホームレスの人や経済的に恵まれない人たちへのボランティア活動が盛んです。一度も会ったことがない人、そしてこれからも会わないだろうと分かっている人のためにボランティアをする人が大勢います。私も大学時代、ホームレス支援活動のためにニューヨークに2回行きました。教会が派遣するチームメンバーとして、大学の春休み期間に1週間ほど、食材や毛布を配ったり、話を聞いたりするという活動に従事。私にとってとても貴重な経験でした。

もちろん日本でも現在、ホームレスの人たちのためのシェルターやスープキッチン(炊き出し)は提供されています。ただ、日本に来た当初の話ですが、あまりホームレスへの支援活動がないことに驚いたのを覚えています。家族で何かボランティアをしたかったのですが、なかなか見つかりません。周りの人に聞いたりして情報を必死に集めようとしたものの、ホームレスの支援を行っている団体は一つしか見つけられなかったのです。

では、日本人は冷たいのでしょうか?――そうではなく、いくつかの違いがあるということだと思います。

まず、先ほど書いた「内」と「外」の違い。アメリカ人の「内」は非常に範囲が広いんです。困っている人は「内」です。誰を「内」にするかは、その人自身が決めます。そうしたことから、多くのアメリカ人は自分が産んでいない子供を養子にするし、海外で困っている人たちもよく支援します。

一方、日本の「内」は、町内会や学校、身内などでしたね。知らない人に冷たいわけでは決してないけれど、アメリカ人ほどは意識していない感じがします。災害時にはもちろん、知らない人たちのためのボランティア活動が活発になりますが、すでに述べたように、若者と高齢者の割合が多いです。

日本の「内」に対する考えは根強いので、学校でのボランティア活動(PTA、赤ペン先生、読み聞かせなど)や地域におけるボランティア活動(町内会、子供会、パトロールなど)は非常に活発です。

もちろん、アメリカ人も学校と地域ためのボランティア活動をしています。ただ、ここでも日本人と考え方が違うように思えます。アメリカにおいては、こういうボランティア活動は本当に「ボランティア」。つまり、したい人はしますが、したくない人・できない人はしません。

日本では、学校や自治体は「内」ですから、「みんなのもの」だと考えられますよね。そのため、「みんなのもの」に関わる運営は「みんなの責任」になるわけです。順番にその組織や団体の役員を務めなければなりません。

また、日本の福祉制度の影響もあるでしょう。日本では、ホームレスや経済的に困窮している家庭などへの支援は、政府の責任だと考えられています。アメリカにも生活保護の制度はありますが、日本ほど優れていません。アメリカのホームレスの多くは、政府の支援だけでは足りておらず、まだまだ困っているのが現状・・・。そのため、教会や自治体などからの支援も必要なのです。

ホームレスの人たちの他に、アメリカ人は経済的に恵まれていないさまざまな人の支援も行います。例えば、感謝祭やクリスマスが近付くと、町に住んでいる人のための活動も活発になります。教会や自治体などいろいろな団体・組織が、七面鳥、マッシュポテト、パンプキンパイなどを、それら必要としている家庭のために支給したり、子どもたちにクリスマスプレゼントを配りに行ったりします。

日本では知られていないpay it forwardの考え方とは?

ボランティアからちょっと話がずれますが、2つの国の国民性の違いについてさらに見ていきましょう。

日本では、「お返し」の文化がありますよね?誰かに何かをもらったり優しくしてもらったら、必ずその優しさを自分も「返す」。感謝の気持ちもあるし、義理もあると思います。焦点を当てたいのは、優しさをもらった人に「必ず返す」という点です。これこそ、日本の文化の基本。対して、アメリカには「お返し」の文化はありません。プレゼントをもらったら、お礼を言ったりカードを書いたりはしますが、感謝の気持ちを物で示すことはあまりないのです。

「返す」を表す英語のフレーズに、pay backがあります。使い方を見てみましょう。

I can never pay back all your kindness.
あなたの優しさには一生かけてもお返しできない。

I will pay back the money I borrowed tomorrow.
明日、借りてたお金を返すね。

When are you going to pay me back?
いつお金を返すの?

