食べる前には感謝を込めて「いただきマンモス」でごあいさつ!英語で言うと・・・?【アンちゃんの死語の世界】

言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんの人気連載「今よみがえる 死語の世界」。第11回は、食事の前のあいさつを取り上げます。そう、「いただきます」・・・ではなく「いただきマンモス」です!

実は復活したかもしれない「いただきマンモス」

「なるへそ」を取り上げた前回の記事の中で、高校3年の娘が突然「いただきマンモス!」と言ったことに触れました。娘に「ええ!?その言葉どこで聞いたと?」と尋ねたら、「分からん。私が作ったかも?」という返事が。もちろん、そんなわけがありません。「いただきマンモス」は、1980年代に超はやっていた言葉です。立派な死語だと思ったけれど・・・ワンチャン生き返ったのかも?

私はその後、次女(高1)と三女(中2)にも「いただきマンモス」について聞きました。三女の答えは「中学生はそんなしょうもない言葉は使わんやろう!?小学生はたまに使うけど」で、次女は「まあ、ふざけてるときに高校生はたまに使うかもしれんけど、ちょっとダサいな」と答えたのでした。

そこで今日は、今の若者たちも使っているかもしれないこの不思議な「いただきマンモス」について、皆さんと一緒に考えたいと思います。

娘たちの答えを考慮すると、「いただきマンモス」は立派な死語とまでは言えないかもしれません。でも、「死にかけ語」、あるいは「死んだほうがいい語」、はたまた「死んだけど復活した語」のいずれかの枠には入るかもしれないですね。ちなみに、この分け方とネーミングはアンちゃんオリジナルです。みんなも使っていいよ!

では今日も楽しく解説します!

「いただきマンモス」はこうして生まれた

「いただきマンモス」は、「いただきます」と「マンモス」のかばん語(二つの単語を組み合わせて一つの単語にしたもの)です。「マンモス」は英語のmammothから来ています。mammothには「巨大な、膨大な」という意味があり、何かが「とてもデカい」ことを表すときに使われます。

私が日本で初めて「マンモス」を耳にしたのは、「マンモス校」という言葉を通じてでした。私の子供が通っていた小学校はとんでもなく生徒数が多くて、周りのママたちが「これはマンモス校だね!」と言っていたんです。英語ではこういう使い方をしませんので、「マンモス校」は和製英語だと言ってもいいと思います。英語では、My kids go to a huge school.とかMy kids’ school is huge.と言います。

1983年、歌手で俳優の故・西城秀樹さんが「ハウスバーモントカレー」のCMで「いただきマンモス」というセリフを使ったことで、この表現は一般にも広まりました。

発祥はこのCMですが、これをもっとはやらせたのが、のりピーこと歌手の酒井法子さんです。当時アイドルだった酒井さんはすごく人気があり、彼女がよく使っていた単語や表現は「のりピー語」と呼ばれるようになりました。のりピーが「いただきマンモス」を気に入って使って「のりピー語」となり、その結果、「いただきマンモス」はさらに全国的に広がっていったというわけです。

ちなみに酒井さんは、年テレビに出演した際に、「のりピー語」についても語っていました。

大人ののりピー語「ファーストやっピー」って?

「いただきマンモス」以外にも、流行した「のりピー語」はたくさんあります。

  • マンモスうれピー:「とてもうれしい」という意味。これは分かりやすいですね。
  • やっピー:「こんにちは」「やっほー」などの意味。あいさつの言葉としていろいろなシーンで使えます。
  • ファーストやっピー:「おはようございます」の意味。早い(fast)「やっピー」⇒「こんにちは」より早いあいさつだから「おはよう」というわけです。

「ファーストやっピー」については、現在「大人ののりピー語」としての使い方もあり、その場合は「こんなの初めて(first)」という意味になるようです。

外来語や和製英語を勉強する人間からすると、この「ファーストやっピー」は面白過ぎます。外国人どころか、一般の日本人にすら分かるわけがない表現です。アンちゃんも使おかな・・・。

のりピー語があまりに面白過ぎるから、英語ではなんて言うのか、少し文を見ておきましょう。「いただきマンモス」ももうすぐ出てくるからね!

