連載「使いこなせる!英会話頻出ワード」。言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが、「英語のネイティブスピーカーがよく使うけれど、日本語では理解しづらい言葉」を徹底解説します!今回は、まだまだ続きそうな「マスク生活」に関連して、maskのさまざまな使い方を学びましょう。
言葉は必要に応じて現れ、必要でなくなれば消えていく
言葉は生き物です。毎日新しい言葉が生まれて、古い言葉が去っていきます。国語のバイブル『広辞苑』が更新されるたびに、メディアはワクワクします。何が入るかな?何が消えるかな?
そして、毎年開催される「ユーキャン新語・流行語大賞ノミネート」は必ず話題になります。過去2年にノミネートされた語にはコロナ用語が多くありました。「3密」「エッセンシャルワーカー」「スティホーム」「アベノマスク」」「黙食」「自宅療養」「副反応」など。ダークなコロナ用語以外のハッピーな単語を応援したのは私だけ?
コロナ禍になってから3年。はっきり見えるのは、「言葉は社会問題から生まれてくる」ことです。3年前まで多くの人は、「濃厚接触者」「ソーシャルディスタンス」「スティホーム」「オーバーシュート」などの言葉を使ったことがなかったのではないでしょうか。言葉は必要に応じて現れ、必要ではなくなったら消えていきます。これは「言葉」の大きな特徴だと思います。
国によってコロナ対策は違いますから、コロナ禍で生まれる用語も当然違います。私が特に興味があるのは「マスク用語」です。「鼻出しマスク」「あごマスク」「マスク美男」「マスク美女」「マスク詐欺」「マスク荒れ」「マスクハラ」。言語語学者として、この豊なマスク用語はとても面白いです。若者がマスクを「顔パンツ」と呼ぶと聞いたときに、改めて言葉の魅力を感じました。
私の母国アメリカでは、日本のように真面目にマスクを付ける人は多くないので、マスク用語は日本語ほど豊富ではありません。とはいえ、全く新しいマスク用語が生まれていないわけでもありません。今日は、コロナ禍で使われるようになった用語を始め、英語の「mask」について話していきたいと思います。
さて、始めましょう!
不織布マスクと布マスク
日本は、昔からマスクを着ける習慣があります。マスクの由来が、日本の神道にあることをご存じでしたか?神様を拝みに行ったとき、参拝者は汚れた息を神様にかけないために、マスクを着けたそうです。
また、花粉症やインフルエンザの季節が来ると、多くの日本人はマスクをするようになります。そのため、日本ではマスクを着けることに違和感も抵抗もあまりないと思います。今はマスクがしんどいと思いっている人も多いと思いますが、マスクが嫌だ!と思っている人は以前より少なくなっているかもしれません。少しアクセサリーっぽくなってきたようにも思います。
前述したように、アメリカにはマスクの文化が全くありません。コロナ以前に、もしマスクを着けたら、「超〜病気の人」か「超〜怪しい人」か、どちらかだと思われていたに違いありません。コロナ禍の初期の頃に、仕方なく着けている人が多かったですが、感染が少し収まってきたら、ほとんどの人がマスクを諦めました。
日本語と同じように、英語で全てのマスクをmaskと言いますが、区別することもあります。不織布のマスクはsurgical maskと言います。surgeryは「手術」の意味です。外科医が手術をするときに着けるマスクなので、surgical maskと呼ばれます。ただ、日本のように、不織布のマスクがどこでも買えるわけではないため、代わりに布マスクがよく使われていました。私の母も数えきれないほど作りました。布マスクは英語でcloth maskと言います。ちなみに、日本人はよく英語のclothes「洋服」とcloth「布」を間違えるので、気を付けてくださいね!
Experts say surgical masks offer better protection against COVID than cloth masks.
専門家たちによると、布マスクより不織布マスクのほうがコロナ感染を防ぐ。
My mom has made over 100 cloth masks since the beginning of COVID.
母はコロナの初期の頃から、布マスクを100枚以上作った。
Masks are no longer mandatory in most places in the United States.
アメリカのほとんどの場所で、マスクの着用義務はなくなっている。
The mask mandate at work was lifted last week.
先週、職場でのマスクの着用義務がなくなった。
マスクをface mask と言う人もいいます。maskと全く同じ意味ですが、face maskは別の意味もあるため、個人的に違和感があります。
例えばアメリカンフットボールでは、ヘルメットの顔をガードする部分のことをface maskと言います。相手にタックルをするときに、face maskをつかんでタックルすることは反則になります。この反則のことをface masking、face mask penaltyと言います。
また、寒いときに被るfacemaskもあります。facemaskは、目と鼻と口しか出ない、頭に被る物を示す語です。ハリウッド映画などで、銀行強盗の犯人たちがfacemaskを被っているの見たことがある人も多いのではないでしょうか。
facemaskを使った例文を見てみましょう。
He got a 15-yard face-masking penalty.
