和製英語「ハンドルキーパー」の意味、分かりますか?

日本に住んで18年。北九州市立大学准教授であり、言語学者でもあるアメリカ人のアンちゃんの電子書籍第2弾、『即使える「病院英語」ハンドブック』を11月15日にリリースしました!発売を記念して、アンちゃんの素顔についてスペシャルインタビューを2回に渡ってお届けします。

『即使える「病院英語」ハンドブック』は海外旅行の強い味方!

海外旅行で体調を崩したら、自分の症状を英語で説明できますか?病状や状況別に10個、最低限覚えておきたい英単語、患者として使えるフレーズ、医師や看護師との会話例を収録しています。また、読み物としても楽しめる、病気にまつわるコラムも紹介します。

Q1.日本に住んでアメリカとの違いに戸惑うことは?

最初は彼氏と一緒にいたくて、彼氏にくっついて日本に来たバイ

最初に日本に来たのは、当時の彼氏(現在の夫)がJETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業のこと。Japan Exchange and Teaching Programmeの略)で神戸の高校で3年間教えたのがきっかけ。日本に行きたいと思っていたわけじゃなくて、彼に付いてきただけ。だけど、彼は神戸、私は大阪のホストファミリーのところに別々に住んでた。

日本は私のふるさとのド田舎とは正反対。魚とか米もほとんど食べたことがなくて、最初の6カ月はカルチャーショックが半端なかったね。泣いて泣いて、「この国キライ、食べるものがない、帰る!」と思った。日本語も全然話せんかったから、毎日が lonely だった。

「日本に帰りたい!」アメリカで逆カルチャーショック

その後アメリカに帰って、日本には二度と行かないだろうって思っていた。ところが、バージニア州の私の祖母のところで、私と夫とお婆ちゃんと3人で住んでいたときに、ひどい「逆カルチャーショック」があった。

日本人の留学生に出会ったことがきっかけで、どれだけ日本が好きかってことに気付いて、どうしたらいいか分からないくらい日本が恋しくなった。そして2年後、夫と一緒に日本に帰ってきた。

2014年から2015年に1年間の海外研修でアメリカに行ったときの逆カルチャーショックはもっと大変だった。それまでの日本の生活が長かったからね。アメリカの食べ物が全然体に合わなくておなかを壊したり、「なんでみんなこんな大きな声で話してるの?意味が分からない」と思ったり、無意識に日本語で話してしまったりね。

日本とアメリカの違いは面白い!

「気遣い」とか「学校」とか日本とアメリカの違いはバリ面白いんよ。

気遣いについて

日本のことわざで「親しき仲にも礼儀あり」とあるでしょう。あれはすごく日本らしいね。友達の中でも気を使う。いつも自分のことだけじゃなくて相手のことを考えてる。自然に相手のことを考える。日本人は小さいころから、「人に迷惑をかけないように」「遠慮して、我慢して」と教えられてるから自然に相手のことを考えたり、感謝の気持ちを持ったり、思いやったりすることができるんだろうね。

気を使うという概念はアメリカにはあまりないよね。気を使うという言葉も英語にはないね。どうやって訳すか分からない。アメリカ人は、悪気はないけど気付いていないだけなんだよね。例えば、誰かが何かをしてくれることには「ありがとう」と思うけど、どれだけ相手がしてくれたかは分かっていなくて、相手はもうちょっと感謝を求めてる、とかね。それは思いやりがないわけじゃなくて気付いてないだけだね。

学校について

1年間の海外研修のとき、娘をアメリカの地元の、私が通っていた小学校に行かせた。そこでどれだけ日本の給食が素晴らしいか分かったね。でも、宿題は多過ぎると思う。ドリルとか単語帳とか暗記とかじゃなくて、もうちょっと実践的な内容があったらいいなと思うこともあるね。

アメリカの学校は先生の愛想が素晴らしい。毎朝ハグされて「あなたに会いたかった!」と言われたり、「あなたは先週これができなかったけど今週はできた、よく頑張ったね!」と言われたり。愛想とか励ましの面ではアメリカが素晴らしいね。

Q2.人生を輝かせているものは何ですか?

