日本で言語の研究を続けるアンちゃんが今回取り上げるのは、「アイス」や「サンド」といった略される外来語です。ところで、アンちゃんが教える学生さんたちは、アンちゃんの名前をどう略すんでしょう。面白いですよ。
目次
若者は略語のプロ!
ある日、大学で学生たちの会話を小耳に挟みました。
「次、俺はアンクレだ!」
どういう意味だったかというと、「次、俺はアン先生の授業だ」。
日本人は私の「クレシーニ」という名前がとても覚えづらいようです。小学1年のときにカタカナを習っているはずですが、私の「クレシーニ」を見ると急にカタカナが読めなくなるみたいです。これまでで一番ひどい読み間違いは「クルシミ」でした。
やけん、私の名前「アン・クレシーニ」を「アンクレ」と略すことは賢いと思う!
日本人は、言葉を略すことが大好きです。「東京大学」は「東大」になります。「今年もよろしくお願いします」は「ことよろ」になって、なんだかゲームの名前みたいです。知らない略語を聞いて、意味がなんとか分かることもあれば、さっぱり分からないこともあります。特に若者用語には略語が多いですね。
では、次の略語、分かりますか?
- 「誕プレ」
- 「あたおか」
- 「おなす」
答えは順番に「誕生日プレゼント」「頭がおかしい」と「おなかが空いた」です。
外来語と和製英語は特に略されることが多いようです。略さないで言うと長いから、短くしたくなるんでしょうね。「セクシャルハラスメント」が「セクハラ」になったみたいに。
今回は、そんな略されている外来語と和製英語について話します。
さて、始めよう!
「アイス」と「サンド」は通じない・・・
外来語が略されると、日本でしか通じない和製英語が完成します。「アイスクリーム」という言葉を例に取ると、これは英語でice creamですから和製英語ではなくて、外来語です。でも、「アイス」と略されると和製英語になります。英語圏では「ice cream」を「ice」と呼びません。「ice」には「氷」の意味しかないので、気を付けてくださいね。
これと同じように「サンドイッチ」は外来語。でも、「サンド」と略すと英語では「砂」の意味しかありません。
ある日、学生の1人がI like ice and sand.と言いましたが、爆笑してしまいました。
サンドイッチのメニューとして目にすることがある「ホットサンド」(温かいサンドイッチ)や「ニューヨークシティサンド」(東京土産として人気上昇中のクッキー)と、話はさらにややこしくなります。
英語圏でI like New York Sand.とかI like hot sand.と言ったら、相手は絶対に混乱します。「ニューヨーク州の砂は何か特別なの?」「温かい砂は冷たい砂よりいいわけ?」となってしまうので、気を付けましょう!
では、英語で何と言ったらいいのでしょうか。
I want to eat ice cream.
アイスが食べたい。
I like hot sandwiches.
ホットサンドがいい。
New York caramel-filled cookies are very popular these days.
ニューヨークサンドが最近とても人気です。
「ニューヨークシティサンド」のようなクッキーを、アメリカではsandやsandwichとは言いませんから、caramel-filled/cream-filled cookieのように言っていいと思います。
sandwichには本来、「挟む」という意味があります。それを略した和製英語のホットサンドもクッキーのサンドも、「何の具を挟んでいる」という意味で使われています。面白いですよね。
「スマホ」という言葉もサンドと同じようなケースです。「スマートフォン」は英語ですが、「スマホ」に略すと和製英語になります。英語圏では絶対に通じません。
最近、「ながらスマホ」という言葉をよく耳にしますが、walking smartphoneと言わないようにしましょう。こう言うと、「歩くスマホ」という意味になってしまいます。どこかのIT企業がひそかに開発しているかもしれませんが・・・。
It’s dangerous to use your smartphone while walking.
ながらスマホは危ない。
同じように、「ながら運転」は・・・
It’s dangerous to use your smartphone while driving.
ながら運転は危ない。
UFOやVIPの日本独自の読み方
UFO(ユーフォー)という単語は普通に会話に出てきますが、その由来はご存じですか?これは英語のUnidentified Flying Objectの略で、日本語で言うと「未確認飛行物体」のことです。
やっぱり英語のUFOの方が言いやすいです。ただ、そのまま「ユーフォー」と発音すると、英語圏では通じません。英語では頭文字1つずつを言わないといけません。つまり、U-F-O「ユー・エフ・オー」。
UFOで思い出しましたが、私のアメリカの故郷はUFOで有名です。全国ネットのテレビで紹介されたこともあります。それがいいことかどうかは分かりませんが・・・。
There are hundreds of people who say they have seen a UFO in my hometown.
