「甘過ぎなくておいしい」は禁句?イギリスのスイーツ事情とは【LONDON STORIES】

イギリスを旅行するならスイーツを食べる機会は多いはず。ロンドンに20年以上暮らす宮田華子さんが 「甘くて」「おいしい」イギリススイーツの世界を紹介します。

「甘過ぎない」は、褒め言葉にならない

ロンドンに暮らし始めたばかりの日本人」と会う機会が時々ある。駐在員や学生、ワーキングホリデービザを取得してやってきた人などさまざまだが、多くの場合は知り合いからの紹介だ。「〇〇さんがロンドンに暮らし始めたけれど、いろいろ困っているようなので一度会ってみて」と言われ、どこかで会う・・・というパターンだ。

初めて会うときはカフェで待ち合わせすることが多い。お茶と共にケーキなどなんらかの甘いものを注文して話を始めるのだが、一口食べて、「わ~、甘過ぎる!」の言葉を何度聞いたことだろう。ごくまれに「ここのケーキは甘過ぎなくておいしいですね」という人もいるが、いずれにしても「甘くておいしい」と言う人はほぼいない。

日本のスイーツは控えめな甘さと繊細な見た目が素晴らしい。私も日本のスイーツは大好きだ。しかし、所変われば感覚も変わるし、食文化も、好まれる味付けも変わる。「甘過ぎなくておいしい」は日本では褒め言葉だが、イギリスでは禁句といってもよいくらいありえない表現だ。褒め言葉どころか「けなしている」に近い意味にとられてしまうこともあるので注意が必要だ。

焼き菓子作りの達人でも気になる日本人からの評価

数年前のことだが、こんなことがあった。

当時、私は近所の教会でボランティアをしていた。教会では、礼拝以外にもコンサートやバザーなどさまざまな催しが行われるが、そんなとき会場の一角に、休息用のリフレッシュメント(食べ物や飲み物)が用意される。食べ物はサンドイッチやソーセージロールの「セイボリー(塩辛い系のスナック)」に加え、ケーキやスコーン、マフィンなどのお菓子系もずらりと並ぶ。

リフレッシュメントコーナーには、こんな風にテーブルに食べ物と飲み物が並ぶ

ボランティア仲間だったキャサリンの趣味はベイキング(焼き菓子作り)。日本でもNHKで放送中のお菓子作りコンテスト「ブリティッシュ・ベイクオフ」に出演するのが夢・・・と語るほどのベイカーだ。毎回張り切って数種類のケーキを用意してくれる。

コンサートを数日前に控えたある日、キャサリンから電話がかかってきた。「ちょっと味見してほしいのだけど・・・今からハナコの家に行ってもいいかしら?」もちろん味見は大歓迎だが、「あなたのケーキはいつもおいしいのに、なぜ味見が必要なの?」と聞いてみると、「それは行ってから話す」とのこと。

30分後、キャサリンは小さめに作ったケーキ2つを携えてやってきた。ヴィクトリア・スポンジケーキとフルーツタルトだ。どちらも美しく、そしておいしそう。しかしテーブルに並べた彼女は「この味で良いかどうか、日本人のあなたに判断してほしいの」と心配そうに言ったのだった。

イチゴジャムと生クリームを挟んだイギリスの定番「ヴィクトリア・スポンジケーキ」

当時私は日本人(特に企業派遣の駐在員)が割と多く住んでいる地区に住んでおり、その教会でのイベントには日本人もたくさん訪れる。毎回張り切って手作りした焼き菓子を提供している彼女だったが、ある時日本人に「このケーキは甘くない」と言われたという。

「甘くないって言われて・・・びっくりしたしショックだった。でも不思議なことに、その人(男性)、すっごくニコニコしながら言うの。嫌味を言っているようには見えなかったけど、でも『甘くない』ってはっきり言っていたから、味のしないおいしくないケーキだったのよね。でもちゃんと砂糖も入っているし甘いはずだし、特に失敗したとは思わなかったのに・・・」

多分、その日本人男性にとって、キャサリンのケーキは好みの味だったのだろう。私の味覚では彼女のケーキは普通に甘いのだが、その日本人男性は彼女のケーキを褒める言葉を探し「甘過ぎない味がおいしい」と言いたかったのだと推察する。しかし甘くなければスイーツとは言えないし、しっかりした甘味はお菓子の重要部分と考えるイギリス人にとって「甘くなくておいしい」は褒め言葉に聞こえない。

