【ショーン川上さん『英語力の核心』刊行インタビュー①】英語は悪くないのに伝わらないのはなぜか ―“ロジック変換”の重要性

いくら英語を勉強しても、相手にうまく伝わらない。そんなもどかしさの原因はどこにあるのでしょうか。22年ぶりとなる英語学習書『英語力の核心』を刊行したショーン川上さんにインタビューを実施し、執筆の背景と、「英語は悪くないのに伝わらない」日本人特有のつまずきについて聞きました。

原点は、note下書きに書きためた「講義ノート」

――『英語力の核心』はショーンさんにとって22年ぶりの英語学習書です。まずは執筆の背景を教えてください。

正直に申し上げると、当初はnote用の備忘録原稿でしたので、出版するつもりは全くありませんでした(笑)。しかしながら、こうして機会をいただけて心から感謝しています。

グローバルに事業展開する日本企業や外資系企業への助言者、時に軍師として向き合っていると、さまざまな業務局面で「英語」や「コミュニケーション」の問題にぶつかります。その中で、通常の業務から派生して「朝活」「夕活」「週末活」のような形で英語、異文化コミュニケーション、リーダーシップなどに関する個別の研修・ワークショップのご用命をいただくようになっていたんです。特にこの10年は、リモートワークの普及も手伝って、より実施しやすくなったこともあり、その頻度が高くなっていました。

既存のワークブックや教育メソッドの多くが主眼に置いているのが、「頻出フレーズ集」「発音矯正」「語彙力強化」「TOEICのスコアアップ」といった方向性です。確かにそれも基礎・基盤作りとしては重要でしょう。もちろん、私自身は英語教育者ではないのですが、アウトプット力が弱い受講者を見続けて、「根本的な問題はそこではない」という意識が拭えずにいました。

――その問題意識から「今、書かなければ」と思うようになっていったのでしょうか?

独自にさまざまな方法を試行錯誤し、その中で効果のあったもの・なかったもの、オリジナルで作った教材なども膨大になっていたため、今までの「講義ノート」としてどこかで体系的に整理したい、とは思っていました。その一部を、コツコツと下書きとして取りまとめていた先がnoteでした。

そして、「そろそろ少しずつnoteに掲載していこうかな」と思っていた矢先、アルクさんからお声がけをいただいたというわけです。ですから「今、書かなければ」というより……いろいろなタイミングが揃ったという感じでした。何より、このプロジェクトにご賛同いただいた多くの皆さんに、改めて感謝申し上げたいと思います。

英語が伝わらない原因は「ロジック変換」の失敗にある

――本書『英語力の核心』では「英語は悪くないのに伝わらない」という問題について言及されています。確かに、英語の勉強をしても、TOEICでいい点数を取っていても、「伝えたいことがうまく言えない」「英語でなんて言えばいいのか分からない」という日本人は少なくありません。原因は一体どこにあるのでしょうか?

仕事の現場で「伝わらない」の正体は、英語力の問題ではないことがほとんどです。もっと根の深い所、特に「英語と日本語のロジックの変換失敗」によるところが多いように思います。

これは皆さんもよく聞くロジック変換の失敗例だと思いますが、象徴的なので取り上げさせて頂きます。

度一度ゆっくり話しましょう」

これを英語にすると Let's have a talk some time soon. 、日本語では別れ際の社交的なあいさつですよね。日本語における「今度」は、「今度とオバケは出たことがない」なんて言われることもあるように、ほぼ「いつか、もしかしたら」という意味。ところが英語の soon には実際の時間軸がある。When?(いつ?)と聞きたくなるのが英語です。

日本人が大好きな as soon as possible(ASAP) も同じです。日本人にとっての「大至急」は「今日中」、下手をすると「数時間後」のこと。まじめな国民です。しかしアメリカ――東海岸なら2、3日以内かもしれないし、西海岸でもシリコンバレーなら早いですが、それ以外の場所なら1週間、ヨーロッパ、それもイタリアなら2週間かもしれない。

全員がそうだと一般化するわけではありませんし、イタリア人には申し訳ないのですが、とあるイタリア企業とのエピソードをお話しさせていただきます。その企業とは信頼関係もできていて、それなりに長い付き合いでした。企業のトップに「大至急」とメールを送ると「どのくらい大至急?」と彼の秘書に聞かれたので「1週間以内」と返したのですが、1週間過ぎても返事が来ない。「どうした?」と問い合わせると、秘書から「ボスはこの1週間の間に、家族との1週間のバケーションが入ったので返事は2週間後になります」と冗談みたいな返事がありました。トップ本人も秘書も全く悪びれた様子はない。

古今東西、土地柄もそれぞれ、ロジックもそれぞれ、というわけです。つまり、繊細な日本語の言葉のひだに宿る「結局、何を言いたいのか」を抽出して、英語のロジックにする。例えば within two hours とか 24 hours という定量的なロジックに変換しないと通じないというお話です。

“I see” が「同意」になってしまう理由

――日本語の感覚で使っている言葉を英語にしただけではではまったく伝わらないケースも出てきてしまうんですね。

日本人ロジックの象徴とも言える「なるほど、なるほど」も危ない。日本人が大好きな I see, I see. で返し続けると、相手は「同意してくれている」と思い込みます。日本語の「なるほど」は「聞いています」というシグナルですが、英語の I see. は「理解した、納得した」に近いです。会議の最後に「では合意ということで」と言われて初めて、ずっと相づちを打っていただけだったことが発覚する。