私の故郷では、UFOを見たことのある人が何百人もいる。
同じように、VIPも頭文字を1つずつ発音しないと通じません。VIPはVery Important Personの略で、つまり「バリ偉い人」のことです。
「ペットボトル」も英語圏では通じない言葉の1つです。「ペットボトル」の「ペット」は科学用語の頭文字です。PETは、 P oly e thylene T erephthalate(ポリエチレン・テレフタレート)から来ています。そのため英語圏でP-E-T(ピー・イー・ティー)と言えば、通じる可能性はある。でも、これは科学用語のため、もしかしたら普通の人は聞いたことがないかもしれません。
ちなみに「ペットボトル」は英語でplastic bottleと言います。そして、ビニール袋はplastic bagです。
長くアメリカに住んでいた友人が日本に戻ってスーパーに行ったとき、レジで「ビニール袋」という言葉を思い出せず、「プラスチックバッグはありますか?」と必死に頼みましたが、結局、通じなかったそうです。
Do you recycle plastic bottles?
ペットボトルをリサイクルしますか。
From this year, you have to pay for plastic bags at that supermarket.
あのスーパーでは、今年からビニール袋が有料になった。
ここまで紹介してきたUFO、VIP、PETは日本では「ビップ」「ユーフォー」「ペット」のように発音しますが、SNSは違います。母音が含まれていないから、英語のように文字を1つずつ発音します。それしかできません。
しかし残念ながら、SNSは英語ではありません。多くの日本人はこれを英語だと思い込んでいます。
「だってSNSは、Social Networking Servicesの略でしょ?」
確かにそうですが、これは立派な和製英語で、英語ではSocial Mediaと言います。
Teenagers all over the world are addicted to social media.
世界中のティーンエイジャーは、SNS中毒になっている。
addicted(中毒の)はhooked onとも言います。
Teenagers all over the world are hooked on social media.
世界中のティーンエイジャーは、SNS中毒になっている。
Instagram, Facebook, LINE, and Twitter are the most popular forms of social media.
インスタグラム、フェイスブック、ラインとツイッターは、最も人気があるSNSです。
「リストラ」は英語でなんて言う?
最後にもう一つだけ、「リストラ」という単語も見ておきましょう。これは英語のrestructuringのことで、意味は「組織改革」です。日本でも英語圏でも、このプロセスで仕事を失う人がいます。
He was a victim of restructuring at his company, so he has to look for another job.
He lost his job, so he has to look for another one.
He was laid off, so he has to look for another job.
彼はリストラされたから、新しい仕事を探さなければなりません。
「クビになる」という意味で、英語にはget firedという言葉があります。get laid offという言葉もあり、日本語の意味はどちらも同じですが、この2つはニュアンスが異なります。
何か悪いことして仕事をクビになるときはget firedですが、リストラや会社の改革で仕事を失う場合はget laid offを使います。
He was found out to be taking bribes from other companies, so he was fired.
彼は他社からわいろを受け取っていたため解雇された。
Because that company is losing money, 100 employees were laid off.
あの会社は経済状況が悪く、従業員100人が解雇された。
似たような和製英語は、ほかにもたくさんあります!
- ボールペン:ballpoint pen
- コピペ:copy and paste
- セロテープ:cellophane tape、Scotch tape
- パワハラ:power harassment
- コンデンスミルク:condensed milk
- クラシック:classical music
- アクセル:accelerator、gas pedal
- プレハブ:prefabricated building
- リモコン:remote control
- メルアド:email address
- アプリ:application、app
- パソコン:personal computer
- コンペ:competition
- マック:McDonald’s
まとめ
日本人にとって、外来語と和製英語の見分けは難しいかもしれません。多くの言葉は略されて和製英語になりますが、外来語に見えるものも多くあるからです。
私は言語学者として、この略語の傾向はとても面白いと思っていますが、英語の先生として見ると、この略語が英語学習の妨げになることにも気付いています。
やはり大事なのは、好奇心。外来語か和製英語か分からない言葉を聞いたときにそのままにせず、「あれ?それは外来語?それとも和製英語?」と考えたり調べたりしたら、勉強はきっと楽しくなります。
そして、その好奇心があれば、少しずつでも区別ができるようになると思います。和製英語には魅力があふれています。これからもずっと楽しく勉強していきましょう!
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