「いただきます」「ごちそうさま」「行ってきます」に「ただいま」。日本語の決まり文句、文化を超えて英語に訳すには?

「いただきます」「ごちそうさま」「行ってきます」「ただいま」「ご苦労さま」「お疲れさま」――日本語の決まり文句は日本特有の表現です。文化が異なる英語圏で、それらに相当する「決まり文句」はあるのでしょうか。言語学者のアン・クレシーニさんと一緒に考えましょう。

日本語の決まり文句は難しい!

私は毎年、お正月のあいさつに悩まされています。

まず、「明けましておめでとうございます」はとても長い!そして、どんなタイミングで言ったらいいか、分かりません。相手が目上の人なら、自分から先にあいさつした方がいいと思いますが、同レベルだったら、どうする?といつも思います。そして、途中で急に日本語を忘れて、「あけ・・・します・・・」みたいにあいさつをかんでしまう。だから、英語の「Happy New Year!」は、かなり便利です。

お正月のあいさつをはじめ、日本語の決まり文句の難しさは本当に難しい!「お先に」「お疲れさま」「行ってきます」「いただききます」。私は日本に来た当初、その使い方に本当に困っていました。

「いただきます」

私は、言葉と文化と世界観のつながりについて、いつも延々と語っています。周りの人の耳にたこができているかもしれません。

でも、本当にそうなんです。日本の決まり文句には、相手との上下関係を気にしなければいけないもの(例えば「ご苦労さまでした」など)や、自然などに感謝する「いただきます」のような表現が多いです。なぜかというと、このような概念は日本の文化で大事だからです。やはり、文化の背景が分からないと、言葉の意味も完全に理解できません。

「いただきます」という表現は、私の人生を変えました。私は「いただいきます」をずっと、Let’s eat!と訳していました。これを日本語に直すと「食べましょう!」です。たぶん、日本に住んでいる外国人のほとんどは、同じように訳していると思います。

でも、ある日、「いただきます」の本当の意味を友人に教えてもらいました。それは「命を頂いている」ということ。命を捧げてくれた動物と植物にありがとう!さらに、食べ物を作ってくれた人、調理してくれた人などにも感謝の気持ちを表しています。

私は25年間、摂食障害と闘ってきましたが、「いただきます」の本当の意味を知ることを通して、一昨年やっと完全に克服しました。今まで深く考えたことのなかった命を大事にするようになりました。

「いただきます」は、日本の神道の世界観から来ていると言われています。だからこれをそのまま英語に訳すことはできません。Thank you for this meal.のような表現が書いてある教科書もありました。でも、誰に感謝しているかは、日本語の授業では教わりませんでした。

キリスト教の世界観では、食べ物をくれた神様に感謝します。一方、神道の世界観では、神様ではなくて命に感謝します。だから、なかなか訳せない。日本にいる外国人に「いただきます」の意味を説明するときには、この深い意味も教えましょう!みんな、きっとびっくりすると思います。

「ごちそうさまでした」も英語にしづらいです。一番近いのは、

Thanks for the meal! It was delicious!
ご飯を作ってくれてありがとう!おいしかった!

でも、この表現は、作ってくれた人への感謝の気持ちは表していますが、命を捧げてくれたものは含まれていません。

「行ってきます」「ただいま」

次に行きと帰りのあいさつを見てみましょう!「行ってらっしゃい!」は英語で何と言うでしょう?

私が一番良いと思っているのは次の3つです。

Have a great day!
Have a great time!
See ya!

そして、「行ってきます!」はこれが一番いいかもしれません。

I’m off!

ちょっとスラングっぽい表現ですが、よく聞きます。I’m off to work!と言ってもいいです。

でも、積極的に愛情を表現するアメリカ人は、

I love you!

すべてこれににまとめます。行きも帰りも、二人ともI love you.です。これはよく言います。電話を切る前にもよくI love you.と言います。

目的なフレーズですね。一方、「ただいま」は簡単です。

I’m home!

やっと英語に訳しやすい表現が出ました。そして、「お帰り」は

Welcome home.
Welcome back.

これでいいと思います。

「お先に失礼します」「お疲れさま」

相手との上下関係で使えたり使えなかったりする決まり文句は、非常に訳しづらいです。英語圏には、日本のような上下関係があまりなく、使う必要がないのです。でも、少し見てみましょう。

「お先に失礼します」は、元々は仕事を終えて帰る目下の人が目上の人に言う表現です。英語でこれに当たる表現は、

See you tomorrow.

「お疲れさまでした」もSee you tomorrow.で、「ご苦労さまでした」もSee you tomorrow. 以上。はは。

誰かが何か良い仕事をした後なら、それを褒めて、

Excellent work.
Nice job.

こんなふうに言ってよいと思います。

ところで、「お疲れさま」には「今日はよく働いたね!ありがとう!」のような意味が含まれていますが、英語ではあまり言いません。たまにThanks for your hard work today.と言うことはあります。でも、これは目上の人が目下の人に言うだけです。

そして、日本語にはもう一つの「お疲れさま」があります。ただのあいさつです。友人はいつも、メールの最初にこう書いてきます。

「アンちゃん!お疲れさまです!」

これを英語に訳すと、どうなる?難しいでしょう?

この表現に含まれているニュアンスは、「アンちゃん、日はよく働いているね!頑張っているね!」みたいなこと。でも、英語には訳しづらい。英語でこんなあいさつはしないからです。手紙の最初のあいさつであればこんなふうに言います。

Hi, how have you been?
Hey, how are you?

「失礼します」

日本語の「失礼します」に最も近いのは、Excuse me.かもしれません。ただ、誰かの前を通るときや、間違えた発言を直すときにExcuse me.やPardon me.とは言えますが、会社や学校で誰かの部屋に入るときに言う「失礼します」は少し異なります。同じ場面でExcuse Me.とは言わない気がします。

で、アメリカでは何と言うかと考えてみました。最初に思い浮かんだのは、

Can I come in?

家に入るときの「お邪魔します」に近いですね。英語ではHi!とかCan I come in?と言うことができます。

「失礼します」についてはもっと書こうと思っていましたが… すぐに終わってしまいました(笑)。書いている間に、「やっぱり、このニュアンスを伝える決まり文句は英語にはないね」と思いました。

英語にはない「先輩」「後輩」の関係

最後にもう一つだけ。「先輩」と「後輩」です。

日本の学生はよく、seniorとjuniorに訳したがります。でも、英語ではそう言いません。上下関係がない文化のため、この日本語に相当する言葉がないんです。

従って、「先輩」や「後輩」はこう言うしかありません。

classmate(同級生)
teammate(部員)
co-worker(同僚)

ただ、これらの言い方に、日本人は抵抗感を持つようです。その理由は、このような言葉では上下関係を全く表すことができないからです。

「私の同僚というだけではなくて、先輩だ!」と言いたくなるんだと思います。目上の先輩に申し訳ない気持ちは、きっと半端ない!

まとめ

言葉と文化はつながっているから、どんな言葉でも外国語に訳しにくいものがあると思います。最初にも書きましたが、日本は自然を大事にする文化。だから、その大事さを表すいろいろな言葉があります。

私が一番好きなのは「木漏れ日」と「癒やされる」です。「癒やされる」は純粋な自然関係の言葉というわけではありませんが、日本人は自然に癒やされることがとても多いですよね。

この英語を知りたいやろう?分かった!次回の記事に書きます!お楽しみに!

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

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