結婚式に行ってきた!日本とはずいぶん違う「イギリスの結婚式」【LONDON STORIES】

ロンドンに住む宮田華子さんがイギリスの結婚式に実際に参列。その魅力と日本との文化的な違いを独自の視点で語ります。ゲストのマナーや会話術、さらにはベジタリアンウェディングとは?イギリスのウェディングの進行や特色、そしてサプライズな体験を通して、両国の結婚文化の多彩な側面に触れてみましょう。

最高の結婚式日和

今年のロンドンは冷夏だったが、8月末~9月頭にかけ、連日30度超えの日が1週間続いた。人々は「夏が戻ってきた!」と大喜び。暑い週末はたった2回だったが、庭に出ると右も左もお向いも、いずれの隣家も庭でバーベキューをしていた。肉や野菜を焼く良い香りが垣根を越えて我が家にも流れ、「夏の匂い」を私もご相伴に預かった。

数年前に参加した友人宅でのバーベキューパーティー。

イギリスの一般住宅にはクーラーがないので寝苦しいのは辛かったものの、寒くて雨の多い7月8月の後だっただけに、私も久々の晴天はうれしかった。

30度超えの週末。街中にもノースリーブ姿で太陽を浴びる人々が集った。

・・・と長々天気話を書いてしまったが、実はこの夏、私はずっと天気の心配をし続けていた。理由は8月半ばに友人カップルの結婚式があり、二人が「当日の天気」を本当に心配していたからだ。

「皆おしゃれして来てくれるのに、雨だと移動が大変になってしまう」
「晴れてほしいけれど、パーティー(披露宴)会場にはクーラーがないから、暑過ぎるのも困る」
「晴れているけれど爽やかな『イングリッシュサマーの日』であるよう、ハナコも一緒に祈って!」

こんなメッセージのやりとりを週に数回レベルでしながら過ごした夏だった。二人の思いが天に届いたのか、挙式当日は晴れているのに気温は25度程度の「ほどよい涼しさ」。最高の結婚式日和となった。

式を終えた二人。幸せそのものの笑顔。

イギリスの結婚式は日本の結婚式と異なる点が多い。元々の習慣が異なるだけでなく、この10年ほど、結婚式のスタイルはどんどん変化している。結婚式を行わない人も増えているので、招待される機会はめったにないはずなのだが、過去2年で2度も結婚式に招かれた。共に「イギリスの結婚式の“今”」と「変化」を直に見ることができた経験だった。

日本とはここが違う!イギリスの結婚式

1994年公開の映画『フォー・ウェディング』(↓英語版予告編)は、4つの結婚式と1つのお葬式を描いたイギリス映画だ。

この作品はヒュー・グラントを世界レベルのスターにのし上げたことでも有名であり、大好きな映画だ。そして見るたびに「この映画はイギリスの結婚式基本形を描いている」と毎回思う。

イギリスと日本の結婚式の相違点のうち、代表例を3つ紹介する。

1日がかりの長丁場

日本でも挙式から2次会まで参加すると長丁場だが、「披露宴」のみであれば2、3時間で終了するはずだ。しかしイギリスの一般的な結婚式では、ほとんどの場合1日がかりの長丁場だ。

招待客はまず挙式に参列する。挙式はお昼前後の時間から始まることが多いが、地方自治体の役所に必ずある「登録所(Register office)」のホール、または結婚登録のライセンスを持つ教会などの宗教施設で行うのが一般的だ。

8月に列席した挙式はロンドン・ワンズワース地区の登録所で行われた。

教会での挙式は聖職者のメッセージや賛美もあるので1時間程度かかるが、登録所の場合は法律にのっとって宣誓と署名をするだけなので、30分程度で終了する。

その後、全員でパーティー会場に移動する。

会場が遠い場合、移動手段として人気なのが古いモデルのロンドンバス(ダブルデッカーバス)。招待する側がレンタルし、全員一気に移動する。

移動後に少し休憩時間があり、飲み物などが提供される。その後食事を伴う「バンケット(Banquet、日本の披露宴に当たるもの)」が行われる。

ネームプレートが置かれた席に着席し、乾杯の後食事が始まる点は日英変わりない。

バンケットは2時間程度だが、ここからが長い。この段階ですでに夕方になっているが、このタイミングでパーティーは「無礼講」にチェンジする。お酒が果てしなく振る舞われ、DJやバンドが入り音楽のボリュームが上がる。大おしゃべり大会兼ダンスパーティーとなり、宴は深夜12時ごろ(またはもっと遅く)まで続く。皆がべろんべろんに酔い、話し&踊り疲れた頃にやっと「お開き」となるのだ。ただし「最後までいなくてはならない」というルールはない。疲れた人は自由にパーティーを抜けてOKなので、無理をする必要はない。