彼女に日本では甘過ぎないスイーツが好まれることを説明した上で、「彼はきっとあなたのケーキを『おいしい』って言いたかったのよ」と言うと、「じゃ、この味でいいのね?」と何回も念押し、「ああよかった」とほっとしたようだった。

かく言う私も、来英当初はイギリスのスイーツを「かなり甘い」と思って食べていた。日本にいた頃はどちらかと言えば辛党だったし、ケーキより煎餅の方が好きだった。しかしイギリスの食文化に慣れていくうちに甘さに慣れていっただけでなく、甘いことに必然性があることも理解した。

大好きなカフェのジンジャーハニーケーキ

イギリスのスイーツが、がつんと甘い理由

日本語の「スイーツ」と「デザート」はほぼ同義として使われるが、英語ではニュアンスが異なる。「スイーツ」は甘いお菓子全般を指す言葉ではあるが、一般的にチョコレートバーやキャンディーなど、手軽に食べるものを指す印象だ。一方「デザート」は食事の後に食べる甘味を指すのだが、この辺の線引きは曖昧だ。

スイーツが甘いのは1つで満足感を与えられるようにできているからなのだと、暮らしているうちに分かってきた。例えばイギリス人はできるだけ残業をしたくないので、出勤時のランチに時間をかけない。デスクでポテトチップの小袋1つとチョコレートバー1つでおしまい、なんてこともザラ。そんなとき、「甘さ控えめ」「健康志向」のチョコレートバーでは意味がない。舌もお腹にもがつんと響く、しっかり甘いチョコレートでないと満足できないのだ。

バッグにチョコレートバーを忍ばせているイギリス人は多い

同じ流れで焼き菓子やケーキ類が甘いことも大切。カフェで食べるケーキは食事の役割を果たすこともあり、アフタヌーンティーおよびハイティー(夕方のお茶の時間)は、そもそも食事の時間であって、おやつの時間ではない。満腹感も重要視される。「甘いケーキをおやつに食べたら夕食が入らないのでは?」という心配も無用。「おなかが空かなければ夕食を食べなければいい」とイギリス人だったら思うだろう・・・と書きつつも、いやいやケーキを食べたくらいで、「夕食が入らない」なんてしおらしいことを言うイギリス人が、そもそもいるとは思えない(笑)。

食後のデザートもとっぷりと甘いが、これも必須だ。日本から観光に来た人とディナーに行くと、メインディッシュの段階で「一皿が大き過ぎる」とつらそうだが、その後に爆弾級のデザートが出てくると苦悩の表情を見せるものだ。同じ日本人の私がぺろりとメインを平らげ、デザートもスイスイ口に運ぶと「信じられない・・・」と驚かれる。郷に入っては郷に従え。和食ももちろん大好きだが、現在の私はイギリスサイズのメインディッシュも、その後のデザートも「多過ぎる」「甘過ぎる」とまったく思わない。

イギリス料理の「シメ(締め)」は料理と同じぐらい重いデザート

「チョコレート・モルト・ケーキ、アイスクリーム添え」。鹿肉ローストを食べた後のシメにふさわしい、ヘビーな一品

日本料理では食後に「水菓子(果物)」が出てくることが多い。たっぷり食べた後は「さっぱりと」というのは理にかなっているとは思う。しかし、一般的なイギリス料理の「シメ(締め)」は、「プディング」と呼ばれる焼き菓子ベースの甘くて重いケーキが主流だ。どっしりとしたローストや煮込みなどの肉料理を食べた後のシメは、料理と同じぐらい重いデザートでないと「シメにならない」という感覚も今では、「自分のもの」として理解できるようになった。胃のふに落ちたごちそうを、同じくらいヘビーな甘味で封じ込めることで、「ディナー完了!」の満足感が押し寄せてくる。口とお腹が甘味で満たされる中、これまた濃いコーヒーを最後の最後に流しこむとき、サウナの「ととのう」ではないけれど、「ミッションコンプリート感」が体中を突き抜ける。大変幸せな瞬間だ。