「マンモスうれピー!」

I am so happy!
I’m pumped!
I’m super excited!
I’m ecstatic!
I’m chuffed!

pumpedは「気分が高揚する、ワクワクする」、ecstaticは「恍惚とした,有頂天になった」、chuffedは「喜んで、喜んだ」という意味です。めっちゃうれしくてワクワクしている気持ちを表現しています。

「やっピー」

How’s it going?
What’s going on?
How are ya?
You good?
What’s up?
How are you doing?
How ya doin’?
Morning.
Hey.

「やっピー」はあいさつの言葉なので、「調子はどう?」という英語のフレーズをはじめ、いろいろな表現ができると思います。

「いただきマンモス」は英語でなんて言う?

それでは、「いただきマンモス」に戻りましよう。

以前も書いたのですが、日本に来て間もない頃、私は「いただきます」を「(今からご飯を)食べよう」くらいの軽い意味だと捉えていました。英語に訳したらLet’s eat!です。

実際、最近の日本の社会では、まさにこれに近い状態になりつつあるとも感じます。しかし「いただきます」は本来、食事を作ってくれた人への感謝の気持ちを表す言葉です。そして、命を捧げてくれた動物や植物に「ありがとう」と言うチャンスでもあります。つまり、「いただきます」は「命をいただき感謝しています」が省略された形です。

とはいえ、「食べよう」という意味で使っている人たちもいますから、これに当てはまる英語の表現も考えていきますね。まず、一般的な英語はLet’s eat.でしょう。感謝の気持ちはあまり入っておらず、とてもニュートラルな表現です。

他にもいろいろなバリエーションがあるから見ていきましょう。

食事を作った人が「ご飯できたよ!(だから食べよう)」と言いたいときは、次のようなフレーズが使えます。

Lunch is ready!(※昼食)
It’s dinnertime!(※夕食)
Come and get it!
It’s chow time!

chowは「食事、食べ物」という意味の単語です。

夕食の際にもうちょっとフォーマルな言い方をしたいなら、

Dinner is served.
Dinner is on the table.

Dinner is served.はすごくフォーマルな食事会で使われる表現ですが、一般の家庭でも使われています。例えば、お母さんがすごく頑張ってめっちゃおいしいものが出来上がった日に、みんなが席に着いた後、その食事をテーブルに並べて、自慢げにDinner is served.と言うことがあります。

食べる側の人は、こんなふうに言います。

Let’s eat.
Let’s dig in!
Tuck in, everybody!

dig inには「食べ始める、かぶり付く」、tuck inには「腹に詰め込む、腹いっぱい食べる」という意味があります。

続いて、例文も見てみましょう!

(子供たちに向かって)ねえみんな、降りてきて。夕ご飯できたよ!
Hey kids, come down. Dinner’s ready!

めっちゃおいしそう!いただきマンモス!
Wow! It looks awesome! Let’s dig in!
Wow, it looks amazing! Let’s eat!
It looks so good. Tuck in, everybody.

ご飯(夕食)ができました。
Dinner is served.
Dinner is on the table.

「いただきます」で命に感謝する

「いただきます」に、命をいただくことへの感謝の意味があることを私が初めて知ったのは、日本に来てから16年が過ぎた頃でした。「いただきます」の英訳は、すでに書いたようにLet’s eat.や、Thank you for this meal.だと言われたり本に書かれていたりしていることがほとんどです。英語圏と日本では宗教観の違いもあり、「いただきます」はなかなか英語に訳しにくいところがあります。

ポイントは、「誰に感謝するのか」ということだと思います。もちろん、日本語者も英語話者も、ご飯を準備してくれた人に感謝する気持ちを持っているのは同じでしょう。

ただ、「いただきます」などの、食事の前のあいさつや祈りには少し違いがある気がします。

仏教や神道では、命を捧げてくれた動物や植物に対して感謝します。一方、キリスト教が土台になっている多くの英語圏の国では、食べ物を与えてくれた神様に感謝するのが一般的です。言い換えるならば、仏教・神道の世界観では全ての命が平等です。対して、キリスト教の世界観では、人間は特別に作られていて、神様が人間のために動物と植物を与えてくれたと考えます。そのため、食べ物を与えてくれた神様に向かって感謝する、となるわけです。聖書には、人間は動植物の管理をして命を大事にするよう書かれているのですが、動植物に感謝するという行為は、関連産業に従事する人たち以外にとっては、あまり一般的ではないと思います。

