「発音が難しいから英語を話すのは苦手……」ではもったいない!発音についての数あるお悩みを、英語教師の久保岳夫先生が「音のしくみ」を説明しながら、分かりやすく解決する連載第2回、スタートです!
thを正しく発音しよう
第2回のテーマはthです。英語ではtとhと2つの文字を用いて表すのがこの音ですが、発音記号では[θ]や[d]と表します。つまり、2通りの発音があるわけです。前回の記事でお話ししたように、ほとんどの子音はこのようなペアになっており、[θ]は声帯が振るえていない無声音、[d]は声帯が振るえている有声音になります。では、それぞれどのような音なのでしょうか。今回もこれらを検証しながら、正しく発音する方法を解説していきたいと思います。
thは摩擦音
前回の記事で、[f]と[v]は摩擦音という種類の音であることを学んだのを覚えていますか。どちらの音も、肺から上がってきた空気が、口の外に出るまでのどこかの狭い空間(隙間)を通る際に生まれる気流の乱れによって引き起こされる音、でした。実はthの発音である[θ]や[d]も同様の摩擦音なのです。どのような音で、どのように発音されるのかを細かく見ていくことにしましょう。
[θ]や[d]は舌を噛むの?
まずは口の「どの部分を使って生み出される音なのか」を考えてみましょう。 [f]と[v]を発音する際は、肺からの空気が通る狭い空間は「上の歯」と「下唇」によって作られていましたが、[θ]と[d]の場合は「舌先」と「上の歯」によって作られる狭い隙間を空気が通ることで生まれます。
日本語にはない、舌を口の外に突き出したような特徴的な口の形で発音されることも多いためか、[θ]と[d]は「舌を噛んで発音する」と思っている人がいるようです。しかし、前回の記事でもお伝えしたように、「噛んで」しまっては肺からの空気が口の外に出づらくなってしまいます。こうなると、摩擦音の特徴である「狭い隙間を通る際に生まれる気流の乱れ」をうまく生み出すことができません。ですので、 [f]と[v]の時と同様、「噛んで発音する」というイメージから離れて発音の練習に取り組むのがよいと思います。
舌先を歯に軽く触れさせる
摩擦音を出すときは空気の流れを完全に遮断させてはいけません。そこで、[θ]や[d]を発音する際は舌先を上の歯に「軽く触れさせる」というイメージを持つことがいいでしょう。発音の仕方をさらに細かく説明すると、若干のバリエーションがあります。まずは無声音の[θ]から顔の断面図を使って見ていきましょう。
図1 舌を突き出す[θ]
図2 舌を突き出さない[θ]
あまり大きく違って見えないかもしれませんが、舌先の位置に注目してください。一般的に「舌を噛む」というイメージを持たれているのが図1の発音の仕方です。一見すると、上の歯と下の歯で舌先を噛んでいるようにも見えます。しかし、実際には摩擦音を発するための空気を通す隙間があり、これが「舌先を上の歯に軽く当てる」というイメージです。図2は舌先を口の外に突き出さないで発音した場合の[θ]の口の形を表しています。多くの人が持っている[θ]の発音のイメージとは違って、実はこのように発音することも可能です。
では、どちらの発音にしたらよいのか?という疑問が出てきそうです。しっかり発音したい場合は図1のように、前後の音の影響などでしっかり発音するのが難しい場合は図2のように発音するのがいいかと思います。
ちなみに、私の場合は、thinkのように先頭に[θ]が来ている単語を単独で発音する時などは図1のように発音しています。一方、birthdayのように、前後の発音とつながると、しっかり舌先を突き出すのが忙しい場合は図2のように発音しています。慣れてくるまでは、[θ]の音はすべて図1のような形でしっかり発音してかまいません。それでは、実際に練習をしてみましょう。
練習1
図1または図2を意識しながら、お手本を聞いた後で[θ]を含む発音を2回ずつ練習しましょう。1回目はゆっくりと、2回目は普通の速さで発音してみましょう。- think
- teeth
- wealthy
- birthday
鋭い[s]とやわらかい[θ]