本書の中でも触れていますが、「いやあ、ちょっと難しいですね」も同じ構造です。That's a little difficult. と言うと、相手は「では何が障壁ですか、どうすれば解決できますか」と前のめりになる。日本語では「ちょっと」がついた時点でほぼ「断り」ですよね。それが問題解決への入り口として受け取られてしまう。

――その2つをビジネスの現場で経験した日本人はとても多そうです……。

他にも、長年お世話になった恩師への手紙に感謝の気持ちを込めて You have been my benefactor. と書いたケースを聞いたことがあります。「恩人」を辞書で調べた結果です。しかし、benefactor は英語では主に「金銭的な支援者、慈善家」に使われる言葉です。「あなたは私の benefactor です」と書かれた相手が、極端な言い方かもしれませんが「よくぞあなたは貢いでくれました!」という意味に受け取る可能性もあるのです。「恩人」という言葉が持つ、人生の深い所で世話になったという感覚は benefactor には乗っていない。単語は存在する。そのせいで論理が別の場所に着地してしまったのです。

恩人への感謝を伝えるなら、

  • Thank you for everything you have done for me.

もっとロマンチックに言うなら、

  • I would not be where I am today without you.
  • Words cannot express how much your support has meant to me over the years.

あたりでしょうか。

必要なのは直訳ではなく「論理ごと引っ越す」こと

――本当だ、深い感謝の気持ちが伝わります。恩師、恩人という単語で表現する日本語のロジックではなくて、結論・要点を明示する英語のロジックに変換して、「長年お世話になったこと、支えてくれたことに心から感謝している」とストレートに表現すればいいんですね。

逆に、最も美しいロジック変換は何かと聞かれたら、私は迷わず「おはよう」を挙げます。Good morning. を「良い朝」と訳さなかった先人のロジック変換は素晴らしい。日本語には「朝に良し悪しを品評する」という発想がそもそもない。だから音だけ借りて、「お早いですね」という全く別の論理に乗り換えた。

夏目漱石が I love you. を「月がきれいですね」と訳したという話も、真偽はともかく、それが今も語り継がれるのは「愛を直接口にしない文化で、愛をどう伝えるか」という問いへの、これ以上ない答えだからだと思います。文法ではなく、論理ごと引っ越す。それがロジック変換です。

第1章では、「ロジック変換」とは何か、事例を交えて解説。
また、実際にどのように日本語から英語へのロジック変換を行えばいいのか、その訓練方法についても後の第4章で扱っています。

――伝わる英語に必要なのは、表現を置き換えること以上に「何を言いたいのか」を取り出し、相手のロジックに合わせて組み直すことなんですね。次回は、ショーンさんが本書で提示する LAARモデル(Logic / Assertion / Articulation / Responsiveness)に焦点を当ててお話を伺います。


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英語力の核心 ~「なぜ伝わらないのか?」を根本から解決する~[音声DL付]
 ショーン川上 (著)

伝わる英語へと導く「LAARモデル」で学ぶ

ショーン川上氏の22年ぶりとなる英語学習書。グローバル化する日本企業の中間管理職、専門性は高いが発信力に課題を持つプロフェッショナル、次世代リーダー候補の方々を対象に、激変する学習環境の中でなお残る「日本人の英語が伝わらない」という根深い問題に正面から向き合います。

スマートフォンの普及やオンライン会議の常態化、生成AIの台頭により手段は増えた一方で、文法も発音も悪くないのに相手が動かない―その原因は英語力不足ではなく、文化と発想の構造差にあります。

企業の海外進出、M&A、技術提携、資金調達など、30年以上にわたるコンサルタント経験から導いた結論は、必要なのは「正しい英語」以前に「伝達の設計」ということ。本書では、その枠組みを学習モデル「LAAR」として体系化します。

  • Logic(論理):思考を英語で機能する構造へ転換
  • Assertion(主張):言うべき中身を明確に立てる
  • Articulation(表現):正確さより届き方を優先
  • Responsiveness(反応):即応し議論を前進させる

さらに生成AIやデジタルツールの活用法も提示。英語力を単なる語学力に留めず、思考法と意思決定の型と結びつけます。本を読むだけでは何も変わりません。日々のメールや会議で小さな実践を重ねることで、あなたの専門性が英語で世界に届く力へと変わっていきます。

ショーン川上
ショーン川上(ショーン・カワカミ)

経営コンサルタント。専門は全社戦略/経営開発、事業再生、新規事業開発。30年以上にわたり金融、製造業、ハイテク、情報通信、メディアなど大手から中小・スタートアップまで、日系・外資を問わず様々な事業領域で経営・事業課題の分析、戦略立案、ハンズオンの実行支援に従事。政策・産業振興分野では、行政・経済団体・研究機関等への講演・研修・政策提言、およびスタートアップの創業・成長支援に携わる。
また、経営幹部向けコーチング、経営プロフェッショナル・起業家のためのビジネススクールの主宰など人材育成にも注力。傍ら、ビジネス・経済・報道番組を中心にTV・ラジオのパーソナリティー、コメンテーター、各種イベントの司会・モデレーター、CM等のナレーターとしても活動(〜2016年2月)。J-WAVE 81.3FM「Make IT 21」では2000年から16年にわたり約850人、その他のメディアを含め1000人を超える経営者、起業家をはじめ各界プロフェッショナルと対談。2025年11月より J-WAVE 81.3FMx ラジオNIKKEI「MAKE IT NEXT」ナビゲーターを務める。
・公式サイト:https://bp2bt.com/

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