会場までの交通費&宿泊費

日本では遠方からの招待客に対し、招待する側が交通費&宿泊費を払ってくれる。ホテルや公共交通機関のチケットのアレンジも招待する側がしてくれることも多いだろう。

イギリスの場合、近場・遠方に関わらず会場までは招待客が自費で行くものだ。日帰りできない場合でも、宿泊は招待される側が自分でアレンジし、費用も自腹で払うのが習わしだ。

イタリアやフランスなど、国外で結婚式を行う場合もあるが、たとえ海外ウェディングであっても、旅費は招待される側が自費負担する。招待する側とされる側が全員同じホテルに泊る場合、招待する側がまとめて予約のアレンジはしてくれるが、宿泊費は招待される側が自分で払う。

写真はイタリアのベニス。「今週末は、友人の結婚式のためイタリアに行ってくる」のような話をよく聞く。近隣欧州国で結婚式を行うイギリス人は多い。

この習慣を日本在住の日本人にすると、とても驚かれる。私も最初は驚いたのだが、「招待されたからには参列しなくては」という義理・義務は存在しないので、「ちょっと負担が大きい」と思えば、皆案外あっさり断っていることを知り納得した。遠方の場合、招待状を送る前に「参列可能かどうか?」の打診があるものだし、「『お金をかけてでも祝いたい』と思う人だけが来てくれればそれで良し」と招待する側も思っている。招待される側は「ホリデー気分で参加する」くらいのノリなので、行くも・行かざるも気楽なのだ。

これまで私も2度、イギリス国外(ドイツとオランダ)での結婚式に行き、両方とも交通費&宿泊費を自分で負担して参列した。しかし一昨年に招待されたスコットランドでの結婚式は少し違っていた。グラスゴーから電車で3時間の場所にある、中世の古城(!)で行われたのだが、「とにかく、来てくれさえすれば宿泊も、滞在中の食事も全部こちらで用意するので、お願いだからなんとか来て!」と言われたのだ。

スコットランドの海辺の村にある小さな古城を2泊3日借り切って行われた結婚式。
挙式はお城のダイニングルームで行われた。

まだコロナ禍が完全に終わっていない時期に、ロンドンからフライトでグラスゴーに移動し、そこから1日に2本しかない電車で3時間移動の旅はなかなか厳しかった。しかし本当に行って良かったと思う素晴らしい式だった。参列者は新郎新婦の子どもたち3人と友人8人だけ。式の前日に全員が古城(兼ホテル)に前乗りし、2泊3日、13人で密に過ごした。最近はこうした「少人数での結婚式」も増えており、「一般的な結婚式」のイメージとは異なるユニークなスタイルを選ぶ人も多い。「宿泊費を招待する側が全額負担する」ケースは現在もあまりないが、小規模結婚式の場合は「ごくまれにある」と聞いている。

ご祝儀・プレゼント

イギリスには「ご祝儀(お金)」の文化はないので、お金を持参することはない。しかし昔から結婚する二人が作成した「ウェディングギフト・リスト(欲しいものリスト)」の中から、招待客がプレゼントするものを選んだり、「この品の一部のお金を負担します」と申し出たりするシステムは存在する。前記した『フォー・ウェディング』を始め、映画やドラマにもこういったシーンがよく登場する。

以前は「ウェディングギフト・リスト」が招待状と共に郵送され、ギフトを取りまとめるショップに招待客が足を運ぶなどのプロセスがあったそうだが、近年リストはオンライン上にあるのがスタンダードだ。結婚する二人がウェディングギフト業者のサイト内にアカウントを作り、自由にリストを作成。そのリンクを送られた招待客が二人にあげたいギフトを選び、カップルの元には(下記動画のように)式が終わった後、業者からまとめてギフトが届くしくみだ。

このギフト文化そのものはまだイギリスに残っているものの、私自身の経験では「ギフトの類は一切なしでお願いね」と言われた結婚式の方が多かったので、縮小傾向にあるように感じている。代わりに、「新婚旅行への寄付」を募るカップルが増えている。

招待状に「参列してくださるのが最大のプレゼントです」と前置きした上で、「でももし、あなたが『どうしても何かギフトを』と思ってくださる場合、新婚旅行資金に貢献してくださったらうれしいです」といった文言が書かれており、送金システムのQRコードが印刷されている。デジタル時代らしい方法であり、金額も「一般的に幾らくらい」という常識も存在しないので、この方法がトレンドなのはうなずける。

初めての「ベジタリアン・ウェディング」

話を8月半ばに式を挙げた友人カップルに戻すが、彼らの結婚式は、私にとって初の「ベジタリアン・ウェディング」だったことも新しい経験だった。

披露宴で振る舞われる食事については、どの結婚式でも配慮がある。「ベジタリアン食」「ヴィーガン食」を希望するかどうか、別途「食べられないもの」「アレルギーがあるもの」について毎回問われる。先にメニューが送られてきて、前菜、メイン、デザートを自分で選択して返信したこともあった。