日本語では通常[θ]の音は使わないので、よく混同されてしまうのが[s]の音です。音の響きは非常に似ていますが、よく耳を澄ませてみると、[θ]のほうが若干「やわらかく」聞こえ、[s]のほうが「鋭く」聞こえます。この「やわらかさ」という概念がはじめは分かりづらいかもしれません。しかし、2つの音を区別して発音できるようになれば、徐々に分かってくるはずです。ではここで、[s]を発音するときの口の中の様子も確認してみましょう。
図3 歯茎を使った[s]
[θ]とは舌の位置が違うことに気付きましたか。
[s]の発音は、舌と歯茎の隙間を空気が通って生まれる音です。このように発音すると、[θ]と比べてやや鋭い感じの音になります。実際に練習をしながら、この違いを感じてみましょう。
練習2
図1、図2、図3を意識しながら、[θ]と[s]を含む単語を発音し、その違いを感じてみましょう。1回目はゆっくりと、2回目は普通の速さで発音しましょう。- thick
- sick
- thank
- sank
やわらかい響きを持つ[θ]の特徴がつかめましたか。ちなみに、英語のネイティブスピーカーは[θ]と[f]の響きを似ていると感じ、混同してしまうことも多いようです。[θ]も[f]も[s]と比べるとやわらかい音ですので、聞き比べて3つの音を区別できる感覚を養いましょう。
手ごわい[d]
さて、次は[d]の話に移りましょう。有声音の[d]には、[θ]とはまた異なった種類の難しさがあります。日本人の中にはthisをdisのように、「だ行」に近い[d]の音で発音してしまう人もいます。しかし、[d]と[d]の音は根本的に発音のメカニズムが違いますので、2つの発音について、断面図で見てみましょう。
図4 [d]の発音
図5 [d]を発音する直前の様子
前回の[v]の所でもお話ししましたが、有声の摩擦音というのは発音を持続させるのが難しく、ややもすると[d]のような摩擦音ではない、破裂音という音になってしまいます。
破裂音ってどんな音?
また新しい言葉が出てきました。この破裂音というのは、図5で表したように、肺から上がってきた空気が口のどこかで完全に一度せき止められて口の中の圧力が高まり(黄色で示した部分)、その後で一気に開放するために生まれる音です。その閉鎖から開放の様子がまるで何かが破裂するようなので、破裂音と言われているのでしょう。このことは[v]が[b]になってしまうメカニズムと同じことに気がつきましたか。発音する際にはぜひとも気をつけてもらいたいことです。そのために、まずは摩擦音が破裂音にならないように以下の練習をやってみましょう。
図6 舌を突き出す[d]
図7 舌を突き出さない[d]
練習3
図6、図7を意識して上の歯(歯茎)と舌先が空気の流れを完全に妨げないよう注意して、お手本を聞きながら [d]の発音を5秒間持続させてみましょう。 [d d d d d d d d d d d d d d d d d d d d d d d] (5秒間)
[d]の音を継続してうまく出せるようになったら、実際に単語を発音してみましょう。
練習4
図6、図7を意識しながら、[d]を含む単語を発音しましょう。1回目はゆっくりと、2回目は普通の速さで発音しましょう。- these
- smooth
- other
まとめ
● [θ],[d]は舌先を上の歯に軽く触れさせる程度でよい
● [θ]は[s]と比べて「やわらかい」響きを持っている
● [d]は破裂音の[d]にならないように注意が必要
前回と同様に、摩擦音は有声音が難しいですね。時間をかけて練習して、コツをつかんでください。
ところで、今回学んだ[θ]のやわらかい音ですが、本来「日本語にはない」と説明しました。しかし、最近は日本語でもこれに近い音が使われていることを知っていましたか。実は、日本語で[s]の発音をする際に、舌先を通常よりも歯の方に持っていっている人が増えているようなのです。周りで聞こえてくる日本語に耳を澄ませて、ぜひ身近で聞こえる[θ]の音を探してみましょう。
編集:江頭茉里
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