連載「世界のバズワード」では、今、世界でバズっているワードを、現地の温度感を交えて紹介します。第3回の今回はイギリス在住ライターが、イギリス国内で勃発中の大規模ストライキに関するバズワードを紹介します。
目次
イギリスでstrikeが話題に!
現在イギリスでバズっているワードは、#Strike(#Strikesも同様)。このハッシュタグがツイートされた回数は、1月だけでも4万3千回以上。2月に入ってからもさらにツイート数は増えていて、#Strike関係のツイートは今後も続きそうだ。
まずは、「strike」の意味を確認しておこう。野球やソフトボールで使う「ストライク」や、労働争議を意味する「スト」もstrikeから来ているので意味はおなじみかもしれない。
strikeは実に多様な使われ方をする深みがある単語だが、基本的な意味である「(手や物で急に)打つ、攻撃する」のイメージを押さえておこう。
次のような使い方も覚えておくと、英語表現が広がってよさそうだ。
It strikes me that・・・(私には・・・のように映る、私は・・・と思う)
例:It strikes me that it is going to rain soon.
(もうすぐ雨が降る気がする)
strike A as B(AにはBのように映る、AにBな印象を与える)
例:British jokes don’t strike me as being funny.
(ブリティッシュジョークは私には面白く思えない)
受け身で使われることも多いから、過去形のstruck[/strʌk/]もこの機会に確認しておきたい。
strikeがバズった理由と背景
さて、本題に入るが、今イギリスでバズりまくっている#Strikeはズバリ「労働争議」の意味。
イギリスでは2022年6月、鉄道労働者が過去数十年で最大規模のストライキを実施したのを筆頭に、地下鉄、バス、郵便局員、運転免許の試験官などのストが相次ぎ、さらに年末年始には空港の入国管理局員、救急車隊員、看護師が全国規模のストを行うなど、幅広い業種でストライキが続いているのだ。
今年2月1日にはイングランドとウェールズの公立校に勤務する学校の教員らがストを決行。2月も多くの業種で更なるストが計画されている。そんなストライキがオンパレードの社会情勢を反映して、#Strikeがバズっているのだ。
ストに対するイギリス国民の反応
いろいろな業種で実施されているストに対しての空気感を、Twitterの投稿を引用して紹介したい。
空港入国管理スタッフのストの場合
昨年末のクリスマス休暇中には、8日間に渡ってロンドンのヒースロー空港を始めとする主要空港で、入国審査を行う職員(#borderforce)がストを実施した。冬のホリデーシーズン中のストということで入国ゲートは大混雑と長蛇の列が予想され、旅行者には警戒が発せられていた。イギリス政府は入国管理スタッフのストによる欠員に対して、軍人を投入して業務を代行させることで旅行者への影響を最小化する対応に出た。
旅行シーズン中の入国職員のストは大混雑を引き起こすと心配されていたが、蓋を開けてみると、すさまじく仕事が早い軍の方たちがパスポート審査を代行したおかげで、入国手続きはいまだかつてない程スムーズに遂行された。「空港職員よりも軍人の方が仕事が速いから」と皮肉な理由で、空港スタッフのストを歓迎する声が旅行者から出ていたほどだ。
#Heathrowairport right now. No queues. No chaos. Took us five minutes from landing to getting through passport control. Quickest we have ever known. #strikes#passport#BorderForceStrikepic.twitter.com/o7PCfqP8cq
— Katie Barry (@StG_MrsBarry) December 23, 2022
Heathrow airport right now. No queues. No chaos. Took us five minutes from landing to getting through passport control. Quickest we have ever known.
(ただいまヒースロー空港。長蛇の列なし。混乱なし。着陸からパスポートコントロールまでかかった時間は5分。経験上最も早かった)
史上初となる看護師の大規模ストライキ
2022年12月には、看護師10万人が史上初となる全国規模のストを実施した。看護師たちは長時間労働と過重労働という悪質な労働条件が続いている上に給与が低いことが、以前から問題視されている。
イギリスで働く看護師の低賃金を指摘したツイートを見てみよう。
So a Nurse (grade 5) earns £13.84 an hour, our local McDonalds pays £12.25 an hour…and people wonder why the Nurses are in strike???? #NursesStrike #nurse #NurseStrike
— Jay Ward-Carroll #FBPE #RejoinEU (@JWard_Carroll) January 20, 2023
So a Nurse (grade 5) earns £13.84 an hour, our local McDonalds pays £12.25 an hour…and people wonder why the Nurses are in strike????
(つまり看護師[グレード5]は時給13.84ポンド[約2200円]を稼ぎ、地元のマクドナルドの時給は12.25ポン[約1920円]・・・看護師がストをしているのが不思議だと????)
