スマホアプリや機械翻訳などの精度が上がり、グローバル化が進むビジネス環境において、今後英語の必要性はどう変化していくのでしょうか。ビジネス英語指導に従事する愛場吉子さんに伺います。
英語学習は二極化、高い英語力も習得しやすい時代
ビジネス環境においても、十分に力を発揮できる高い英語力を備えれば、ボーダーレスにやりがいのある仕事やプロジェクト、人に巡り合うチャンスは増え、結果として報酬レベルも高くなる、という現象は恐らく10年後20年後も続いているだろう。
ビジネスの進め方という観点では、同時通訳、翻訳の技術的な精度が上がり、これまで以上にグローバル会議や交渉がしやすくなると思われる。これまでは「英語ができる人のみ」が存在感を発揮していたプレゼンテーションや交渉の場でも、テクノロジーの助けにより、英語に自信がない人も母語を介した受信・発信ができ、時間がかかっていた英文メールやテキストの処理も格段に楽になっているはずだ。
それに伴い、英語学習そのものを本当に必要とする人とそうでない人が分かれていくことも予想される。必要に応じてテクノロジーの助けを借りて会議や商談、メールなどを乗り切れればOK、と考える層は学習自体をしなくなる可能性がある。一方、テクノロジーは補助的なツールと位置付け、あくまで自分の言葉でコミュニケーションを取り、グローバルマーケットでのキャリアを築こうとする層も必ず残る(と願っている)。
後者の具体的なイメージとしては、異文化環境での懇親会や会食の場で、ビジネス以外の話題についてスモールトークができたり、外国人ヘッドハンターと海外のポジションについて英語で面接を受けられたり、はたまた海外の投資家や潜在顧客に向けて、自分たちの製品やサービスを誤解なく、自身のパッションを乗せて売り込めたりする、といったものである。
文化的に適切な言語の運用力が重要になる
直接自分の言葉で、人格やパッションも含めてメッセージを発信し、ステークホルダーと信頼関係を築いていきたいと願えば、TOEIC950点レベル以上の語彙・文法知識、流暢さや自然な発音など、高い語学知識を運用できる必要がある。さらに、異文化理解や教養の側面も重要になる。socio-cultural appropriateness(社会文化的な妥当性)を備えた発話ができるためのより深い知識が必要となるだろう。
精度の高いAIが、起承転結スタイルで話した日本語をそのままパーフェクトに英訳しても、ロジックの流れが異なる英語圏の人には正しい意図が伝わりにくいだろうし、交渉の場で「それはちょっと難しいと思います」と日本語で断ったつもりでも、そのまま訳されたI think that’s a bit difficult. では、全く断っているようには聞こえない。異なる言語文化圏の人に、どのような点に気を付けて、どのよう流れで、どのような表現で話せば誤解なく伝わるのか、といった文化的に適切な言語の運用力が重要になるだろう。
朗報は、テクノロジーの賢い活用により英語学習自体が効率化し、こうした高いレベルの英語力の習得にかかる労力も、将来は激減していることだろう。海外MBA留学や海外駐在を経験しなくても、どこにいても英語漬けになれるだけの英語環境がオンライン上にあふれている。
若い頃からバーチャル空間でさまざまな国の人と過ごすことも可能だし、AIによるアダプティブなオンラインプログラムやアプリで、弱点を効率よく強化しながら語学力を鍛えることも可能だろう。大学を卒業後、ビジネス英語を学び、アメリカで転職活動をしてアメリカ企業のニューヨーク本社で働けるようになるまで、10年、1万時間を英語学習に費やした自分のような遠回りは、笑い話となる時代になることを願う。
シリーズ 英語の未来予想
愛場吉子さんのその他の記事
愛場吉子さんの本
ENGLISH JOURNAL 2023年1月号
本記事はENGLISH JOURNAL2023年1月号に掲載した特集「英語の未来」を再編集したものです。
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
- スマホ相手に恥ずかしさゼロの英会話
- 制限時間は6秒!瞬間発話力が鍛えられる!
- 英会話教室の【20倍】の発話量で学べる!
SERIES連載
思わず笑っちゃうような英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けする連載。講師は藤代あゆみさん。国際唎酒師として日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画の海外への翻訳出版に携わったり。シンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんと学びましょう!
現役の高校英語教師で、書籍『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』の著者、大竹保幹さんが、「英文法が苦手!」という方を、英語が楽しくてしょうがなくなるパラダイスに案内します。
英語学習を1000時間も続けるのは大変!でも工夫をすれば無理だと思っていたことも楽しみに変わります。そのための秘訣を、「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ、松岡昇さんに教えていただきます。