「和製英語は日本語なんだ!」って分かったこと

和製英語を勉強し始めたときは多くの外国人と同じように「おかしい」と批判してた。でも、「和製英語は日本語なんだ」と気付いたら、すごく分かりやすく感じて、研究が楽しくなった。

例えば、「ランニングマシン」は走る機械だからランニングマシン。本当に良い単語だと思うよ。世界中で流行らせたほうがいいと思う。

「ハンドルキーパー」の意味、分かりますか?福岡の人はみんな知ってるんよ。でも東京の人は知らない。飲み会でたくさんお酒を飲むとき、飲まないで運転をしてくれる人のことを和製英語でハンドルキーパーと言うんよ。

先日、福岡で講演会をしたんだけど、東京から来たサラリーマンの参加者に、和製英語のクイズをした。「ハンドルキーパーっていう日本語が分からん」ってみんな言ってて、「なんで分からんの?福岡の人はみんな知ってるのに」と思ったら、「だって車で飲み会行かないから」って。そうなんだ!日本の中でも場所によって、文化が違うな~と思ってね。すごく面白い発見だったね。言葉と文化のつながりは国と国だけじゃなくて、都会と田舎も関係あるんじゃないかな。

私がまだ分かっていない世界とか価値観が文化の下にあると気付いて、 他にも自分が間違っとることがあるかもしれんな、と考え始めたんよ。すると、ずっと角が立っていた私も角が取れて丸くなって、私の文章も日本人の心に響くようになった。

日本語で文章が書けるようになったこと

英語の本やブログはずっと前から大好きで、アメリカ人に日本を知ってもらうために英語で書いていた。ある日、原稿をチェックしてくれる友達に、「すごく面白いんだけど、英語が分からないから、日本語で書きなさいよ」って言われた。「私が日本で書けるわけないでしょ、難しいよ!」と言ったら、「博多弁で書いたらなんとかなるよ」って。

それで去年の6月からバイリンガルブログを始めて、初めてブログを書いたときは4~5時間くらいかかって、「これは無理だ、できない」と思った。だけどすごく反響が良かった。こういうふざけたような文章は、日本人にはなかなか書けないって言われた。

それからずっと書き続けて、今、執筆の量はハンパない。1日中何か書いてるね。日本語の文法もどんどん良くなっている。彼女のおかげでどんどん日本語が上手になった。その経験を通して好奇心やチャレンジ精神が生まれたの。私、こういうことができるってずっと知らなかったから、「じゃあ、 他にもできることがあるかもしれない 」ってちょっと思ってる。 今までやったことないことも、「じゃあやってみよう」と思うようになった

福岡でTEDxFukuokaに登壇!日本語で頑張ったこと

1月に福岡でTEDxFukuokaに出たんだけど、「なんで私なん?」とすごく思ったね。「TEDなんかできるわけないやん!あのTEDだよ?!」って感じ。なんで私?って思っていたら、「あなたの文章は面白いから。考えていることを色んな人に言いたいでしょ?」って。うん、確かにそう。

日本語でも英語でもいいよって言われて、前の私なら絶対英語を選んでいたけど、でも考えてみたら英語で話すと聞いている人には分からない。YouTubeでは英語の方がバズるかもしれないけど、プレゼンテーションをしている間は聞いている人に分からないよね。だから日本語ですることにした。3カ月ぐらいずっと頑張って練習して、すごく素敵なプレゼンができたんよ。

ブログも日本語の文章で書ける、有名なTEDのステージにも登壇できた。何でもできるやん!と思った。 TEDのおかげで、「これができたら何でもできるやん」と思うようになった。それからはもう、「成功するか分からないけど一応頑張ってみる」という精神が生まれた よね。

この2年間で本当に人生が変わったと思う。以前はただの大学の教員のつもりだった。テレビや新聞での活動は全然やりたいと思っていなかったけど、気付いたらこうなっちゃった。人生ってすごく面白いなって思ってる。

アンちゃんの電子書籍

アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ


編集:増尾美恵子

『ENGLISH JOURNAL BOOK 2』発売。テーマは「テクノロジー」

現在、ChatGPTをはじめとする生成AIが驚異的な成長を見せていますが、EJは、PCの黎明れいめい期からITの隆盛期まで、その進化を伝えてきました。EJに掲載されたパイオニアたちの言葉を通して、テクノロジーの歴史と現在、そして、未来に目を向けましょう。

日本人インタビューにはメディアアーティストの落合陽一さんが登場し、デジタルの時代に生きる英語学習者にメッセージを届けます。伝説の作家カート・ヴォネガットのスピーチ(柴田元幸訳)、ノーベル生理学・医学賞受賞のカタリン・カリコ、そして、『GRIT グリット やり抜く力』のアンジェラ・ダックワースとインタビューも充実。どうぞお聴き逃しなく!

【特集】PC、IT、そして、ChatGPT・・・パイオニアたちの英語で見聞する、テクノロジーの現在・過去・未来
【国境なきニッポン人】落合陽一(メディアアーティスト)
【スピーチ&インタビュー】カート・ヴォネガット(作家/柴田元幸訳)、ケヴィン・ケリー(『WIRED』創刊編集長、未来学者)、レイ・カーツワイル(発明家、思想家、未来学者)、ジミー・ウェールズ(ウィキペディア創設者)、アンジェラ・ダックワース(心理学者、大学教授)、【エッセイ】佐藤良明

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