どんどん広がる&ますます身近に――イギリス、ベジタリアン&ヴィーガン事情【LONDON STORIES】

ロンドンで20年以上暮らすライターの宮田華子さんによる、日々の雑感や発見をリアルに語る連載「LONDON STORIES」。今回お話しいただくのは、イギリスのベジタリアンやヴィーガンを取り巻く現状。この数年で大きく変化してきているようです。

微妙な味だったソーセージの正体

約20年前、ロンドンに来たばかりの頃のことだ。スーパーで買い物をしていて、冷凍食品売り場で何気なく生ソーセージ(カンバーランドソーセージ)を購入した。

イギリスの生ソーセージは冷蔵タイプが一般的で、日本でいう「フランクフルトソーセージ」の半分ぐらいの大きさのソーセージが6本程度入ったものが1パックだ。豚肉とハーブ類が腸詰されたこのソーセージは、オーブンでカリッと焼いてマスタードをたっぷり付けて食べると美味しい。一人暮らしだった私は一気に1パックは食べ切れないので、「冷凍だとありがたいな」と思った。そして紙製パッケージに印刷された焼きたてのソーセージの写真もおいしそうに見えた。

家に帰り、早速2本だけオーブンに入れて焼いて食べたのだが・・・。率直な感想は「???何これ?」。ハーブの風味や塩加減は悪くないけれど、微妙な味だった。いつもおいしく食べている生ソーセージの「肉々しさ」が一切ない。食感もかなり違っていた。

当時私はフラットシェア(=シェアハウスで暮らすこと)をしていたのだが、食後の片付けをしながら、そんなをフラットメイトのトムに話した。すると彼はパッケージをチラ見して「それ、ベジタリアン用のソーセージだから肉じゃないんだよ」と教えてくれた。

よく見ると確かに「Vegetarian」の文字が書かれていた。「そのブランド、イギリスのベジタリアンフードのトップメーカーだから、どのスーパーにもあるよ。ハナコは気付かず買っちゃったんだねえ」。ブランド名は「Linda McCartney」。ポール・マッカートニーの亡き妻が立ち上げたベジタリアンブランドだ。なるほど味が違っていたわけだ。

「間違って買った」のは事実だが、パッケージをよく見なかった後悔よりも、普通のスーパーで簡単かつ安価でベジタリアン食品が購入できることに驚いた。それが私とベジタリアン食品とのリアルな「初遭遇(first encounter)」だったので、個人的には印象深い出来事だったが、別の言い方をすれば20年前でも「うっかり手に取ってしまう」近い場所に存在する程度に、ベジタリアン食は浸透していた。

種類もどんどん増えている「Linda McCartney」の製品。

その後のロンドン暮らしでベジタリアンやヴィーガンの人と時折出会ったが、当時はまだ外食におけるベジタリアン&ヴィーガン料理のバラエティーは限られていた。

15年ほど前、友人グループの中にヴィーガンのマシューがいた。一緒に食事に行く際、彼は「僕に気を遣って行くお店を変えたりしないで」「どの店に行っても何かは食べられるから」「豆腐が大好きだから日本食レストランにも行きたい」と言っていた。

しかし、魚のだしを使う料理が多い日本食レストランに連れて行っても、彼が食べられる料理は当時ほとんどなかった。結局、毎回イタリアンレストランに行っていたのだが、それはジェノベーゼやペペロンチーノなど、動物性食材を一切使わないパスタが必ずあるからだった。前菜にサラミやチーズの盛り合わせを注文しても、もちろん彼は食べない。

また、グループで食事に行く場合、シンプルに人数分で割って支払う「割り勘形式」が一般的なイギリスでは、どう考えても彼に割が合わない。一度支払いに傾斜を付けようと提案したのだが、「そういうものだと思ってるし。一緒に皆でご飯を食べるのが目的で来てるんだから別にいいんだよ」と笑顔で答え、きっちり割り勘金額を支払っていた。

若年層に拡大するヴィーガン志向

あれから10年以上の時が過ぎた現在、当時のことが「懐かしい」と感じるぐらいロンドンにおけるベジタリアン&ヴィーガン界隈の光景はダイナミックに変化した。

特にこの5年、ベジタリアン&ヴィーガン志向が急速に高まっている。サステナビリティーに関心がある若者層に、その傾向が強い印象だ。市場調査会社のYouGovがイギリスで行った2022年12月の調査によると、調査に参加した人のうち、ベジタリアン自認者は6%、ヴィーガン自認者は2%だが、18~24歳の9人に1人(11%)がベジタリアンを自認し、55歳以上のベジタリアン(4%)の2倍以上の数値だ。

またヴィーガンではない18~24歳のうち、「2023年1月にヴィーガン的食生活を試したい」と答えた人は12%にも上る。年齢を問わず、「これからベジタリアン&ヴィーガンになろうかな」「時々肉や魚を食べるけれど、植物性のものをメインに食べたい」と考える浮動層(フレキシビリアン)も多いため、ベジタリアン&ヴィーガン市場の成長に繋がっている。

