『ラ・ラ・ランド』の監督デイミアン・チャゼルの新作『バビロン』が、2月10日(金)にいよいよ日本公開。ハリウッドの黄金期を、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビーをはじめとする豪華俳優陣で描いたこの映画と、映画に登場する気になる会話や英語表現を紹介します。
1920年代、ハリウッド狂騒曲を描く大作
映画『ラ・ラ・ランド』(2016)で、ゴールデングローブとアカデミーの監督賞に32歳という史上最年少で輝いたデイミアン・チャゼル。彼が2018年の『ファースト・マン』(宇宙飛行士ニール・アームストロングの伝記映画)を経て、2022年に完成させた映画が『バビロン』(原題:Babylon)です。
本作は、今年のゴールデングローブ賞で作品賞など5部門にノミネートされ、作曲賞を受賞。アカデミー賞では作曲、衣装デザイン、美術の3部門にノミネートされています(3月12日[日本時間で13日]に発表)。
1920年代、サイレント映画全盛のハリウッド黄金期を舞台とするこの作品のために、監督のチャゼルは、リサーチと世界観の構築に15年の歳月をかけたといいます。
僕ら全員が目指していたのは、初期のハリウッドを描いた素晴らしいアメリカの叙事詩を作り上げることだった。
――デイミアン・チャゼル、映画プロダクション・ノートより
それを体現するかのように、映画は序盤、ジャズミュージシャンたちの気合たっぷりな演奏、キャバレー歌手のセクシーな歌声、そして、酒とドラッグ、性の欲望が渦巻くパーティーの場面から、観客を当時の狂乱にいざないます。
野外の撮影現場のあわただしさも、今の私たちには実に興味深いものです。当時の映画は全てサイレント(無声映画)だったため、撮影では幾つものプロジェクトが隣り合って同時進行し、俳優もスタッフも右へ左へと忙しく動き回っています。それを強調する細かいカット割りに、目が回りそうになるくらいです。セットは360度の全ての景色が、当時の様子に忠実に、何もない荒野に実際に作られたそうです。
アウトサイダー、詐欺師、盗賊、はみ出し者、夢想家のグループが、故郷から逃れ、テントを張って砂漠でゼロから産業を興し、その産業が世界的な巨大企業に成長する。栄光と悲劇がそこから生まれるんだ。
――デイミアン・チャゼル、映画プロダクション・ノートより
マーゴット・ロビーによる成功を夢見てハリウッドの世界に飛び込む新人俳優、ネリー・ラロイ。ディエゴ・カルバ演じる、映画産業の一部になることを望むメキシコ移民のアウトサイダー、マニー・トレス。そして、サイレント時代のスーパースター、ジャック・コンラッドを貫禄たっぷりに演じるのは、ブラッド・ピット。誰もの演技が説得力を持ち、『バビロン』は見る人に「当時のハリウッド」を体感させる作品となっています。
気になる英語表現
ここからは、映画の中から気になる会話をピックアップして紹介します。
You either are one or you aren’t.
Nellie LaRoy: . . . I’m already a star.
Manny Torres: Oh really? What’ve you been in?
Nellie: Nothin’ yet.
Manny: Who’s your contract with?
Nellie: I don’t have a contract.
Manny: Uh-huh. So you want to become a star.
Nellie: You don’t become a star, honey. You either are one or you aren’t. And I am.
ネリー・ラロイ:・・・私はスターなの。
マニー・トレス:そうなのか。何に出てた?
ネリー:まだ何も。
マニー:どこと契約している?
ネリー:契約はしてないわ。
マニー:なるほど。つまりスターになりたいってことだ。
ネリー:スターは、なるものじゃないの。スターであるか、そうでないか。で、私はスターなの。
※ 英文は映画のセリフを一部省略しています。翻訳は編集部が行っています。
映画の序盤、ハリウッドの権力者の邸宅で開かれているパーティーに忍び込もうとしたネリーと、それに気付いたマニーの会話です。太字の部分がかっこいいと思いませんか。人は努力してスターになるのではなく、生まれついて、スターであるか、そうではないか。そして、ネリーは自信たっぷりに「私はスター」と断言しています。
You’re where you belong.
Manny: Thank you for the work, sir. I wondered if perhaps next time you or Mr. Wallach might have something for me . . . on a set? I’ll do anything. Rigging, painting, coffee, props, gags, speed, condoms – you name it. I’m ready.
Bob Levine: No. You’re where you belong.
マニー:今回は仕事を頂きありがとうございます。次の機会、あなたかワラックさんが仕事をくださるなら・・・例えば撮影現場とかで。何でもします。機材運びでも、美術でも、コーヒー担当でも、小道具でも、笑わせ役、麻薬、コンドーム——なんでも。お願いします。
ボブ・レヴィーン:不要だ。お前は今の仕事が似合ってる。
パーティーの翌朝、パーティーの仕切り役だったボブ・レヴィーンに、撮影現場で仕事をしたいとアピールする場面です。「なんでもできます」と言うマニーが受けた答えはYou’re where you belong.というセリフ。直訳すると「お前がいるべき場所」という意味で、文脈次第で良い意味にも悪い意味にも使われます。ここでは「身の程を知れ」とか「高望みするな」という意味にも取れますね。マニーはぼう然とします。見ていたこちらは、ぞくっとしました。
where you belongは次のように使うことができます。
Go back where you belong.
消え失せろ。
I finally found a place where I belong.
やっと自分にふさわしい場所を見つけた。
映画でどんな字幕が付いていたかというと、すみません、忘れました。ぜひ、映画を見て確認してみてください。といいますか、豪華絢爛(けんらん)な1920年代のハリウッドを、ぜひ体感してみてください。
映画のあらすじ
1920年代のハリウッドは、すべての夢がかなう場所。サイレント映画の大スター、ジャック(ブラッド・ピット)は毎晩開かれる映画業界の豪華なパーティーの主役だ。会場では大スターを夢見る新人女優ネリー(マーゴット・ロビー)と、映画製作を夢見る青年マニー(ディエゴ・カルバ)が、運命的な出会いを果たし、心を通わせる。恐れを知らず奔放なネリーは、特別な輝きで周囲を魅了し、スターへの道を駆け上がっていく。マニーもまた、ジャックの助手として映画界での一歩を踏み出す。しかし時は、サイレント映画からトーキーへと移り変わる激動の時代。映画界の革命は、大きな波となり、それぞれの運命を巻き込んでいく。果たして3人の夢が迎える結末は・・・?
出演&スタッフ
監督・脚本:デイミアン・チャゼル/音楽:ジャスティン・ハーウィッツ/出演:ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ他/2月10日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー/配給:東和ピクチャーズ
SERIES連載
思わず笑っちゃうような英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けする連載。講師は藤代あゆみさん。国際唎酒師として日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画の海外への翻訳出版に携わったり。シンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんと学びましょう!
現役の高校英語教師で、書籍『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』の著者、大竹保幹さんが、「英文法が苦手!」という方を、英語が楽しくてしょうがなくなるパラダイスに案内します。
英語学習を1000時間も続けるのは大変!でも工夫をすれば無理だと思っていたことも楽しみに変わります。そのための秘訣を、「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ、松岡昇さんに教えていただきます。