「世界のニホンゴ調査団」の第22回は、中央アジア、タジキスタン共和国在住のライター村中千廣さんが現地からリポート。日本発の「うどん」は、「Udon」としてこの国でも広く認知されているそうです。
目次
「うどん」から「Udon」へ
タジキスタン在住の村中千廣です。このたび紹介させていただくのは、日本はもとより既に日本国外のさまざまな国・地域に上陸し、一定の存在感を放っている「うどん」です。
言わずと知れた日本を代表する麺類ですが、比較的発音が容易であるため、そのまま「Udon」として認知されています。そしてなんと、このタジキスタンでも「Udon」として認知されています!
ロシア語圏の南端タジキスタンでも購入可能
中央アジアの片隅に位置するタジキスタンは、1991年の独立に至るまでソビエト連邦の一画を構成していました。そのため、現在もロシア語が身近なコミュニケーション手段として用いられており、ロシアとは経済的にも密接な関係にあります。
そんなタジキスタンの首都ドゥシャンベにあるスーパーマーケット「Пайкар – Paykar – パイカル」や「Рудаки Плаза – Rudaki Plaza – ルダキ・プラザ」でも、なんと「うどん」の乾麺が販売されています。しかも、ありとあらゆるものがロシア語とタジク語一色で、ほぼ英語表記の商品を見かけない中、表記もしっかりと「Udon」です!
写真は現地のスーパーが常時取り扱っているSen Soyシリーズのうどん乾麺と韓国産のインスタント麺です。商品ラベルを確認するとSen Soyブランドの乾麺は中国湖南省で製造されており、輸入元はモスクワ、あるいはミンスクとなっています。
第3国で製造された「Udon」が日本から遠く離れたタジキスタンに輸出され、販売されているという事実は、日本発祥の「うどん」が海を渡り世界に伝わった様を如実に物語っています。
飲食店のメニューにも「Udon」の文字
首都中心部にあるカフェやレストランを利用すると、時折メニュー表に「Udon」の表記を見かけます。ロシア語メニューの場合「Удон」という表記になりますが、発音は「うどん」とおおむね同じです。
このメニューがあった飲食店では、まさかの「Udon」と「Unagi」という、日本語由来の言葉が2つも登場する料理が存在しました。筆者は実際に指差しで注文してみましたが、ウェイターはしっかりと「うどん」と発音していました。
英語を第1言語とする話者の中には「ユゥードン」のように発音する人が一定数いる一方、ロシア語話者の発語では、「ウドン」という発音がおおむね正確に成されます。これは、つづり通りに発音しない単語が複数存在する英語を母国語とする人が「Udon」の頭文字を「U(ユー)」と発音する傾向がある一方で、ロシア語で「U」に相当する文字は「У(u)」の音になることに起因します。
ロシア語が母国語、あるいは第2言語であるが故に、英語で「Udon」の発音をする際にも、英語のネイティブスピーカーが陥りがちな発音の誤りを自然と回避してしまうという非常に面白い現象です。このような発見は、英語という言語特有の難しさや、英語に限らず外国語に触れることの面白さを再認識させてくれる機会です。
タジク流「Udon」を試食
実際にいくつかの飲食店で「Udon」を試食してみたので、紹介します。
こちらは前述したメニューに載っていた「Beef Udon in Unagi Sauce(牛肉うどんウナギダレあえ)」で、1人前49ソモニ(約649円[※])です。Teriyakiソースよりもやや塩味が強く、食後は大変喉が渇きましたが、コンセプト自体は筆者的にはアリだと思います。
「Chicken Udon Noodles(鶏肉うどん)」というメニューで、1人前45ソモニ(約596円)です。こちらも上記のものと同様に、中華鍋で鶏肉や野菜と一緒に炒めた麺に、しょうゆベースのソースを絡めたタイプの「Udon」でした。
Ваби-Саби(侘寂[わびさび])というお店の「Шаньдунская лапша(山東麺)」という料理で、1人前40ソモニ(約530円)です。当地の「Udon」料理で用いられる麺と酷似していますが、よく見ると、より平たく面積が大きいものでした。
ロシア系日本料理店のメニューなので、日本のうどんを意識して考案されたメニューであると思われますが、ここまで来ると本来の「うどん」の範囲からは逸脱してしまっているようにも思えます。具材はチェリートマト、牛肉、いりピーナッツと、独創性は抜群です。味付けはオイスターソースでした。
筆者が実際に試食した3点に共通しているのは、使用されている麺が日本における細かな麺類の区分になぞらえると「きしめん」に相当するような形状であったという点です。よく見ると、スーパーマーケットで販売されているうどんの乾麺にも「Noodles Wok」と記載がありました。日本風のあっさりとダシの利いたスープに浸されたものではなく、油を引いた中華鍋でさまざまな具材と一緒に炒める様式の「Udon」を想定して展開されている商品のようです。
「ラグマン」は中央アジア版の「うどん」?
