カン・アンドリュー・ハシモトさんによる人気連載。今回は、日本語と英語でそっくりな意味を持つフレーズをご紹介いただきます。「ごまをする」「タヌキ寝入り」「いたちごっこ」。英語の場合は「ごま」も「タヌキ」も「イタチ」も出てきません。では、どう言うのでしょうか?
ガリガリとごまをする?
「ごまをする」という日本語があります。実際に「ゴマをすりつぶす」という文字通りの意味で使うこともありますが、「お世辞を言う」「人に気に入られるように振る舞う」という意味の慣用句です。
数年前、料理教室の「男性だけの初心者コース」に通っていたとき、この表現を知りました。野菜のおひたしを作る回だったと思います。1人に1セットずつ、すり鉢(英語ではmortarと言います)とすりこぎ(英語ではpestle)とゴマ(sesame seeds)が配られると、講師が言いました。
「さあ、皆さん、がんばってゴマをすりましょう。私のことは褒めてくれなくていいですよ」
生徒さんはみんなびっくりするほど笑っていましたが、私は何がおかしいのかさっぱり分からないまま、これはわざわざ銀座まで通って習う必要がある作業なんだろうか、と思いながらひたすらガリガリとゴマをすりました。
帰宅後、「すりゴマ」を使ったレシピを調べているときに「ごまをする」という表現を見つけました。
polish the apple
英語にも「ごまをする」とそっくりの表現があります。polish the apple(リンゴを磨く)です。
今回は、英語と日本語で言い回しがぴったり同じというわけではないけれど、意味は同じ、またはほぼ同じ、そして言葉使いも似ているという表現を紹介します。
polish the appleを調べてみると、「古い言い回し」とする辞書もありましたが、そんなことはありません。毎日の生活の中でフツーに使います。
He’s so good at polishing the apple.
彼はごまをするのが得意だからね。
I will never polish the apple for my clients.
僕は顧客にお世辞など言わないよ。
apple-polishという形で動詞として使うこともできます。
Are you trying to apple-polish me?
私のご機嫌を取ろうとしているのかい?
Tim thinks he'll pass the exam by apple-polishing the teacher.
ティムは先生にごまをすれば試験に通ると思っている。
apple polisher(リンゴを磨く人)という言い方もあります。「ごますり屋」「ご機嫌取り」という意味です。
見えすいたようなお世辞を言っている人に対して、次のような言い方をします。
Jeez, apple polisher!
ケッ、ご機嫌取りめ。
先生に気に入られたい生徒が、リンゴを奇麗に磨いて渡したことが由来のようです。
私が子供の頃は、apple-polisherと同じ意味でbrownieをよく使っていました。
Alice is such a brownie.
アリスはごますり屋さんだからね。
a fox’s sleep
日本語で「タヌキ寝入り」と言えば、「主に都合の悪いときに寝たふりをすること」を指しますが、英語でもほぼ同じ表現があります。違いはタヌキがキツネやイヌに変わることです。
a fox’s sleepは「キツネの睡眠」ではなく「タヌキ寝入り」という意味です。「無関心を装っていること」を言う場合もあります。
a dogsleepは「タヌキ寝入り」または「うたたね(とても浅い眠り)」のことです。
Don’t be in a fox’s sleep.
寝たふりしないでよ。
He’s just in a dogsleep.
彼はタヌキ寝入りをしているだけだ。
「CSI」という犯罪捜査ドラマで、犯罪者同士の会話にこんなセリフがありました。
I know you’re in a fox’s sleep.
字幕は「起きてるんだろ」でした。
せっかく英語でfoxと言っているのだから、日本語字幕は「タヌキ」を使って「タヌキ寝入りしてんじゃねえよ」とすればいいのに、と思ったので覚えています。しかし翻訳者はより簡潔な表現を選んだのですね。素晴らしい訳だと思います。
また、とあるギャング映画で潜入捜査官(undercover agent)が、ギャングのボスの運転手として麻薬の取引現場に同席できると分かったとき、捜査官の上司がこう言いました。
You should be in a fox’s sleep.
これは「タヌキ寝入りをしろ」という意味ではなく、「無関心なふりをしろ」ということです。意味は場面に応じて推測するしかありません。
a cat-and-mouse game
動物続きですが、日本語に「いたちごっこ」という言葉があります。
「いたちごっこ」とは、江戸時代にはやった子供の遊びだそうです。2人が向き合って「いたちごっこ、ねずみごっこ」と言いながら相手の手の甲をつねって、つねった相手の手の上に自分のその手を乗せる、これを交互に延々と繰り返す終わりのない遊びです。
この掛け声の理由は、素早くつねって手を乗せる動作がイタチやネズミのすばしっこさに似ていること、そしてつねられた痛みはかみつかれた痛み、ということのようです。そしてそれが転じて「らちが開かず切りがないこと」を言うようになったとのこと。
ちなみに「つねる」は英語でpinchと言います。苦しい状況のことをピンチと言いますね。名詞のpinchは「ピンチ」「危機」です。動詞では「~をつねる」「誇りを傷つける」「人をピンチに陥れる」という意味を持ちます。
話を戻しましょう。「いたちごっこ」です。
英語ではa cat-and-mouse gameという表現がこれにそっくりです。「イタチ」が「ネコとネズミ」に変わりますが「ごっこ」の部分は同じです。「らちが明かない戦い」「追いつ追われつのゲーム」「つばぜり合いの争い」のことを言います。
You should stop playing this kind of cat-and-mouse game immediately.
あなたはこんならちの明かない争いをすぐにやめるべきだ。
The U.S. is playing a cat-and-mouse game with that country.
アメリカはその国とらちが明かない争いをしている。
恋愛の駆け引きに対しても使います。
Amy and I have played a cat-and-mouse game with each other. Now I’m sick of it.
エイミーと僕は、らちが明かない駆け引きみたいな恋をずっとしてきた。もううんざりなんだ。
アメリカの「WIRED」という雑誌のサイバーセキュリティーに関する記事に、こんな一文がありました。
An important concept in security, though, is the idea of the cat and mouse game.
しかしながら、安全性において重要な考え方は、これ自体が終わりのない戦いであると知ることだ。
イタチ(weasel)は、胴が長くて足の短い小さな動物です。アメリカ、ウィスコンシン州でもよく見かけました。日本でも広く生息しているらしいのですが、僕自身は日本で見たことはありません。
タヌキは、東京の世田谷区に住んでいた頃、家の前で警察官数人に乱暴に取り押さえられているのを、近所の人たち大勢と一緒に見たことがあります。警察官たちにもっと優しく対応するべきだと抗議をしたのですが、無視されたことを今でも恨んでいます。郊外に引っ越した今、朝起きると家の前の畑にタヌキの足跡が幾つも残っています。でも、まだその姿を見かけたことはありません。いつか出会えることを願っています。
今回は、日本語の言い方によく似た英語の言い回しを紹介しました。最後までお読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに!
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