言語学者アン・クレシーニさんの新連載「アンちゃんと旅する日米文化の裏側」。アメリカ出身のアンちゃんが、日本で暮らして発見した、「日本人の7割(くらい)が知らない」であろうアメリカの“当たり前”なアレコレについて、毎回テーマを決めて解説します。第1回は「バーベキュー」を取り上げます。「肉と野菜を焼くんだから一緒でしょ」と思いましたか?いいえ、全然違います!
目次
言葉は永遠に進化し続ける
読者の皆さん、ヤッホー!いつもアンちゃんの記事を読んでくれてありがとうございます。
私は「ENGLISH JOURNAL」(以下、EJ)のウェブサイトで6年間記事を書き続けてきました。数え切れないほどのテーマに触れ、本も4冊出しました。いつかネタが尽きるのではとずっと心配してきたけれど、「やっぱり、それはないなあ」と最近思っています。
言葉は生き物。そして、その生きている言葉は文化や価値観に結び付いています。言葉、文化、価値観は時代によって変わっていくから、ネタが尽きるわけがないんです。
私自身も、言葉と同じように変わったり進化したりしてる。6年前と比べて、私の日本語能力はかなり上がったと思います(思いたい!?)。以前の私は「てにをは」に振り回されていたから、めちゃくちゃな文法を直さないといけない編集者さんはかわいそう過ぎたと思う!本当に申し訳ございません!
EJとの長い付き合いを通して気付いた、大事なこともあります。それは、言葉も、その言葉の学習者も、ずっと進化しているということです。ネタは尽きないし、私たちの学びも終わらない。どちらも素晴らしいことだよね。私も日本語の学習者として、一生日本語の勉強ができることに感謝しています。
アメリカと日本の BBQ(バーベキュー)は全然別物!
さて、今回から始まる新たな連載では、アメリカと日本のいろいろな言葉の意味の違い・物事の違い・概念の違いについてお話しすることにしました。
文化や和製英語についての研究をしていると、「英語にも日本語のカタカナにも存在する単語だけど、それぞれの意味が微妙に違う」という現象にはよく遭遇します。例えば、「マンション」は中層・高層の住まい(集合住宅)を表しますが、英語の「mansion」は大豪邸のことを言います。「カミングアウト」は内容にかかわらず隠していたことを告白するという意味で、「coming out」だと主な意味は自分がLGBTであると告白すること、になります。
まずは和製英語での例を2つ挙げてみましたが、普通の外来語の中にもこれと同じような単語はたくさんあるんです。そこで、記念すべき新連載初回にアンちゃんが書きたいのは、日本語の「バーベキュー」と英語の「BBQ(barbecue)」について。「え?どっちも同じで肉や野菜を焼くことでしょ?」と思っている人がたくさんいるかもしれませんが、実は全然違うよ!今日はその面白い違いを解説していきますね。
アメリカ男子はバーベキュー愛がすごい
さて、何よりも先に知っておいてほしいことがあります!
それは、私の母国アメリカのバーベキュー愛は伝説的でさえあるということ。
多くのアメリカ人、特に男性はバーベキューマニアです。彼らはまず、バリ(とても)ハイテクなグリルを買います。今どきのおしゃれなグリルはガス式なので、炭などは一切必要ありません。最近はどんどんスリム化が進んでいて、いいものだとそんなに大きくないんですが、昔はというと、一番いいものはめちゃくちゃでかかった!
私たち一家が日本で最初の一軒家に住んでいたときに、どうしてもアメリカ風のグリルが欲しくなり、近くのコストコで44キロもの重さのグリルを買ったことがあります。私の夫のアメリカ人としてのプライドは半端ないものの、数年たつ頃には「やっぱり日本風のグリルがいい」と気付き、そのでかいやつを捨てるのがめっちゃ大変でした(笑)。
ここで一つ目の違いについて話したいと思います。日本で言う「バーベキューコンロ」は英語ではgrillと言います。日本語でも「ガス式バーベキューグリル」といった呼び方がありますが、一般的なものの多くは「バーベキューコンロ」と呼ばれていますよね。grillは名詞・動詞のどちらでも使われます。BBQ(barbeque)は主に名詞として使われますが、動詞になるときもあります。
grillやBBQ(barbeque)を使った例文
それでは例文を見ていきましょう。
My wife bought me a new grill for Father’s Day.
父の日に、妻がバーベキューコンロを買ってくれた。
I want a new gas grill before the Fourth of July.
独立記念日の前に新しいバスバーベキューグリルが欲しいな。
- the Fourth/4th of July:アメリカの独立記念日のこと。
Hey, the weather is really nice today. Let’s grill out.
ねえ、今日は天気がめっちゃいいから外でバーベキューしよう。
We are having a big BBQ on the 4th of July. Would you like to come?
独立記念日にバーベキューをするよ。来ない?
Let’s grill some burgers tonight.
今夜はハンバーガーをグリルで焼こう!
the 4th of Julyや「独立記念日」という言葉が何度か出てきました。アメリカの独立記念日、すなわち7月4日は、バーベキューをする日として一番有名です。とにかくこの日、「全てのアメリカ人がどこかのバーベキューパーティーに行く」と言ってもいい気がします。
ちなみに、アメリカの独立記念日には次の2つの呼び方があります。それがIndependence Dayとthe Fourth/4th of Julyです。
We are having a BBQ on the Fourth of July.
独立記念日にバーベキューをする。Independence Day is a National Holiday.
独立記念日は祝日です。
肉が主役、それがアメリカのバーベキュー
はやりのガス式バーベキューグリルを使えば、日本のバーベキューに欠かせない存在である炭も必要なくなります。炭は英語でcharcoal、ライター用オイルなど火を起こすのに使う液体はlighter fluidと言います。
We are out of charcoal. Could you run to the store and get some?
