チャールズ国王の戴冠式、イギリス国民の反応は?現地からレポート【世界のバズワード】

5月6日、イギリス国王チャールズ3世の戴冠式が行われました。コロネーション・ウィークエンドと呼ばれる3連休にどんなイベントが行われたのか、エリザベス女王の戴冠式との違い、国民の賛否の声など、現地の雰囲気や温度感を交えてイギリス在住ライターが紹介します。

世界中で注目された戴冠式、視聴者数がすごい!

先週末、イギリスを始めとする世界中でバズったワードはズバリ、#Coronation。Coronationとは英語で「戴冠式」のことで、5月6日にイギリスの首都ロンドンのウェストミンスター寺院で執り行われた、イギリス国王チャールズ3世の戴冠式の話題でTwitterは盛り上がっていた。

イギリスの国王になるということは、オーストラリアやカナダを含むイギリス連邦(Commonwealt、コモンウェルス)に加盟する56カ国の長になるということ。戴冠式の様子は世界中で放映され、テレビでの視聴者は平均1880万人にのぼり、瞬間最大視聴者は2040万人だとか!

現地イギリスでも家のテレビで視聴した人もいれば、ソーシャルメディアで生中継を追ったりパブに集まってビール片手に見たりと、楽しみ方はさまざまだった。

Twitterでも戴冠式は話題の中心で、式当日だけでも#Coronationのハッシュタグがツイートされた回数は92万を超えた。ロイヤルファミリーのゴシップからイギリス王室への賛否が混ざったツイートまで、戴冠式にまつわる話題が週末のツイッターのトレンド上位を独占した。

イギリスは三連休「コロネーション・ウィークエンド」

イギリス王室の戴冠式は、約1000年の長い歴史を持つ王位継承で最も象徴的な意味を持つ国家行事。戴冠式が行われた5月6日(土)から臨時で祝日となった8日(月)までイギリスでは3連休になり、コロネーション・ウィークエンド(#CoronationWeekend)と呼ばれた。戴冠式だけでなくウィンザー城の祝賀コンサート(#CoronationConcert)や市民が路上にテーブルと椅子を並べて食べ物やドリンクを持ち合って集うビッグランチ(#BigLunch)、地域のボランティアを奨励する「The Big Help Out」と呼ばれるイベント(#BigHelpOut)など、毎日違う催し物が行われた。

戴冠式の様子はテレビやソーシャルメディアで既に見た人も多いと思うが、まずはTwitterの戴冠式専用公式アカウントとイギリス王室公式アカウントから、戴冠式の主要なシーンを紹介したい。

King Charles III is crowned
A cry of 'God Save The King' echoes through Westminster Abbey at the #Coronation
(国王チャールズ3世が戴冠した。「ゴッド・セイヴ・ザ・キング」の叫びがウェストミンスター寺院での戴冠式に響き渡る)

The Crowning of the King
The Archbishop of Canterbury places St Edward’s Crown on The King’s anointed head. The clergy, congregation and choir all cry ‘God Save The King’.
(王の戴冠式。カンタベリー大司教は、聖油で清められた国王の頭に聖エドワードの王冠を置く。聖職者、会衆、合唱団は皆、「ゴッド・セイヴ・ザ・キング」と叫ぶ)

戴冠式で何度も耳にした「ゴッド・セイブ・ザ・キング(God Save the King)」だが、これはイギリス国王へ捧げる歌のタイトル。故エリザベス女王が君臨していた過去70年間は、イギリスの国歌といえば「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン(God Save the Queen、神よ、女王を守りたまえ)」だったのが「キング」になると耳新しいと感じた人も多かったが、イギリスでは君主の性別に合わせて国歌の歌詞が変化するのだ。

戴冠式の特徴は「3S化と多様性」

チャールズ国王の戴冠式では、1000年の伝統を守りながらも儀式的な要素は省略された。開催時間は従来の4時間から1時間半程に短縮されたし、1953年に行われたエリザベス女王の戴冠式には8000人が出席したのに対し、今回の招待客は2200人。戴冠式への行きと帰りの行進の距離も、8キロメートルに及ぶパレードが行われたエリザベス女王のときに比べると短縮され、2.1キロメートルになった。「ショート、スモール、スリム(Short, Small and Slim)」がチャールズ国王の戴冠式で目指した3S化だ。

また今回の戴冠式では、伝統を守りながらもイスラム教、ユダヤ教、ヒンズー教といったキリスト教以外の多様な宗教の代表が儀式で役割を担い、参加者の顔触れも現在のイギリス社会を反映するかのように人種の多様性にあふれていた。

