コロナ禍の影響を受け、インバウンド観光にさまざまな変化が起こっていると言う観光ガイドの鹿目雅子さん。AIの導入が進み、訪日外国人の旅行スタイルに変化が起きている中、通訳案内士が生き残るために求められているものとは、「心が触れ合う旅を創り出せる案内士」と考える鹿目さんに詳しく伺います。
ロボットガイドと通訳案内士が手を取り合う未来
コロナにより大打撃を受けたインバウンド観光。実はそれ以外にもさまざまな変化が起きている。その代表的なものに、「訪日外国人の旅行スタイルの変化」と「AIの導入」が挙げられる。これらの変化の中で通訳案内士が生き残るために何が必要になるだろうか。キーワードは「本物」だ。
まずは「訪日外国人の旅行スタイルの変化」から見ていこう。観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、2013年に約6割だった個人旅行が、2019年には約8割に増えている。一般的に、個人旅行客は日本人の日常が感じられる観光客の少ない場所や、日本独自の文化・自然体験を求める傾向がある。いわゆる、authentic Japan(本物の日本)に触れたいのだ。
この傾向は今後も続き、外国人観光客は地方に分散すると予想される。意外な所が観光地になるかもしれない。となると、東京や京都などのメジャーな観光地だけを案内していては、観光客のニーズに応えられなくなる。これからは、ニッチな場所を案内できる人や得意分野を持っている人が、より一層求められるだろう。
もう一つの「AIの導入」についてはどうだろうか。今は、チャットボットなどの対話型AIの導入が進んでおり、スマホで質問すると観光情報を瞬時に入手することができる。自動翻訳機も性能が上がり、旅館や土産物屋での積極的な利用が勧められている。今後は、ガイディングをこなすAIロボットが本格的に導入されそうだ。
実際、多言語対応のロボットガイドが既に誕生している。例えば、シャープ製のモバイル型ロボット「ロボホン」。旅行者がロボホンと街歩きをすると、ロボホンがGPSに反応し、観光スポットの歴史や文化を紹介してくれる。会話や写真撮影、日本の踊りもでき、おまけにかわいい。
「心が触れ合う旅」を創り出せるのはやはり人間の通訳案内士だ
しかし、私はロボットガイドが通訳案内士の仕事を脅かす存在になるとは思わない。なぜなら、通訳案内士は単に歴史や文化を伝えるのではなく、自身の体験談やジョークを交えながら場を盛り上げるからだ。そこに通訳案内士の個性が発揮される。
また、神社の手水舎(ちょうずや)舎で手を洗った後にそっとハンカチを渡すといった、ちょっとした気遣いも人間の通訳案内士だからこそできること。AIの技術により「心に残る旅」は演出できるかもしれないが、「心が触れ合う旅」を創り出せるのは、やはり人間の通訳案内士だと思う。今後、ロボットガイドをレンタルする観光客が出てくるだろうが、人間のgenuine hospitality(本物のホスピタリティー)も引き続き、富裕層を中心に求められるはずだ。
今は、資格を持たなくても有償で観光案内ができるようになり、通訳案内士の未来は必ずしも楽観視できるものではない。しかし、本物の日本を自ら開拓し、質の高いガイディングとホスピタリティーを提供できる通訳案内士は、何年先でも引っ張りだこだろう。私自身は、ロボットガイドと漫才でもしながら、観光客を楽しませるガイドになっていたい。
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本記事はENGLISH JOURNAL2023年1月号に掲載した特集「英語の未来」を再編集したものです。
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