「ガスライティング」「トローリング」って知ってる?SNSでよく見る英語をネイティブが解説

アメリカで生まれ、日本で暮らし、博多弁を操る言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが、SNSにまつわる英語表現を解説します!今回は、「ガスライティング」など、SNSでもよく見かける、知っておきたい英語を取り上げます。

日々生まれる新しい英語

言葉を勉強すればするほど、「確実」とか「正しい」と言い切れないことが増えてきます。

例えば、去年まで使っていた言葉がぱったり使われなくなったり、今まで名詞としてしか存在していなかった言葉が急に動詞として使われるようになったり。言葉の意味もどんどん変わります。

なので、なかなか「これが正しい英語!」「これが正しい日本語!」と言い切れません。

一体、誰が「正しい」と決めるのでしょうか?私は、それを決めるのは一般の人々だと思います。ある言葉づかいについて、どんなに言語学者や教師が「変」とか「間違っている」と言ったとしても、多くの人が使って定着すれば、いずれその「間違った」言葉は「正しい」言葉になるでしょう。

言葉は生きものなので、新しく生まれたり消えたりします。最近は、インターネットのおかげで変化のペースが特に早くなっています。私は英語のネイティブスピーカーだけど、わからないインターネット用語は山ほどあります。日々新しい言葉が生まれたり消えたりして、正直「ついていけん!」と叫びたくなります。

今回は、今SNSで広がっている単語について話していきたいと思います。前の記事では、ハッピーな略語を紹介しましたが、今日はかなりダークな表現について話していきたいと思います。

ghosting

さて、ghostingから始めよう。

最近よくSNSで見られる現象に、「名詞の動詞化」があります。前の記事でも話したfriendや、FacebookLINEZoomなどは、全部動詞として使われるようになりました。

同じように、「おばけ」を表す名詞のghostも、最近動詞で使われるようになりました。

この場合、今まで交際があった人と、説明なく連絡を絶つことを意味します。SNSだけで使われているわけではありませんが、今はSNSで連絡し合うことが多いので、SNSでよく見ます。

主に恋愛の意味で使われていますが、友達同士で使う場合もあります。こうした行為を名詞でghosting(ゴースティング、自然消滅)と言います。

ちょっと文を見ていきましょう。

Yeah, she’s ghosting me. I haven’t heard from her in days.
うーん、彼女から一方的にゴースティングされてる。数日間、連絡が来ていない。

Sounds like you are being ghosted to me.
なんか、(あなたは)縁を切られてるっぽいよね。

No idea why I’m being ghosted. She won’t answer any of my texts.
なんで音信不通なのか、ちっともわからない。彼女は急に全然返事をくれなくなった。

I am texting her every day, but nothing. I think she’s ghosting me.
毎日彼女に連絡しているけど、返事なし。ばっくれられたかも。

ずっと連絡が取れない状態が続くと、日本語で言う「絶交された」「縁を切られた」ということになります。

英語で簡単に説明するなら、ghostingはrejection without the closureと言っていいと思います。つまり、終止符を打つことができず拒否されることです。

ghostingは、縁を切られた方に結構大きな精神的ダメージを与えるそうで、心理学でも話題になっています。

gaslighting

ghostingもgaslightingも、ここ2カ月で新しく知った単語です。どちらも最近よくTwitterで見るので、どういう意味だろう?と興味津々でいろいろ調べました。

これもSNSに限って使われているわけではありませんが、SNSでよく見かけます。

He’s gaslighting me.

I am being gaslighted .

みたいな文をよく目にします。

このgaslightingとは、一体どんな意味なのでしょうか?

これは新しい単語ではありません。1938年のパトリック ハミルトンによる戯曲『ガス燈』(原題:Gaslight)を基にした1940、1944 年の映画に由来する言葉です。(A cultural history of gaslighting - BBC Culture

辞書の定義を見ていきましょう。

gaslighting : psychological manipulation of a person usually over an extended period of time that causes the victim to question the validity of their own thoughts, perception of reality, or memories and typically leads to confusion, loss of confidence and self-esteem, uncertainty of one’s emotional or mental stability, and a dependency on the perpetrator
Gaslighting Definition & Meaning - Merriam-Webster

通常長期間にわたる人の心理的操作で、被害者に自分の考えや現実の認識、記憶の正当性を疑わせること。一般的に混乱や自信・自尊心の喪失、自分の感情や精神の安定性への不安、加害者への依存を引き起こす。

では、日本語の定義を見ていきましょう。

特定の人をターゲットとして、集団で付け回したり、ターゲットが妄想癖や精神的な欠点を持っていると思い込ませるような工作をするなどして、ターゲットを精神的に追い詰めていくこと。精神的虐待の一種とされる。
ガスライティングとは何? - Weblio辞書

つまり、「マインドコントロール」みたいな感じです。

では、SNS上で起こるgaslightingとはなんでしょうか?

