翻訳チャレンジ!You don’t understand!を自然な日本語に訳してみよう!【洋画・海外ドラマの翻訳】

実は、簡単な英語こそ自然な日本語に訳すのが難しいことをご存じですか?映像翻訳スクールを運営する三村拓史さんが、ポイントや訳例を紹介します。

自然な日本語に翻訳するための6ステップ

前回の記事では、自然な日本語に翻訳するための6ステップをお伝えしました。

こちらの6つのステップでしたね。

1)話し手の人物像を考える
2)聞き手との関係性を考える
3)話し手の置かれた状況を考える
4)英文の意味を理解する
5)話し手の頭の中をイメージする
6)頭の中のイメージを話し手が日本語で話すとしたらどう言うかを考える

今回は、この6ステップを使って、実際に洋画や海外ドラマのセリフを翻訳していきたいと思います。

You don’t understand! をどう訳す?

You don’t understand! は、洋画や海外ドラマで頻繁に登場するセリフですが、実は結構訳しにくい場合が多いです。そんなことを言うと、「全然訳しづらくなんかないけど」と思う方もいるかもしれません。

確かに、英文和するのであれば何も難しくありません。「あなたは分かっていない! 」と訳せばよさそうです。

でも、忘れてはならないのは、これが日常会話ではなく、セリフだということです。セリフとして考えると、「あなたは分かっていない!」では少し物足りない気がします。

You don’t understand! が話される状況は?

私の経験上、You don’t understand! というセリフが使われる状況は、主に次の2つの場合があります。

A)状況を理解していない相手に警告する場合

B)同情してくる相手に反論する場合

では、もう少し詳しく見ていきますね。

A)状況を理解していない相手に警告する場合

この場合のYou don’t understand! は、アクション映画やアドベンチャー映画などで強大な敵などが待ち受けているのに、「楽勝だよ」と言って強大な敵に無謀な戦いを挑もうとしている人に対して言うセリフです。

イメージしやすいように状況をお伝えします。

ファンタジー・アクション映画のワンシーン。

腕自慢の戦士のもとに、「村が○○に襲われた。助けてほしい!」とついた兵士が助けを求めに来る。

○○はその一帯を支配している強大な敵で、今の主人公の力ではとても太刀打ちできる相手ではない。

それなのに主人公は、「任せろ。俺が○○を倒してやる!」と意気込んで、飛び出そうとする。

そこに、主人公と行動を共にする賢く慎重派の仲間(男性)が、「やめたほうがいい。勝てるわけがない」と言って制止する。

しかし、主人公は意に介さず、「あんな奴、楽勝だ。一瞬で倒せる」と言って、仲間の制止を振り切り走り出そうとする。

その主人公に向かって仲間が“You don’t understand!”と叫ぶ

すると、主人公は落ち着きを取り戻し、仲間の説得に耳を貸すようになる。

さて、このような状況で、あなたならYou don’t understand! をどう訳しますか? 自然な日本語に翻訳するための6ステップを使って、実際に訳してみましょう。

1)話し手の人物像を考える
→賢く慎重派の男性

2)聞き手との関係性を考える
→主人公とは仲間同士

3)話し手の置かれた状況を考える
→無謀な戦いに挑もうとする主人公を、どうにか制止しようとしている

4)英文の意味を理解する
前回の記事で述べた通り、英文の意味を理解する際には、英英辞典を使うのがおすすめでしたね。今回もCollins Dictionaryで調べてみると、understandは次のように出ています。

  1. VERB
    If you understand someone or understand what they are saying, you know what they mean.

訳すセリフはYou don’t understand! なので、上記に“don’t”を追加するとこうなります。

If you don’t understand someone or understand what they are saying, you don’t know what they mean.

5)話し手の頭の中をイメージする
→4の意味を踏まえて、話し手の頭の中をイメージします。

6)頭の中のイメージを話し手が日本語で話すとしたらどう言うかを考える
→1~5を踏まえて、実際に日本語で話すとしたらどう言うかを考えてみましょう。

~THINKING TIME~





いかがでしょうか?自然な日本語に翻訳できましたか? 6ステップを踏んで考えた訳は、自然な日本語になっていると思います。

ご参考までに私の訳をお伝えすると・・・

「君は何も分かっていない!」
「勘違いも甚だしい!」
「勘違いにも程がある!」

では、続きまして、もう1つの場合を見てみましょう。

B)同情してくる相手に反論する場合

こちらも状況をお伝えします。

ミステリードラマのワンシーン。

最愛の人を殺された男が、その殺人犯と思われる男を人質にして立てこもっている。

「周りは完全に包囲した。おとなしく人質を解放しろ!」と警察が拡声器で呼びかけるが、立てこもっている男からはなんの返事もない。

人質がいるために、警察はうかつに踏み込めないので、立てこもっている男に電話をかけて説得を試みる

刑事:警察です。落ち着いて話しましょう。あなたの望みはなんですか?