「多様性」や「寛容性」のメッセージは至るところで見て取れた。例えば儀式用の長剣を運んでチャールズ国王に手渡す大役を果たしたのは史上初の女性だったし、聖書を読み上げる聖職者も女性だった。黒人のゴスペルグループが聖歌を合唱したが、ウェストミンスター寺院で行われた英国王室の戴冠式でゴスペルが歌われたのもこれが初めてだ。Twitterでも下のような反応が見られた。

The most moving part of the morning in a very real way.
(本当の意味で朝一番感動した部分)

重々しい雰囲気を和ませたあの大物

1時間半以上に及んだ戴冠式。式の途中にしびれを切らして何度か席を立った視聴者も少なくなかったはず。そんな一般市民の反応を代表していたのが、チャールズ国王の長男ウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃の次男、ルイ王子だった。

戴冠式の間、緊張した面持ちの大人たちをよそに天井を見上げたり、大あくびをしたり、式の後半には突然姿が見えなくなったりと(国歌を歌うときには席に戻ってきていた)終始おちゃめな姿を披露していた。そんなかわいらしいルイ王子の動きに注目したツイートも盛んだった。

戴冠式の式中にあくびをする姿

Early Start?
(朝早かった?)

また、戴冠式の後にチャールズ3世とカミラ王妃が、ロイヤルファミリーの主要メンバーと共にバッキンガム宮殿のバルコニーから群衆に手を振る恒例の行事でも、大物ぶりを発揮していた。

The lad is a legend
(この子は大物だ)

ladはboyやchapと同じ意味で、親愛を表して男の子を呼ぶときに使う。戴冠式中は#princelouis(ルイ王子)を先頭に、ロイヤルキッズたちが“steal the scene”、人気をさらっていた。

ウィンザー城の祝賀コンサート「Coronation Concert」

戴冠式から一夜明けた7日は前日と打って変わって晴天に恵まれ、ウィンザー城の東側の芝生では戴冠式コンサートが開催された。チャールズ3世夫妻の社会福祉財団とつながりのあるボランティア団体のメンバーが招待を受けたほか、一般抽選でチケットを手に入れた2万人の観客が集まった。

コロネーションコンサートでは、アメリカ人歌手ライオネル・リッチーやケイティ・ペリーを始めとする有名なアーティストたちが会場を盛り上げた。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーやロイヤル・バレエ団、ロイヤル・オペラなどもショーに参加。世界最高峰の歌声や芸術が目白押しだった。

Lionel Richie at Windsor Castle. The only coronation concert in a thousand year history.
(ウィンザー城のライオネル・リッチー。1000年の歴史の中で唯一の戴冠式コンサート)

前日の荘厳で重厚感あふれる戴冠式とは打って変わりリラックスした祝賀コンサートは、伝統とはまた違う現代のイギリスの魅力を味わうよい機会になったと思ったのは、筆者だけではないはず。

Twitterでも#CoronationConcertのハッシュタグは11万件以上ツイートされた。このハッシュタグがイギリスだけでなく、アフリカ諸国、特にナイジェリアで盛んに使われていたのだが、それもそのはず、コロネーションコンサートで素晴らしいパフォーマンスを披露した歌手Tiwa Savage(ティワ・サヴェージ)はナイジェリア出身なのだ。

TIWA SAVAGE AT THE #CORONATION
SHE’S A GODDESS
(戴冠式でのティワ・サヴェージ。彼女は女神だ)

そしてコロネーションコンサートでのハイライトの一つといえば、ウィリアム皇太子のスピーチだろう。

Prince William poignantly said in his speech as an hommage to his Father, about HMTQ(※) ”I know she's up there fondly keeping an eye on us. And she'd be a very proud mother.” The Son Every Father pray for
(ウィリアム王子は、父に捧げるスピーチの中で、故エリザベス女王について「彼女は愛情を持って私たちのことを見守っているでしょう。そして母として非常に誇らしく思っているでしょう」と心を打つ言葉を述べた)

※HMTQ=Her Majesty the Queen(女王陛下)

奉仕の一日「Big Help Out」

一連の行事が続いたコロネーション・ウィークエンド最終日の5月8日は、イギリス各地で市民らが地域の清掃やホームレス支援などのボランティア活動に参加することを奨励する「ビッグ・ヘルプ・アウト(Big Help Out)」が行われた。皇太子時代に積極的にボランティア活動を行ったチャールズ国王らしいコロネーション・ウィークエンドの締めくくりだった。

イギリス全土で何万人もの人がボランティアに参加。そしてウィリアム皇太子一家を始めとするロイヤルファミリーの主要メンバーもボランティア活動に参加し、市民と交流を大切にしながら国民のために奉仕する王室の姿勢をアピールした。

