実はとても身近な国、イギリスとトルコの距離感【LONDON STORIES】

大地震に襲われたトルコ。イギリス、特にロンドンに住む人たちにとって、トルコという国は「距離は遠くても精神的に近い国」と、ロンドン在住のライター、宮田華子さんは語ります。その理由は?

精神的に近い国トルコ

トルコ南東部のシリアとの国境付近を震源とする大地震が起こったのは2月6日の早朝(現地時間)。このニュースは日本でも大きく報道され、記憶に新しいはずだ。

地震発生当初、イギリスでも連日メインニュースとしてがれきの山、必死の救助の様子、泣き崩れる人々の映像が流れた。現在は医療や避難民受け入れ、復興支援についてのニュースがメインになっているが報道は続いている。

地震の被害を受けたトルコの2つ県で、3月3週目に洪水も発生した。

イギリスでこのニュースを見ていると、「とても近い場所で起った地震」という感覚を覚える。といってもロンドンからイスタンブールまでのフライトは4時間。トルコは(かつてイギリスが属していた)EU国ではなく、ヨーロッパとアジアの間にあるので、地理上は「隣国」ではない。しかしイギリス、特に(私を含め)移民がひしめくロンドンに住んでいると、トルコは精神的にとても近い国なのだ。
 

胃袋をがっつりつかまれて・・・

イギリスは移民を多く受け入れてきた歴史がある国であり、ありとあらゆる人種・民族・宗教・言語・文化圏の人たちが暮らしている多文化共生・移民の国だ。トルコ系と言われる「トルコになんらかのルーツを持つ人」は、イギリスに約50万人いると言われている(2011年の情報。出典:www.parliament.uk)。イギリスの人口は6733万人。この内の50万人なので、これはそこそこの数だ。それだけにトルコ文化はイギリスの地にしっかり根付いている。

特にトルコの食文化は「イギリスの国民食」と言われるほど定着している。ひよこ豆のペースト「フムス」、豆のコロッケ「ファラファル」など、トルコや周辺諸国でよく食べられる食品はどのスーパーでも売っている定番だ。またロンドンの住宅街に住んでいると、美味しいケバブを食べさせてくれるお店は「徒歩圏内に必ず1軒はある」と言っても過言ではない。

「ケバブ」というと、大きな肉の塊をそぎ切りにしてピタパンに挟むか、フラットタイプのパンでくるっと巻いた「ドネルケバブ」を想像するかもしれない

しかし「ケバブ」とは本来、「焼いた肉、野菜、魚」全般を指す言葉だ。イギリスのケバブ店には、テイクアウトがメインの小さな間口の店とレストランになっているお店の2種類あるが、どちらの店でもドネルケバブだけでなく、串焼きにした「シシケバブ」、ひき肉のハンバーグのような「コフタ(コフテとも言う)」などなど、羊肉と鳥肉を炭火で焼くさまざまな料理を提供しており、かつ無料でたっぷりの野菜が添えられている。

テイクアウトの場合は、グリーンサラダをパック詰めしてくれるし、レストランの場合はトマトやしし唐、ナスなどの炭火焼とグリーンサラダは注文しなくても漏れなく付いてくる。

私が大好きなケバブレストランの「盛り合わせ」。これで3人前。肉の下にお米が敷かれているが、焼きたてのパンも別添えされている。
フェタチーズが乗ったトルコ風サラダ。味付けはオリーブ油とレモン、塩こしょう。

そして何より・・・値段がとても安い。

インフレで少し値段は上がっているものの、1人前10ポンド(現在のレートで約1600円。しかしイギリスでは1000円程度の感覚)もあれば、お腹がはち切れるほどおいしい料理が食べられる。これで人気にならないはずはない。

夜遅くまで営業しているケバブ店は多い。パブで飲んだ後、クラブで遊んだ後の「締めのラーメン」ならぬ「締めのケバブ」を求めて、たくさんの人が店を訪れる。金曜の夜、ケバブ店の前でおいしそうにケバブを頬張る人達の姿は「ロンドンのよくある週末の光景」だ。

日本人なら必ずお世話になっている!?トルコ系食材店

多くの人が日常の食材をチェーン系の大手スーパーで手に入れているが、もちろんイギリスにも八百屋や肉屋など、小売店もたくさんある。野菜や肉を売る店は、なぜかトルコ系やポーランド系の人が経営する所が多い。私はこうした小売店にも日々お世話になっているが、特にトルコ系の食材店には、大手スーパーにはない「日本人が求める食材」がいろいろある。

例えばダイコン。イギリスでは「Mooli(ムーリ)」と呼ばれ、日本のダイコンよりやや小ぶりだが味は同じだ。通年販売しているのでありがたい。「タヒニ」と呼ばれるゴマペーストは、ごまあえやごまドレッシングを作るのに便利。イギリスの一般的なキャベツは「白キャベツ(white cabbage)」であり、加熱して食べるものなので生食には向かない。しかし、トルコ系食材店ではその名も「トルコキャベツ(Turkish cabbage)」という、日本のキャベツより少し大きいが、柔らかさはほぼ変わらないキャベツが手に入る。

