通訳の仕事は機械翻訳に奪われてしまうのか!?【どうなる?英語の未来①】

インターネット、スマホアプリ、機械翻訳など、英語の学習やコミュニケーションは科学の力で便利になるばかりです。通訳は今後なくなる仕事と言われていますが、フリーランス通訳者・翻訳者の関根マイクさんは、通訳という仕事が消滅するのは、テクノロジーの発展が理由ではないと予想しています。何が通訳の仕事を消滅させるのか?

人間のコミュニケーションは文字だけでは表現できない複雑性がある

実は、通訳(と翻訳)は数十年前から「今後なくなる仕事トップ10」的なリストの上位をキープし続けている。機械翻訳は、誕生したばかりの頃こそ使い物にならなかったが、今や、めきめきと精度を上げ、翻訳者や通訳者の仕事を奪いつつある・・・という現実はまだ訪れていない。

確かに昔と比べて翻訳と通訳に使えるツールは増えたが、機械は肝心なところで間違うことがまだあるし、その間違い方と場所の破壊力が抜群だったりするので、ユーザーとして完全に信頼を置けるものにはなっていない。日本で多くのユーザーが使う某自動翻訳サービスも、なんの知らせもなしに突然パラグラフを丸ごとすっ飛ばしたりするので、プロの仕事にはとても怖くて使えない。

私は会議通訳者として、自分がキャリアを終えるまでに「使える」自動通訳機が生まれることに懐疑的である。理由はシンプルで、人間のコミュニケーションは文字だけでは表現できない複雑性があるからだ。私の仕事で言えば、通訳者は文字として表現される言葉に加えて、話者の感情やトーンを再現しなければならない。いや、正確に言えば、再現した方が「人間らしく」自然に聞こえる。会議の終了時間が迫っていれば、「空気を読んで」スリムな訳出をすることで、時間を節約することもある。ここにプロ通訳者の一つの価値がある。

機械翻訳・通訳は文字の解釈だけでまだ苦労している段階なので、プロ通訳者・翻訳者との差は一般人が思うよりずっと大きいと考えた方がよい。「機械翻訳に仕事を奪われた」と主張するプロは、本当にプロだったのか、ということだ。

通訳が消滅するとしたら、その原因は「人」かもしれない

一方で、これから通訳者を目指す人にとっては、多様な教育・情報ツールが存在する今の時代はとても恵まれていると思う。知らない情報はすぐに検索すればいいし、従来の通学型の通訳学校で学ぶ選択肢もある。昔と違い、プロになるためのキャリアパスは明確なので、あとは本人のやる気次第なのだ。

それほど環境が整っているのであれば、優秀な通訳者が毎年続々とデビューしているのだろう、と思いきや、全くそんなことはない。通訳会社は常に優秀な人材が足りないと嘆いているし、私も現場に出ていてそれを痛感している。結局のところ、「コミュニケーション」という曖昧なものを極めようとする通訳のような専門職は、生計を立てられるようになるまでかなりの時間を要する。かといって、時間をかけてもプロになれる保証は全くないので、道半ばで挫折してしまう人が多いのだろう。

これは今に始まったことではない。多くの英語学習者が経験するように、はっきりとした目標や終わりが見えない中で頑張り続けるのはとても難しいのだ。私がいつまでたっても減量できないように。

私は、もし通訳という仕事が消滅するのであれば、それはテクノロジーの発展が理由ではなく、むしろ英語(外国語)というコミュニケーションを極めよう、という気概を持つ人間がいなくなるときであると考える。そしてそれは、思いのほか不可能な未来ではないのかもしれない

関根マイク
関根マイク

フリーランス通訳者・翻訳者。FIFA(国際サッカー連盟)公式通訳者。日本会議通訳者協会理事。著書に『通訳というおしごと』『同時通訳者のここだけの話』(共にアルク)がある。

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ENGLISH JOURNAL 2023年1月号

記事はENGLISH JOURNAL2023年1月号に掲載した特集「英語の未来」を再編集したものです。

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