ヘンリー王子の回顧録『Spare(スペア)』が世界中で話題に!spareの意味やイギリス国民の反応は!?【世界のバズワード】

連載「世界のバズワード」では、今、世界でバズっているワードを、現地の温度感を交えて紹介します。第2回の今回はイギリス在住ライターが、ヘンリー王子の自伝『Spare(スペア)』で話題になっているロイヤルファミリー関連のバズワードを紹介します。

ヘンリー王子の回顧録『Spare』がバズリ中!

現在イギリスでバズっているワードは、#Spare。『Spare(スペア)』とは、今月1月10日に発売されたばかりのヘンリー王子の回顧録のタイトルだ。このハッシュタグがツイートされた回数は1万回以上。#PrinceHarry#SparebyPrinceHarryのハッシュタグツイート数はそれぞれ12万2000回を超えて、関心の高さがうかがえる。

まずは、spareの意味を確認しておこう。日本語でも「スペアタイヤ」などと使うから既におなじみかもしれないが、spareは「予備の」といった意味で以下のように使われる。

Do you have a spare pen? 
予備のペンを持っていますか?

Don't forget to take a few spare batteries.
予備の電池を忘れないでね。

そしてspareが動詞で使いこなせると、英語上級生だ。

I was wondering if you could spare some time.
少しお時間を頂けないでしょうか。

ペアで使われるHeirとSpare

ヘンリー王子の回顧録のタイトル『Spare』は、イギリス王室で度々使われる「Heir and Spare(エア・アンド・スペア、相続人と予備の人)」という表現からきている。「王位を継承する跡継ぎ」と「王位を継承する長子に万が一何かあった場合に、王位に就く弟妹」を指し、heir [/eər/]、spare [/speər/]と韻を踏んでいるのがポイント。

もちろんここでの「Heir(王位継承者)」はウィリアム皇太子 で、「Spare(予備)」はハリー王子を指している。

#Spareがバズるまでの背景と理由

イギリスではヘンリー王子に関連する報道が12月からずっと続いている。彼に関する話題が毎日のように取り上げられるのに合わせて、バズり度もアップ。

12月は Netflixのドキュメンタリー・シリーズ「ハリー&メーガン」に関連したツイートが多かった。このときも「予告」が出るだけで、ヘンリー王子とメーガン妃の発言を逐一分析してコメントするといったワイドショーが毎日続いていた。

年が明けていよいよ『Spare』が発売になるという数日前、スペインで内容の一部が漏れて(正式には1月10日に16の言語圏で同時発売される予定だった)、リークした内容がセンセーショナルに取り上げられた。時を同じくしてヘンリー王子が複数のインタビュー取材に出演したので、この2カ月はとにかくヘンリー王子の話題で持ちきりなのだ。

2020年に王室を離脱してから何かと話題が絶えないヘンリー王子だが、今回の回顧録では「スペア」として生きてきた自らの苦悩を明らかにしているだけでなく、父チャールズ国王との確執や兄ウィリアム皇太子との不仲を暴露。義母カミラ王妃への批判や自らの初体験などを赤裸々に語っている。

センセーショナルな内容は「bombshell(爆弾)」と表現され、イギリス国民に物議を醸した。加えて、本の発売に合わせてヘンリー王子が出演した複数のインタビュー番組でも“bombshell”発言を続けていることが火に油を注ぎ、さらなる波紋を広げている。ヘンリー王子が露出すればするほど、イギリスメディアによる連日にわたるヘンリー王子批判もヒートアップしている。

というわけで、ロイヤルファミリーに関連した#RoyalFamily#Brothersもバズワードに。もちろん、Brothersはウィリアム皇太子とハリー王子兄弟を指している。

回顧録へのイギリス国民の反応

1カ月以上にわたる「ヘンリー報道」真っただ中の1月10日、ようやく「スペア」が店頭に並んだ。意図どおりというか期待以上に本は売れ、販売初日からハードカバー、電子書籍、オーディオブックの形態でイギリス国内だけで40万部、イギリス、アメリカ、カナダを合わせると初日に143万部を売り上げた

回顧録が歴史的ヒットを記録するベストセラーになっているのに比例して、イギリスメディアではヘンリー王子に対しての批判や攻撃がさらに強くなっている。イギリス国民の間でもヘンリー王子の支持率は下降、2020年の王室離脱前までは70%あった支持率が出版後は26%にまで下がった

けれど、筆者の周りの空気感でいえば、ヘンリー王子に対して批判一色というわけでもない。「そこまで公にする必要があったのか」という意見はあれども、実際本を読んだりオーディオ版を聞いたりした人たちは、口をそろえて「読んでよかった。メディアの取り上げ方が偏っている」と口にする。「メディアが取り上げていることを聞いて、本の内容を知った気になっては間違いだ」と。特にヘンリー王子自らが朗読しているオーディオブック版が筆者の周りでは好評だ。