彼はフェイスマスクの反則で15ヤードの罰退を受けた。
It’s so cold today that I wore a face mask while shoveling snow.
今日はめっちゃ寒いので、雪かきをするときにフェイスマスクを被った。
face coveringという語もface maskと同様の意味です。マスクより幅広い意味があります。マフラー、スカーフ、マスクなど、顔を隠すものは全てface coveringと言います。動詞としても使います。
No one will be allowed in the restaurant without a face covering.
Guests are required to cover their faces in order to enter the restaurant.
Face coverings are required to enter this restaurant.
フェイスカバーをしていない方は、レストランに入ることができません。
面
英語では、日本語で「面」と呼ぶものもmaskと言います。歌舞伎の面、ハロウィーンの面、鬼の面など、全てマスクと呼びます。
The masks that the kabuki actors are wearing are incredibly beautiful.
歌舞伎俳優が被っている面はものすごく奇麗です。
That ogre mask is so scary that all the kids cried hysterically when they saw it.
鬼の面が怖過ぎて、それを見た子供たちは皆、大泣きした。」
What kind of mask are you going to wear for Halloween?
ハロウィーンの日に、どういうお面を被るの?」
隠す
maskを動詞として使うと、「~を隠す」という意味になります。「物理的な物」を隠すより、「感情」を隠す意味でよく使われています。
He is really good at masking his emotions.
彼は、感情を隠すことが本当に上手だ。
I think she is masking how she really feels.
彼女は本当に思っていることを言っていないと思う。
You don’t need to mask your feelings.
感情を抑える必要はないよ。
隠れていたものが明らかになるときや暴かれるときには、unmaskという動詞を使います。
He was unmasked as the leader of a criminal organization.
彼は暴力団のリーダーであることが暴かれた。
You have been unmasked as the hypocrite that you really are!
あなたが実は偽善者であることは、ばれています。
マスクを着けている(形容詞masked)
形容詞のmaskedもあります。
アメリカの昔のドラマ「Lone Ranger」で有名になったセリフをご存じですか?
Who is that masked man?
あのマスクを着けている人は誰なの?
いろんな場面でこのセリフが使われています。このセリフは有名ですが、形容詞のmaskedが日常会話に出てくることは、それほど多くありませんでした。でも、コロナ禍になって聞く機会が増えました。
Only masked people will be allowed at the concert.
マスクを着けている方だけコンサートに入場できます。
I rarely see masked people in town anymore.
最近、マスクをしている人を街でほとんど見かけない。
Are you masked?
マスクを付けているの?
マスクを着ける(自動詞)
この使い方はずっと前から英語にあったかもしれませんが、コロナ禍以前、私はこの使い方を聞いたことがありませんでした。医療従事者のコミュニティーでは、以前からこの表現はよく使われていたかもしれません。しかし、コロナ禍になって一般の人もマスクをするようになったので、耳にする機会が増えました。英語では、名詞が動詞になることはよくあります。email、Zoom、LINE、Facebookなど、一般によく使われるテクノロジー用語で、特にこの現象が見られます。
Hey, email me, OK?
ねえ、メールしてね、いい?
Let’s Zoom sometime.
近いうちにZoomで話そう。
LINE me tonight.
今日の夜、LINEでメッセージちょうだい。
そういえば、以前の記事にも書きましたが、parent(親)も動詞で使われるようになりました。parentを使うと「いまどき感」が強くなります。「一生懸命子育てをしています」を英語で言うとき、“I am trying hard to raise my children properly.” より“I am trying hard to parent my children properly.”の方が、おしゃれな感じがします。
これと同じで、個人的には動詞になったmaskにも洒落感があるように思います。
We still mask when we go out.
We still wear a mask when we go out.
私たちはまだ、出掛けるときにマスクをします。
Children are still required to mask in some schools.
Children are still required to wear a mask in some schools.
マスクをしないといけない学校は、まだあります。
In America, you don’t need to mask on airplanes anymore.
In America, you don’t need to wear a mask on airplanes anymore.
アメリカではもう、飛行機の中でマスクをしなくてもいい。
少し脱線しますが、私は今、アメリカ行きの飛行機の中でこの文章を書いています。3年ぶりにアメリカに帰省するので、とても楽しみにしているのですが、私の周りにせきをしている人が多過ぎる!でも、私は日本の航空会社を使っているので、うれしいことに乗っている人全員がマスクをしています。個人的には、飛行機の中でマスクをしないなんてあり得ません。私はマスクをしないどころか、二重にマスクを着けています。
ちなみに「二重マスク」はdouble maskingと言います。
Everyone around me is coughing, so I decided to double mask just to be safe.
