英国流、クリスマスのティータイムの愉しみかた【英国式アフタヌーンティーの世界を通して学ぶイギリス文化】

ここ数年、日本で人気のあるアフタヌーンティーを楽しむ活動、「ヌン活」。実際に、イギリスのアフタヌーンティーはどのようなものなのか、アフタヌーンティー研究家の藤枝理子さんに本場イギリスのアフタヌーンティーについて、詳しくお話しいただきます。第1回は、5週間の期間をかけて準備するイギリスのクリスマスを紹介します。

紅茶が好き過ぎて、紅茶留学

はじめまして、アフタヌーンティー研究家の藤枝理子です。今回より、「英国式アフタヌーンティーの世界を通して学ぶイギリス文化」というテーマで連載をスタートします。イギリスでは紅茶やアフタヌーンティーの知識は「紳士・淑女が身に付けたい教養の一つ」と言われています。ぜひ、ティーカップを片手に「心ときめく紅茶とアフタヌーンティーの世界」を味わいながら、イギリス文化に触れていただければと思います。

イギリスへ「紅茶留学」をしてしまったほど、私は紅茶とイギリス文化が大好きです。なぜそこまで紅茶が好きになったのか、記憶をたどってみると、幼い頃、父が仕事で渡英する機会が多く、帰国後に話を聞いたり写真を見たりするうちに、紅茶やアフタヌーンティーという世界に興味を持つようになったことがきっかけだったと思います。時は昭和40年代、紅茶史でいえば日本で「紅茶輸入自由化」が行われ、朝食にリプトンイエローラベルや日東紅茶の黄色いティーバッグが登場し、トーストと甘いミルクティーという組み合わせが浸透しつつあった頃の話です。

会社員時代は、お給料と休みは全て、日本全国や海外の茶博物館、陶磁器美術館、ティーロード探検に充てるという生活をしていました。それでも、紅茶とイギリス愛が止まらず、「紅茶をライフワークにしたい!」と一大決心をして20代の頃に会社を辞め、「紅茶留学」。本物のイギリス文化としての紅茶を一般家庭の暮らしから学び、同時にヨーロッパ各国の生活芸術を探究しました。帰国後は、都内の自宅開放型サロンで「英国スタイルで学ぶ紅茶教室」を主宰し、25年以上がたちます。

実際に現地で暮らしてみて分かったことは、紅茶は単に喉の渇きを潤すドリンクではなく、暮らしを潤す文化だということでした。イギリスのティータイムというと、華やかでゴージャスなイメージを持たれる方も少なくないと思いますが、そこにはギャップがあります。普段の暮らしの中にあるティータイムは、一言で表現すると 「Cozy」 という単語がぴったり。居心地がよく、暖かくてやすらぎの時間です。誰かと大切な時間を共有したり、距離を縮めたりできるコミュニケーションツールでもあり、また、自分と向き合う大切な時間でもあります。

5週間前から準備が始まるイギリスのクリスマス

クリスマスはイエス・キリストの降誕を祝うためのお祭りですが、イギリスの国家宗教はカトリックとプロテスタントの中道を行く「英国国教会(Anglican Church)」です。クリスマスの祝い方にも、イギリスらしさが垣間見えます。

現在、イギリスで定着しているクリスマスを祝う習慣の多くは、19世紀のヴィクトリア時代に始まったものです。ヴィクトリア女王がドイツ出身のアルバート公と結婚したことによって、ドイツとイギリスが融合した文化になっています。

教会暦によると、クリスマスに向けた祝祭が始まるのは、クリスマスの4週間前の日曜日、アドベントサンデー (Advent Sunday) ですが、イギリスのクリスマスシーズンは、さらにその1週間前の日曜日から始まります。この日はスターアップサンデー(Stir-up Sunday)と言い、イギリスのクリスマスには欠かせない「クリスマスプディング (Christmas pudding) 」を仕込む日です。

イギリスの小説や映画にもよく登場するクリスマスプディングの歴史は、15世紀までさかのぼります。時代は「プラム・ポタージュ(Plum pottage)」と呼ばれ、牛肉をメインにプラムやスパイスが入った濃厚なお食事系のスープでした。

