ここ数年、日本で人気のアフタヌーンティーを楽しむ活動、「ヌン活」。本場イギリスのアフタヌーンティーはどのようなものなのか、アフタヌーンティー研究家の藤枝理子さんに詳しくお話しいただきます。第2回は、年始のティータイムのしきたりと、英国流7つのティータイムをご紹介します。
一年の最初に飲みたい幸運をもたらす Good luck tea
The year 2023 has come! 新しい年を清々しい気持ちでお迎えのことと思います。
日本には、おせち料理やお雑煮など、お正月ならではの食べ物がありますが、新年ならではのお茶があるのをご存じですか?その名も「大福茶(おおぶくちゃ)」。一年の無病息災を願い、「若水(わかみず)」と呼ばれる縁起の良い水で入れたお茶に、結び昆布や福梅(ふくうめ)、黒豆や金箔(きんぱく)を加えるなどした縁起茶のことです。
では、日本の風習と同じように、イギリスにも新年ならではのティータイムのしきたりがあるのでしょうか?
前回のコラムで英国流のクリスマスのティータイムを紹介しましたが、イギリス人にとってクリスマスは日本のお正月と同じ。普段は離れて暮らしている家族が帰省して集まり、暖かな時間を一緒に過ごします。日本ではクリスマスというと、12月25日や前日のクリスマスイブをイメージしますが、実は、 イギリスではクリスマスは1カ月以上にも渡るキリスト教最大の祝祭。年が明けて1月6日まで続き、ティータイムには日本のお正月と同じように縁起ものが存在します 。
イギリス人にとって、この時期欠かせないティータイムのお供が 「ミンスパイ(Mince pie)」 です。ミンスミートをパイ生地で包んで焼いたものと聞くと、ひき肉が入ったパイを思い浮かべる方もいるかと思いますが、この名前は昔の名残。現在は、 ドライフルーツやスパイスをたっぷり混ぜ込んだ小ぶりの甘いお菓子 です。 クリスマス当日の12月25日から12日間、毎日1個ずつ食べ続けると、次の年も幸せで健康に暮らせる という言い伝えがあり、とにかく町中ミンスパイであふれています。大人も子供も、そしてサンタさん(イギリスでは、ファーザークリスマス[Father Christmas]と呼びます)やトナカイまでもが大好物。イブの夜にはサンタさんのためにミンスパイとシェリー酒を用意してベッドに入ります。
ということは、最低でも12個×人数分プラスアルファが必要になります。私がイギリスで紅茶留学中に滞在していたご家庭には、ミンスパイ専用の大きな缶がありました。親戚一同分のミンスパイを焼くのですが、その数100個以上!家中が甘い香りに包まれていました。イギリス人は、とにかくこのミンスパイが大好き。なんと、クリスマスシーズンの消費量は平均して一人16個。25日まで待ちきれず、「アドベント(イエス・キリストの降誕を待ち望む期間のこと)」を迎えるとティータイムのお菓子としても、よく登場します。
長いクリスマスの祝祭期間が幕を下ろすのは、1月6日のキリスト教の祝日「エピファニー(Epiphany)」 。キリストの降誕を祝うために東方の三賢者(Magi)がベツレヘムへたどり着いたといわれるこの日、クリスマスティーと一緒に最後のミンスパイを口にした後、クリスマスツリーを片付け、クリスマスシーズンを静かに終えるのです。
英国流7つのティータイム
紅茶の国、イギリスの一日は、すてきな紅茶シーンに囲まれています。「英国人は、仕事の合間にティータイムを取るのではなく、ティータイムの合間に仕事をしているよね!」なんてちゃかされることがあるくらい、ティーカップとは大の仲良し。 朝の目覚めの一杯、モーニングティー(Morning Tea)から始まって、一日を終えて眠りにつくまで、暮しの中に自然にティータイムが組み込まれ、まるでお茶を飲みながら生活のリズムを刻んでいるかのようです 。一杯の紅茶は、心豊かに暮らすための大切なエッセンスなのです。
そんな日々の暮らしを彩るティータイムには、それぞれ名前が付けられていて、 シーンによってティーカップやコーディネート、マナーなどにも違い があります。ここからは、そんなイギリスのお茶時間を簡単にご紹介します。
Early Morning Tea
朝、目覚めに飲む一杯、イギリス流の朝茶。 ベッドの上でゆったりとお茶をいただくという意味で、ベッドティー ともいわれています。
Breakfast Tea
朝食と一緒にいただく紅茶。「To eat well in England, you should have breakfast three times a day.(イギリスでおいしい料理を食べたければ、一日に3回朝食を取ればいい。)」は、小説『月と6ペンス』でおなじみ、イギリス人作家のサマセット・モームが残した言葉。その言葉通り、伝統的な英国式朝食はボリュームたっぷり。大きなティーポットで入れたイングリッシュブレックファーストティー がぴったりです。
Elevenses
朝の慌ただしい仕事や家事が一段落した頃に、気分転換も兼ねてちょっと一息。 お気に入りのマグカップ片手に、ビスケットと一緒にいただくリフレッシュのティータイム です。
Midday Tea
午後3時~4時くらいのおやつタイム、休憩を兼ねた気軽なティーブレイク。 紅茶と大きめのスコーン2個がセットになった「クリームティー(Cream Tea)」というメニューも人気 です。
Afternoon Tea
イギリスの紅茶文化を象徴するアフタヌーンティー。 休日や特別な記念日などに行われるエレガントな午後のお茶会 。いわば「英国流の茶道」ともいえるような堅苦しいお約束事もある、五感で楽しむ総合アートです。
High Tea
紅茶と共にいただく軽い夕食を兼ねたティータイム。 19世紀後半に、北イングランドやスコットランドの農村部から始まった習慣で、仕事帰りのお父さんを待って夕方5時くらいから家族一緒にいただくカジュアルなティースタイル です。
After Dinner Tea
ディナーの後、ダイニングからリビングへ移動して、暖炉の火を眺めながらリラックスして過ごす、くつろぎのティータイム。 一口サイズのミントチョコと一緒にスピリッツティー(洋酒を少し垂らして香りづけした紅茶) をあわせれば、スムーズに夢の中へと引き込まれそうです。
いかがでしょうか、まるで日課表のようにティータイムの時間割があるのが、イギリス流のティーライフです。普段の暮らしは、仕事に家事や子育てとあっという間に一年が過ぎていきます。そんな慌ただしい毎日の中に、ティータイムというリズムを刻み込むだけで、ゆったりとしたくつろぎの時間が生まれ、普段の暮らしが変わっていきます。
ティータイムは自分と向き合う時間でもあります。紅茶を飲みながら、自分の素直な気持ちに耳を澄ませるひととき・・・それは、日々の生活に彩りをそえる自分へのご褒美。2023年のスタート、気分新たに「一杯の紅茶で輝く毎日」を実践してみませんか?
藤枝理子さんの本
『仕事と人生に効く 教養としての紅茶』が、 「ビジネス書グランプリ2023」 のリベラルアーツ部門にノミネートされました。(結果発表の2月16日まで、投票は締め切りました)
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