若者層のヴィーガン志向が分かる調査結果。

この流れに伴い、外食産業も変わってきた。今では「ベジタリアン&ヴィーガンメニューが一切ないレストラン」を探す方が難しい。どれが「ベジタリアン料理」でどれが「ヴィーガン料理」なのか、表記も分かりやすく提示され、お店を選ばずに外食に行けるようになったので、ベジタリアン&ヴィーガンの友人たちとの行動範囲も広がった。

そして、スーパーで購入できるベジタリアン&ヴィーガン食品も、この数年で一気に増えた。大きなスーパーに行くと、分かりやすく「ベジタリアン&ヴィーガン専門コーナー」が設けられていて、20年前の私のように「間違って買う」こともない。代替ひき肉などの調理用素材や、ハンバーグやベーコン、ミートボールなどの半調理済食品も豊富。インドカレーや中華風春巻など、レトルト食品のバラエティーも広がっている。

ベジタリアン&ヴィーガンの冷凍食品コーナー。

ベジタリアンのカップルから学んだこと

約5年前にベジタリアン・カップルであるジャクソンとアナのカップルと友達になり、月に1、2回のペースでパブやレストランに行くようになった。

ジャクソンは両親の影響で生まれたときからベジタリアンなので、肉・魚の味を全く知らない。アナはジャクソンと出会うまではベジタリアンではなかったが、ジャクソンの考え(環境問題と動物愛護)に共感したため、「基本的にはベジタリアンだが、友人と外食する際は時々肉や魚も食べる」という食生活を送っている。

2人と一緒に食事に行っても彼らは私に理念を押し付けないどころか、「皆が一斉にベジタリアンになってしまったら、食肉・水産業に携わる人が皆、失業してしまうよね。こうした産業も文化だから、要はバランスなんだと思う」と言っている。こんな2人なので、一緒にレストランに行っても、私は彼らの前で気兼ねなく肉や魚料理を注文できる。

そんなふうにしばらくは外食を楽しんでいたのだが、仲良くなるにつれ2人は時々私と夫(日本人)を家に招いてくれるようになった。彼らがもてなしてくれる手作りのベジタリアン料理は本当においしく、そしてボリュームもたっぷりだ。

時間をかけてローストした根菜類はどれも甘味があり、野菜だしで作る濃厚グレービーソースとよく合う。何種類ものチーズとキノコがたっぷり入ったグラタンは絶品だ。スパイスをふんだんに使った、バジルソースを巻き込んだペストリーはアナの得意料理。私たちがあまりに「おいしい!」と言うので、最近は頼まなくても余った分を「お持ちかえり用」に包んでくれる。

去年呼んでもらったクリスマスディナー(一部)。この他にも前菜からデザートまで品数たっぷりのフルコースだった。

変わっていくかもしれない「代替」という概念

彼らのもてなしのたびに新しい食材や調理法を知り、いつしか私の野菜料理に対する概念が変わっていった。なんとなく「メイン料理には肉か魚が入ったものがいい」と思い、いつもなんらか動物性のものを常備していたのだが、その固定観念があっさり崩れたのだ。

加え2人がごちそうしてくれた、アーモンドミルクを使ったデザートを食べて以来、本家牛乳よりアーモンドミルクの方が好みであることも知った。最近わが家では、特に気負った気持ちもなく、「そういえば今日はベジタリアンな夕食だった」という日が多くなった。

ベジタリアン&ヴィーガン食の浸透と多様化が、非ベジタリアン&ヴィーガンの私の食生活にも影響を与えていると思うと興味深い。

肉・魚・乳製品の「代替」食品が急激に伸びている現在だが、この20年で大きく変化したように、これから先の20年、さらにベジタリアン&ヴィーガン界隈は変わっていくのだろう。そのうち「代替」という概念すら変化していくのでは?と個人的には予想している。現在「代替」と呼ばれている食品の味がさらに向上し、「その食品独自の味」としておいしいと認識される日も近いかもしれない

テイクアウトの寿司&お弁当チェーン「Wasabi」では代替鮭を使った「Xalmon Sushi」が人気。味はカニカマに似ている。

そんな未来を想像しながら、来週わが家にやってくる2人のためにベジタリアンメニューを考えている今日この頃。まだまだ寒い日が続くので、温かい汁物からスタートしようか?それとも2人が大好きなかき揚げにしようか?来客の顔を思い浮かべながら考える時間も楽しいものだ。

宮田華子
文・本文写真:宮田華子(みやた はなこ)

ライター/エッセイスト、iU情報経営イノベーション専門職大学・客員教授。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

本文写真:宮田華子
トップ写真:MaddieRedPhotography/Adobe Stock

連載「LONDON STORIES」

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