お二人の翻訳家がリレー形式でお届けする「EJ Culture 文学」の連載です。今回、アメリカ南部に暮らす翻訳家、有好宏文さんが今回取り上げるのは、黒人女性を飾る帽子とそれをなりわいとする母子の物語絵本『Tiara’s Hat Parade』です。
帽子は私たちの美しさや心意気、気品を際立たせる
Tiara’s Hat Parade, Kelly Starling Lyons, Nicole Tadgell (2020)
アラバマ州バーミングハムから南西に州間高速道路20号を走ると、グリーン郡で「ブラックベルト」にぶつかる。深南部のジョージア、アラバマ、ミシシッピにまたがって肥沃(ひよく)な黒土が帯状に伸び、そのため黒人奴隷が働かされていた場所なので、二つの意味でこう呼ばれている。かつて綿花栽培で栄えたこの地は、現在ではアメリカ国内でも指折りの貧しい地域だ。人口の大半を黒人が占めている。
「ブラックベルトの入り口」と呼ばれるグリーン郡ユートー市で、地域の課題を話し合う会議に参加した。郡判事や学校関係者は、未成年の飲酒にはじまる非行に頭を悩ませていた。対策の一つとして、今年3月に郡内の子供たち150人くらいが定期的に集まる「Read Greene Read」という読書会を始めたと判事が教えてくれた。読み書きに慣れてもらうことだけが目的ではない。地域社会とのつながりを失わないでほしいと住民たちは願っている。
課題図書に選ばれた絵本『Tiara’s Hat Parade』を読んでみた。主人公の少女ティアラの母親が営む帽子工房には、教会の日の上等な帽子や、特別な日の華やかな帽子を求めて町じゅうの女性が訪れる。ティアラはそれが自慢だ。ところが、近くに帽子を安く売る店ができ、意気消沈した母親は工房を閉めてしまう。母親の帽子が地域にとってどんな意味を持っているのか思い出してもらうため、ティアラは「帽子パレード」を計画する。
巻末の解説によれば、黒人女性にとって帽子は特別な意味を持っているそうだ。「何世代にもわたって、黒人の女は、人から向けられるまなざしを帽子で操ってきた。帽子は敬意を払うよう求めるし、私たちの美しさや心意気や気品を際立たせる」。絵本の中で母親がティアラに帽子モデルの歩き方を教える場面にも、帽子と自尊心との関係がはっきり表れている。
“Hold your head high, Tiara,” Momma would say as she slid her Sunny-Day Special on my head. Tangerine with gold feathers fanning out, I felt like a bird showing off its colors. “Now strut. That’s right, baby. Show them how it’s done.”
「顔を上げておきなさい、ティアラ」とママは言い、〈晴れの日スペシャル〉を私の頭に載せたものだった。ミカン色の生地から金色の羽根が広がっていて、体の色を見せびらかす鳥みたいな気分がした。「さあ、堂々と歩いて。その調子、ベイビー。どんなものか、見せてやりなさい」
“hold your head high” という表現は、「顔を上げておく」という文字どおりの意味に加えて、「逆境の中で毅然(きぜん)とした態度を保つ」という比喩的な意味も持っている。ブラックベルトの子供たちはどんな気持ちでこれを読むのだろう。あの町のことを考えると、絵本に込められたものが浮かび上がってくる。
今回紹介した本
※ 本記事は『ENGLISH JOURNAL』2022年8月号に掲載した記事を再編集したものです。
Top image by Sergio Carabajal from Pixabay
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