もちろん、アメリカ人も借りたお金やもらった優しさを返します。と同時に、日本であまり知られていない概念があります。それが、pay it forward(ペイ・フォワード)です。

pay it forwardとは、もらった優しさをその人に返すのではなく、新しい人に回す(送る)ということ。例えば、あなたが困っているときに、友人に助けてもらったと想像してください。その後、自分の周りに困っている人がいたら、あなたはその人を助けます。そして、その人がまた別の困っている人を助けます。このようにして、助けられた人が他の人を助けてあげると、「優しさの連鎖」が永遠に続いていきます。優しさをくれた相手に返すと、その人だけで終わりますが、優しさを前に(forward)回す、すなわちpay it forwardをすると、数えきれない人が祝福を受けられることになります。

You don’t need to pay me back. Just pay if forward.
私に返さなくてもいいよ。他の誰かに親切にしてあげて。

I want to pay it forward.
誰かに親切にしたい。

こういった使い方ができますよ。

pay it forwardの概念についてもっと知りたい人は、映画『ペイ・フォワード 可能の王国』(2000年公開、原題:Pay It Forward)を見てね!

アンちゃんも体験!超アメリカ的なrandom act of kindness

もう一つ、アメリカらしい概念と言えるのがrandom act of kindnessです。直訳するなら、「不特定な場所や状況で行う親切な行為」。お返しを全く期待せず、見知らぬ人のために親切なことをする行為がrandom act of kindnessです。

自分の後ろを走っている車の高速料金を払ってあげること。コンビニで後ろに並んでいる人の分のコーヒーを買ってあげること。眠っているホームレスの人のためにパンを買い、隣に置いてあげること。このように、見返りは全く期待せずに、知らない人のために優しくしてあげたり、親切なことをしてあげたりするのがrandom act of kindnessです。

まだアメリカにいた頃、クリスマスの時期に、娘のためにカバンを購入したときのこと。家に戻ってから、そのカバンの中に20ドル札とノートが入っていることに気付きました。ノートに書いてあったのは、From Your Christmas Angel(あなたのクリスマスの天使より)でした。

20ドル札とノートの贈り主は、きっと、ただただ誰かを喜ばせたかっただけなのです。だから匿名で、お返しを期待しないでこんな優しいことをしてくれました。こういうのは、アメリカの文化の素敵な部分だなと思います。

日本の話をすると、数年前、家のポストにお金の入った封筒が投函されていた、というニュースがありました。もし、これがアメリカで起きていたなら多分、喜んでそのままお金をもらう人が多いでしょう。けれど、日本ではrandom act of kindnessの文化がないため怪しまれるだけ。この家の方も不審に思って警察に電話し、お金を受け取りませんでした。日本に根付いているのは「お返し」を大事にする文化なので、「返せない優しさ」をもらったらどうしたらいいか分からない、というわけです。

まとめ

いかがでしたか?アメリカと日本のボランティア精神は全然違いますが、どっちも魅力的だとアンちゃんは思います。「内」として認識される仲間の範囲が広いアメリカは素敵です。そして同じように、自分たちの地域や学校への関心とか絆が深い日本人も素晴らしいと思います。ここから言えるのは、私たち人間は、お互いから見習うといいところがたくさんあるということ。

これまでもたびたび書いてきましたが、異なる言葉や文化はどちらかが「正しい」「正しくない」のではなくて、そこには「違い」しかありません。お互いの文化や価値観を知ることによって、自分たちの文化への理解はもっともっと深まると思う。

私は何よりも、理解のある人間になりたいです。そのためには、自分の母国であるアメリカと、自分の居場所である日本――この両方の文化や価値観について客観的に勉強することが大事だと考えています。皆さんも、私と一緒にこの2つの国の奥深い「違い」を勉強していこう!

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

本文写真:note thanunJoel MunizAndrey K from Unsplash

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upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!

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