〔映像翻訳者インタビュー〕根底にある語学への「絶対あきらめない」気合い|初仕事の“半泣き経験”を越え、映画丸々一本を任された日

インターネットのストリーミング配信を通して世界中から映像作品が届く昨今。日本語の字幕版や吹き替え版を作るために必要な人材が「映像翻訳者」です。映像作品の増加に伴い、映像翻訳者のニーズも増加しています。映像翻訳者はどんなバックグラウンドを持っているのか、どんな働き方をしているのか。本連載では現在映像翻訳者として活躍する3名にインタビューをし、十人十色のキャリア形成や働き方、そして映像翻訳に必要な経験やスキルについて深掘りしていきます。

第6回:牧田彩野さん(仕事編)

第6回は日本映像翻訳アカデミーとアルクが共同運営する「映像翻訳Web講座」を受講して映像翻訳者になった牧田彩野さんのインタビュー【仕事編】をご紹介。映像翻訳者としてのデビューから、大変だった仕事・うれしかった仕事についても伺います。

前回の【第5回:牧田彩野さん(学習編)】、また、第1~4回までの記事もぜひ併せてご覧ください。
・第1、2回:西飯仁徳さん 【学習編】【仕事編】
・第3、4回:南部恭子さん 【学習編】【仕事編】

合格の秘訣は「気合い」!近道を求めない学びの積み重ね

映像翻訳Web講座ではプロフェッショナルコースを修了すると、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)が開催するトライアル(プロ化試験)を受験できるようになります。講座の修了生は2カ月ごとに開催されるトライアルに挑戦し、合格すると晴れてプロの映像翻訳者としてデビュー。JVTAの翻訳受発注部門から仕事が発注されるようになります。

牧田さんは合格までに5回、トライアルを受験しました。合格までの受験回数や期間は人それぞれであるため、5回の受験が多いのか少ないのかを判断することはできません。しかし牧田さんとしては、「トライアルに2回落ちた時点で、私には無理なのかもしれないと思った」と言います。

2回目の受験が終わったくらいの時期に、JVTAの先輩方が登壇するセミナーに参加しました。その時に登壇していた先輩は3名とも1~2回でトライアルに受かったという話をしていて、『どうやったら合格するんだろう』と少し落ち込みました」

それでも映像翻訳者になるためには合格を目指すしかありません。「やるしかない」という気持ちで、牧田さんは挑戦を続けます。

JVTAのトライアルでは、ドラマ、ドキュメンタリー、情報番組など、毎回異なる映像素材が課題となります。牧田さん自身はドラマが好きで、ドキュメンタリーには苦手意識がありました。苦手な題材の回に当たると、翻訳に取り組む前から「今回はダメだ」という気持ちになってしまうこともあったそうです。

「トライアル合格までの期間を乗り越えるために、何かやったことはありますか?」と聞いたところ、牧田さんの回答は「とにかく気合いのみだった」とのこと。「絶対にいつかは受かるんだ」という気合いが大事だと語ります。

「現代はクリック一つでなんでもできてしまうので、誰もが近道を求める傾向にあると思います。『早く手に入れたい』『合格への近道は』などと考える人も多いですよね。でも、時にはガッツで乗り越える経験も必要かと思います。あきらめずに合格までたどり着けた気合いと達成感は、自分にとって大事な経験です」

初仕事で半泣き状態に 最も大変だった仕事とうれしかった仕事

まさしく気合いと根性でトライアルに合格した牧田さん。2024年3月にプロの映像翻訳者としてデビューします。そしてデビューから約1年半経った現在、順調に仕事が増えています。

「月によって仕事量の変動はありますが、順調にお仕事をいただいています。50分程度のドラマ作品や飛行機内で上映する映画の字幕、映画祭での上映作品などが多いですね。また、カナダの大学でフランス語専攻をしていたことから、フランス語の案件をいただく機会も多いです」

高い英語力を生かして、スクリプト(台本)のない映像作品の「聞き起こし」を頼まれることもあります。初仕事では、聞き起こしと字幕翻訳の両方の依頼を受けました。しかしながら、この初仕事が「これまでで最も大変だった」と牧田さんは言います。

その初仕事は、あるマラソン選手のインタビュー。まずケニア出身の選手のインタビューを牧田さんが聞き起こしてスクリプトを作り、その後複数の翻訳者で分担して字幕制作に取り掛かるというものでした。

「インタビューだからそんなに難しくないだろうと思ったのですが、ケニア出身の選手の英語にとても癖があって、しかも文法も独特でした。そのため聞き取れないところがたくさんあり……。期限までに作業を終えることができず、JVTAの担当さんに半泣き状態で『できません』と連絡することになってしまいました」

牧田さんからの連絡を受け、JVTAの担当者は急遽、英語の聞き取りができる翻訳者を追加で投入。3名の翻訳者を追加し、分担して聞き取り作業を完了しました。しかし他の翻訳者も「聞き取れない」という箇所が多々あったそうです。

