スコットランド首相に有色人種が初当選。37歳のハムザ・ユーサフ氏に注目【世界のバズワード】

3月29日、ハムザ・ユーサフ氏がスコットランド第6代首相に就任し、イギリスのSNSを賑わしました。一体彼のどんなところが支持され、注目を浴びているのでしょうか?イギリス国民の反応も合わせて紹介します。

新スコットランド首相が就任

去る3月27日、イギリスをはじめとする英語圏ではハッシュタグ#HumzaYousafがバズった。それもそのはず、英スコットランドで初となるイスラム系で有色人種のハムザ・ユーサフ氏が、37歳の若さで首相に選出されたのだ。

スコットランドの首相、「ファースト・ミニスター(First Minister)」にユーサフ氏が選出されるに至った背景を簡単に述べる。2月15日、8年間スコットランドのファースト・ミニスターを務めたニコラ・スタージョン氏が突然、辞任の意向を表明した。イギリスからの独立の是非を問う2014年の住民投票が僅差で否決された後に、スタージョン氏はスコットランドの首相に就任。スコットランドの独立派をぐいぐいとまとめ上げてきた彼女の突然の辞任表明はトップニュースで報道され、後任が注目されていた。

3月27日、スタージョン氏の後任を選ぶ党員投票が行われ、彼女が掲げてきたイギリスからの「独立」路線を継承するハムザ・ユーサフ氏が選出されたのだ。有色人種でイスラム教徒という点も注目され、ツイッターでは#HumzaYousaf#Humza#Scotlandのツイートが相次ぎ、#HumzaYousafは6万5千以上、#Scotlandは11万2千以上ツイートされた。

まずはスコットランドで初となるイスラム系首相が誕生したニュースを伝えるツイートを見てみよう。

Scotland is on track to be the first democratic western European nation with a Muslim leader, after the pro-independence Scottish National Party on Monday elected Humza Yousaf, the country’s 37-year-old health secretary, as its top official.

(スコットランドは、独立派のスコットランド国民党が月曜日、同国の37歳の保健相であるハムザ・ユーサフ氏を党のトップに選出したため、西ヨーロッパ初のイスラム教徒の指導者を擁する民主国家となる見通しだ)

Scottish National Partyとは、イギリスのニュースでは“SNP”の名で登場する「スコットランド国民党」のことで、スコットランド議会の最大政党。“the pro-independence”とあるようにイギリスからの独立を明確な政治目標として掲げている。

スコットランド初の有色人首相

スコットランドの新首相誕生が注目された理由には、パキスタン出身の父親と、南アジアの家系でケニア出身の母親を持つ有色人種である点や、スコットランドでは初となるイスラム教徒の首相を生んだという点が挙げられる。

昨年、インド・パキスタン系のリシ・スナク氏が非白人で初、アジア系で初のイングランド首相に就任したのに続いて、アジア移民の家系で有色人種のユーサフ氏が選ばれたことは、現在のイギリスの多様性を象徴する大きな出来事だ。

ユーサフ氏のスコットランド首相就任へのお祝いツイートでは、「有色人種がスコットランドの首相になった!」という点を強調するツイートが目立っていた。余談だが、ロンドン市長を務めるサディク・カーン氏もパキスタン系移民の家系の出だ。

女性政治家の活躍も目立つ

今回のスコットランドの選挙戦では、「男女格差」や「女性活躍」の面でもイギリスらしさが出ていた。

As @HumzaYousaf becomes the first Muslim leader of a democratic western European nation, another historic glass-ceiling is smashed after Nicola Sturgeon served eight years as the first female First Minister of Scotland.

(ニコラ・スタージョン氏がスコットランド初の女性首相を8年間務めた後に、ハムザ・ユーサフ氏が西ヨーロッパの民主国家で初となるイスラム系のリーダーを務めることで、もう一つの歴史上のガラスの天井が砕かれる)

このツイートでも指摘されているとおり、ユーサフ氏の前任を務めたスタージョン氏はスコットランドで初となる女性の首相だった。イギリスからの独立を目指し、スコットランドのファースト・ミニスターとしては歴代最長の8年もの間、国をまとめ上げてきた。スコットランドで最も影響力のある政治家だ。

今回、民族マイノリティーが国のリーダーになったことは、民族ダイバーシティーが進むイギリス社会の今後を象徴しており注目されるが、それと同時に女性政治家の活躍が他の先進諸国と比べて目立つ点も特記したい。新首相を決める今回のスコットランド国民党の党員投票では、ユーサフ氏を含め3人の候補者が立候補したが、ユーサフ氏と闘った2人の候補者は女性の政治家だった。

37歳という若さ

新たにスコットランド首相に選出されたユーサフ氏は、現在37歳。ヨーロッパの首脳陣の平均年齢は日本やアメリカと比べると概して低いが、スコットランドでも30代の若いリーダーが誕生した。

UK Prime Minister, age 42, is of Indian background. Scottish Leader age 37 is of Pakistani background. Beautiful! What a time to be alive!

