連載「今よみがえる 死語の世界」の第5回で取り上げるのは、今使うと間違いなくおじさん判定される昭和の死語「許してちょんまげ」です。そこから発展して英語の「許す」に関連する表現を、アンちゃんことアン・クレシーニさんが紹介します。
目次
日本語の「許す」と「赦す」は何が違う?
私は、初めて日本の教会に行ったとき、「赦す」という漢字を使うことに興味がありました。日常会話では「許す」を使うことが多いですが、教会の賛美歌や聖書の中に出てくるのは「赦す」です。2つの違いを知りたかったので、私はいろいろ調べました。
「許す」は常用漢字で、新聞や日常でよく使われています。何かを「認める」「許可する」などの意味で使います。一方、「赦す」は常用漢字ではないため、普段はあまり見掛けません。「罪」「納税」「犯罪」について「赦す」と言い、「許す」よりも少し重い意味があります。
キリスト教の聖書では、「罪を赦す」「お互いを赦す」というようなときにこの漢字をよく使います。キリスト教の「罪」(sin)は、日本人が思い浮かべる「犯罪」という意味よりも、「神が望む人生を意図的に歩まない」という意味に近いと思います。ギリシャ語では「的から外れる」という意味です。とはいえ、「sin」も「罪」もかなり大きな過ちのため、聖書によく出てくる漢字は「赦す」です。
英語の「赦す」「許す」には、forgive、pardon、permit、excuse、allowなどさまざまな訳がありますが、聖書でよく使われているのはforgiveです。
God forgives our sins, so we must forgive others.
「神が私たちの罪を赦してくれるので、私たちもお互いを赦し合わなければなりません。
英語の日常会話でもforgiveはよく使います。
I am so sorry that I hurt you. Please forgive me.
あなたを傷つけてしまって、本当にごめんなさい。
Please forgive my tardiness.
遅刻してしまい本当にすみません。
どう考えても、自分が何か過ちを犯したり、相手を怒らせたりしたときに使う単語で、軽い状況ではあまり使わない気がします。
でも、今日はお話ししたい言葉は、かなり軽い状況で使っていた死語「許してちょんまげ」です。
「あ、出た!それは覚えている!」と叫びたくなった方もきっといるでしょう。
今日は、この昭和の時代で生まれた死語について話します。語源は?今の言葉でどう言い換えるの?そして、英語でどう謝ればいいの?「許してちょんまげ」のおかげで、英語と日本語の「許し用語」について久しぶりに考えましたので、今日はいろいろ解説しますね。
さて、始めましょう!
「許してちょんまげ」の語源と活躍
ある調査によると、今の20代の女性が選ぶ「おっさん認定」の単語のベスト1は、昭和のサラリーマンを代表とする「許してちょんまげ」でした。
参考:20代女子から“おっさん認定”される死語ワースト10「ケー番教えて」はもう古い!(日刊SPA!)
この単語は「許してちょうだい」と「ちょんまげ」を掛け合わせた単語で、「かばん語」と言います。昨年、新語・流行語大賞で選ばれた「村神様」と同じく、2つの単語を合わせた結果です。
今の若者も似たような表現を使っていますよね?それは「かまちょ」。これは「かまってちょうだい」の略です。
Man, she is really looking for attention.
あの人はマジでかまちょだ。
どんな時代でも若者は面白い言葉を作りますよね!
さて、「許してちょんまげ」は謝るときに使われていましたが、「申し訳ございません」とか「本当にごめんなさい」みたいな重いニュアンスではなくて、軽く笑いながら使う謝罪の言葉でした。
今の日本語で言うと、「あ、ごめん!」のような感じになると思います。
Work ran over today, sorry. So, are you ready to go?
あ、仕事がなかなか終わらんかった、許してちょんまげ!行こう!
イライラしている人の怒りをしずめる軽い役割があるかもしれませんが、今も昔も、自分が悪いと思っていないと思われて、かえって相手を怒らせてしまいます。使うタイミングが難しいですね。
Your computer is so fast that I borrowed it without asking. Sorry ...
あなたのパソコン、あまりに動作が速いから借りちゃった。許してちょんまげ・・・
この言葉は、もっと状況が軽い場面で使うのが無難かもしれません。
I can’t help it that I am so beautiful.
私、めっちゃかわいい!許してちょんまげ!
英語でどうやって謝罪するの?
ここまでいろいろな英語の例文を見てきましたが、「許してちょんまげ」を英語にすると、文脈によって使う言葉が変わります。
oops
シチュエーションを幾つか見てみましょう。例えば、「許可なしで友人の洋服を借りたことがばれた」ときは・・・
Oh, I forgot to ask. Oops.
あー、聞くの忘れてた。
I forgot to take out the garbage. Oops.
ゴミを出し忘れた。
このOops.は「しまった!」「ごめん!」という感じで「許してちょんまげ」のニュアンスに近いと思います。
I totally forgot to do my homework. Oops.