今回も「食べられないもの」「アレルギーがあるもの」への問いかけは招待状に書かれていたが、新郎新婦がベジタリアンであるため、「披露宴での食事はベジタリアンです」と明記されていた。

一口に「ベジタリアン」と言ってもさまざまだが、今回の新郎新婦の場合、乳製品と卵は普段から食している。前菜は野菜や果物を使用した色とりどりのカナッペ、メインはスタッフがガーデンで炭火焼きする野菜やチーズを使った料理、そして各種サラダを選ぶカジュアルなビュッフェスタイル。気取らない新郎新婦らしいメニューであり、爽やかな夏の日にぴったりの野菜がもりだくさんのメニューだった。

Z世代を中心にベジタリアン・ヴィーガン人口は増加している。バンケットルームのスタッフに聞いたところ、パーティーにおけるベジタリアン・ヴィーガン食の需要は高まる一方とのこと。今後こういったベジタリアン&ヴィーガン・ウェディングも当たり前になっていくのだろう。

ビュッフェスタイルの料理を楽しむ式の参列者たち。ガーデンで楽しむ「炭火焼き」も、新郎新婦が天気を心配していた理由の一つだった。
ポテト率の高いメインディッシュ。パンの間にはハッシュドポテトで作った「ベジタリアンハンバーグ」が挟まれている。
ウェディングケーキ代わりの、ヴィーガン仕様のカップケーキタワー。紫色のクリームはサツマイモで作ったもの。コクがアリ大変美味だった。
夜が更けて「小腹がすいた」ときに登場した「チーズ・タワー」は、新婦の同僚からのプレゼント。2種類のチーズを詰んで「ウェディングケーキ風」。

難易度高し、パーティーにおける会話術

今回参列した結婚式は約40人が招待され、そのうち30人以上が新郎新婦の親族・・・という構成だった。友人枠は10人足らず。私と夫以外は全員イギリス人で、そんな式に呼んでもらったことを光栄に思いつつも、参列するにあたり少しだけ不安もあった。それは私も夫も、大人数が集まる場が大の苦手だからだ。

今回の結婚式の場合、知り合いは新郎新婦だけ、招待客はすべて初対面なことは分かっていた。「ガイジン2人、完全アウェイで夜中までのパーティー、持つだろうか?」と心配だったのだ。日本の場合、披露宴が始まれば、両隣が知らない人であっても壇上を見つめつつおいしい食事を味わい、その場の雰囲気を楽しめばよい。しかしイギリスの結婚式は、スピーチが終わればあとはフリートークが基本だ。そして食事が終わってから夜中まで、ダンスはするものの基本は延々に続く「おしゃべり&社交タイム」である。

不安な私たちだったが、実際には新郎新婦の親族や同じテーブルの人たちが気さくに声をかけてくれた。私が着ていった着物について質問してくれたり写真を撮影したり、楽しく過ごすことができた。

パーティーにおける社交&会話術は20年イギリスにいてもまだまだ課題だ。少人数であれば打ち解けるのも早いが、大人数の中に入った場合、見知らぬ人と何か会話のきっかけを作り、話を続ける技術が必要だ。語学力の問題もあるにはあるが、社交術に長けている人は、ブロークンイングリッシュでもひるまず輪の中に入っていけるものだ。こういった場に来るたびに、毎回「まだまだ」の自分を痛感する。この辺、イギリス人はとても慣れているし、上手だなと思う。ほんの些細な共通点から話をグンと引っ張り、次の誰かが輪に入ると、さりげなく紹介する術も心得ている。今回も話しかけてくれた人たちの心遣いと会話術から、多くを学ぶこととなった。

さて、こうして無事に立ち会うことができた、大切な友人の大切な1日。私にとってもこの夏1番のイベントであり、忘れられない日になった。

現在のところ、またイギリスで結婚式に招待される予定はないのだが、「もしかしてそう遠くない日にまた招待されるかも」とひそかに期待はしている。仲良くしているゲイカップル(T君とG君)がいるのだが、何となくそんな日が来るように感じているからだ。

イギリスでは2013年に同性婚法が成立、2014年12月に施行されているが、結婚とほぼ同じ権利を持つシビル・パートナーシップ法も2005年に施行済みだ。私はまだ参列したことはないのだが、同性カップルの結婚式はもはや全く珍しくなく、友人知人の多くが1度は参列した経験がある。

いつの日かT君とG君の幸せな笑顔が見られる日を心待ちにしつつ、その日に備えてもう少し会話術と社交術を身に付けたい。そんなことも思った、今回の結婚式参列だった。

宮田華子
文・写真:宮田華子(みやた はなこ)

ライター/エッセイスト、iU情報経営イノベーション専門職大学・客員教授。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

トップ写真:Beatriz Pérez Moya from Unsplash
本文6番目のバンケットの写真:Photos by Lanty from Unsplash
本文7番目のベニスの風景写真:Rebe Adelaida from Unsplash
本文14番目の椅子の写真:Jeremy Wong Weddings from Unsplash

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