日本人の想像力から生まれた「ベッドタウン」「カンニングペーパー」【アンちゃんが語る和製英語の魅力】

日本人が知っている英語と英語を組み合わせて作る「オリジナル和製英語」って?日本で言語の研究を続けるアンちゃんが「すてき!」と思う言葉を例に挙げて説明します。

2つの英単語がくっついて生まれた和製英語

和製英語には、たくさんの種類があることをご存じですか。多くの人は、和製英語をあまり気にしていないかもしれませんが、実は、言語学的にかなりの深みがあるのです。

前回の記事 では、和製英語ではないカタカナ言葉について話しましたが、今回から数回かけて、魅力あふれるさまざまな和製英語について話したいと思います。

そして今回は、個人的に一番好きな種類の和製英語について話そうと思います。どういう和製英語かというと、「オリジナル和製英語」です。それって何?と思うかもしれませんが、実は、私が勝手に作った言葉です!(笑)

この「オリジナル和製英語」の特徴は、2つの英単語をくっつけて新しい言葉を作ることです。2つの単語はそれぞれ英語に実在しますが、くっつけると英語圏で知られていない創造物になります。

では、いろいろなを見てみましょう。

ベッドタウン(suburb)

長く日本に住んでいる外国人は、和製英語に慣れすぎてしまって、何が本当の英語だったか忘れていってしまいます。

昨年、同じ宗像(むなかた)市に住んでいるアメリカ人の友人に「ねえ、英語で『ベッドタウン』ってなんて言うと思う?」と聞きました。彼は「あれ?ベッドタウンは英語やろう?」と答えました。

大爆笑です。そんなことないやん!「ベッドタウン」はバリバリ和製英語だ!

「ベッド」も「タウン」も英語にある単語ですが、「ベッドタウン」という言葉は存在しません。では、英語で「ベッドタウン」はなんて言うでしょう?いろいろな言い方があります!

まず、suburbです。これが一番オーソドックスな言い方だと思います。どんな英語圏の国でも使う言葉です。日本語の「郊外」の意味に近いです。和製英語のベッドタウンは「発展した郊外」を指します。

もともと「寝に帰る場所」という意味で使われ始めましたが、今はその利便性が広く知られるようになり、「ベッドタウン」に「住まないといけない」じゃなくて、「住みたい」というような考え方が増えてきているようです。つまり、「ベッドタウン」は魅力がある場所だと思っている人が多いです。

suburbは最もよく使われる言い方ですが、そのほかにもたくさんあります。それは、

●bedroom town
●bedroom community
●commuter town
●dormitory community

では、例文を見てみましょう。

I live in the D.C. suburbs.
ワシントンの郊外に住んでいる。

Fairfax is a commuter town for D.C.
フェアファックスは、ワシントンのベッドタウンです。

There are many dormitory towns surrounding London.
ロンドンの周りにベッドタウンがたくさんある。

ちなみに、suburbの形容詞はsuburbanです。

I was brought up in a suburban neighborhood.
私はベッドタウンで育った。

とにかく、「ベッドタウン」は英語ではないと覚えておいてください!日本に住む多くの外国人が忘れていますから!

ソフトクリーム(soft-served ice cream)

この単語も、日本人が知っている2つの英単語をくっつけた結果生まれた和製英語です。「アイスクリーム」は「サーティワンアイスクリーム」で売られているような固いアイスを表す言葉です。

横道にそれますが、「サーティワンアイスクリーム」という名前は日本だけのものです。英語の名前は「Baskin-Robbins」(バスキン・ロビンズ)です。なぜかというと、Baskin氏とRobbins氏が作ったお店だからです。でも、日本では「バスキン・ロビンズ」よりも「31」の方が言いやすいからか、「サーティワン」という名前になりました。

「ソフトクリーム」という言葉が生まれたのは、そんな「サーティワン」で売られているような固いアイスと区別するためかもしれません。つまり、氷(ice)のような固い物ではなく、「柔らかい」ので「ソフトクリーム」と呼ぶようになったのかも。

