機械翻訳では対応できない?誤解なく伝える適切な言語運用力【どうなる?英語の未来③】

スマホアプリや機械翻訳などの精度が上がり、グローバル化が進むビジネス環境において、今後英語の必要性はどう変化していくのでしょうか。ビジネス英語指導に従事する愛場吉子さんに伺います。

英語学習は二極化、高い英語力も習得しやすい時代

ビジネス環境においても、十分に力を発揮できる高い英語力を備えれば、ボーダーレスにやりがいのある仕事やプロジェクト、人に巡り合うチャンスは増え、結果として報酬レベルも高くなる、という現象は恐らく10年後20年後も続いているだろう。

ビジネスの進め方という観点では、同時通訳、翻訳の技術的な精度が上がり、これまで以上にグローバル会議や交渉がしやすくなると思われる。これまでは「英語ができる人のみ」が存在感を発揮していたプレゼンテーションや交渉の場でも、テクノロジーの助けにより、英語に自信がない人も母語を介した受信・発信ができ、時間がかかっていた英文メールやテキストの処理も格段に楽になっているはずだ。

それに伴い、英語学習そのものを本当に必要とする人とそうでない人が分かれていくことも予想される。必要に応じてテクノロジーの助けを借りて会議や商談、メールなどを乗り切れればOK、と考える層は学習自体をしなくなる可能性がある。一方、テクノロジーは補助的なツールと位置付け、あくまで自分の言葉でコミュニケーションを取り、グローバルマーケットでのキャリアを築こうとする層も必ず残る(と願っている)。

後者の具体的なイメージとしては、異文化環境での懇親会や会食の場で、ビジネス以外の話題についてスモールトークができたり、外国人ヘッドハンターと海外のポジションについて英語で面接を受けられたり、はたまた海外の投資家や潜在顧客に向けて、自分たちの製品やサービスを誤解なく、自身のパッションを乗せて売り込めたりする、といったものである。

文化的に適切な言語の運用力が重要になる

直接自分の言葉で、人格やパッションも含めてメッセージを発信し、ステークホルダーと信頼関係を築いていきたいと願えば、TOEIC950点レベル以上の語彙・文法知識、流暢さや自然な発音など、高い語学知識を運用できる必要がある。さらに、異文化理解や教養の側面も重要になる。socio-cultural appropriateness(社会文化的な妥当性)を備えた発話ができるためのより深い知識が必要となるだろう。

精度の高いAIが、起承転結スタイルで話した日本語をそのままパーフェクトに英訳しても、ロジックの流れが異なる英語圏の人には正しい意図が伝わりにくいだろうし、交渉の場で「それはちょっと難しいと思います」と日本語で断ったつもりでも、そのまま訳されたI think that’s a bit difficult. では、全く断っているようには聞こえない。異なる言語文化圏の人に、どのような点に気を付けて、どのよう流れで、どのような表現で話せば誤解なく伝わるのか、といった文化的に適切な言語の運用力が重要になるだろう。

朗報は、テクノロジーの賢い活用により英語学習自体が効率化し、こうした高いレベルの英語力の習得にかかる労力も、将来は激減していることだろう。海外MBA留学や海外駐在を経験しなくても、どこにいても英語漬けになれるだけの英語環境がオンライン上にあふれている。

若い頃からバーチャル空間でさまざまな国の人と過ごすことも可能だし、AIによるアダプティブなオンラインプログラムやアプリで、弱点を効率よく強化しながら語学力を鍛えることも可能だろう。大学を卒業後、ビジネス英語を学び、アメリカで転職活動をしてアメリカ企業のニューヨーク本社で働けるようになるまで、10年、1万時間を英語学習に費やした自分のような遠回りは、笑い話となる時代になることを願う。

愛場吉子(あいば・よしこ)
愛場吉子(あいば・よしこ)

Q-Leap 株式会社共同代表。中央大学ビジネススクール客員教授。コロンビア大学修士課程修了。日欧米での経験を生かし、ビジネス英語指導に従事。著書に『オンライン会議を成功させる実用フレーズ辞典[音声DL付]』『【CD-ROM・音声DL付】話す英語(実戦力徹底トレーニング)』(共にアルク)他。

シリーズ 英語の未来予想

愛場吉子さんのその他の記事

愛場吉子さんの本

ENGLISH JOURNAL 2023年1月号

記事はENGLISH JOURNAL2023年1月号に掲載した特集「英語の未来」を再編集したものです。

「ChatGPT」スキルブックシリーズ

《第1弾》 AI翻訳研究の第一人者が教える! ChatGPTの翻訳活用術!

ChatGPTなどの生成AIの登場によって、ChatGPT語を使ったコミュニケーションに、新たな時代の扉が開きました。本書では、AIによる翻訳技術を上手く使いこなし、外国語の壁を乗り越える「これからの時代に求められる」英語スキルを身につけられます。英語のメール、プレゼン、広告、レポート、etc...、あらゆる英語の発信に対応するためのノウハウが満載です。

【本書の特長】

まず、AIを上手く操るために言語をどのように捉えればよいのかを理解し、ChatGPTへの指示(プロンプト)をどう書いていくのか、という活用方法を深めていきます。

技術の進化に左右されない核心的な言語スキルが身につく一方、今日からすぐに使える便利なテクニックも満載です。

本書の構成
Chapter 1 AI翻訳の進化の核心を掴む
Chapter 2 AI翻訳を駆使する「言語力」を身につける
Chapter 3 ChatGPTで翻訳する
Chapter 4 実践で学ぶChatGPT翻訳術
Chapter 5 AIと英語学習の未来予測

購入特典:プロンプトテンプレート集
本書掲載のプロンプト(ChatGPTへの指示)のテンプレートを集めたウェブサイトを用意しました。本書の内容を、今日からすぐに実践に移すことができます。

《第2弾》 新時代の独学スキルを身につけて、生成AIと英語の壁を乗り超える!

ChatGPTなどの生成AIは、英語学習のあり方を劇的に変えています。その力を活用することで、習得までの距離はグッと縮まります。活用しない手はありませんが、いざ目の前にすると、うまく使えていないなあ、と思う人が多いのではないでしょうか。

本書は、AIと英語を知り尽くした研究者が、AIを「最高の学習パートナー」にするためのノウハウを書いたものです。これからのAI時代に、英語を学ぶ人の必読書になっています。

【本書の特長】

AIで英語独学する思考が身に付く
ツールの単なる機能や、プロンプト(生成AIへの指示)の例を紹介するだけでは「使いこなす」ことにはつながりません。本書では、生成AIの能力を引き出すスキル・フレームワークを理解することで、AIを使って自分の力で学び抜く思考術を身につけます。真の意味でAIを使いこなすための内容になっています。

多様な英語に挑むノウハウを伝授
TOEICなどの英語試験、ビジネス英語、英会話、ライティングなど、様々なジャンル・技能に関する実践例を収録しています。今、あなたが必要としている英語力を向上させるためのヒントが、必ず見つかるはずです。

AIの力を借りる英語実践術も紹介
最終章では、生成AIに英語の仕事を遂行させる実践的な活用法を紹介します。自分自身の英語力だけではなく、AIの力も借りてタスクに挑む、総合的な英語力が身につけられます。

本書の構成
Chapter 1 英語学習とAI活用の土台を築く
Chapter 2 AIの力を最大化 ―英語学習のメタ言語―
Chapter 3 TOEICの壁をAIと超える
Chapter 4 ビジネス英語の壁をAIと打ち破る
Chapter 5 AIに仕事を遂行させる英語実践術

SERIES連載

2025 04
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