炭がなくなった。ちょっと買いに行ってくれる?
We have plenty of charcoal, but we are out of lighter fluid.
炭はたくさんありますが、着火液はなくなりました。
アメリカ人は、グリルの種類だけではなく、肉の味付けについてもすごくこだわって考えるんです。コーラ、ビール、ニンニク、バーベキューソース、塩こしょう、ハニーマスタードなどを使って味付けをします。独自のマリネード(マリネ液、漬け汁)を考えることが趣味で、好みの肉をそのマリネードに漬けます。
そうそう!肉の話もしましょう!アメリカのバーベキューの主役は間違いなく、肉。特に、ホットドッグとハンバーガーです。最もオーソドックスなバーベキューでは、ホットドッグとハンバーガーの肉をグリルで焼き、バンズに挟んで食べます。おしゃれなバーベキューなら、ステーキやチキンも焼きますね。アメリカ南部のバーベキューにおいては、リブ肉が登場します。
いろいろ書いたけれど、どんなバーベキューでもグリルで焼くものは「肉」です。そして、やって来るお客さんがサイドディッシュ――サラダ、ポテトサラダ、グリーンビーンズ、ベークドビーンズ、ポテトチップス、アップルパイ、コーンブレッド、手作りクッキーなどを持ってきてくれます。
カタカナがたくさん出てきた!ということで、まずそのサイドディッシュをリストアップしてみます。
サラダ | salad |
ポテトサラダ | potato salad |
グリーンビーンズ | green beans |
ベークドベーンズ | baked beans |
ポテトチップス | potato chips |
アップルパイ | apple pie |
コーンブレッド | cornbread |
手作りクッキー | homemade cookies |
続いて、例文も見ていきましょう。
A: What should I bring to the BBQ?
B: If you could bring a side dish like a salad or dessert, that would be great!A: バーベキューに何を持って行ったらいい?
B: サラダとかデザートなどを持ってきてくれたら助かるわ!
side dishは短くsideと言うこともあります。
A: Is tomorrow’s BBQ a potluck?
B: Yeah, kinda. I’m going to prepare the meat, but everyone is bringing a side.A: 明日のバーベキューは持ち寄りですか?
B: うん、そんな感じ。私は肉を準備するけど、みんなは何かサイドを持ってくるよ。
- potluck:持ち寄り料理の食事会
- kinda=kind of:~のような類のもの
日本のバーベキューは難易度高し
日本のバーベキューで「パンが登場しないこと」は、アメリカとの大きな違いだと思います。ホットドッグもハンバーガーも、ポイントはバンズに挟んで食べることです。
ちょっと脱線しますが、昔、ホットドッグにマヨネーズをかける日本人を初めて見かけたときにはびっくりしました!アメリカ人はハンバーガーにはマヨネーズをかけますが、ホットドッグにかける人は見たことがないなあ・・・(多分、どこかにはいるはずですけど)。でもよく考えたら、ハンバーガーとホットドッグは同じようなものですよね。なんでアメリカ人はホットドッグにマヨネーズをかけないんだろう?かなりおいしいのに。・・・そうです、アンちゃんも今はホットドッグにマヨネーズをかけるのが好きだよ!
そして、アメリカとの違いとして最も大きいのは「焼く具材」です。初めて日本のバーベキューに行ったときは本当に驚きました。「なに、このバリ複雑なバーベキューは!?」って。だって、アメリカのシンプルなバーベキューと違って、日本はメニューのバリエーションがすごい!ほたて、バラ肉、チキン、ピーマン、トウモロコシ、タマネギ、カボチャ、ウインナー、エビ、そして焼きおにぎり。最後には、焼きそばまで!?
準備はとにかく疲れます。ホスト側が全部支払うとなれば、破産する可能性だってなくはない(と思う)!アメリカでバーベキューの主催者が準備するのは主に肉くらいで、金額もそんなに高くなりません。でも、日本では簡単に1万円を超えてしまいます。そのため日本では、ホームパーティーのようなバーベキューをする場合、会費制にする人もいます。
ただ、アメリカ出身の私は、家でのバーベキューを会費制にすることに抵抗があります。サイドディッシュをいろいろ持ってきてもらえるのはありがたいけれど、お金を払ってもらうことがどうしても無理なんです。
日本に来たばかりの頃は、ずっとアメリカ風のバーベキューばかりしていました。日本の友人たちはなかなかアメリカ風の雰囲気を味わう機会がなかったので、みんな喜んでくれていました。でも時間がたてばたつほど、私はどんどん日本風バーベキューを好きになっていきました。アメリカ風もおいしいけれど、たくさんの人が来る場合は、具材のバリエーション豊かな日本風がいいな。ただし・・・私は野菜を切るのが死ぬほど嫌いなので、野菜切り達人は必ず呼びます!
まとめ
日本とアメリカのバーベキューの違い、いかがでしたでしょうか。知らないことも多かったのではないかと思います。
最後に、私がいつも言っていることをここでも改めて言わせてね。
さまざまな国や地域の文化や習慣に関して、「いい」も「悪い」もなくて、あるのは「違い」だけです。日本風バーベーキューにもアメリカ風にも魅力があります。全ての文化、そして多国籍な料理を味わえたら、人生のフレーバーはより豊かになると思います。
私には後悔していることがそんなにありませんが、あの44キロのグリルだけは買わなければよかったとたまに思うなあ・・・。いろいろ試してみて、今はホームセンターで買った4980円のバーベキューコンロを使っています。そして相変わらず、夫が自分で作るマリネードへのプライドは半端ないです。
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upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!