トルコキャベツがイギリスで流通し始めたのは15年ほど前だったと記憶している(私の来英当初はなかった)。トルコ系食材店でこのキャベツを発見した日本人は、「これでお好み焼きが作れる!」「千切りキャベツを食べられる!」と喜んだものだった。

他にも日本と同じサイズのナスやキュウリ、オクラ、そして柿(英語でも「kaki」と言う)、ザクロ、ミカン(イギリスではミカンを「satsuma」と言う。最近はスーパーでも手に入るようになった)などの懐かしい果物も豊富だ。この手の食材店は「八百屋兼肉屋」が多いのも特徴だ。ムスリム用のハラル食材を全般的にそろえているため肉も扱っているのだが、スーパーでは絶対に手に入らない「鶏砂肝」や、「鶏のひき肉(たまにスーパーでも見かけるが、牛・豚・七面鳥のひき肉の方が一般的)」が手に入るので本当に重宝している。

現在住む街にあるトルコ系食材店。「写真を撮ってもいい?」と聞くと、精肉担当スタッフがカウンターから出てきてポーズを取ってくれた。

コロナ禍で助けられた経験

トルコ系食材店に行くたびに思い出すことがある。2020年3月、コロナ禍になってすぐのこと。イギリスはロックダウンとなり、スーパーから品物が消えてしまった時期があった。長い行列を作ってやっとスーパーに入っても、必要なものがほとんど手に入らなかった。

2020年3月18日に撮影。本当に何もなかった・・・。

そんなとき、家の向かいにあったトルコ系食材店が助けてくれた。大手スーパーとは仕入れのルートが異なるのだろう。店には野菜や果物、肉が品切れになることなくたっぷりあった。そしてどこから仕入れてきたのか、スーパーには皆無だったトイレットペーパーや食用油などが店内に山積みされ、値段を上げることなく販売してくれたのだ。

「あのトルコのお店に行けば、品物がある」と聞きつけ、遠くから買い物に来た人も多かったようだ。本当にありがたく、レジ待ちをしているときに店員さんに「ありがとう。本当に助かっています」と言ったことがある。すると「まだまだ在庫はあるし、食材も日用品もかき集めてくるから安心して。困ったときはお互いさまだよね。僕たちも頑張るよ」と笑顔で言われ、泣きそうな気持ちになった。

スーパーの品薄は10日ほどで解消したものの、感謝の気持ちもあり、また新鮮な食材の魅力にも引かれ、その後はトルコ系食材店をメインに買い物し、「足りないものはスーパーで」と買い物スタイルも変わってしまった経験だった。

今、私たちにできること

昨年8月に引っ越し、以前以上にトルコ系食材店がたくさん軒を連ねる地域に住んでいる。加え、現在の街には週6日、ストリートマーケット(マルシェ)が立つのだが、トルコ系の八百屋が多い。そのため、これまで以上に「トルコ食文化圏」にどっぷりお世話になって暮らしている。

近所のストリートマーケット。

今回の地起きたとき、それぞれが「なじみの店」や「知り合いのトルコ人(&シリア人)」のことを思ったはずだ。私はいつも「一山1ポンド(約160円)」で野菜を売っているトルコ人の八百屋さんのことを思い出した。

地震の翌日に買い物に行った際、迷った末に「トルコにいる家族は大丈夫だった・・・?」と恐る恐る聞いてみた。八百屋は「僕の家族は全員無事だった。聞いてくれてありがとうね」と少し寂し気な笑みを浮かべて答え、「日本も地震が多い国だよね。知ってるよ。God bless you(神のご加護がありますように)。君のファミリーのことも祈っているよ」と、こちらが心配していたはずなのに逆に祈られ、そしておまけにトマトを1つ、買い物袋に放り込んでくれた。

今回の記事では食関係のことをメインに書いたが、トルコはイギリスから行く人気のホリデー先という一面もある。年間を通して人気の旅先だが、特にクリスマス前後に行く人が多い。この時期は長い休みを取りやすいが、キリスト教の国に旅行をしても店や観光施設が開いていない。そこでイスラム圏の国々、特にトルコに皆行きたがる。イギリスよりずっと暖かく、その上「おいしい国」であることを皆知っていて、安心して旅ができる国だからだ。

こんなふうに実際には少し遠い所にあるけれど、日常生活で触れ合うことが多い「精神的には近い国」であるトルコ。募金に協力することしかできないけれど、早く地震とその余波、現在の洪水が終息することを心から祈っている。そしてこれからもせっせとトルコ系食材店に通うことで、微力だけれど応援したいと思っている。

宮田華子
文・写真:宮田華子(みやた はなこ)

ライター/エッセイスト、iU情報経営イノベーション専門職大学・客員教授。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

連載「LONDON STORIES」

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トップ画像:Francisco De Legarreta C. from Unsplash

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