男:俺は死んでも構わない。だが、それは復讐を果たしてからだ。こいつに生きる価値はない。

刑事:そんなに興奮しないで。最愛の人を失ってつらい気持ちは分かりますが・・・。

男: You don’t understand!

そう言って、電を切る。

さて、このような状況で、あなたならYou don’t understand! をどう訳しますか? 今回も、自然な日本語に翻訳するための6ステップを使って、訳してみましょう。

1)話し手の人物像を考える
→最愛の人を殺され、復讐に燃える男性

2)聞き手との関係性を考える
→立てこもり中の男と警察という関係

3)話し手の置かれた状況を考える
→人質をとって立てこもっている状況

4)英文の意味を理解する
→先ほどもお伝えしましたが、understandはCollins Dictionaryに次のように出ています。

  1. VERB
    If you understand someone or understand what they are saying, you know what they mean.

訳すセリフはYou don’t understand! なので、上記に“don’t”を追加するとこうなります。

If you don’t understand someone or understand what they are saying, you don’t know what they mean.

5)話し手の頭の中をイメージする
→4の意味を踏まえて、話し手の頭の中をイメージします。

6)頭の中のイメージを話し手が日本語で話すとしたらどう言うかを考える
→1~5を踏まえて、実際に日本語で話すとしたらどう言うかを考えてみましょう。

~THINKING TIME~





いかがでしょうか? 自然な日本語に翻訳できましたか?

おそらく、A)状況を理解していない相手に警告する場合とは異なる訳になったのではないでしょうか? それでOKです。状況が異なれば訳も異なって当然なのです。そして、6ステップを踏んで考えた訳は、自然な日本語になっていると思います。

ご参考までに私の訳をお伝えすると・・・

「お前なんかに分かるもんか!」
「お前なんかに分かってたまるか!」
「お前に何が分かるってんだ!」

字幕翻訳のルール「1秒=4文字」

ここまで、You don’t understand! の訳に関して、A)とB)の場合についてお伝えしてきました。でも、もしかしたら、私の訳よりも、良い表現が思い付いている方もいるのではないでしょうか?

えば、こんなふうに・・・

A)状況を理解していない相手に警告する場合
「甘く見るな!」

B)同情してくる相手に反論する場合
「何も知らないくせに!」

実は、今回の私の訳例はだいぶ原文に忠実な訳にしてあります。

でも、私の専門である字幕翻訳には制限字数があるため、原文に忠実な訳では字数オーバーになってしまうことがあります。そして限られた字数で原文の意図を伝えるために、意訳をすることもあります。

例えば、今回のYou don’t understand! の場合、ネイティブの方なら1.5~2秒程度で話します。字幕翻訳では「1秒=4文字」というルールがあるので、1.5~2秒の場合は、6~8文字程度で翻訳する必要があります。

では、せっかくなので、A)の場合とB)の場合について、6~8文字程度で自然なセリフに翻訳するとどうなるかを考えてみましょう。

その場合のポイントをお伝えしますね。

それは、自然な日本語に翻訳するための6ステップで、最後の6)に「○○文字程度」を追加します。つまり、こうです。

6)頭の中のイメージを話し手が、○○文字程度の日本語で話すとしたらどう言うかを考える。

では、A)、B)それぞれのYou don’t understand! について、6~8文字程度の日本語に訳してみましょう。

~THINKING TIME~





いかがでしょうか?自然な字幕に翻訳できましたか?

ご参考までに、私が考えた訳例は以下のとおりです。

A)状況を理解していない相手に警告する場合
「甘く見てはダメだ!」
「油断大敵だ!」
「身の程知らず!」

B)同情してくる相手に反論する場合
「分かるもんか!」
「知った口をきくな!」
「何も知らないくせに!」

このように、限られた字数でセリフの意図を伝えるためには、原文に忠実な訳では難しいため、字幕翻訳では優先順位の低い情報をカットしたり、別の言葉に言い替えたりする必要があります。

次回は、そんな奥の深い字幕翻訳について、もっと詳しくお伝えする予定です。実際に、字幕翻訳にもチャレンジしていただきますので、楽しみにしていてくださいね。

では、またお会いしましょう!

三村拓史(みむらたくし)
三村拓史(みむらたくし)

キネマ翻訳倶楽部スクール代表。大学4年生の時に書店で見つけた「なりたい!!翻訳家」(大栄出版)を読んだことがきっかけで、字幕翻訳家を志す。大学卒業後、大手の映像翻訳スクールに3年以上通うものの、プロの字幕翻訳家にはなれずに中退。その後、スクールの先生が個人的に主宰している勉強会に参加し、書籍やスポーツ番組などの下訳を経験。その先生の紹介で、人手不足の映像翻訳会社(スクールの運営会社)に入社。約17年間で300本以上の洋画や海外ドラマの字幕翻訳、字幕リライトに携わる。プロの字幕翻訳家が書いた字幕をチェックした数は、500本以上。

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