Prince George, Princess Charlotte, and Prince Louis have joined their parents on the Big Help Out, volunteering to renovate a scout hut in Slough. The palace says it counts as Louis’ first official royal engagement.
(ジョージ王子、シャーロット王女、ルイ王子は両親と一緒にビッグ・ヘルプ・アウトに参加し、スラウ[イギリスバークシャーの自治体]にあるスカウト小屋の改修を手伝いました。バッキンガム宮殿は、今日がルイ王子の最初の公務として数えられると言います)

イギリス国民の反応

筆者の周りの反応を見ると、戴冠式が終わってしまった今となれば「意外に盛り上がった」という感想を持っている人が少なくない。というのも、戴冠式が行われる前日までは国民の注目度は本当に低かった。世論調査では国民の64%が「戴冠式には無関心」と答えていたほど。

ただでさえ盛り上がりに欠けていたのに、戴冠式を迎えた当日の天気は小雨。どんよりとした灰色の空で最高気温が13度とまだ肌寒く、実に憂うつな天気だった。去年の6月に行われたエリザベス女王の即位70周年を祝う「プラチナ・ジュビリー」に比べると、事前の盛り上がりに欠けていただけでなく天候にも恵まれず、チャールズ国王の不人気を表していると皮肉る声もあった。

とはいえ蓋を開けてみれば、イギリス王室の伝統と歴史がずっしり詰まった荘厳な戴冠式から、豊かな文化と芸術で観衆を魅了した戴冠式コンサート、ボランティアを奨励する日まであって、イギリスの素晴らしいところが満載の一大イベントであったと思う人も多かった。

国民の税金で賄う戴冠式

とはいえ、あの荘厳な戴冠式が税金で賄われたと知ると考えが変わるのではないだろうか。戴冠式にかかった費用は正式にはまだ発表されていないが、1億5千ポンド(約255億6300万円)から2億5千万ポンド(約400億円)といわれている。

記録的な物価高が続くイギリスで、特権階級のイベントに多額の税金を使うことに対しての批判が絶えないのは当然だし、ロイヤルファミリーに国民の税金を使う価値があるのかと王室離れが進む現実もうなずける。王室反対の動きに興味がある人は、#NotMyKingのハッシュタグをチェックしたい。

Love my country. People can’t afford to eat and we’re spending £150 million deploying police to protect a man in an actual golden carriage and a hat worth more than Kent from seeing a “not my king” placard. Just a wonderful place for all.
(わが国、イギリスが大好き〔皮肉〕。人々は食事にありつけないというのに、黄金の馬車に乗りケント[ロンドン南東にある州]より価値のある帽子[王冠を指す]をかぶった男[チャールズ新国王を指す]を「私の王ではない(#NotMyKing)」というプラカードを持った人々から守るために、1億5000万ポンドを費やして警察を配備している。全ての人にとって素晴らしい国〔皮肉〕)

内容や予算を知れば知るほど戴冠式を行う賛否に疑問が湧くのも無理はない。いくら3S化したとはいっても、実に多額の税金が使われる。納得しない納税者がいて当然だと思う。国民の負担を主要メディアでもっと報じるべきだとの批判もある。究極、下のようなツイートがされてしまう。

Who voted for you?
(誰があなたに投票しましたか?/誰もあなたに投票していませんよ)

戴冠式限定グッズが発売

イギリスに住んでいても王室ファンではない多くの人にとって、戴冠式当日までに戴冠式を身近に感じた唯一の機会はスーパーや店舗などで限定グッズが販売されているのを目にしたときだ。

イギリス王室御用達の高級食品ブランド「フォートナム・アンド・メイソン」も戴冠式を記念して、限定デザイン商品を発売した。

NEW! From #Coronation teaware, gifts and limited-edition wickers to the very best fresh food, sweet treats and tipples, we have every delicious thing you need for the party of a lifetime. Open 10am-8pm in Piccadilly!
(新登場!戴冠式の茶器、ギフト、限定版の枝編み細工品から、最高の生鮮食品、菓子、飲み物まで、一生に一度のパーティーに必要な全てのおいしいものを取りそろえています。ピカデリーで午前10時から午後8時まで営業!)

何はともあれ、コロネーション・ウィークエンドが終わってからもイギリスメディアでは戴冠式に関する報道やインタビューなどがさまざまな角度から続いていて、戴冠式の余韻や賛否含めた盛り上がり「コロネーション・フィーバー」が続いている。

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ボッティング大田朋子
ボッティング大田朋子

イギリス在住ライター。アメリカ、ドイツ、インド、メキシコ、アルゼンチン、スペインに住み2016年よりイギリス在住。執筆書籍に『値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国』(朝日新書)、『ビックリ!!世界の小学生』(角川つばさ文庫)、『大好きに会いに行こう』(サンクチュアリ出版)等がある。 2017年から文部科学省検定済教科書(小・中学校外国語科)制作に参加中。世界100カ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。ブログ「世界が拠点な生き方・子育てブログ

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