ヘンリー王子が家族との確執やプライベートな内容をあそこまで公にしたことに対して「品がない」という意見はもっともだが、ヘンリー王子が暴露しなくても結局はイギリスのタブロイド紙が彼のことを卑劣に書き立て、それでお金を稼ぐ。それなら自らの人生を自分の言葉で語りたいと思うのは当然で、出版によってお金を稼ぐことは全く悪いことではない。しかも王室を離脱したヘンリー王子は、今自らの力で生計を立てなければならない状況にいる、といった同情的な意見もある。

現在の空気感をTwitterの投稿を引用して紹介したい。

ヘンリー王子に批判的な意見

"I want a family not an institution!" whines Harry as he clings on to his institutional title for dear life and then demands institutional titles for his wife and kids too!

(ヘンリーは「制度・王室ではなく家族が欲しい」と泣き言を言いながら王室の称号にしがみつき、妻と子供たちの称号を要求している)

whine(泣き言を言う)は、「ヘンリー王子がまた泣き言を言っている」といったニュアンスで最近よく耳にする単語。

好意的な意見

Done! I finished #Spare well within 36 hours of starting it. It’s not written to be liked. One wouldn’t. It’s to be respected and valued for its raw humanity and great vulnerability. With unexpectedly personal empathy, I’m grateful to #PrinceHarry for sharing his journey to date.

(読み終わりました! #Spareを読み始めてから36時間で読破しました。これは好かれようと書いたものではありません。そうではないでしょう。生の人間性と傷つきやすさは尊敬され評価されるべきです。思いがけず個人的に共感を覚える部分もあり、#PrinceHarryがこれまでの人生を共有してくれたことに感謝しています)

イギリスメディアを批判する意見

Finished #SparePrinceHarry this morning. It bears little resemblance to the leaked excerpts and reviews. Not a royalist, but found it sad, thoughtful, & sincere. I understand why he'd rather tell his own story. The tabloids have a lot to answer for.

(今朝、#SparePrinceHarryを読み終えました。本の内容はリークされた抜粋やレビューとかけ離れています。私は王党派ではありませんが、本の内容は悲しくて思慮深く、誠実であることが分かりました。彼が自分の口で真実を語りたい理由が理解できます。 タブロイド紙には答えるべきことがたくさんあります)

批判一辺倒のイギリスメディアに反して、筆者の周りでは「ドキュメンタリーを見たり回顧録を読んだりする前は、ヘンリー王子とメーガン妃に批判的だったけれど、ヘンリー王子の人間性や二人の王室内での葛藤と紆余曲折の道のりを知ったことで、カップルへ同情的な気持ちに変わった」という人もいる。

また、「ここまでドロドロした内容が世界中に知れ渡ったら、何が真実であるかはもはや問題ではない。もう家族が元通りになることはないだろう。それは本当に悲しいことだ」とロイヤルファミリーの確執に心を痛める人もいる。

イギリス国民にとって思い入れがあるロイヤルファミリーの話題だけに、ヘンリー王子に対してそれぞれの思いや戸惑い、怒りが見て取れる。

世界最悪のメロドラマはしばらく続く

ヘンリー王子側は波紋を呼ぶ発言を続けているが、イギリス王室は亡きエリザベス女王のモットー「never complain, never explain(決して不平を言わず弁明をしない)」のとおりに沈黙を続けている。とはいえチャールズ国王の戴冠式(coronation)を5月に控えているので、戴冠式にヘンリー王子夫妻を招待するか決定しなければならず、遅かれ早かれイギリス王室として何かしらの対応をヘンリー夫妻に示さないといけない。

家族のいざこざや一個人の葛藤がここまで公になると心を痛めずには報道を見られないが、イギリスで“the world's worst soap opera(世界最悪のメロドラマ)”と表現されるイギリス王室の話題はしばらく続きそうだ。

自虐(self-deprecation)皮肉(irony、sarcasm)」が得意なブリテュッシュユーモアを存分に発揮して、最後はハッピーに収まってほしいのだが・・・。

『Spare』邦訳版の発売は現在未定

ボッティング大田朋子
ボッティング大田朋子

イギリス在住ライター。アメリカ、ドイツ、インド、メキシコ、アルゼンチン、スペインに住み2016年よりイギリス在住。執筆書籍に『値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国』(朝日新書)、『ビックリ!!世界の小学生』(角川つばさ文庫)、『大好きに会いに行こう』(サンクチュアリ出版)等がある。 2017年から文部科学省検定済教科書(小・中学校外国語科)制作に参加中。世界100カ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。ブログ「世界が拠点な生き方・子育てブログ

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