看護師のストによって患者たちは診療や手術の延期を余儀なくされたが、人手不足による激務の中で医療に貢献してくれている看護師さんの昇給と待遇改善を求めるストには国民のサポートも強く、国民の68%が看護師のストをサポートすると答えている。
看護師たちに呼応するように、同じく医療現場で働いている救急隊員もストを実施、1万人以上が参加した。最近の調査では70%のイギリス国民が「救急時には救急車を呼ばず、家族か友達の運転で病院へ行く」と答えているが、イギリスは今や「救急車を呼んでもすぐに来ない国」になってしまっているのだ。
看護師や救急隊員のストに対して、「救急車の運転」など代行可能な業務には陸軍の支援が入ったが、空港の入国審査と違い、専門的な医療分野では代行できる部分は限定的で、今後も予定されている看護師のストでは、患者への影響が心配されている。
看護師や救急隊員のストに限らずイギリスで医療がひっ迫している現状は深刻で、イギリスの国民保健サービス(NHS)は、今や完全な危機状態に陥っている。これは「NHSの危機(crisis、クライシス)」と呼ばれる。気になる人は#NHSCrisisのハッシュタグをチェックしていただきたい。
余談だが、筆者もわが子がラグビーやフィールドホッケーの練習に行くときには、「お願いだから、けがしないでね。病院に行っても診てもらえないから」と毎回祈る気持ちで送り出している。冗談ではなく、今のイギリスの病院では、けがや骨折くらいでは緊急性が低いと見なされて診察に当たってもらえそうもない。
教員もスト突入で学校閉鎖
strikeはとうとう教育現場にもやって来た。教員組合は2月と3月の7日間に渡ってストライキを実施することを発表し、2月1日にはイングランドとウェールズで働く公立学校の教員による最初のストが実施された。2月1日には多くの公立学校が閉鎖され、#teacherstrikeのツイート数は4万以上にのぼった。
教師がストライキを実施せざるを得なくなった要因を挙げたツイートを見てみよう。
It's important to note that the impending #TeacherStrike is NOT just about teacher pay!
— 🇬🇧 TeacherToolkit.co.uk (@TeacherToolkit) January 16, 2023
It's also about:
1. Underfunded schools
2. Squeeze on the school day/hours
3. Teacher workload; one of the highest in the world!
= The means, ALL pupils get less quality teaching!
It’s important to note that the impending #TeacherStrike is NOT just about teacher pay! It’s also about: 1. Underfunded schools 2. Squeeze on the school day/hours 3. Teacher workload; one of the highest in the world! = The means, ALL pupils get less quality teaching!
(差し迫っている教師のストライキですが、これは教師の給料だけの問題ではないことに注意することが重要です。1. 学校の資金不足 2. 授業の日数や授業時間の圧迫 3. 世界で最も多いといわれる教師の仕事量。つまり、全ての生徒が質の低い教育を受けているのです)
というわけで、イギリス国内で相次いで実施されているストライキを反映して#strikeのハッシュタグがツイートされた回数は1月だけで4万3千回超え。ストを実施する業種、例えば郵便サービスのロイヤル・メールなら#royalmail、空港の入国管理スタッフなら#borderforce、教員なら#Teacherとセットでツイートされている。
去年から続くストや賃金交渉に応じない政府に対して「Enough is enough!(いい加減にして!/もう我慢できない!)」と国民の怒りも絶えない。ストが行われる度に#EnoughIsEnoughのハッシュタグでのツイートが続いている。相次ぐストが今後も予定されているイギリスでは、#EnoughIsEnoughは今年最も長い期間使われるハッシュタグの一つとなりそうだ。
なぜストライキが増えているのか
なぜここまでストライキが増えているのかだが、ストで求めているのはズバリ賃上げ。物価の上昇は今や世界的な現象だと思うが、インフレ率が11%を超えているイギリスでは価格の高騰が半端なく、賃金の上昇率が価格の高騰に追いついていないのだ。物価上昇から来る生活苦と国民の怒りがストを引き起こしている。
業種によるが労働組合側が10~19%の賃上げを要求しているのに対し、政府は平均5%の賃上げに留まっているのが現状で、労使交渉は難局が続いている。2月も学校の教員のストに始まり空港職員や郵便の再起にわたるストが次々と予定されていて、先行きが暗い。
ストライキ早見表
去年以来ストライキのたびに予定が狂ってきたイギリスに住む私たちは、いつ誰がどこでストライキするかが一目で分かる「ストライキ早見表」で、各種ストライキの状況を確認してから予定を組むのが今や日課になっている。
behold, February's calendar of strike chaos. https://t.co/zNDPIuwDGWpic.twitter.com/GpimsrXVPv
― Alan White (@aljwhite) January 30, 2023
behold, February’s calendar of strike chaos.
(見よ、2月のストライキ混沌のカレンダー)
天気予報とともに「ストカレンダー」をチェックする日々はまだしばらく続きそうだ。
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