アルクの新刊『英語力の核心』の著者、ショーン川上さんに話を聞く特別インタビュー第2回。今回は、本書で提示される学習モデル「LAAR」を軸に、日本人が特に苦手としやすい Assertion(主張)について伺いました。なぜ英語で意見を言おうとすると、急に言葉が出なくなるのか。その背景にある文化や思考の癖をひもときながら、日々の仕事で実践できるヒント、そして目指すべき「機能する英語」の姿にも迫ります。
目次
LAARとは何か?
今回は、本書『英語力の核心』のまさに“核”と言うべき学習モデル「LAAR」を軸にショーンさんにお話を伺いました。
【LAAR】
書籍でのショーンさんの言葉をお借りしながら説明すると、LAARは「英語コミュニケーションに不可欠な4つの要素の頭文字を取ったもの」。より具体的に表現するならば、「英語の文脈を理解し、本当に伝えたいメッセージを抽出し、相手の文化に合わせて再構築する技術」のことです。
- Logic(ロジック=論理):英語特有の思考プロセスを理解し、適用する力
- Assertion(アサーション=主張):自分の考えや意見、内容を明確に構築し、発信する力
- Articulation(アーティキュレーション=表現):考えを明瞭かつ効果的に表現する力
- Responsiveness(レスポンシブネス=反応):相手の発言に適切なタイミングで反応する力

4つの要素は互いに深く関連し合っており、このLAARモデルを使えるようになれば、言いたいことを英語で相手に正しく伝えられるようになるのです。
◆ 「“ロジック変換”の重要性」についてお話を聞いた第1回もチェック!◆
日本人が最も苦手なのは「Assertion(主張)」
――英会話や英語のコミュニケーションでLAARの4つの要素が不可欠というのは確かにその通りだと感じます。ただ同時に、日本人にとっては「難しそう」「できるかな」と不安に感じる部分もあるかなと……。ショーンさんがこれまでにお仕事を通して見てきた中で、「日本人が最も苦手な要素」を挙げるとしたらどれでしょうか?
Assertion(主張)です。ただ、「日本人はアサーティブじゃない」という定説を、私は必ずしも合理的な説明だとは思っていません。
日本でもかなり有名になった、ヘールト・ホフステードというオランダの社会心理学者がいます。IBMに在籍しながら、1960年代から70年代にかけて数十カ国以上、10万人を超える社員に調査を行い、「文化の違いを数値で測れないか」というプロジェクトに取り組んだ人物です。
その成果として生まれたのが「文化次元モデル(Cultural Dimensions Theory)」——個人主義か集団主義か、権力格差をどう受け止めるか、といった文化的傾向を複数の軸でスコア化したものです。今も国際的なビジネス教育や異文化研究の現場で標準的な参照軸として使われています。
その指標の一つに、「不確実性の回避(Uncertainty Avoidance Index)」というものがあります。「まだ決まっていないことを、公の場で口にすることへの不快感がどれほど強いか」を0から100で測るものです。

日本のスコアは92。アメリカが46、イギリスが35です。
――日本が断トツで高いですね。
数字そのものより、「92点という社会で育つとはどういうことか」という問いの方が大事だと思っています。92点の社会では「答えが決まる前に発言すること」自体が、無責任の証拠に映るリスクがある。子どもの頃から、学校の授業で、家族との会話で、部活の文化の中で、「確信が持てないなら黙っている方が賢い」というフィードバックを、明示的にも暗示的にも受け続ける。そういう環境で育った人間が、会議で突然「あなたのポジションは?」と聞かれても、使ったことのない筋肉と同じで、どう思考を動かしてよいか分からなくなります。
ここで少し、本書の中で私が意図的に選んだ表現についてお話しさせてください。「定義練習」のセクションで、「本音と建前」を英語で定義する問題を出しました。
――「定義練習」は、LAARモデルで Logic(論理)、Assertion(主張)Articulation(表現)、Responsiveness(反応) の力を鍛えるための、実践的なメソッドの一つとして紹介されていましたね。「英語の論理的思考力と表現力を同時に、かつ効果的に鍛えることができる非常に優れたメソッド」だと。

ええ、身の回りの「モノ」や抽象的な「概念」について、英語で簡潔かつ正確に説明(定義)する訓練です。そして、「本音と建前」に対するモデル解答を、
Honne and tatemae describe the gap between what people truly believe and what they are expected to believe.