中央アジアには「ラグマン」と呼ばれる、うどんとの類似点が極めて多い伝統的な料理が存在します。筆者は実際に中央アジアの地を訪れるまで、この「ラグマン」という料理を知りませんでしたが、それは必ずしも筆者の勉強が不足していたということに起因しないでしょう。その一つの根拠として、興味深い記事を見つけました。
何とも情報量が豊富な一文ですが、世界的には知名度が決して高いとは言えない「ラグマン」を紹介する文言として、なんと「ラーメン」が引き合いに出されています。これは米国の食文化において、「ラーメン」が日常的な食べ物としていかに現地になじんでいるかを表しています。
さらに同記事本文では、ラーメンとラグマンの違いを説明する過程でしっかりと「Udon」との類似点にも言及が成されています。
... typical udon noodles are closer in size to classic lamian.
麺の太さに関しては、(ラグマンと同様に牛やラム肉を煮込む過程からスープが作られる)ラーメンの麺よりも通常のうどんの麺の方がラグマンのそれに近い。
米国ではラグマンという料理の認知度が高くはないことを前提とした記事ですが、「Udon」に関しては、さも米国の市民生活では一般的な存在であるかのように用いられています。
こちらは乌鲁木齐餐厅(ウルムチ料理店)が出している「Ганбиан Сомен」というラグマンの一種で、1人前35ソモニ(約464円)です。
面白いことに、筆者が当地で試食したあらゆる「Udon」よりも、もちもちとしており原始的な「うどん」そのものであると感じました。太くもちもちしている点においてパスタとは異なり、弾力性に乏しい点においては、本場の讃岐うどんなどとは全くの別物でした。
ラグマンには、ラーメンやうどんのようにこだわりのスープに浸されて提供されるものがある一方で、ソースに絡められた具材を麺に後がけするタイプや、全て一緒に炒められた上記ウルムチ料理店のタイプが存在します。
終わりに
地域に根差した国民食ラグマンがありながらも、うどんが「Udon」として受け入れられ、都市部の飲食店で一料理としての地位を確立するに至っている点は非常に興味深いです。
もしかすると、きし麵タイプのうどんをWok(中華鍋)で炒めた中華・東南アジア風料理と焼きラグマンとの間に類似点があるからこそ、タジキスタンでも「Udon」が副次的に受け入れられ、浸透し始めているのかもしれません。
連載「世界のニホンゴ調査団」
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
- スマホ相手に恥ずかしさゼロの英会話
- 制限時間は6秒!瞬間発話力が鍛えられる!
- 英会話教室の【20倍】の発話量で学べる!
SERIES連載
思わず笑っちゃうような英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けする連載。講師は藤代あゆみさん。国際唎酒師として日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画の海外への翻訳出版に携わったり。シンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんと学びましょう!
現役の高校英語教師で、書籍『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』の著者、大竹保幹さんが、「英文法が苦手!」という方を、英語が楽しくてしょうがなくなるパラダイスに案内します。
英語学習を1000時間も続けるのは大変!でも工夫をすれば無理だと思っていたことも楽しみに変わります。そのための秘訣を、「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ、松岡昇さんに教えていただきます。