世界で活躍するための鍵、教養としての紅茶&マナー 1【英国式アフタヌーンティー】

ここ数年、日本で人気のあるアフタヌーンティーを楽しむ活動、「ヌン活」。皆さんは、ミルクティーを飲む時、ミルクは先に入れる派ですか?それとも後から入れる派ですか?今回は、知っておくべきティーマナーについて、アフタヌーンティー研究家の藤枝理子さんに詳しくお話しいただきます。

階級ごとに異なるティーマナー

Knowing about the finer points of tea is important in British society.(紅茶の知識を身に付けることは、イギリス社会において重要ことの一つです)

イギリスでは、「紅茶を飲む姿を見れば、その人の教養と品位が分かる」と言われています。無意識に階級センサーのようなものが備わっていて、びびっとと反応してしまうようです。仕事やプライベートで、「お茶をご一緒しませんか?」とティータイムに誘われたとき、その立ち居振る舞いからバックグラウンドが分かってしまう・・・なんて聞くと、何だか怖いような気がしますね。

イギリスは階級社会。いまもなお階級意識が存在し、「upper class(上流階級)」「middle class(中産階級)」「working class(労働者階級)」によって言葉遣いや発音、イントネーションも異なるというのは周知の通りですが、実はティーマナーも階級によって違いがあるのです。

上流階級の家庭では、幼少期にティーマナーを習得するための「nursery tea(ナーサリーティー)」というティータイムがあり、実際にお茶の時間を通じて正式な作法を学んでいきます。とはいえ、イギリスにおいて上流階級は、わずか数パーセントと少数派。大多数は、自分自身を磨く教養としてティーマナーを身に付けていくわけです。

スマートに紅茶をたしなむ

例えば、紅茶の飲み方。フォーマルな場合は、テーブルの高さによって扱い方が違います。ローテーブル(ソファテーブルの高さ)の場合は、ソーサーごと胸の高さまで持ち上げ、左手でソーサー、右手でカップを持っていただきます。ハイテーブル(ダイニングテーブルの高さ)の場合は、ティーカップのソーサーには触れず、右手でカップだけを持ち上げます。

このとき、品性が表れるのがカップを持つ手先。取っ手にしっかり指を通して「握る」のではなく、「つまむ」ようにすると非常にエレガントな所作になります。親指・人差し指・中指でハンドルを支え、小指は立てずに添えるようにします。指先を意識するだけでも神経が行き届き、丁寧な所作になります。親指・人差し指・中指をどの位置に置くか・・・そんな細かな部分にまで階級が表れるといわれています。

Handleless teacups(取っ手のないティーカップ)

紅茶がイギリスに入ってきた17世紀、ティーカップに取っ手は付いていませんでした。中国や日本製の小さな茶器で貴重なお茶を飲むという時代が長く続き、取っ手が付けられるようになった初期の頃も小ぶりで細く、指を通すというよりも、つまむものとして扱われていたようです。

紅茶留学中、イギリスの老舗ホテルで「小さなレディーのためのアフタヌーンティーレッスン」を見学したことがあります。5、6歳くらいの女の子たちがドレスアップして、紅茶の飲み方を習うのですが、ティーカップは手のサイズに合う、つまみやすいシェイプのもので練習をしていました。かわいらしい手先で丁寧にカップを扱う姿を見て、指先に気品が表れるという言葉の裏には、こうした積み重ねがあるものかと感心したものです。

ティーカップは利き手にかかわらず、右手で扱います。日本のように左手を底に添えたり、小指を立てたり、両手で飲むようなしぐさも避けたいところです。そして、ミルクや砂糖を入れた後、ティースプーンで音を立てずに混ぜます。渦巻き型にぐるぐる混ぜると、紅茶が溢れ出ることもあるので、スプーンを軽く浮かせた状態で、手前から奥へとアルファベットのNの字を往復しながら描くようなイメージで静かに動かします。混ぜ終わったスプーンは、ティーカップの奥側のソーサー上に、上向きに置きます。このとき、ティーカップの取っ手の位置は右側です。

紅茶が先か、ミルクが先か

このときに話題になるのが、「紅茶が先かミルクが先か」というイギリス人が大好きな論争。とあるデータによると、紅茶にミルクを入れる派は85パーセント。その内ミルクを先に入れる「MIF派(milk in first)」は20パーセント、後から入れる「MIA派(milk in after)」は80パーセントとあります。お互いにそれぞれ興味深い言い分があり、MIF派は「ミルクの量が明確、よく混ざっておいしい」、MIA派は「紅茶はまずストレートで香りを楽しむもの」といいます。そしてイギリスらしく、その裏には階級が見え隠れしています。

アフタヌーンティーが広まった19世紀、優雅なお茶会とは無縁の労働者階級にとって、紅茶は活力の源でした。温かい紅茶にたっぷりと砂糖とミルクを入れて飲み、英気を養ったのです。当時はまだ、ティーカップは大変貴重だったため、熱々の紅茶を入れることによって陶磁器が割れたり、ひびが入ったりするのを避ける意味で、常温のミルクを先に入れてから紅茶を注いでいました。MIF派の作法は、この習慣の名残とも言われています。

一方、上流階級がアフタヌーンティーでいただくような紅茶は、繊細な香りそのものをストレートで楽しむものでした。そのため、貴族の作法として「紅茶より先にミルクを入れてはいけない」という約束事まであったほどです。

このような背景が絡むことから、「ミルクを先に入れるのは労働者階級、後から入れるのが上流階級の流儀」とささやかれていた時代もありましたが、現在は世代が下がるにつれMIA派の割合が増えています。

音を立てない文化

最後に、ティーマナーの中で最も嫌われること、それは音を立てて飲むことです。日本の茶道では、最後に空気を含ませて音をたてる作法があり、そばをすする習慣があるため違和感を持たないことも多いのですが、音を立てることが許容されるのは、あくまでも日本独特の文化。欧米では音を立てて食事することを非常に不快に感じる人が多く、周囲への配慮に欠けた行為とされます。

特に紅茶は、日本茶に比べて高温でいれるため、自分では気付かなくても、無意識にずずっと音が出てしまうことが多いので、日本人の私たちは注意が必要です。イギリスのホテルではクレームを避けるために、日本人はあえてバックヤード近くの騒がしい席に隔離することもあるといいます。「え~、私はそんなことしていないわ」と思っても、一度ご確認を。マナーは相手を思いやる気持ちから生まれるもの・・・それは日本でも海外でも一緒です。

最終回は、アフタヌーンティーのマナーを中心におします。

藤枝理子(RICO FUJIEDA)
藤枝理子(RICO FUJIEDA)

英国紅茶&アフタヌーンティー研究家。大学卒業後、ソニー株式会社に勤務。紅茶好きが嵩じイギリスへ紅茶留学。帰国後、英国スタイルにて紅茶とイギリス文化をトータルで学べる「大人の教養サロン」を主宰。著書に、『仕事と人生に効く 教養としての紅茶』など多数。インスタグラム https://www.instagram.com/rico_fujieda/

連載「英国式アフタヌーンティーの世界」記事一覧

藤枝理子さんの本

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