(本音と建前とは、人が心の底で本当に信じていることと、信じていると期待されていることとの間にある隔たりを指す)『英語力の核心』より抜粋(p.211)
としています。
この英語をそのままネイティブスピーカーに伝えると、ネイティブはちょっとした違和感を感じるでしょう。英語として自然な表現なら“expected to express(表現することを期待されている)”や“expected to say(言うことを期待されている)”がよいと思いますが、私はあえて“expected to believe(信じることを期待されている)”を選びました。
建前を「表現するもの」として捉えると、それは単なる演技や虚構になってしまう。でも日本語の「建前」の本質はもっと深いところにある。社会が「こう考えるべきだ」と求める規範を、人は内面に取り込み、そのように振る舞ううちにいつしかそれが本音と溶け合っていく。だとすれば建前とは、外から課された言葉ではなく、内側から発せられた「期待された信念」とも言える。そういう意味で、believeを使いました。
そしてこの「内面化」のプロセスは、Assertionの問題とまったく同じ構造をしています。「確信が持てないなら黙っている方が賢い」という経験値が、外から課されたルールとしてではなく、いつしか自分のbelief(信念)になってしまっているように感じます。建前と同じように、沈黙もまた内面化されているんです。
問題なのは、欧米のビジネスコンテクストを作ってきた国々——46点のアメリカ、35点のイギリス——の「どこで、どのように発信するのか」に対する前提が、92点の日本とは根本的にズレているということです。彼らにとって会議は「まだ決まっていないことを、みんなで決める場」なんですね。だからこそ不確かな段階の発言に価値がある。一方、日本の感覚では「まだ決まっていないことを言う」こと自体が、場への不敬に映りかねない。
同じ沈黙が、46点の側からは「意見がない人」に見え、92点の側からは「まだ準備ができていない状態で発言しない誠実さ」に見える。まったく同じ行動が、正反対の評価を受けてしまうわけです。
――うう……。これはもう、個人の性格や実力のせい、というだけではないですよね。
ここまで来ると、Assertionの苦手意識は性格や自信の問題ではなく、「育った文化の設計上、まったく鍛えられてこなかった筋肉」の問題だということが分かってくると思います。
ただ一つ、強調しておきたいことがあります。それは、日本のビジネスパーソンがAssertionをしていないかというと、「根回し」という行為を見ればわかるように、まったくそんなことはないんです。会議の前に関係者を個別に訪ね、自分のポジションを伝え、反論を先回りして処理しておく。あれは非常に高度なAssertionです。92点の社会が生み出した、92点に最適化されたAssertionの形と言えます。
問題は、それが46点や35点の土俵では機能しないということです。引き出しがないのではなく、引き出しを開けるタイミングと場所が噛み合っていなかっただけ——そう理解した瞬間に、変化が始まる方が多いです。自己否定の問題ではなく、育った文化が作り上げた思考と行動のOS(PCで言うところの基本システム)の問題として扱えるようになるからです。OSは書き換えられる。それが分かると、話が早い。
まず変えると効果が出る、2つのこと
――『英語力の核心』の中では、Assertionについて「何を語るか」の技術だとして、その「何」にあたる素材・コンテンツを構築するステップも詳しく解説されていました。そのように一つずつ段階を踏んでいくのと並行して、「日々の仕事の中でまず変えると効果が出やすいこと」も何か教えていただけないでしょうか。
それでは、すぐに効果が出やすいポイントを二つお伝えします。どちらも英語だけでなく日本語にも効く。そしてこれらは英語力ではなく、思考の構造の問題です。
【見出しをつける訓練】
皆さん、WEBの記事を読むとき、何を見て「読む・読まない」を決めていますか?――見出しですよね。見出しを見て、クリックするかどうかを0.5秒で判断している。ビジネスコミュニケーション、特に状況説明やプレゼンテーションも同じ構造をしています。メールの最初の一文、会議での最初の発言、プレゼンの冒頭。それらは全部「見出し」です。そこで相手は「この話を聞く価値があるか」を瞬時に判断しているし、その後の「話を聞く姿勢」にも大きく影響を与えます。
最も手軽な練習から始めるなら、メールの件名を毎回書き直すことです。返信に返信が重なると、件名がずっと「Re: Re: Re: ○○の件」のままになっている。もはや何の話か分からない、なんてことも。件名を書き直す習慣をつけるだけで、「この連絡の要点は一言で言うと何か」を毎回自分に問い直すことになります。メールに限らず、SlackでもLINE WORKS(組織・チームで使えるビジネス版LINE。チャット、予定表、タスク管理などビジネスに必要な機能をまとめたツール)でも同じです。
件名、いわば見出しが書けたら、「表題(首記)、◯◯の件です」と「副題」のような見出しを本文の冒頭に置く。それが「結論ファースト」の実践です。
――メールならほぼ毎日使う人が多いと思いますし、かなり実践しやすいです!
