ベネディクト・カンバーバッチが実在したネコ画家の生涯を演じる『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』【EJ Culture映画】
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気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に真魚八重子さんが解説します。

今月の1本

『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』(原題:The Electrical Life of Louis Wain)をご紹介します。

※動画が見られない場合は YouTube のページでご覧ください。

イギリスの上流階級に生まれ、父亡きあと一家を支えるためにイラストレーターとして活躍するルイス(ベネディクト・カンバーバッチ)。妹の家庭教師エミリー(クレア・フォイ)と恋に落ちた彼は、大反対する周囲の声を押し切り結婚するが、間もなくエミリーは末期ガンを宣告される。庭に迷い込んだ子猫にピーターと名付け、エミリーのために彼の絵を描き始めるルイス。深い絆で結ばれた「3人」は、残された一日一日を慈しむように大切に過ごしてゆくが、ついにエミリーがこの世を去る日が訪れる。以来、ピーターを心の友とし、ネコの絵を猛然と描き続け大成功を手にしたルイスだった。しかし、次第にルイスは精神的に不安定となり、奇行が目立つようになる―。

夏目漱石にも影響を与えたネコ画家、ルイス・ウェインの愛の物語

19世紀末から20世紀初頭まで、ルイス・ウェインによる擬人化されたネコの絵はとても人気があった。児童書の挿絵や新聞、雑誌などに掲載されるイラスト画だ。だがこの映画でも描かれているとおり、ベネディクト・カンバーバッチ演じるルイス本人は、かなり世間知らずな人間だ。特殊な夢想家とでも言うべきか、同時期に著しく進歩していた電気の仕組みに対して、独自の論理に夢中になったりしていた。

彼の生活は苦しかった。上流社会の生まれだが、二十歳のときに父親を失い、長男であった彼は母と5人の妹の生活費を稼がなければならなかった。映画でも家の中はルイスの居場所がないほど、まさにかしましい。この妹たちは全員、生涯未婚のままだったという。

だがそんな生活の中で、ルイスは妹の家庭教師と恋に落ちる。当時の慣習で、身分の差や彼女がルイスより10歳年上であることを理由に猛反対されながら、二人は結婚に踏み切るのだ。迷い猫のピーターも加わり、やっと穏やかで愛に満ちた新生活が始まる。しかし、またしても不幸がルイスを襲うことになる・・・。

妹の1人は10代で統合失調症を発症していたが、ルイスも晩年に、統合失調症により貧困者用の精神病棟で入院生活を送ることになる。ただその事実はすぐに知られ、彼の功績を知る人々の努力で、ネコも暮らす快適な精神科病院へと転院している。

ルイス・ウェインで有名な話には、かわいらしいネコの絵が、病気の悪化とともに極彩色の点描になっていくというものがあるが、現在ではこの説の真偽は不明とされている。ルイスは絵に日付を入れておらず、この映画の中でも、彼が電気について真剣に考え、彼の電気にまつわる感覚をネコで象徴的に描いていた可能性を示している。それにもし症状によって現れた変化だったとしても、点描は個性があり、決してまがまがしいものではない。彼のサイケデリックなネコの絵はとても鮮烈で魅力的である。

『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』公式サイト

Cast & Staff 監督・脚本:ウィル・シャープ/出演:ベネディクト・カンバーバッチ、クレア・フォイ、アンドレア・ライズボロー他/公開中/配給:キノフィルムズ

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2023年1月号に掲載した記事を再編集したものです。

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ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部
真魚八重子(まな・やえこ)

映画著述業。『映画秘宝』、朝日新聞の映画欄、文春オンライン等で執筆中。著書『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『映画なしでは生きられない』『バッドエンドの誘惑』(共に洋泉社)も絶賛発売中。

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