アメリカ人のアン・クレシーニさんは、日本語の研究を初めてすぐに和製英語の魅力に気が付いたそうです。その魅力と和製英語への愛を語る連載、復活です!
目次
ハンドルを守る人って誰のこと?
私は7年くらい前に、和製英語を研究し始めました。そして、すぐに和製英語に恋をしました。和製英語を批判する人は多いですが、私にはその魅力しか見えません。なぜなら和製英語は、日本人の想像力を表す言葉だから!日本人は想像力に乏しいと思っている人がいるかもしれませんが、和製英語を研究し始めたらと、それは絶対にないと思うようになった。
以前、アルクさんの取材を受けたときに、私の一番好きな和製英語は「ハンドルキーパー」と話しました。皆さんは、この立派な和製英語を知っていますか?
私が住む街では、飲み会に行くと、一人はお酒を飲まずに運転の代行になります。その人のことをハンドルキーパーと呼びます。この言葉を分析してみましょう。
まず「ハンドル」です。車の「ハンドル」は英語でsteering wheelと呼びます。はあ?と言いたくなりませんか?難しい!「ハンドル」のほうがよかろう?そして後半の「キーパー」。サッカーが好きな人は分かると思いますが、「キーパー」は「何かを守る人」という意味です。つまり「ハンドルキーパー」とは、「車とその車に乗っている人を守る人」という意味です。
素敵だ!
ちなみに英語では、「ハンドルキーパー」のことをdesignated driverと言います。「指名された運転手」という意味です。
I can’t drink tonight because I’m the designated driver.
今日は、ハンドルキーパーだから、お酒を飲めない
You definitely need to have a designated driver to prevent drunk driving.
飲酒運転を防ぐために、絶対にハンドルキーパーを使ってね。
なぜ和製英語が生まれるの?
日本語には語彙がたくさんあるのに、なぜ、いろいろな和製英語が生まれるのでしょうか。こんなに新しい単語が必要?と言いたくなりますが、それにはいくつかの理由があると思います。
1つ目の理由は、和製英語が発音しやすいということ。
例えば「ベビーベッド」。この素敵な言葉も実は和製英語で、英語ではcribと言います。多くの日本人にとっては、とても発音しづらい単語です。初めて耳にすると、多くの人は聞き取れない可能性があります。
「マジックテープ」もそうです。これは日本の企業が持つ登録商標ですが、英語ではVelcroと言います(ちなみにこれも登録商標です)。ファッションが好きな人は「ベルクロ」という言葉を知っているかもしれませんが、そうでなければ、Velcroと聞いても何のことか分からずに、“Once more please!”(もう1回言って!)と言いたくなると思います。
2つ目の理由は、和製英語はそれが指す物をイメージしやすいことです。
「ベビーベッド」の話に戻りましょう。英語でcribと言われても、その意味を知らなければ「いったい何のこと?」と思うでしょう。でも、「ベビーベッド」と言われると、「ああ!赤ちゃんが寝るところだ」と、日本人なら誰でもすぐに分かります。それが和製英語の魅力の1つです。
My baby is due in a month, but I still haven’t bought a crib or a stroller.
出産予定日まであと1カ月ですが、まだベビーベッドもベビーカーも買っていません。
ちなみに例文に出た「ベビーカー」も立派な和製英語です。アメリカ英語ではstroller、イギリス英語ではbuggyと言いますが、それが何を指すかは想像しづらいですよね。英語の意味を覚えるしかありません。でも、日本人なら誰でも、「ベビー」「ベッド」「カー」の意味は分かると思います。
つまり、日本人の英語の語彙力から和製英語が生まれる!
「和製英語」という呼び方が間違っている?!
日本人の英語は外国からも批判されることがあります。日本人は英語に対して大きなコンプレックスを抱えています。変な和製英語を取り上げて「おかしい!直したほうがいい!」と言うような話もよく耳にします。
でも、大事なことが2つあります。
まず、和製英語は日本語だということです。「和製英語」というネーミングがそもそも間違っているのだと思います。そして和製英語は、日本人同士がコミュニケーションを取るために生み出した言葉だということです。だから、理解しやすいように、いろいろな英単語を自由に組み合わせて使えばいいと思うんです。
外国人に和製英語を批判する権利はありません。なぜなら和製英語は日本語だからです。日本語を学ぶ外国人は、他の日本語と同じように、和製英語も学ばないといけないと思います。
ほとんどの和製英語は、多くの日本人が知っている簡単な英単語を組み合わせて作られています。
「ランニング」+「マシーン」=「ランニングマシーン」(treadmill)
「フリー」+「サイズ」=「フリーサイズ」(one-size-fits-all)
「キー」+「ホルダー」=「キーボルダー」(key chain)
「フロント」+「ガラス」=「フロントガラス」(windshield)
「アイス」+「キャンディー」=「アイスキャンディー」(popsicle / ice pop)
日本人には英語の語彙の土台ができているからこそ、和製英語が生まれる!素晴らしい!
まとめ
和製英語は大事な日本語です。和製英語がなければ、日本人はうまくコミュニケーションが取れなくなるでしょう。和製英語を嫌がる人もいますが、日本語に必要不可欠な語彙です。
日本語にはカタカナがあるので、やろうと思えば全ての外来語をそのまま日本語に受け入れることができます。でも、外国語は発音も難しいし、意味も想像できないものばかり。computerやice creamのようにカタカナ英語として日本語に定着したものもありますが、ランニングマシーンのtreadmill、(トレッドミル)、ハンドルキーパーのdesignated driver(デジグネイテッド・ドライバー)、ベビーカーのcrib(クリブ)のように、日本人の発想から生まれた言葉もあります。
これからこの連載で、さらに多くの和製英語の種類を分析していきたいと思います!和製英語は、意外と複雑に作られていることが多いので、ゆっくり説明していこうと思います。
一緒に、和製英語の魅力を探しましょう!
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upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!