話者の英語に癖があったり、音声がクリアでなかったりというケースは、映像翻訳の仕事で時々あります。経験を積んだ翻訳者であれば対応の仕方を心得ていますが、牧田さんにとっては初めての仕事。当時は震えるくらい大変だったそうですが、「最初に一番大きなショックを受けておいて良かったかも」と、今では笑って話します。

JVTAの担当さんは『初めての仕事にすべきではなかった。私の責任です』と優しくフォローしてくださいました。一生忘れられない経験ですね」

ほろ苦い翻訳者デビューとなった牧田さんですが、今年に入って「とてもうれしい仕事があった」と言います。その仕事は、前述した初仕事の担当者からもたらされました。

「カナダのケベック州が舞台の映画で、丸々一本の字幕翻訳を任せてもらいました。私がカナダの大学でフランス語専攻をしていたということで、初仕事の時の担当さんが声をかけてくれたんです」

その作品は、ベトナム戦争後に海を越え、マレーシアの難民キャンプを経て、カナダのケベック州に辿り着いたベトナム人の少女とその家族の物語でした。舞台がカナダ、言語がベトナム語とフランス語ということで、カナダ留学の経験とフランス語の学習経験がある牧田さんは、本作に最適な翻訳者だったのです。

牧田さんが全編字幕を担当した作品は
カナダ、ケベックの映画『ru(小川)』。

「本作の翻訳では、カナダの文化に関する知識も必要でした。自分の経歴や知識を最大限活かせる仕事で、担当できてとてもうれしかったです」

【参考記事】
【カナダ大使館・ケベック州政府在日事務所共催の上映会に字幕で協力】カナダ滞在経験を仕事に活かす! カナダに移民した少女の物語を翻訳

ようやく見つけた、自分が本当にやりたいこと

スイスやカナダへの留学を経て医療通訳の仕事に従事、その後コロナ禍を経て、映像翻訳者となった牧田さん。映像翻訳者になるまでに何が大変だったかを尋ねたところ、「まず、映像翻訳に出会うまでが大変だった」と言います。

「それまで私は、『これをやってみたい』と強く思うものに出会えてなかったんです。好きなものを仕事にすることが必ずしもいいとは限りませんが、私自身は『好き』を仕事にしたいタイプ。だから、本当に情熱を持てるものをずっと探していました

映像翻訳に出会ってからは、どんなに大変でも「好きだから楽しい」と思えると牧田さんは言います。辞めたいと考えたことは一度もないそうです。

映像翻訳の仕事の醍醐味のひとつは『すべてが何かに役立つ』ということだと思います。映像翻訳では、本当に様々な内容の仕事があります。この仕事を始めてから、あらゆるものに興味を持つようになりました」

映像翻訳に携わるようになってから、それまで興味のなかった分野にもアンテナを張るようになったそう。「すべてが何かの役に立つ」と思うと自然と興味がわいて、日々が楽しくなったと言います。

最後に、映像翻訳者としての目標を聞きました。

「やっぱり映画館で上映される作品に名前が載ることが最終目標ですね。それから得意分野を磨いて、『この分野をお願いするなら牧田さんだよね』と思い出してもらえるような翻訳者になりたいです」

映像翻訳に出会い、今では心から好きだと思える仕事ができるようになった牧田さん。現在字幕翻訳を手掛けているドラマ作品でも名前が載る予定とのことで、今後の更なる活躍が期待されます。

映像翻訳Web講座には、牧田さんのように「知識や経験を活かして好きな仕事をしたい」という方が集まっています。少しでも興味がある方は、ぜひ一歩踏み出してみてください。

▶ 牧田さんへのインタビュー前編である【学習編】はこちら から!

連載「映像翻訳者インタビュー」 | これまでの記事

【西飯 仁徳(にしい ひとのり)さん】
・ 〔学習編〕ホテル勤務 → 映像翻訳の道へ TOEIC300点台から始まった学習記録・キャリアチェンジ体験記
・ 〔仕事編〕プロ映像翻訳者×学び場の運営 2足のわらじを両立させる働き方の姿勢とスケジュール管理

【南部恭子(なんぶきょうこ)さん】
・ 〔学習編〕英語学習の原点はNHKのラジオ講座 とにかく翻訳が好きというモチベーションでプロデビューへ
・ 〔仕事編〕好きなことを仕事にする夢を実現 翻訳する過程もすべて楽しめるのがこの仕事の醍醐味


記事執筆:日本映像翻訳アカデミー
記事執筆:日本映像翻訳アカデミー

1996年設立。海外の映画、ドラマ、ドキュメンタリー、音楽番組、スポーツ放送、企業PR映像など、字幕や吹き替え原稿を作成する「映像翻訳」のプロを専門に育成する。
映像翻訳の受発注を行う部門も併設しており、日本語・英語だけでなく、多言語の翻訳も行っている。また、映像産業振興機構(VIPO)から受託を受けコンテンツビジネス業界におけるグローバル人材育成トレーニングの開発と実施を担っている。
青山学院大学、明星大学、東京外国語大学、ニューヨーク大学、ゲント大学など、国内外の学校教育機関でも指導実績多数。
公式HP:https://www.jvtacademy.com/

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