SNSでのgaslightingは、一時的な「バッシング」よりひどい、大きな精神的なダメージを与える行為です。

例えば、SNS上で誰かが(多くの場合)証拠もなく特定の人に反発し続けたり、評判を下げようとしたりし続けると、被害者側は自分の発言を疑い、自信をなくしてしまいます。

そもそも、私がなぜこの単語をよく見かけるようになったかというと、私がTwitterでフォローしているアメリカ在住の医師が、ほぼ毎日gaslightingについて投稿をしているからです。

The gaslighting is terrible.
ガスライティングがひどい。

I’m being gaslighted by people I know and love.
私が知っている、大好きな人からガスライティングされている。

The constant gaslighting is taking a psychological toll.
ガスライティングを受け続けることで、精神的なダメージを受けている。

みたいなコメントが多いです。

彼女は、コロナ禍でずっと「マスク」や「ワクチン」について投稿をしていますが、マスクもワクチンも嫌いなアメリカ人は少なくはありません。そうした人たちから「ガスライティング」されているようです。精神的なダメージが大きいのか、彼女は定期的にSNSを中断しています。

日本語に当てはまる単語はないので、そのまま「ガスライティング」になりますが、「バッシング」「誹謗中傷」「ネットいじめ」「DV」が一緒にしたような言葉だと思います。

例文を見ていきましょう。

I’m being gaslighted by all my family and friends on Twitter.
Twitterで、家族や友達みんなからガスライティングされている。

The gaslighting has been terrible since the COVID-19 pandemic began.
コロナ禍で、ガスライティングがひどくなった。

The gaslighting has been unbelievable.
ガスライティングが信じられないほどひどい。

trolling

長くSNSをやっていると、必ずtrollingを経験します。

TwitterやInstagramなどで、知らない人に対して失礼なコメントを書く人がいます。しばらく特定の人をターゲットにしてイラッとするコメントを続けるけれど、しばらくすると他の人に対象を移して同じことをします。このように、悪意を持ってネット上をうろうろする人をtrollと言います。そして、trollがやるネット上のいたずらをtrolling(トローリング、荒らし)と言います。

新語や俗語などを掲載するオンライン辞書サイト「Urban Dictionary」では、このように説明されています。

Trolling ... is the deliberate act ... of making random unsolicited and/or controversial comments on various internet forums with the intent to provoke an emotional knee jerk reaction from unsuspecting readers to engage in a fight or argument
Trolling - Urban Dictionary

トローリングは、(中略)口論や論争に引き込むため、疑うことを知らない読み手からお決まりの感情的な反応を引き出そうと、あらゆるインターネット上のコミュニティに、手当たり次第にわざと一方的で物議をかもすコメントを書き込む行為のこと。

例文を見てみましょう。

He’s been trolling Twitter lately.
彼は最近、Twitterで荒らしをしている。

I haven’t seen so much trolling since the Trump presidency.
トランプ大統領の就任以来、こんなに荒らしが多くなったのは初めてだ。

He’s just trolling you. You should block him.
彼はトローリングしてるだけだよ。ブロックした方がいい。

He’s trolling accounts of people who disagree with him.
彼は自分と意見が違う人のアカウントをトローリングしている。

That guy has been trolling me on Instagram for months.
あいつは何カ月も前から Instagramでトローリングしてきたんだ。

He’s a troll. Just ignore him. He will go away soon enough.
彼は荒らしだよ。無視すればいい。すぐにいなくなるよ。

Twitter trolls are everywhere.
Twitterの荒らしはどこにでもいる。

I’ve blocked all the trolls . Not worth my time.
荒らしは全部ブロックしてる。時間がもったいない。

私も頑張ってtrollを無視しようとしていますが、やっぱり腹は立ちます!

けれど、イライラさせることこそtrollの目的なので、腹を立てなければ、すぐ次の人に移るかもしれません。

私はTwitterで典型的なtrollingを経験しました。そんなにバッシングがくるような投稿じゃないのに、数人がランダムに煽動的なコメントを書いてきたのです。私も、私のフォロワーも腹を立てました。アンちゃんをかばおうとするフォロワーがtrollにコメントを返し、trollも返します。あっという間に、私のTwitterのフィードは戦場みたいになってしまいました。これがtrollingの目的なのだと思います。

無視したり、ブロックしたりするのは、どちらも良い作戦だと思います。ほとんどの場合、コメントを返したり話し合ったりしてもむだなので、私はなるべくtrollと関わらないようにします。

SNSで使われる新しい英語を学ぼう

毎年、魅力的な新しい言葉がたくさん誕生します。けれど、残念ながら、ダークな言葉も同時に生まれます。今回は勉強した単語はハッピーな単語ではありませんが、英語でSNSを使いたい方は絶対に知っておいた方がいい単語です。

けれど、いつかは、英語から消えてくれるといいなぁ。

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

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