(イギリス首相は42歳でインドのバックグラウンドを持っている。スコットランドの指導者は37歳でパキスタンのバックグラウンドだ。すばらしい!なんて時代に生きてるんだ!)

イギリス国民の反応

さて、ユーサフ氏がスコットランドの首相に選ばれたことに対する、国民の反応を見てみよう。

お祝いの反応

Congratulations to @HumzaYousaf our new First Minister and leader of the SNP Humza will lead us to independence!

(おめでとうハムザ・ユーサフ。私たちの新しい首相であり、スコットランド国民党のリーダー!ハムザが私たちをイギリスからの独立に導きます!)

パキスタンをはじめとする人種マイノリティーやイスラム系の人たち、そしてスコットランドの独立を支持する人たちからはユーサフ氏への祝辞ツイートが相次いだ。

批判的なツイート

一方で、ユーサフ氏に対する批判的なツイートには必ずと言っていいほど、2020年にユーサフ氏が行ったスピーチの動画が登場する。

This is Scotland’s new leader. What’s the problem with white people? The UK is a white country. If Humza Yousaf doesn’t like white people he should leave. Funny no one complains about the lack of white representation in Africa, Asia or the Middle East.

(これがスコットランドの新しいリーダーです。白人の何が問題なんでしょう?イギリスは白人の国。ハムザ・ユーサフが白人嫌いなら、彼が去るべきです。面白いことにアフリカやアジア、中東で白人の代表が不足していることについては誰も文句を言わないのです)

この演説は、スコットランド議会や政府で人種の多様性が欠如している点を指摘したものなのだが、前後の演説が切り取られて、あたかもユーサフ氏がスコットランド政府に白人が多すぎることを「批判」しているようにツイートされた。白人へのヘイトスピーチとも映るこのツイートを見た人からは、「アンチ白人はレイシズムと同じ」「ハムザ・ユーサフは白色が嫌い」といった批判コメントが集まった。

これとは別に、ユーサフ氏に関しての批判ツイートにはしばしば、#scooterboy(スクーターボーイ)のハッシュタグが付いている。情報を有していないと「スクーター?」と不思議に思うが、これは2021年8月に、ユーサフ氏がスコットランド議会のホールをスクーターで移動していて転んだ様子が撮影された動画が拡散したからだ。

This says plenty #scooterboy #Useless

(これがたくさんのことを物語っている #scooterboy #Useless)

今後の行方と注目点

“スクーターボーイ”とユーサフ氏を批判する人たちは、「スクーターをコントロールできない人がスコットランドをコントロールできるのか?」といった辛辣なコメントをツイートするが、実際のところ政治家としてまだ若手のユーサフ氏の手腕が試されるのは、これからだ。ユーサフ氏が最終的に目指すイギリスからの「independence(独立)」に向けて、独立機運を再び盛り上げることができるかが注目されているが、生活費の高騰やイングランドに比べて劣る国内経済、医療機関の待ち時間の長さなど、国内問題は山積み。まずは国民生活に直結する問題解決への取り組みが最優先されるだろう。

ちなみに、スコットランドの政治を語る上で必ず出てくる「スコットランドの独立」の動きを簡単にまとめると、イギリスからの独立を問う住民投票でイギリスに残ると決めたのが2014年(55%対45%という僅差だった)。その後、イギリスがEU離脱を決めたのが2016年。EU残留派が多いスコットランドで独立運動が再燃し、再び独立の是非を問う住民投票を行いたいとのスコットランドの要請をイギリス政府が拒否したのが、2020年。2023年2月の世論調査では、独立を支持しないスコットランド人が54%と、今でも賛否が真っ二つに分かれている状況なのだ。

とはいえ、スコットランドがイギリスから独立するかが、パキスタン・ケニア系のユーサフ氏(スコットランド首相)とインド系のスナク氏(イングランド首相)の時代に話し合われるのは、近年のイギリスのダイバーシティー社会を象徴していて非常に興味深い。今後の動きからますます目が離せない!

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ボッティング大田朋子
ボッティング大田朋子

イギリス在住ライター。アメリカ、ドイツ、インド、メキシコ、アルゼンチン、スペインに住み2016年よりイギリス在住。執筆書籍に『値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国』(朝日新書)、『ビックリ!!世界の小学生』(角川つばさ文庫)、『大好きに会いに行こう』(サンクチュアリ出版)等がある。 2017年から文部科学省検定済教科書(小・中学校外国語科)制作に参加中。世界100カ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。ブログ「世界が拠点な生き方・子育てブログ

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