日本で言語の研究を続けるアンちゃんが今回取り上げるのは、日本の国民的スポーツの一つ「野球」です。アメリカからやってきたこのスポーツは、和製英語の大宝庫です。
目次
「野球」と「baseball」という異なるスポーツ
私は、野球ファミリーで育ちました。夏休みに、大好きなカージナルス(※1)の試合を見るために、車に12時間乗って、遠いミズーリ州まで行っていました。試合を見に行けないとき、父は性能が良くない小さなラジオで試合の放送を聞いていました。
今、父はケーブルテレビで毎日、野球放送を見ていますが、大好きな娘(私)が遠い日本からSkype(スカイプ)で連絡しても、試合中、父は私と話しをしてくれません(笑)。
野球に関しては、日本に来てからさまざまなことに気付きました。
まず、「野球」と「baseball」は同じスポーツではないということ。その国のスポーツを見ると、文化がはっきり見えてくると思いました。例えば、日本の野球では「犠牲バント」が多く、応援団の存在からは、日本の人たちが集団意識を大事にすることが見えてきます。
そして、最も気絶しそうなのは、引き分けで試合終了になるときがあることです、12回の裏が終わったときに同点の場合、試合は引き分けのまま終わります。多くのアメリカ人は、何より同点がイヤです。負けてもいいですが、とりあえずどちらかのチームが勝たないと、試合は終わりません。
引き分けなんて、死んだほうがまし(笑)!
もう一つ気付いたのは、日本の野球は和製英語であふれている!ということです。他のスポーツでもそうですが、特に野球には和製英語が多い気がします。
そこで今日は、その「野球の和製英語」の魅力について話します。
では、始めましょう!
- ※1:セントルイス・カージナルス。ミズーリ州のナッシュビルを本拠とするアメリカ大リーグの野球チーム。
野球のルールはいろいろな種類の言葉のミックス
野球は海外から来たものなので、当然、外来語や和製英語がたくさん使われます。また、戦争のときには外来語の使用が禁じられ、「和語」が使われました。そして今、野球用語は「和語」「漢語」「外来語」「和製英語」のカラフルなミックスになっています。
例えば、英語のwalkやbase-on-ballsは「フォアボール」と言います。一方、pick offという英語は、バリ難しい「牽(けん)制」になっています。「ピックオフ」とカタカナで書くとよくある和製英語のように見えますが、なぜか使われていません。
That pitcher issues a lot of walks.
あの投手は、フォアボールが多い。
He has a great pick-off move.
彼はけん制の動作がとてもうまい。
ホームランは英語、でもランニングホームランは・・・
続いて「ホームラン」です。この言葉は本物の英語ですが、多くの日本人がこの単純な単語を和製英語だと思っているのが面白いです。やはり、外来語と和製英語の区別は難しいですね。
「ホームラン」は英語ですが、打球がスタンドに入らずに打者がダイヤモンドを一周する「ランニングホームラン」は和製英語です。英語ではinside-the-park homerunと言います。parkはballparkの略で「球場」の意味ですから、ランニングホームランの意味は「球場から出ないホームラン」です。
Imamiya hit an inside-the-park homerun.
今宮選手は、ランニングホームランを打った。
ballparkを使った例文も見ておきましょう。
When I was a kid, I often went to the ballpark with my Dad.
子どものころ、お父さんと一緒によく球場に行った。
9回の裏に試合を決める「サヨナラホームラン」も、もちろん和製英語です。英語では、walk-off homerunと言います。ホームランが出て試合が終わったとき、守備についていた敗戦チームの選手たちが、グラウンドから出て行くからです。
別の言い方にgame-ending homerunもあります。これは 文字通り、そのホームランで試合が終わるからです。
He hit four game-ending homeruns this season.
He hit four walk-off homeruns this season.
今シーズン、彼はサヨナラホームランを4本打った。
「満塁ホームラン」は英語でgrand slamと言います。
The team went ahead on his grand slam.
チームは彼の満塁ホームランで逆転した。
私は、福岡に住んでいます。福岡で愛されている福岡ソフトバンクホークスは、今年、日本シリーズを3連覇しました。
では「3連覇」は英語でなんと言うでしょうか?いろいろな言い方があります。
win three times in a row
back-to-back-to-back
three-peat
3連覇(する)
The Hawks won the Japan Series three years in a row.
The Hawks won back-to-back-to-back Japan Series.
ホークスは日本シリーズを3連覇しました。
This year was a three-peat for the Hawks.