敬虔(けいけん)なキリスト教信者は、食べる前にお祈りをします。神様に、「私たちのためにこの素晴らしい食べ物を与えてくださって本当にありがとうございます」と言います。聖書に、全ての良いものは神様から頂くと書いてあるので、多くの人にとって、お祈りを通して神様に感謝するのは当たり前のことなのです。

神様へ捧げる感謝の言葉

では、その祈りの言葉がどのような内容なのかも見ていきましょう。

God is great and God is good.
Let us thank Him for our food.
By His blessings, we are fed.
Give us Lord, our daily bread.
Amen. (author unknown)

神は偉大であり良いお方。
食べ物をお与えくださった神に感謝します。
神の祝福によって、私たちは食べることができます。
主よ、我々に日々の糧をお与えください。
アーメン。(筆者不明)

Bless, O Lord, this food to our use, and us to thy service.
And keep us every mindful of the needs of others.
In Jesus’ name. Amen. (author unknown)

主よ、私たちのため、この食事を祝福し、主のために働く私たちも祝福してください。
そして、他者の必要とすることを心に留めさせてください。
イエス様の御名によってお祈りします。アーメン。(筆者不明)

こういったフォマールなお祈りをする人もいますし、めっちゃカジュアルなお祈りをする人もたくさんいます。神様の隣にいる感覚で、「神様、ありがとう!感謝してます!」みたいな感じです。

God, thank you so much for this great food and the great family you have given me to eat it with.
神様、このおいしい食べ物と、それを一緒に食べる素敵な家族を与えてくれてどうもありがとうございます。

祈りの中に、作ってくれた人への感謝を込めた言葉もあります。

God, thank you so much for this awesome food, and my mom who made it for us.
神様、この最高の食べ物と、それを作ってくれたお母さんに感謝します。

日本の「いただきます」と違って、ご飯を作ってくれたお母さんへの直接的な「ありがとう」ではなく、神様に向けて「素敵なお母さんをありがとう!」と言っているわけです。もちろん、お母さんもその祈りを聞くことで「ああ、私は感謝されているんだ!」と思えますから、そんなに大きな違いはないような気もします。

いろいろな感謝の気持ちを表すフレーズ

感謝つながりで、いろいろな感謝を表す英語のフレーズを紹介します。前置詞のtoで「誰に対して」、forで「何に対して」感謝しているのかを区別して表すことができます。

I am thankful to God for my family.
素敵な家族を与えてくれた神様に感謝しています。

I am thankful to my parents for sending me to college.
大学に行かせてくれた親に感謝している。

I am thankful to my husband for making breakfast this morning.
今朝、朝食を作ってくれた夫に感謝しています。

I am very thankful to the doctors for helping me.
私を助けてくれた医師たちにとても感謝しています。

thankfulの言い換え表現はgratefulです。

I am grateful to God for my family.
I am grateful to my parents for sending me to college.
I am grateful to my husband for making breakfast this morning.
I am very grateful to the doctors for helping me.

感謝の言葉だけで新たに記事が一つ書けそうなくらいです。これだけ覚えれば、かっこよく感謝の気持ちを伝えられますよ!

まとめ

この記事を執筆したのがきっかけで、酒井法子さんに興味を持つようになりました。人々が話す言葉に変化を起こせるなんて、影響力のある人はすごいなあ!と思うのは私だけ?毎年、新語・流行語大賞」にノミネートされた言葉を見るときも同じように思います。その言葉の多くは、有名なアスリートやお笑い芸人が使い出して流行したものです。

とにかく、「いただきマンモス」は今の若者から見ると超ダサいのかもしれませんが、日本語に大きな影響を与えたと言っても過言ではないと思います。

そしてこの記事が、皆さんが日本とアメリカの世界観の違いを考えるきっかけになったら、それは何よりもうれピーことです。やっぱり、のりピーに感謝しないと!マンモスありがとう!

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

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