ロンドンの寒い冬。エネルギー料金高騰に悩む日々【LONDON STORIES】

イギリス、ロンドンで20年以上暮らすライターの宮田華子さんによる、日々の雑感や発見をリアルに語る連載「LONDON STORIES」。月刊誌『ENGLISH JOURNAL』の人気連載がONLINEで再スタートしました。悩む寒い冬、ロンドナーたちの第一の悩みは「エネルギー費の削減」。節電・節ガスにどんな工夫をしているのでしょうか。

ロンドンに暮らして20年ほどだが、この冬、特に昨年12月前半は「在英以来、最も寒い冬」と思ったぐらい、しびれるほどの寒さだった。氷点下の日が続き、最も寒かった日はマイナス7度を記録した。暖房をつけても家の中が暖かくならず、家の中で吐く息が白かった

しかし問題は「寒い」だけではない。イギリスは現在エネルギー料金(ガス・電気)が高騰している。「寒い」→「暖房をつける」という普通のことをしているだけで、恐ろしい額の請求書が来てしまう。寒さが厳しくなり始めた頃から、誰かと会うたびに、まず開口一番「先月のガス・電気代、幾らだった?」と口を突いて出てしまう。

政府のエネルギー価格保証も「焼け石に水」

そもそもこのエネルギー料金の高騰は、一昨年のガス卸値価格の急騰から始まった。これにより、中小エネルギー供給会社が相次いで倒産。わが家が契約していたエコ系エネルギー会社も倒産し、大手に吸収合併された。この段階でドンと料金が上がったが、昨年数回料金の引き上げがあり、一昨年と比較すると月々あたりの請求額は3、4倍にもなっている。具体的には、以前は冬でも月1万円程度の支払いだったが、現在はかなり頑張って節電・節ガスをしても3、4万円の請求書が届く。

この状況に対し、イギリス政府が何も手を打たなかったわけではない。昨年4月、地方自治体が約8割の世帯に対し、一律150ポンド(約2万3500円※)を「エネルギー料金分」として支払った。

※1ポンド=156.61円(2023年1月3日のレート)で計算。以下同。

昨春、地方自治体から「150ポンド還元します」の手紙が届いた。

そして全世帯に対し、昨年10月から今年3月までの半年間で合計400ポンド(約6万2700円)が電気料金からマイナスされるスキームも始まっている。具体的には月当たり66ポンドまたは 67ポンド分がマイナスされた電気料金の請求が来る仕組みだ。

しかし・・・元々の料金が高騰しているので67ポンド引いてくれたところで高額だ。12月に届いたガス・電気料金の請求書は自分史上最高額だった。「これ、ホントに67ポンドマイナスされているの?」と詳細を確認してしまったほどだったが、この話を知人にしたところ「スマートメーターを見ていると、家族の誰かがお風呂に入るたびにどんどん料金があがっていくの。仕方なく今は1日置きにしかバスタイムを楽しめない」とため息をついていた。

イギリスの多くの家庭が導入している「スマートメーター」。電気およびガスのメーターとBluetoothでつながっており、電気ガスの使用状況と料金が一目で分かる。政府が普及を推し進めていることもあり、無料で設置できる。これまであまり気にしていなかったが、この冬は節電・節ガスをする上で大変役に立っている。

12月頭の大寒波到来。ホームレスを心配した日々・・・

12月頭に「大寒波」が到来したとき、多くの人の脳裏をよぎったのは「それでも自分は室内で過ごせているけれど、こんなに寒くてはホームレスの人たちが死んでしまう」ということだった。この状況に対して、地方自治体や慈善団体、宗教施設が即行動を起こし、公民館や教会等を開放。「夜通し暖房が入っている場所で寝泊まりできます」と広報した。そして政府も特に寒さが厳しい300地域を選び「Cold Weather Payment(寒冷地域への支払い)」を発表。氷点下となった週は、低所得者などを対象に暖房費として週25ポンド(約4000円)を支給することとなった。

政府が発表した「寒冷地域への支払い」を伝えるBBCオンライン版の記事。

エネルギー料金高騰に加え、インフレも進行している。「食べ物か暖房、どちらかを選ばないとやっていけない」という世帯も増えているので、少しだけだが胸をなで下ろしたニュースだった。

節電・節ガス方法を必死に検索

大寒波はしばらく続いたが、クリスマス前から寒さが落ち着いた。現在は5~10度程度の「温暖化後の普通の冬の寒さ」に戻っている。しかし冬なので暖かいわけではなく、電気・ガス代が高いことにも変わりない。例年、この時期は「冬場の結露やカビ対策」の話で盛り上がったものだったが、この冬は「必死の節電・節ガス方法」に人々の関心が高まっている。ネットにもこの手の情報があふれ、皆、参考にしている様子だ。

頭から足先まですっぽり包み込むスキーウェアのような部屋着が人気となり、湯たんぽを購入する人も多い。そして保温力の高い水筒も大人気だ。温かいドリンクを飲んで暖を取ろうとすると、1日に何度もお湯を沸かすことになる。その度にエネルギーを使用してしまうので、お湯を沸かす回数を減らすために水筒にたっぷりとホットドリンクを作っておくのだ。

ポータブル式暖房器具も売れている。イギリスの家庭用暖房は温水パネルを使用したセントラルヒーティングが基本である(エアコン式暖房は皆無)。ボイラーから供給される温水が家中に張り巡らされたパイプを通って各部屋のパネルを温めるしくみだ。しかし、節ガスのためにパイプが凍結しない程度に低い温度設定にしてボイラー稼働を最小限に抑え、人が集まる部屋だけをポータブル式暖房器具で暖める方法を採用している家庭も多いと聞く。

実はわが家もこの方法で節ガスしている。夫(会社員)は週1回出勤のコロナ禍ルールがまだ続いており、私も在宅で仕事をしている。お互いオンラインミーティングがある場合は音を立てないかそのときだけ別の部屋に移動し、基本は同じ部屋で仕事をすることにした。すると1日あたり1ポンド(約157円)程度の節約になっている。しかしどんなに節電・節ガスに励んでも、1日あたりのStanding charge(全く電気・ガスを使わなくても掛かる基本料金)が高いので、根本的な解決にはならない。

イギリスの冬は長い。4月に雪が降った年もあり、この冬がいつまで続くのかはまだ誰にも分からない。昨年から「創造性(クリエイティビティー)を発揮して、エネルギー問題を乗り切る」的な表現を目にするようになったが、インフレも重なっている現在、「創造性って何をすればいいの!?」というのが多くの人の本音だろう。一人一人の努力では乗り越えられないこともあると実感するが、国民の批判を発端に昨年2度の首相辞任劇があったイギリスでは、「市民が挙げた声はきっと国に届く」という希望がある。その希望と期待にどう応えるのか?皆が国の動向に注視しながら冬を過ごしている。

宮田華子
文・本文写真:宮田華子(みやた はなこ)

ライター/エッセイスト、iU情報経営イノベーション専門職大学・客員教授。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

本文写真:宮田華子 トップ写真:moofushi/Adobe Stock

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