アメリカ軍の文書作成に「BLUF(Bottom Line Up Front:結論を冒頭に)」という原則があります。「Army Regulation 25-50(陸軍規定25-50)」の第1章第38条に正式に明文化されたもので、「Effective Army writing is understood by the reader in a single rapid reading and is clear, concise, and well-organized.(効果的な陸軍の文書とは、読者が一度読めば理解できるよう、明確に、簡潔に、整理されたものでなければならない)。Two essential requirements include putting the main point at the beginning of the correspondence (bottom line up front) and using the active voice.(文書作成の二つの必須要件は、結論を冒頭に置くこと、そして能動態を使うことである)」とあります。
戦場では、結論が最後に来る報告書を書いた兵士は、次の日にはいないかもしれない。それほど切実な理由から生まれた原則です。ちなみにBLUFの反対はBLAB(Bottom Line at Bottom:結論を最後に)と呼ばれています。「BLABなメールは誰も最後まで読まない」。アメリカの職場ではそういう会話が普通にされています。
日本語の文章構造は「起承転結」が染み付いているので、英語を書くときも話すときも、無意識に「背景→経緯→実はお願いがありまして」という順番になりがちです。これは英語だけの問題ではありません。日本語のプレゼンでも、日本語のメールでも、全く同じことが起きています。つまり、これは英語力の問題ではなく、思考の構造の問題です。
「見出しが作れない」ときは、まだ自分の中で考えが整理されていないサインでもあります。見出しを作ろうとする行為そのものが、思考を整理する訓練になっていく。本書ではこの「結論ファースト」の構造をLAARのLogic(論理的思考力)と結びつけて解説しています。
【「3つあります」習慣】
これは一言で言えば「数を先に宣言することで、相手の整理モードをオンにする」ということです。「お伝えしたいことが3つあります」と言い切った瞬間から、聞き手は構えてくれる。そして何より、自分自身が「本当に3つに絞れているか」を問い直すことになる。
研修でこの練習をすると、必ず出てくる感想があります。「件名を書き直そうとしたら、この連絡の目的が自分でも曖昧だったと気づいた」「3つと言おうとしたら、5つも6つも出てきて絞れなかった」というものです。メールや発言の問題ではなく、思考の問題だったわけです。これは第4章、LogicとArticulationの部分で詳しく説明していますので、ぜひ参考にしていただけるとうれしいです。
「ネイティブのような英語」というゴールの罠
――2つの実践的なヒントをいただいた上で、もう少し根本的な問いにも向き合いたいと思います。ショーンさんは「ネイティブのような英語を目指す」ことへの違和感もお持ちだそうですね。その背景について教えてください。
突然ですが、皆さんはタレントの王林(おうりん)さんをご存知でしょうか。とても素敵な方だなと思います。全国放送で堂々と東北弁を話される。東京で過ごす時間も増えてきたでしょうから、現地の方言より多少は希釈されているかもしれません。しかし、その少し希釈された東北弁でさえも王林さんらしさの表れで、バックグラウンドはもちろん、多忙な仕事や生活の様子、ライフスタイルも窺えます。それがご本人の魅力の一つでもあるわけです。
関西の芸人さん方もそうです。東京に来てあえて関西弁を消してしまう芸人さんは少ないように思います。東北弁であれ、関西弁であれ、沖縄弁であれ、お互いの言語をしっかり理解できているわけですから、アナウンサーを目指しているのでなければ「標準語ネイティブのような発音とアクセント」を推奨、ましてや強要する意味はありません。その言葉がその方のパーソナリティーであり、文化そのものでもあるのですから。
――確かに。方言が変でも間違いでもないのと同じで、英語も同様に考えればいいんですね。
本書にも書きましたが、英語を話す人口の約75パーセントは非ネイティブです。残りの25パーセントのネイティブも、アメリカ英語、イギリス英語、オーストラリア英語、それぞれに「クセ」があります。インド人はインド英語を直すどころか、「インド英語を理解するための本」が出ているほどです。インド人と仕事がしたければ、我々のインド英語を、あなたたちが理解しなさい、というわけです。