夏でも、さっぱり系より、こってり濃厚で甘いアイスクリームが好まれる

モダンブリティッシュのレストランで食べた「アプリコット・ザバイオーネ、アイスクリームとハニカム添え」

思えば「甘いものが苦手」というイギリス人に会ったことがない。ついでに書いてしまうが、「お酒を飲む人は甘いものを食べない」という嗜好も、イギリス的にはあり得ない。どんな変遷があってイギリスが「スイーツ大好き王国」になったのか、本当のところは分からないが、経験上、気候に大きく影響しているのでは?と思っている。

寒くて暗くて厳しい冬が長く続くイギリスにおいて、甘味は人々を支える心のよりどころだったのかもしれない。寒空の下、屋台で売られるココアやムルドワイン(ホットワイン)は体中にキーンとしみわたるほど甘いが、その感覚はどこか心地よい。この原稿を書いている6月中旬、やっと初夏を迎えているロンドンだが、夏に冷たくて甘いスイーツが人気なのは世界共通だ。イギリスの夏のスイーツの定番はアイスクリーム。日本とは暑さが異なることもあり、日本ほどさっぱり感は求められない。現在、台湾と韓国のスイーツが人気のロンドンでは、かき氷の認知度も高まってはいるものの、通常はかき氷やシャーベットよりこってり濃厚でとっぷり甘いアイスクリームが好まれる。

しびれるほど甘い「バノフィーパイ」は、癖になるおいしさ

20年もの間、寒い冬と涼しく短い夏に鍛えられ、自称「そんなに甘党ではない」はずの私もいっぱしの甘党に成長した。最近は甘さ控えめのケーキを食べると「パンチに欠ける」と辛口に批判をしたり、褒め言葉として「甘くておいしい」と言っている自分に気付く。もちろん甘さのバランスは大切だが、甘さはおいしさの重要な要素だと、舌が認識しているのだ。

さて、冒頭に書いた「日本から来たばかりの方々」の後日談を紹介したい。永住組でない場合、任期やビザ切れとなって2、3年程度でお別れとなる。送別会と称して食事をすることが多いが、滞在を終える頃には皆「イギリスサイズの胃袋と味覚」に仕上がっているものだ。つい先日も駐在員だったAさんとお別れしたばかり。来英当初イギリスの食に苦労し、必死な様相で「アジア食材はどこで買えますか?」と尋ねてきたことや、カフェで注文したチーズケーキを食べ切れなかったことを思い出す。そんな彼女との「最後の晩さん」は、彼女がずっと行きたかったレストランでのディナーだった。前菜とメイン(肉料理)を難なく平らげた彼女が選んだ「シメのデザート」はイギリススイーツの中でももっともヘビーな一品であろう「スティッキー・トフィー・プディング」。

しっとりした、スポンジにバターと砂糖で作られた温かいトフィーソースがかかっているケーキで、上にバニラアイスクリームが乗っていることが多い。甘い、温かい、冷たいが口の中で溶け合うのが魅力だ、テーブルに置かれると、Aさんはうやうやしいまでにゆっくりと大きなスプーンをプディングに「入刀」し、そして大きなひとすくいを頬張った。そしてうっとりした表情で「この甘さがたまらない。甘くておいしい」とほほ笑んだ。

イギリスを旅行で訪れた場合、アフタヌーンティーを含めスイーツを食べる機会は多いはずだ。最初は「甘過ぎる!」と思っても、しばらくの間は辛抱を。徐々に痺れるほどの甘さの先にある「甘美な幸福感」を体全体で感じるようになるからだ。そうなればこちらのもの。「甘くて」「おいしい」イギリススイーツの世界を心ゆくまで堪能あれ! 

宮田華子
文・写真:宮田華子(みやた はなこ)

ライター/エッセイスト、iU情報経営イノベーション専門職大学・客員教授。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

連載「LONDON STORIES」

宮田華子さんによる本連載のその他のコラムを、ぜひこちらからご覧ください。

トップ写真: Brooke Lark from Unsplash
本文1つ目のカフェの写真:Toa Heftiba from Unsplash
本文2つ目のビュッフェの写真:Angelina Yan from Unsplash
本文3つ目のヴィクトリア・スポンジケーキの写真:balesphotography from Unsplash
本文5つ目のチョコレートバーの写真:Denny Müller from Unsplash
本文8つ目のスティッキー・トフィー・プディングの写真:Edward Howell from Unsplash

SERIES連載

2023 12
NEW BOOK
おすすめ新刊
AI時代を生き抜く! 圧倒的に伝わる英文を書く技術
詳しく見る