17世紀に入るとパン粉や砂糖が加わり「プラム・ポリッジ(Plum porridge)」という甘くてやわらかいおかゆのようなものに変わり、クロスに詰めたプディングも登場するようになります。18世紀になると木製のプディングボウルや陶器のプディングベイスンが生まれ、牛肉の代わりにスエット (suet) [牛の腎臓周りのケンネ脂]が使われるようになり、19世紀にヴィクトリア女王によって、クリスマスプディングが英国王室のデザートに採用され、クリスマスディナーの席に欠かすことができないイギリスらしいデザートとして定着しました。

そんなクリスマスプディングを作る際には、楽しい3つの約束事があります。

  • クリスマスの5週間前の日曜日に作りましょう
  • 13種類の材料を使いましょう
  • 家族で願い事を唱えながら東から西の方向へ時計回りに混ぜましょう

まず、5週間前に仕込むのは、プディングを熟成させる期間が必要だからです。昔はクロスに包み、木につるして数カ月間熟成させることもあったようです。現在は陶器のプディングボウルに詰めて蒸すのが主流です。次の13種類というのは、キリストと12使徒を表しています。最後の混ぜ方は、東方の三賢者(Magi)がベツレヘムへ向かい移動した方向です。プディングの生地が完成したら、最後にプディングチャーム(指輪や6ペンスなど)を忍ばせておきます。それぞれのチャームには、指輪=結婚、6ペンスコイン=幸運など意味があり、翌年の運勢を示すと言われています。12月25日のクリスマス当日、ディナーの後のデザートとして登場し、ブランデーをかけて火を灯し、青い炎があがればクライマックス。食べながら、引き当てたチャームで盛り上がります。

フルーツにスパイスを合わせたクリスマスティー

クリスマスの季節は、訪問するゲストの数が増える時期です。ティータイムには伝統的なクリスマスケーキも用意します。クリスマスケーキと言えば、日本ではイチゴのショートケーキが王道ですが、イギリスでは洋酒に漬けたドライフルーツがたっぷりと詰まったフルーツケーキが定番です。アドベントサンデーの朝に焼き、第二アドベント、第三アドベントと日曜日が来るごとにラム酒を含ませ熟成させ、ゲストが訪れるごとに薄くカットして、紅茶と共に出します。

クリスマスのおもてなしに登場するのは、クリスマスティー。オレンジやアップルといったフルーツにスパイスを合わせたブレンドティーが好まれます。これは、新約聖書に登場する東方の三賢者がベツレヘムへ向かう際に、黄金・乳香・没薬を携えていたことから、クリスマスは、別名「香りの祭典」とも呼ばれるためです。紅茶がナショナルドリンクのイギリスでは、アドベントカレンダーに紅茶が入ったアドベントティー(Advent tea)やイギリスのクリスマスには欠かせないマルドワインのフレーバーを紅茶に香り付けしたマルドワインティー(Mulled wine tea)も人気。クリスマスハンパー(※1)に入っていると大喜びです。

ティータイムのテーブルセッティングには、定番クリスマス・クラッカー(※2)をお忘れなく。お茶の時間には、小さいサイズのティータイムクラッカーを添えます。ミニクラッカーの両端を引っ張って開け、中に入っているジョークの書かれた紙片で笑った後は、暖かなクリスマスティータイムの始まりです。

  • ※1クリスマスハンパー:蓋付きのバスケットの中に飲み物や食材を詰めたもの。日本のお歳暮のようにお世話になったかたにギフトとして贈る習慣があります。

  • ※2クリスマス・クラッカー:イギリス独特の筒型をしたクラッカー。両端を引っ張ると音が鳴り、中からギフト、紙の王冠やジョークが書かれた1枚の紙片などが入っています。

藤枝理子(RICO FUJIEDA)
藤枝理子(RICO FUJIEDA)

英国紅茶&アフタヌーンティー研究家。大学卒業後、ソニー株式会社に勤務。紅茶好きが嵩じイギリスへ紅茶留学。帰国後、英国スタイルにて紅茶とイギリス文化をトータルで学べる「大人の教養サロン」を主宰。著書に、『仕事と人生に効く 教養としての紅茶』など多数。インスタグラム https://www.instagram.com/rico_fujieda/

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