周りの人がみんな、せきをしているので、念のために二重マスクにすることにした。
Experts recommend double masking in crowded places. They say it is best to wear a cloth mask over a surgical mask.
専門家は、人混みで二重にマスクをすることを推奨している。不織布のマスクの上に布マスクをすることが、最も良いそうだ。」
マスクの着用(名詞masking)
名詞のmaskingもよく聞きます。
There is mandatory masking in many countries in Asia.
アシアの多くの国で、マスクの着用は義務です。
Masking is important to stop the spread of COVID.
コロナ感染拡大防止のために、マスクの着用は重要です。
Masking is no longer required in most schools.
ほとんどの学校で、マスクはもうしなくてよい。
Masking is optional.
マスクをするかどうかは、個人の判断です。
あごマスク(chinning)
maskから少し離れてみます。私は英語ネイティブですが、最近になってこの単語を初めて聞きました。もしかしたら、ネイティブでも知らない人の方が多いかもしれません。
chinは名詞で「あご」という意味です。動詞になると「マスクからあごを出す」「あごマスクにする」という意味で使われます。
Hey, man, stop chinning and pull your mask up.
なあ、あごマスクをやめて、ちゃんと着けてくれないか。
Chinning does absolutely no good.
あごマスクは全く効果がない。
I was chinning as soon as I left the building because it was so hot.
とても暑かったから、建物を出てすぐにあごマスクにしてたよ。
もう一つ、あごマスクは名詞でchin diaperと言う人もいるそうです。そのまま「あごのおむつ」!言葉って面白い。
鼻出しマスク(not cover your nose)
Hey, if you are going to wear a mask, then cover your nose!
ねえ、マスクをするなら、鼻出しはやめて!
Many people don’t wear a mask properly. There’s no point is wearing one if you don’t cover your nose.
マスクを正しく着けない人は多い。鼻を出した状態でマスクをしても意味がない。
英語には日本語のように便利な「マスク熟語」が多くないため、たくさんの語を組み合わせて説明するしかありません。
That guy looks really hot when he wears a mask.
彼はマスク美男だ。
Wearing a mask is really making my skin break out.
マスク荒れは本当に大変!
In Japan, some people are harassed and yelled at if they are not wearing a mask.
日本ではマスクハラが問題になっている。
I thought he was a hottie, but when he took off his mask, I realized I was totally wrong! He looks much better with a mask on.
彼はマスク美男だけど、マスクを外したら全然違った。マスク詐欺だ!
Tiktokでmaskfishingというトレンドがあります。「マスク詐欺」と似たようなことで、マスクを着けているときと、付けていないときの顔があまりにも違うということです。maskfishingには良い意味も悪い意味もあります。つまり、マスクを外したら「思ったよりかっこいい」という場合と「思ったほどかっこよくない」という場合です。
さて、「マスクは顔パンツ」って、どうやって訳しますかね・・・。たぶん、
Wearing a mask has become so common that if I forget to wear one when I go out, I feel like I forgot to put on my pants.
マスクをすることが当たり前になり過ぎて、外出時に着けるのを忘れたら、パンツを履くのを忘れた気分になる。
長い・・・。やっぱり日本語は便利ですね!
まとめ
さて、私はあと2時間でアメリカに着きます。私は日本で、マスクについてよく考えていました。
「周りの人がマスクをしないなら、私はどうする?」
マスクを着けないときの「裸感」は半端ないです。今まで人の目を気にしないで生きてきた私は、母国にいる間も、これまでと同じように生きていきたいと思います。だから、私はマスクを付けると決心しました。アメリカ風のマスクハラを受けるかもしれません。アメリカでは「マスクを着けている人へのハラスメントがたまにある」とニュースで見たとき、本当にびっくりしました。さすが日本と真逆、アメリカです。
マスクに関しては、いろいろな意見があると思います。私は基本的に、マスクは付けた方がいいと思っていますが、マスク生活の終わりが見えない日本社会は、正直心配しています。顔を見せたくない子供がどんどん増えてきています。子供の素敵な笑顔が見えないなんて、切なくて仕方がありません。
マスク着用には賛否両論があるかもしれませんが、マスク用語は言語学者の私にとって宝箱。でも、マスク用語は早く消えてほしいと思っています。早く「鼻出しマスク」「マスク詐欺」「マスク荒れ」などと言わなくていい世の中になることを、心の底から願っています。
写真:Keith Johnston(Pixabay)、April Bryant (Pixabay)、Manuel Darío Fuentes Hernández(Pixabay)
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