宿題やるのをすっかり忘れてた。しまった。
I didn’t call the school to tell them you would be late. Oops.
あなたが遅刻するって学校に電話するの忘れた。ごめん。
I accidentally ate your ice cream. Oops.
間違えて君のアイスクリーム、食べちゃった。許してちょんまげ。
アメリカの有名な歌手ブリタニー・スピアーズは、2000年に“Oops!...I Did It Again”という名曲を出しました。直訳すると「しまった!またやってしまった」。
sorry
もう少し真面目に謝りたければ、Sorry.やI’m so sorry. I’m really sorry.と言うとよいと思います。
I totally forgot to do my homework. I am so sorry.
宿題をするのをすっかり忘れていました。ごめんなさい。
I am really sorry that I forgot to call the school and tell them you would be late.
あなたが遅刻すると学校に電話で伝えるのを忘れて、本当にごめんなさい。
I am sorry I ate your ice cream.
あなたのアイスクリームを食べてしまって、ごめんなさい。
あまり知られていないsorryの使い方
sorryは「ごめんなさい」「すみません」「申し訳ありません」「お許しください」などの意味がありますが、あまりよく知られていない意味もあります。
それは、「お悔やみ申し上げます」「ご愁傷さまです」「大変ですね」「残念です」などです。
I’m so sorry to hear about the loss of your father.
あなたのお父様がお亡くなりになったと聞きました。お悔やみ申し上げます。
多くの日本人は、このI’m sorryの使い方が分からなくて、誰かが亡くなったときになんで謝っているの?と思ってしまいます。
語では普通に使うので、ぜひ使いこなせるようになってほしいです!
I am so sorry that you didn’t get into Tokyo University.
東大に合格できなくて、本当に残念だったね。
I am so sorry to hear that you are not doing well. Let me know if there is anything I can do.
最近、いろいろうまくいっていないみたいで、本当に大変ですね。私にできることがあれば、言ってください。
このLet me know if there is anything I can do.(私にできることがあれば、言ってください)は、I’m sorry ~とセットで使われることが多いです。
apologize
sorry以外にapologizeを使って謝ることもできます。例文を見ていきましょう。
I apologize for having a terrible attitude.
ひどい態度を取ってしまい、すみません。
I apologize for being late.
遅れたことをおわびします。
You need to apologize to him. That was really rude.
彼に謝罪しないといけないよ。あれは本当に失礼だった。
There is no need to apologize.
謝らなくていいよ。
I apologize.
申し訳ございません。
(say) sorryとapologizeは似ていますが、apologizeの方が硬い表現です。
You don’t need to say sorry to him.
彼に謝る必要はないよ。
You don’t need to apologize to him.
彼に謝罪する必要はありません。
I am sorry for being late.
遅れてすみません。
I apologize for being late.
遅くなり申し訳ございません。
forgive
forgiveを使うと、何か本当にまずいことをして「許してください」というニュアンスになります。forgiveは、sorryやapologizeと一緒に使われます。
I am so sorry that I hurt you. Please forgive me.
あなたを傷つけてしまって、本当に申し訳なく思っています。どうか許してください。
I apologize for my harsh words. Please forgive me.
私の心ない発言をおわびします。許してください。
I am so sorry for cheating on you. I’ll never forgive myself.”
浮気をしたことを、本当にすまなく思っている。自分のことが許せない。
I don’t want your apologies. I’ll never forgive you.
あなたの謝罪なんていらない。決して許しません。
この「決して/絶対に許しません」は、必ずI’ll never forgive you.と訳します。
まとめ
この死語の記事を書くとき、いつも最初は「1つのワードについてだけで、どうやって3000文字の記事を書く?」と思いますが、書けば書くほど類語や似たような表現をどんどん思い付きます。
日本語の「許す」や「赦す」、そして英語のforgiveは割と重い表現です。その反面、Oops.と「許してちょんまげ」はとても軽く使います。
相手が怒っているとき、「許してちょんまげ!」「ごめん!」などと言うと、その人はさらに怒るかもしれません。同様に、友人のお父さんが亡くなったとき、I apologize ~ やoopsなどと言うと、とても気まずい雰囲気になります。
使う単語や表情によって相手の反応は大きく変わります。さまざまな表現の使い分け知り、どのシチュエーションでどの表現がふさわしいかを理解することはとても大事です。
いずれにせよ、「許してちょんまげ!」は死語になってしまったので、どんなシチュエーションでも使わない方がいいみたいです(笑)。どうしても、「ちょうだい」という意味の若者言葉を使いたければ、意味は違いますが「かまちょ」くらいが無難かもしれません。でも、お子さんに「お父さんが『かまちょ』なんて言うの、キモい!」なんて言われたら、そのときは「あ、許してちょんまげ!」と言ってみましょう!
本文写真:Steve DiMatteo, Caleb Woods, Manja Vitolic from Unsplash
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