ただ、英語圏でsoft creamを注文しても、日本人が想像している食べ物は出てこないでしょう。肌に塗る「ローション」のようなものをイメージする人はいると思います。

まとめると、「アイスクリーム」は外来語で「ソフトクリーム」は和製英語です。では、「ソフトクリーム」は英語でどうやって表すのでしょうか。

強いて言えば、

soft-served ice cream

そして、固い「アイスクリーム」は、

hand-packed ice cream

でも、簡単に言うと、全てice creamでいいと思います。アメリカ人は柔らかいのと固いのをあまり区別しないので、「アイスクリーム」を食べたいときも「ソフトクリーム」を食べたいときも次のように言ってください。

I want to eat some ice cream!

カンニングペーパー(cheat sheet)

カンニングペーパーは、大学で教える私が知らざるを得ない言葉!これも立派なオリジナル和製英語です。そもそも「カンニング」という言葉が和製英語です。英語にcunningという言葉はありますが、「不正行為」ではなく「ずる賢い」という意味の形容詞です。

日本人が知っている「カンニング」と「ペーパー」をくっつけると、すてきな和製英語の出来上がり。これを略して「カンペ」にすると、もっとすてきになります!

和製英語の魅力は無限大だ!

「カンニングペーパー」を英語で言うとcheat sheet(チート・シート)です。なんとなくかわいい響きです。

「ペーパー」が入った別のオリジナル和製英語に、「ペーパードライバー」があります。この単語を英語圏で使っても、誰にも理解されません。もしかしたら、新聞の配達を想像するかもしれません。なぜ通じないかというと、「ペーパードライバー」という概念自体が存在しないからです。

「ペーパードライバー」は、免許を持っているけど運転はしない人のこと。怖いからとか、自信がないからとか、さまざまな理由で運転をしません。誰もが自信満々のアメリカで、私はそんな人に会ったことがありません(笑)。

文化に概念がないので、当然、言葉も存在しません。

では、どうやって「ペーパードライバー」を表したらいいでしょうか。言葉がないので文で説明するしかありません。

A paper driver is someone who has a driver’s license but doesn’t drive, either because he is scared of driving or has no confidence.
ペーパードライバーとは、運転が怖いから、または自信がないからという理由で、運転免許証を持っているが運転しない人のことです。

バリ長い!

I have my license, but I’m scared to drive.
I have my license, but I’m not confident enough to drive.
私はペーパードライバーだ。

アメリカに存在しないものといえば、もう1つあります。それは「ドリングバー」です。

アメリカのファストフード店には、お代わり自由のセルフサービスで飲み物を出すところがありますが、出すのはソフトドリンクだけ。日本のファミレスのように、スープもコービーも出すところは見たことがありません。

日本人の想像力を表す、すてきな「オリジナル和製英語」は本当にたくさんあります。下にリストアップしますね!ちなみに、「リストアップする」も和製英語で、英語ではmake a listとかwrite downと言います。でも、私は「リストアップ」がいい!

●ランニングマシーン(treadmill)
●ベビーカー(stroller)
●フライドポテト(French fries)
●アメリカンコーヒー(light roast)
●ガードマン(security guard)
●ロードショー(movie release)

ほかにもまだまだありますが、前回と同じように字数オーバーになりそうです!

まとめ

最後に、皆さんに覚えておいてほしいことが2つあります。まず、このオリジナル和製英語は、日本人の想像力の高さを表しているということ。そして、日本人が知っている英語を組み合わせて作られるということです。

この魅力あふれる和製英語をどんどん楽しく使ってほしいと思いますが、気を付けないといけないのは、英語だと思って英語圏で使うとコミュニケーションが取れない可能性があることです。

だから、この先の何回かの記事で、さまざまな外来語と和製英語を区別できるようになるヒントも教えたいと思います。お楽しみに! 

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

アンちゃんが英語&英会話のポイントを語る!

upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!

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