今年、ホークスは3連覇しました。
ちなみにthree-peatは最近、日本語にも入ってきています。多くの人は意味が分からないまま使っているかもしれませんが、これは英語の面白い単語遊びです。
repeatは「繰り返す」とか「もう一度」という意味で、three-peatは「3連覇」とか「3連勝」という意味。
面白いでしょう?このような単語遊びは他にもあります。
例えば、一人が“Me, too!”(私も!)と言ったら、もう一人は“Me, three!”(私も!)と言ったりします。
A: I want to go to karaoke!(カラオケに行きたい!)
B: Me, too!
C: Me, three!
野球の話から脱線した!ごめんなさい。
特に多い、投手関連の和製英語
今年の9月、ホークスの千賀滉大(せんが こうだい)投手は、とてもレアな「ノーヒットノーラン」を達成しました。福岡じゅうの野球ファンの喜び方は半端ではありませんでした。
私ももちろん大喜びしましたが、言語学者として「ノーヒットノーラン」という言葉にも興味がありました。なんてすてきな言葉!
この「ノーヒットノーラン」は、英語でno hitterやno-noと言います。
Senga pitched the first no-hitter of his career last night.
千賀選手は昨夜、彼の野球人生で初のノーヒットノーランを達成した。
Senga threw the first no-no for the Hawks in about forty years.
千賀選手は、ホークス史上約40年ぶりにノーヒットノーランを達成した。
投手関係の和製英語はたくさんあります。
- pitching rubber:ピッチャーズプレート(投手板)
- fastball:ストレート(直球)
- setup man:セットアッパー(中継ぎ投手)
- closer:ストッパー(抑え)
- reliever / relief pitcher:リリーフ(救援投手)
- hit-by-pitch:デッドボール(死球)
私が最初に知った和製英語の野球用語は「ナイター」でした。この言葉が和製英語だということは多くの人が知るようになり、正しい英語のnight game(ナイトゲーム)もそのまま使われるようになっています。
野球の和製英語は他にもたくさん!
野球に関して言えば、和製英語は他にも山ほどあるので、下にリストアップしていきます!ちなみに「リストアップ」は和製英語です!
- bad hop:イレギュラーバウンド
- bloop single:ポテンヒット
- can of corn:イージーフライ
- check-swing:ハーフスイング
- head first slide:ヘッドスライディング
- field:グラウンド
- ground-rule double:エンタイトルツーベース
- on-deck circle:ネクストバッターズサークル
- scout:スカウトマン
- to tag someone out:タッチアウトする
- clutch hit:タイムリーヒット
- lead-off man / lead-off hitter:トップバッター
- batting practice:フリーバッティング
- batting cages:バッティングセンター(※ 野球選手が打撃練習のときに入る緑色のケージもbatting cageです。)
- full count:スリーボール、ツーストライク(※フルカウントとも言いますね。)
- to steal home:ホームスチール
最後に「キャッチボール」について話します!
「キャッチボール」は英語でplay catchと言います。でも、これはただの遊びというイメージが強いです。例えば公園で、お父さんと子ども、または子ども同士がボールを楽しく投げ合うようなイメージです。
The kids are playing catch in the park.
子どもたちが公園でキャッチボールをしている。
プロ野球の選手たちは、試合前に肩慣らしとして「キャッチボール」をしますが、これは英語に訳しづらいです。強いて言えばwarming upです。
ただし、warming upに含まれるのは、キャッチボールだけではありません。例えば、走ったりストレッチをしたりすることも、warming upに入ってきます。だから、説明を付け加える必要が出てきます。
The players are warming up (by tossing the ball around).
選手たちは試合の前に(キャッチボールで)ウォームアップした。
ちなみに私はキャッチボールが大好きです。主人はそれを知っていて、私とキャッチボールをしているときに私にプロポーズをしました。
かなり真剣にキャッチボールをしていたら、彼がボールの代わりにエンゲージリングが入った箱を私に投げてきました。もちろん、私はしっかり受け取って落としませんでした(笑)!感動しました!野球の大ファンである私にとって、あれは最強のプロポーズだったと思います!
まとめ
もともと日本にないものを取り入れたら、それを表す日本語がないのは当然です。だから外来語が必要になります。そして、日本人にとってその外来語が難しすぎるときに、すてきな和製英語が誕生します。
スポーツ用語は、特にその傾向が強い気がします。日本人は大好きなスポーツを最も簡単に誰にでも分かるようにと、和製英語をたくさん作り出したのだと思います。面白いですね!「野球」は「ベースボール」ではない、日本人のためにある日本のスポーツです!
ただ、アメリカで「フォアボール」と言ったら、野球のボールを4つ渡されるかもしれません(笑)!
アンちゃんが英語&英会話のポイントを語る!
upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!