そう考えると、「ネイティブのような英語を目指す」とは、いったい何を目指しているのだろう?になりますね。もちろん、「すでに高いレベルにいる人が、特定の英語をロールモデルにして最終仕上げをする」、これは話が別です。ただ、特に初中級者にとっての「ネイティブらしさ」の追求は、終わりのない自己否定のループに近いように感じます。ゴールポストが永遠に動き続けてしまう。
目指すべきは「機能する自分の英語」
――では、「目指すべきゴール」とはどういうものにすべきなのでしょうか。
『英語力の核心』においても、またここでも、「機能」という言葉を使っていますので、ここで、ビジネスの現場において「機能する」言語の役割とは何か?についてお話しておく必要があると思います。ちなみに「機能する」は英語で、workです。
楽しい旅行ができた、お友達になった、では済まないのがビジネスであり、ビジネスである以上は、目的を達成しなければなりません。それから、ビジネスにおけるコミュニケーションには、「発信」→「理解」→「同意」→「合意」→「実行」→「成果」という流れがあると考えています。
「発信」は意見や提案、情報など、差別化されたコンテンツの発信、「伝える」行為です。「理解」は、相手が「分かった」「伝わった」段階です。同じ「分かった」にも論理的に分かった「論理的理解」と心理的に分かった「心理的理解」があるように思います。そして次に「論理的理解」と「心理的理解」が合流した先に次の「同意」があります。「同意」とは、賛同、その方向性や考え方に共感、賛成できている段階。次の段階は、「同意」が「自分事」になる段階、これが「合意」。「合意」に至れば、ただ賛成、賛同するだけでなく、自分事として、役割分担や責任が明確になり、それを認識、約束(コミット)する必要が出てきます。そして「実行」で協業が始まり、いよいよ「成果」を出すステージに入る。

つまり「機能するコミュニケーション」とは、この一連のプロセスにおいて、当事者が言語を使って矢印を(その小さな一部、瞬間でもいい)右に動かし続けることだと私は思っています。違う言い方をすると、言葉がどれほど拙くても、矢印が右に動き続けているならば、その言語は「機能している」と言えるのではないでしょうか。
しつこいようですが、「機能しないネイティブのような英語」より、多少不格好でも「機能する自分の英語」の方が、ずっと大切ではないか。私はそう思うのです。
――英語の学習では、つい“ネイティブのような”発音や語彙ばかりを求めてしまいがちですが、ビジネスで相手と英語を使ってコミュニケーションを取るために大切なのは何か。何を伝えたくて、相手は何を求めているか。最終的な「成果」につながるために必要な流れを意識しなければいけませんね。次回は、「AI」をテーマにお話を伺います。本書で触れられているAI使用方法のほか、ショーンさん自身のAIに対する考え方や活用法などに迫ります。ぜひお楽しみに!(4月17日(金) 公開)
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ショーン川上 (著)
伝わる英語へと導く「LAARモデル」で学ぶ

ショーン川上氏の22年ぶりとなる英語学習書。グローバル化する日本企業の中間管理職、専門性は高いが発信力に課題を持つプロフェッショナル、次世代リーダー候補の方々を対象に、激変する学習環境の中でなお残る「日本人の英語が伝わらない」という根深い問題に正面から向き合います。
スマートフォンの普及やオンライン会議の常態化、生成AIの台頭により手段は増えた一方で、文法も発音も悪くないのに相手が動かない―その原因は英語力不足ではなく、文化と発想の構造差にあります。
企業の海外進出、M&A、技術提携、資金調達など、30年以上にわたるコンサルタント経験から導いた結論は、必要なのは「正しい英語」以前に「伝達の設計」ということ。本書では、その枠組みを学習モデル「LAAR」として体系化します。
- Logic(論理):思考を英語で機能する構造へ転換
- Assertion(主張):言うべき中身を明確に立てる
- Articulation(表現):正確さより届き方を優先
- Responsiveness(反応):即応し議論を前進させる
さらに生成AIやデジタルツールの活用法も提示。英語力を単なる語学力に留めず、思考法と意思決定の型と結びつけます。本を読むだけでは何も変わりません。日々のメールや会議で小さな実践を重ねることで、あなたの専門性が英語で世界に届く力へと変わっていきます。
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